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メドゥーサの彼女  作者: 吉國 冬雪
13/41

M13 モテ男の力

 小町は生まれも育ちもイギリスだったが、日本人である母親が読書家で、和書を多く持っていたので、自然と彼女も読むようになった。そのため、ある程度の漢字は読めるらしい。まさか日本で暮らすことになるとは思わなかったが、それが大いに役立ったという。

 しかし、それでも『読める』ことと『書ける』ことは別物だ。小町は教師の板書のスピードについていくことが出来ず、かと言って、授業が進まなくなるので待ってとも言えずにいた。

「後で俺のノート貸してやるから」

 志信(しのぶ)が小声で言うと、小町ははにかんだような笑顔で「ありがとう」と言った。


 昼休みになると、またも小町の周りには人だかりが出来た。ものの見事に男子しかいない。目的は昼食の誘いのようだ。

 女子はまるで示し合わせたかのように、小町をいないものとして、いつも通りにグループを作り、昼食をとっている。

 1人くらいは女子が誘いに来てもよさそうなもんだけどな。

 志信は小町を取り巻く男子の群れと、点在する女子のグループを横目で見ながら、菓子パンをかじる。購買から戻ってきた賢太が席に着き、後ろを向いて志信の机にパンとジュースを置いた。

「モテモテだなぁ、小町ちゃん」

「お前は加わらなくていいのか?」

「俺、人のものに手を出す趣味はないんだー」

 そう言って、メロンパンの袋を破り、かぶりつく。

「人のもの?」

「お前、狙ってるだろ?小町ちゃん。そしてぇ~、彼女もぉ~、まんざらでもない感じぃ~」

 左手で紙パックのリンゴジュースを持ち、人差し指を志信に向けて、くるくると回す。

「なんだよ、そのキャラ」

「俺さ、そういうのでさんざんもめてきたからさ、嫌なんだよな、もう」

「さんざんもめたって……。お前、サッカーが恋人じゃないのか」

「俺はその気なかったんだけどさ、俺の友達が好きになったやつがさ、俺のこと好きになったとかでさぁ、俺はなーんもしてなかったんだけどさぁ」

 どんどんと口をとがらせ、拗ねたような口調になる。

 まぁ、よくある話だろう。

 賢太の友人がある女子を好きになった。賢太はその相談に乗り、何かと協力した。すると賢太との交流が増えたその女子は、見た目もよく、立ち居振る舞いもスマートな賢太の方を好きになる。

 告白され、断るが、なぜか賢太がその気にさせたからだという噂が立った。

 そのことで賢太は友人から一方的に攻め立てられたのだと言う。

「モテる男も辛いんだな」

「まぁな」

「モテるってのは否定しないのか」

「一応、自覚はしてるつもりだ。それよりいいのか?さっきみたいにカッコよく助けてやれよ」

「さっきって……、お前見てたのかよ」

「見てたさ。俺だって可愛い子は見てたいんだよ。いいだろ遠くから見るくらい」

 ちらりと小町を見る。男子に囲まれ、昼食を食べたくても、食べられない状況のようだった。

「お前が行かないなら、俺が行っちゃうぞ」

「……好きにしろよ。別に俺のモンとかじゃねぇし」

「……いーのかぁ?ほんとに」

 それだけ言うと、食べかけのメロンパンを志信の机に置き、左手にジュースを持ったまま、人だかりの中へ首を突っ込む。そして、女子なら間違いなくキュンとくる極上の笑顔で言う。

「こーまーちーちゃん。こっちで俺と志信と一緒に食おうぜ。腹減ったろ?」

 集まっていた男子も賢太には敵わないと踏んだのだろう、すごすごと去っていく。

 人が空いたところへ、すかさず志信の机を移動させる。ぴたりとくっつけ、賢太は自分の椅子を運んだ。目の前の机がなくなり、慌てて志信も座ったまま椅子を移動させる。

「小町ちゃん、びしっと言わんと、毎日あんな感じだよ~?」

「ありがとう……、最上君……だっけ」

「そうそう、最上。志信と俺がさ、小町ちゃんのナイトになってもいいけどさぁ~」

「賢太……お前……っ」

 お前がしゃしゃり出ると、たぶん、ダメだ。周りを見ろ、女子がどんな目で小町のこと見てるかわかんねぇのか。

 賢太ならそれくらいのことわかってるはずなのに、おかしい。

 そこでふと気付く。さっきの「いーのかぁ?ほんとに」の続きに。


『俺が行ったら、この子、女子からやっかまれるぞ』


 そうだよな、賢太がそれくらいのことに気付かないはずがないのだ。

 だから、つまり、俺に行けってことなんだ。

 賢太の意図に気付いた志信は、深呼吸をして、小町への言葉を考える。

「……何か面倒な事あったら、俺『が』半分引き受けてやるから、目で合図しろよ」

 ほんの少しだけ『が』に力を込めて言ったが、果たして小町に届いただろうか。しかし、賢太には届いたようだ。机の下で軽く脛を蹴られる。ちょっと顔をしかめ、賢太を見ると、口の端を少し上げてウィンクしてきた。気持ち悪ぃな。


 面倒な事は半分引き受けると言ったものの、賢太が声をかけたことで早々に男子たちはあきらめたのか、昼休み以降、小町の周りには誰も集まらなくなった。

 賢太ってすげぇな。これがモテ男の力ってやつか。

 騒がしいのがなくなって、小町はホッとしたようだったが、次の問題が出てきた。

 女子がまったく寄ってこないのだ。

 これってどうなんだ?普通、女子ってワイワイしながら寄って来るもんなんじゃねぇの?

 やっぱり賢太が声掛けちゃったのがまずかったか?いや、でも……。

 さすがに、次の授業は、俺何にもできねぇぞ。体育だし。

「小町、次、体育だからさ、昨日、体育館教えたよな?昨日、自販機寄ったろ?あそこに更衣室あるからさ。ジャージあるか?」

「大丈夫。心配してくれてありがとうね」

 我ながら、心配し過ぎだと思う。お母さんか、俺は!

 小町は笑って立ち上がると、「谷山君、今日の帰りもいっしょに帰らない?」と言った。




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