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末路二つ

 戦闘開始の初手


 疾風の様に駆け出した《幻鬼》が、二刀目のサーベルを抜き放ち、敵前列に接触する直前で停止。


 完全に統率された死霊兵の連携攻撃を、ゆるゆると後退しながら捌き、足首を狙って刈り取っていく。


 対処不可能な一斉攻撃を仕掛けようとする死霊兵に対し、円舞曲を舞う様にするりと避けつつ、時折誘いをかけるかのようなステップとフェイントを刻む。


 理論上は可能、というものでしかないはずの、単体での釣り戦術を行うステップの軌跡には、足首を失った死霊兵とそれに躓いた者たちが転がり、純白のコックコート等を汚していった。


「最近は、斬りつけても悲鳴をあげない奴ばっかり戦ってる気がするよっ」


 赤黒い血煙と厚手の布を裂くような音に混じり、《幻鬼》のちょっと不穏な愚痴が響く。


 魔神には、砂色の外套が翻るたびに死霊兵の棍棒の衝撃力を一刀から吸収し、同時に振られていたもう一刀から斬撃を載せて反射されているのが知覚できた。


 それはまさしく刃の防御陣(ブレイドサークル)であり、剣閃の間合いが絶対の防御線。

 そして、攻撃者の攻撃ベクトルを反射しながら斬撃に乗せる技術は、あの変な受付嬢の言う通り跳ね返る剣戟(リバウンドブレイド)と言う他ないかも知れない。


 ただ、そのあまりの完璧な反射率を注視すれば、ディスにはやはり《幻鬼》本人以外の力の干渉を感知できた。恐らく何者からか得た能力である可能性が高いと分析。


 死霊兵が普通にあしらわれているのに焦った《死霊姫》が、酸系統の広範囲魔術の準備に入るのを確認し、ぽんこつの癖に魔術選択は堅実なんだなと、意外そうな表情のディスも支援の体勢に入る。


 割と余裕があるなと判断した魔神は、オードブルが出来上がってきた光景を眺めつつ、自分の手番の品目はスープか焼き物か逡巡したが、焼き物に決定。


 相違空間にシャラをこんがりキツネ色にしない様に、精密に設定した魔法陣を展開。構築された魔法陣は唸りをあげながら物質界に転写を開始。《幻鬼》が打ち合わせ通り、バックステップから大きく背後に跳躍。死霊兵達と距離を取ったのを確認。


「コースの順番から行くと、次は焼き物だよね」


 物質界に転写された魔法陣から創り出されたのは、ランスの様な黒鉄の塊であった。

 幸か不幸か《死霊姫》はその物体を知っていたようで、思わず魔術の印切りを止めて口を開いた。


「な、なんで対戦車ロケットなのじゃ!?しかも瞬間召喚じゃと」


 影の魔神が歴戦の傭兵顔で、対戦車ロケット砲を片手で肩に担ぐ。同時に、照準器が電子音でロックオン完了を告げた。


「召喚魔法じゃないよ、創造魔法だよ?」


 訂正しながらも無情にトリガーを引き絞る魔神。パニくる《死霊姫》を尻目にボシューという感じの音と共に弾頭は発射され、発射距離指定に従って盛大に炸裂。


 退いたシャラに殺到しようとしていた死霊兵達が、マジカル爆轟のエネルギーで後列までこんがりと焼きあがるどころか消滅した。凄まじい威力を発揮する爆轟が魔方式に従って。直線の貫通属性を保持したままアングラ地下墓地の通路をまた一つ追加したのだが、それはまた別の話。また別のときに話そう。


 《死霊姫》は頑張って、防御的な力場を発生させる魔術で爆轟を凌いだものの、魔神の魔法で生み出されたロケット砲は、うんざりするほどの追加効果が付加されており、余りにもえげつない一撃は、高級そうな着物をズタボロの襤褸きれにしただけでなく、物理ダメージはあまり効かないはずの《死霊姫》の存在エネルギー(魔力)を大きく削り取っていった。


「まだじゃっ!この程度では妾を倒す事は出来ぬ!飢えにご飯大盛り、鉄板に大火力、断ち割られし牛筋に歌い、食前酒に渇きを癒す!妾と従業員は永劫にサービスを提供するのじゃっ!!」


 大半の魔力を削られた《死霊姫》はちょっと本気で泣きながら、間違った《地獄に堕ちた者》ごっこをして士気を高めた。


 そうしたら、《地獄に堕ちた者》ごっこをするために体勢が崩れている隙を見逃さず、《幻鬼》が一刀流に切り替えつつ突っ込んできて、一切の躊躇なしに《死霊姫》の華奢な体をバラバラに切り裂いた挙句、首を天高く切り飛ばしたので、非常に高い士気を保ったまま、《死霊姫》は戦闘不能になった。


「ねぇねぇシャラ。最後の台詞って、エターナルチャンピオンのじゃない?」


「多分そうだと思うけど、リアルエターナルチャンピオンのディスが言うと、とっても感慨深いね」


 恒例となったじゃれ合いをしつつ、《死霊姫》を討ち取ったシャラは、サーベルを納めながら落ちてきた首をキャッチ。ゆっくりしていってねっ!!!とでも言いたげな首をくるりと片手で回して見せると、ふわりと《死霊姫》の艶やかな黒髪が旋回。 


「《死霊王》の女……というか童女バージョンか。この首にはいい値が付きそうだな」


 シャラのつぶやきを耳にしたディスが、用済みになったロケット砲の存在する力(魔力)を奪って処分しつつ首を傾げた。


 《幻鬼》を見つめる魔神の黄金の眼に、疑問符が浮かぶ。


「アンデッドの生首なんてどうするの?コース料理のデザートなの?」 


「討伐証明に使おうかなって。新種だと思うし、なるべく部位は多い方がいいと思うんだよね」


 美しい幼女の生首を、高値で売れそうな家具を見る目で眺める《幻鬼》と魔神。

 どう見ても良い生き物には見えない。ご先祖様が枕元に総立ちしてもおかしくない位に悪っぽい。


「ふーん。幼女の首を集める好事家にでも売るのかと思った」


「なにその嫌すぎる売却ルート」


 シャラは、割と本気でそう思っていそうな魔神に苦笑いを浮かべつつ、もう一つの視点からの価値を口にした。


「それに自分で姫なんて名乗っちゃう位だし、本当に《残骸世界》文明の王族だった可能性も有る。いろんな意味で価値があると思うよ」 


 シャラは《死霊姫》のほんの少し開いていた眼を、撫でる様にして閉じると、引っ張り出した綿布で丁寧に包み麻袋に放り込んだ。最後にナップザックに麻袋のひもを括り付けておく。


「これで良し。でも本命より大物を狩っちゃった感が凄いんだけど……そろそろお腹空いたし、帰ろっか?」


「え?アウラは?」


「何と無くだけど、もう本命を狩って入り口で待ってそう」


 魔神もそう言われると、なんとなくそうかも知れないと思えてくる辺り、魔女のオチ担当はかなり浸透しているようであった。入り口付近で黒焦げにした目標の死体を転がし、その真横で膝を抱えて座ってる場面が容易に脳裏に浮かぶ。



 そう“コウ”とかつて呼ばれた冒険者のアンデッドの遺体の横で。

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