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メドゥーサの彼女  作者: 吉國 冬雪
18/41

M18 聖人君子

「成る程ねぇ。そうだったのか」

「……俺、普段あんまりこういうことってないから、どうしたらいいのかわからなくて」

 話し終えると、志信(しのぶ)は信吾を見て苦笑した。

「どうもしなくていいんじゃないかな。君は君のままでいたらいい」

「……俺のままで?」

「君は、自分が思っているよりずっと魅力のある人間だよ。もっと自信を持って」

 信吾はいつもの笑みを浮かべて言った。

 優しい栗色のその瞳に見つめられると、不思議と自信が湧いてくる。

 何だか目を逸らすことが出来ない。祥太朗の言葉を思い出す。

『父さんに言われると説得力が半端ないんだよな。洗脳レベルだよ、ありゃ』

 成る程。たしかに。


 2人の話が一段落すると、待ってましたとばかりにマグノリアが現れ、ひょいと信吾の膝の上に飛び乗る。

「おや、お帰り」

 マグノリアは膝の上で丸くなり、上目づかいで信吾を見つめる。まるで撫でるのを催促しているかのようだ。

 信吾もそう受け取ったのか、優しく背中を撫でる。マグノリアは目を細めて気持ちよさそうな顔をしている。

「すごい懐いてますね。信吾さん、猫好きですか?」

「僕は、何でも好きだよ。いちばんは佳菜子だけど」

 涼しい顔で言い放つ。白く、大きな手は休まず黒猫を撫で続けている。

「……さらっとすごいこと言いましたね。何でも好きって、嫌いなものとか苦手なものとかってないんですか」

「特に無いなぁ……」

「食べ物とかもですか?」

「うん」

「猛獣とか、害虫とか……」

「別に」

「お化けとか幽霊とか……」

「ぜんぜん」

「……信吾さんって、聖人君子を絵に描いたような人ですね」

「そうかな」

 俺は、なんでこんな人に恋愛相談してしまったんだ……。

 つくづく信吾と自分との落差を痛感し、がっくりと肩を落とす。

「どうしたの?」

「いえ、やっぱり信吾さんと俺とじゃ器が違いすぎるなって……」

「え?ああ、違うんだよ。僕は本当はね……」

 少し慌てたような信吾の声で顔を上げると、腰かけていた縁側の後ろの窓がガラリと開いた。

「そんなとこで話してたら、いい加減寒いんじゃなーい?志信君、中でお茶くらい飲んでいきなさいよ」

 突然の出来事に驚いて振り向くと、声の主は佳菜子だった。

 信吾は急に現れた佳菜子の姿を見て、また顔を赤らめた。それを隠すためか、はたまた佳菜子を直視しないようにか、マグノリアを顔の前まで持ち上げる。

「信吾さんもいつまでもドキドキしてないでよ。あたしの方が恥ずかしいでしょ。ほら、猫ちゃんにもミルクあるから」

 そう言うと、ミルクの入った深めの皿を床に置いた。一体どのタイミングで猫の存在を知ったのだろうか。しかし、明らかに猫用の皿ではないところをみると、それを用意する時間まではなかったらしい。

 マグノリアはたっぷりと注がれたミルクを見るや否やじたばたと暴れ出した。やむなく信吾が下へ降ろすと、すたすたと佳菜子に歩み寄る。

 一心不乱にミルクを飲む黒猫を見つめ、その場に立ったまま佳菜子はにこにこと笑っていた。

 遮るものを失った信吾は、一度深く呼吸をして佳菜子を見上げ、そして耳まで赤く染めると、また視線を落とした。

 どこまで純なんだ、この人は。

 志信はゆでだこのようになっている信吾の手を取り、家の中へと引っ張る。

 佳菜子は「どっちが家主かわかんないわね」と笑った。


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