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メドゥーサの彼女  作者: 吉國 冬雪
16/41

M16 天は二物を

「じゃ、また明日ね。CD聞いてみる」

 そう言って、極上の笑顔と共に大きく手を振って、小町は自分の家へ入って行った。

「おう、また明日。CDはいつでもいいから」

 志信(しのぶ)も精一杯の笑顔を浮かべて手を振る。

 くるりとUターンして、自分の家へ向かう。

 俺って案外打たれ弱いタイプなのかな。さっきの『男友達』の言葉がこだまする。

 そりゃそうだよ。小町は、正直、芸能人か?ってレベルの可愛さだ。だから、俺が一目惚れしてもおかしくない。

 でも、俺は最大限に誇張してもせいぜい『髪型イケメン』止まりだ。ということは、小町が俺なんかに惚れるわけがない。

 賢太みたいな完璧イケメンだったり、祥太朗さんみたいな頼れる年上の兄貴タイプだったり、信吾さんみたいな素敵なおじさまタイプだったら違うんだろうな。

 俺の武器って何だ?何でもそれなりに出来るところか?

 それとも……歌か……?

 けど、歌なんていきなり披露するものでもないしな……。


 下を向いてとぼとぼと歩いていると、長くなった志信の影に、もうひとつの影が重なった。

「お帰り。今日もお疲れさま」

 穏やかな声が背後から届き、志信はゆっくりと振り返る。声の主は、信吾だ。

「ああ、信吾さん……」

「どうしたの?今日は元気ないね」

 信吾は黒い子猫を抱えていた。

「別に……何でも……。信吾さんこそ、どうしたんですか?その猫」

「高い木に登って降りられなくなっていてね。手を貸したら、懐かれたみたいなんだ」

「飼うんですか?」

「この子がそうしたいならね」

 そう言って、優しく背中を撫でた。志信には猫の表情などわからないが、何だかとても気持ちよさそうに見えた。

 すらりとした長身に、濃紺の着流し。

 染めているのだろうか、黒髪は濡れたように輝いている。

 闇に溶け込めそうなその出で立ちとは裏腹に、涼しげな切れ長の瞳の色は綺麗な栗色をしている。

 近所の不愛想なおばさんも、信吾さんにだけは丁寧にあいさつをする。

 気難しいと評判のおじいさんも、信吾さんと話している時は笑顔だ。

 この人は、何なんだろう。

 天は二物を与えずなんていうけど、この人は一体いくつ与えられているのだろう。

 自分だって結構恵まれているくせに、そんなものは信吾の前では霞んでしまう。

「どうしたの?僕、何かおかしいところあるかい?」

 自分の姿を見つめたまま固まっている志信に、信吾が問いかける。

 信吾は子猫を抱えたまま、自分の身体をチェックする。

 どこか乱れているのだろうか。それとも、汚れているのだろうか。それとも……。

 そう聞かれて、自分が信吾を凝視していたことに気付く。

「あ、す、すいません……。おかしくて見ていたわけじゃないんです。ただ……何か羨ましくなって見てたっていうか……」

「羨ましくて……?」

 そうだ。俺はこの人が羨ましくて仕方がないんだな。

「もしよかったら、少し話そうか」

 視線を落として黙り込んでしまった志信に言う。

 顔を上げると優しく微笑む信吾の顔がある。

 今日は母親が早番の日だから、夕飯は一緒に食べることになるだろう。特にそう約束はしていないが、そういう時はなるべく一緒の時間を過ごすようにしていた。

 まだ夕飯の時間ではないが、2日も連続でお邪魔してもいいものか。

 志信は、何かしゃべらないと、と口を開けたままの状態だ。

 面と向かって『羨ましい』と言ってしまったことになんだか恥ずかしさが込み上げてきて、次の言葉が見つからない。

「この子もいるし、縁側に行こう」

 信吾は志信の返事を待たずに歩き出した。多少強引に引っ張って行った方がいいと判断したらしい。


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