序章 異世界へ1
初投稿、温かい目で見てくだされば幸いです。
――数字が7つ揃った。彼、二色八千はその現実に胸を躍らすこともなく、ただ呆然と呟いた。
「やっちまった」
彼は手元の紙を凝視する。そして時たま視線を自分の愛機を見やる。信じられないといった様子で延々と同じ行動を繰り返した後、
「これで俺は明日明後日には金持ちの仲間入りか……、人生何があるかわからないもんだな」
これまでの平凡かつ平和だった生活を振り返りながら言った。
八千の手元にあるそれは巷で話題の宝くじだった。CMを見て気まぐれに購入した人生初の宝くじは、買った2日後にはこうして3億円の小切手へと変わったのである。後はこれを換金するだけなのだが、いかんせんこれだけのものを外に持ち出す勇気が湧かない。落としたら3億円の損失。薄く軽い紙っぺら一枚でも、一介の学生には重過ぎる物である。もっとも、世界的富豪でもなければ誰にとっても重過ぎるものではあるが。
とにかく勇気が湧かない。側溝にシュートする未来しか見えない。あるいは落としたところを猫だかカラスだかにもって行かれる未来……。
そんな嫌な想像ばかりが頭をよぎる中、部屋の静寂を破ったのは八千のスマートフォンだった。思わずビクッ! と肩を震わせ椅子から転げ落ちる。
「なんだよもう……こんなときに」
スマートフォンを操作して、着信メールを見る。案の定見覚えのないメールアドレスだったが、タッチして開いてみた。
『おめでとうございます、当選者二色八千様。あなたは今期234人目の勇者候補生に選ばれました。詳細は現地にてお話いたしますので、30秒後の転移まで今しばらくお待ちください』
とんだ厨二メールである。しかしリンクなどはない。何が目的なのだろうか? そう疑問に思っていると、突然足元が発光し始める。
「うおぁ!? なんだこりゃ!!」
一点の光は線を紡ぎ始め、やがて幾何学模様の円を作られる。八千はというか恐らく誰もがそれをなんというか知っていた。紛うことなき魔方陣そのものである。そしてそのまま光量はどんどん増していき、部屋全体が白で埋め尽くされると、慌てふためく八千の驚きの声だか悲鳴だかよくわからない声が止む。状況もよく理解できないまま、八千は気絶した。