表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メドゥーサの彼女  作者: 吉國 冬雪
19/41

M19 そんなことないよ

「谷山君、コレ、ありがとう」

 教室に入ると、先に来ていた小町が貸していたCDを渡してきた。

「もういいのか?」

「うん、録音したから。今日も聞きながら来たんだ」

 ポケットからMP3プレーヤーを取り出して笑う。電源を入れると、画面に『WONDERFUL LIFE』と表示された。

「その曲……」

「あ、やっぱりおすすめされたからかな。なんか好きになっちゃって、こればっかりリピートしちゃってるんだ」

「そう……なんだ……」

 俺もこの曲を聞きながら来たんだ。そう言いたかったが、なんとなく言い出せなかった。

 平静を装ったつもりだが、自然と笑みがこぼれる。

「何か優しい曲だね。これ以外は激しい感じのなのに」

「そっちのはやっぱり馴染めなかった?」

「ううん、ぜんぜん。『ガムシャラ』とか『Do It!』とか、結構好き」

「お、結構激しいやつじゃん」

「言ったでしょ。私もロックは聞くんだから」

 小町は得意げな表情を浮かべる。

「お、は、よ、う!小町ちゃん!谷山君!」

 そう言いながら睦が二人の間に割って入る。

「おはよう、睦ちゃん」「おはよ」

 志信(しのぶ)は机の上のCDを鞄にしまった。

「なになにー?何のCD?あたしにも貸してよ、谷山君」

 睦はチャックを閉めようとしていた志信の手を取り、それを阻止する。

 急に触れた女子の手に軽く狼狽する。

「なっ……何だよ。ロックだぞ?聞くなら貸すけど……」

「聞く聞くー。谷山君が聞くなら、あたしも聞くー」

「何だよそれ。まぁ、いいけど。ほら」

「やったー。小町ちゃん、今日は一緒にお昼食べようね~」

 睦は志信のCDをひらひらと振ると自分の席へ向かった。

「良かったな。昼」

 少々残念な気持ちがあったが、小町にとってはその方がいいはずだと自分に言い聞かせ、笑顔を作る。

「うん……」

 しかし、予想に反して小町の表情は寂しげに見えた。

「おっはよーさんっ、志信に小町ちゃん」

 何やら微妙な空気を吹き飛ばすように、賢太がおどけながら志信の肩を叩いた。

「いってぇな、賢太」

「だってぇ~、何かしんみりしてたし?お2人さーんっ」

 右手の人差し指をくるくると回し、「ん」のタイミングで志信の鼻の先をつんと刺した。

「何すんだよ!」

 そんなやり取りを見て、小町がくすくすと笑う。賢太は小町が笑ったのを確認して、うんうんと頷き、鞄を自分の机の上に無造作に置く。

「そうそう。女の子はやっぱり笑ってなくちゃ」

 あははーと笑って、自分の席に着く。

 何でこいつはこんなに飄々としてるんだ。

 横目で小町を見ると、じっと賢太の背中を見つめている。


 ああ、やっぱりか。

 そりゃ、見た目も、立ち居振る舞いも、賢太の方が数倍カッコイイよな。

 こいつはさ、見た目だけじゃないんだぜ。中身だってイケてんだ。

 推薦で入るくらいだから、サッカーだってうまいし、それ以外の球技も出来るし。

 人の悪口だって言わない。困ってるやつには手を差し伸べる。自分が助けられるかどうかは置いといて。

 苦手なのは勉強くらいなんだぜ。

 だからさ。

 だから、小町が好きになっちゃっても、ぜんぜん不思議じゃないんだ。


 賢太の背中を見つめながら、同じ背中を見ているであろう小町に念を飛ばす。

 小町に、というよりは、そう思うことで、自分自身を納得させているような気がした。


「そんなことないよ」

 小町の囁くような声が聞こえ、はっとして隣を見る。

「いま……なんか言った……?」

 自分の念が届いてしまったのだろうか。それとも、声に出していたのだろうか。

「え?何が?」

 小町はそう言って笑った。空耳だったのだろうか……。

 

 なんとなく釈然としないまま、学校は終わり、少しだけ楽しみにしていた小町との下校も「今日は睦ちゃんと夕夏ちゃんと遊ぶことになったから」とのことで、無しになってしまった。


 女友達もできれば、これからも一緒に下校することなんてなくなるよなぁ。教科書も届いたから、机を近づけて授業を聞くこともなくなったし。いまのところ、接点はノートくらいか。それも、おそらく近々お役御免になるんだろう。

 寂しい気持ちはあるが、それを認めたくない自分がいる。いまならまだ、可愛いと思ってちょっと『ときめいてしまった』だけで済むと思った。

 寂しいと少しでも思ってしまったら、それはもう本当に『恋』なんじゃないのか。

 隣の席に可愛い女の子がいて、自分が勧めた音楽を気に入ってくれて、たまに一緒に帰ったりする。それだけで十分だ。それだけで十分なんだ、俺は。

 自分にそう言い聞かせる。

 イヤホンを耳に入れ、MP3を操作する。『WONDERFUL LIFE』のリピート再生を解除し、このアルバムのオールリピートに変更した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ