M11 モテ男、最上賢太
教室に入り、自分の席に着く。隣にはどこから運んできたのか机と椅子が配置されていた。おそらく、会議の後で関が用意したのだろう。
今日からここに小町が座るんだな。
鞄から教科書とノートを取り出し、机にしまいながら、ちらちらと隣を見る。
「おう、志信。おっはよーさんっ」
前の席の最上賢太が陽気に声をかけてくる。
退屈なやつらが多いこのクラスの中で、いちばん話せる友人だ。
髪型でごまかしている志信とは違って、きっとこいつなら丸坊主だってカッコイイだろうと思わせるイケメンである。それに加えて、この明るさと人懐っこさ。強いて欠点をあげるとしたら、サッカーの推薦で入ったので、成績がちょっといまいちってとこだろう。
「なぁなぁ、転校生来るって聞いたんだけどさ。そこに座るってことでいいんだよな?」
「みたいだな」
「なんだよー、志信つれねぇなぁ。もっと盛り上がろうぜ。女子だろ?可愛い子だといいなぁ」
可愛い子だよ、とびきりな。
「あー……、そうだな」
「もー、志信ぅ。お前ちょっと枯れすぎじゃね?俺はお前ともっとこういう話したいんだけどな」
「こういう話ってなんだよ」
「女の子の話だよ!」
賢太はモテる。とにかくモテる。イベントの度に女子から誘いが来るし、下駄箱にラブレターなんてベタなものをもらうこともよくある。いまはサッカーが恋人だなんて公言して、特定の彼女を作ったりはしないものの、女好きではあるようで、いつも女子に囲まれている。
「俺はお前みたいにモテモテじゃないから、いいんだよ」
「そんな謙遜すんなって。お前のこといいかもって言ってる女子だっているんだぜ?」
「つっても、それお前にキャーキャー言ってる女子がだろ?俺、そういう女好きじゃねぇんだよ」
「じゃあどんなのが好みなんだよ」
「どんなって……」
小町のはにかんだような笑顔が浮かぶ。
「何でもいいだろ、別に」
「ちぇー。まぁ、いいや。な、後で英語の宿題見せてくれよ。一応自分でもやったんだけどさ、まったく出来てる感じがしないんだよな」
そう言って、英語のノートを開く。見ると、本当に自力でやってあるものの、ところどころ怪しいところがある。
賢太の好感が持てるところは、こういうところだ。頼っては来るが、100%ではない。
「わかったよ、後でな」
「恩に着るぜ」
「おう、席に着けよ。HR始めるぞ」
そう言って、グレーのスーツに身を固めた関が1人で入ってくる。ドアを閉めたが、すりガラスの向こうに人影が見える。自己紹介まで待機させる気のようだ。
事務的な連絡事項等が終わり、ついにその時が来る。
「もう皆聞いてると思うがな、今日からこのクラスに仲間が増えるぞ」
関はドアに歩み寄り、少し開け、小声で「いいか?」と言って、ガラガラと引き戸を開ける。
関に促され、教卓の前に小町が立つ。
どこからともなく、可愛い!との声が上がる。明らかに男子の声だ。
「じゃ、自己紹介だ。名前はボードに一応書くけどな」
関はホワイトボードに『マグノリア・小町・バレー』と書く。
それだけで生粋の日本人ではないことがばれ、どよめきが上がる。
小町はちょっと困った顔をしていた。
そうだよな、こういうのが嫌なんだよな。頑張れ、小町。
「……マグノリア・小町・バレーです。……あの、イギリスから……来ました。よろしくお願いします」
とだけ言って、ぺこりと頭を下げる。頬が赤い。
「『小町』の方で呼んでやってくれ。この通り、日本語もペラペラだしな。で、席はあそこの……谷山の隣だ」
関は志信の隣の空席を指し、小町は志信の顔を見つけると、ホッとしたように笑った。
つられて志信も笑う。
「谷山、悪いんだが、まだ教科書が間に合わなかったみたいだから、今日1日見せてやってくれ。他の先生方には伝えておくから」
「えっ、あ、はい……」
席に着いた小町が申し訳なさそうに頷く。
「ごめんね。今日届く予定なの」
「だ、大丈夫……」
「そんなわけだから、谷山、今日は授業中寝られないぞ」
「寝ないっすよ!ていうかいっつも寝てませんって!」
「そうだったかぁ?」
がっはっは、と豪快に関が笑う。癪に障ったので、軽く反撃してみる。
「あー、でも古典の時はちょっと寝たかな」
「えっ……、マジ?」
「……嘘っす」
素で驚いた関に、教室は笑いに包まれた。
隣を見ると小町も笑っている。




