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メドゥーサの彼女  作者: 吉國 冬雪
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M1 高校2年生、谷山志信

「あなた、マギーの目は治るわよね?違うわよね?」

 真志穂はアーサーの腕をつかみ、激しく揺する。

 唇を固く結び、アーサーはその問いに答えられずにいた。

「……どうして?どうしてマギーなの?」

 ベッドの上には、両目を覆うように包帯を巻かれた少女が眠っている。

「……もう隠し続けるのも限界だ。この村を出よう」

 やっと口を開いたアーサーは、ベッドの上の娘と、自分の腕をつかんで泣いている妻を交互に見て、言った。



 春は出会いと別れの季節だ。ありきたりな表現だけれど、その通りだと思う。

 何て思う割には、いまのところ、大層な別れなんて経験したことはない。

 『市』なんて御大層な名前がついているものの、自分の住んでいるのは、せいぜい『町』レベルの小さな市だ。だから、小学校の仲間がそのまま同じ中学に進む。それでも高校はいくつかあるから、何人かとは離ればなれになった。

 でも、そういうやつらに限って家が近所だったりして、休みの日には、それまでと変わらずに遊んだりもする。

 谷山志信(しのぶ)は、市内ではトップの進学校に進んだが、県庁所在地でもない、小さな市のトップ校だ。進学校とはいっても、受験時の倍率だって、今年から1割を切っていた。少子化の波がダイレクトに押し寄せてきている。

 にも関わらず、足切り点はあったらしく、平均点ギリギリの生徒は落とされたらしいというのは噂で聞いた。倍率を聞いて、明らかに手を抜いた志信が青くなったのは、合格後に自分の点数を聞いてからである。

 そこまでギリギリじゃねぇけど、危なかったかもな。

 トップ校に入ったという優越感は、あっという間に後悔に変わった。授業についていけないからではない。退屈すぎたのだ。

 進学校の生徒って、皆こんなもんなのかな。

 ガリ勉メガネが約半分。特に特徴もないやつがその半分。あとは推薦で入った運動寄りのやつが数人。稀に、目を引くような恰好いいやつがいる。女子にしたってそんなもん。

 流行りのテレビの話をしても、良い反応をしてくれるやつなんて限られている。

 高校生活も2年目となると、そいつらもなんだかピリピリしだして、大学受験なんて来年の話なのに、なんてのんびり構えている志信を見下しているようにも感じられる。

 志信は中学での成績に見合った学校というだけで高校を決めてしまったため、これといった目標もなく過ごしている。とはいえ、根はまじめな方なので、授業をさぼることもなく、赤点なんて取ったこともない。

 とりあえず、やることやっとけばいいんだろ。

 満点は取れないけど、平均点以上なら取れる。

 学年1番にはなれないけど、クラスで15位以内には入れる。

 これは勉強に限らず、運動でもそうだ。

 まずまず器用な方だと、自分でも思う。

 クラスには、俺の何倍も勉強しているのに、平均点に満たないやつだっている。

 運動部で真面目に練習してるのに、短距離走で俺に負けたやつもいる。

 お前って何でもできるよな、何て言ってくるやつもいる。

 でも、1番じゃないんだから、そんなすごいことでもないだろって思う。

 俺は、自分のしたいことをするために、口出しされない程度の結果を出してるだけだ。

 とりあえず、これくらいのことを、さも「精一杯やった」って顔してやりゃ、親も先生も「よく頑張ったな」って言ってくれる。

 でも、自分としては余力があるから、その分を趣味に費やせる。

 

 俺は、これからもそうやって生きていくんだ。



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