74話 ノエルとカナ
2015/1/1 後書き追加しました。
カリオストロの町。その最大の特徴は、3箇所の魔脈と面していること。
莫大な魔力を常に放出する魔脈は魔物の生産所とも言っても過言ではなく、魔物の数を削ぐために多くの冒険者がカリオストロの町を拠点としている。
そのためついた通り名が、冒険者の町カリオストロ。
ただ、その呼称はこの町の本質を表してはいないそうだ。フマがそう言っていた。
この町の存在理由は2つあり、1つが魔物の勢力拡大の抑制。
そしてもう1つが、魔脈を利用した魔法金属の生産。
魔法金属の重要性はその利用方法からみて非常に高い。
高ランク冒険者の装備もそうだけど、王国軍の軍備である魔法兵器、および兵の装備に、魔法金属は必要不可欠であり、不足すれば軍備を維持することができない。
そのため冒険者だけでなく国にとってもカリオストロの町は重要な拠点であるそうだ。
そんなカリオストロの町の特産品は、ヤックの魔脈で生産された魔法金属である「ヤック鋼」をもとにして製造された魔法武具。
アレックスさんやグレッグさんも使っていたエメラルド色の武具のことだ。
僕たちには無用だけど、せっかくカリオストロの町に滞在しているのだからその特産品を一通り見ておこうとのフマの提案により、僕たちは武具店に訪れていた。
トールトール武具店。
大通りに面しており、剣や槍、レザーアーマーや甲冑まで揃うのはもちろんのこと、剣一つとってみても数10種類の剣が陳列されていて、中にはニィのフランベルジュと同形状のものまである。
テノンと依頼をこなした後だから、日が沈むのも目前。閉店間近であるにもかかわらず、広い店内には冒険者が5人ほど。
その他に、屈強な店員が3名。
盗難を意識してか、見通しのいい武具の陳列となっている。
中古品も扱っているようだけど、半分ほどは新品の武具で、ピカピカと輝きを放つ。
そして金属製の武具の4割ほどが、エメラルド色。
甲冑から、胸当てや肩当てなどのパーツ、盾、振れそうにない長剣や僕でも扱えそうな短剣、長槍や短槍、斧や槌、それらが組み合わさったもの……。まるで武具の博物館のようだ。
「棍棒の先端に棘棘のついたこれはモーニングスターね。冒険者で使う人がいるのかしら……?」
「槍と斧が合体したこれはハルバードさ。クセはあるが、斬ったり突いたり叩いたりと戦術が広がるさ」
ニィとフマが解説を入れつつ、僕らは店内を練り歩く。
剣のコーナーを見ているとき、僕はそれを見つけた。
「え? なにこれ、剣?」
湾曲した剣と細長い剣の間に鎮座している何か。
柄とつばはあるのだけど、その、剣身が変だ。
軸と呼ぶのが適切だろうか、真っ直ぐに伸びている円柱。
その左右に広がる、のこぎりの歯のようなぎざぎざとした刃。
だけどその刃はとても薄く、叩いたら折れてしまいそう。
しかもぎざぎざの向きが剣身の左右で逆になっている。
表面には模様が描かれていて、魔法的な何かが施されているのだろうとは思う。
解説を求めてニィとフマに振り返れば、2人が同時に首をひねった。あれ? 2人も知らないの?
「そちらはノエル様の作品ですよ」
声を掛けてきたのは屈強な店員だ。物腰は柔らかいけど、商品の強奪を防ぐ警備員としての側面もあるように思う。
髭を蓄えている彼は、盛り上がった肉体を小さく見せてニィとフマに向いている。女こどもと侮らず、お客として対応しているようだ。ニィの美貌か、それとも妖精のフマの効果かは分からない。
僕はというと無視されている。まあ気付かれていないだけなんだけどね。
「ご覧のとおりヤック鋼を素材としたこちらは、風剣です。魔力を通すことで、剣身を一周するように風が発生します。さらに、風を極限まで圧縮し、とんでもない切れ味を生み出します。ただの鉄なら皮膚同然に切れますよ」
「この剣、打ち合えるの?」
ニィが質問する。剣の耐久力を疑問視しているようだ。
店員は体に似合わずにこにこと答える。
「打ち合うのではなく、武器破壊を主目的としています。たとえ相手が魔剣でも、技量次第では切れますよ」
「……それ、本当なの?」
「はい。カナ様の手で実演済みです」
「カナだって?」フマが割って入った。「他に実演したのはいないのか?」
「現状で扱えるのはカナ様だけとなります」
「それってカナ専用みたいなもんだろ? ここで売っても誰も使えなくないか?」
「中にはコレクターもいまして。使えなくても手元に置いておきたいと」
「……もう、コレクターに直接売ればいいんじゃないか?」
「ノエル様は、できれば武器を使える方に購入してほしいとのことです」
「……」
どうやらノエルという作り手は、ほとんど使い手のいない武器を作っているようだ。
そして本人は、使える人に買ってほしいと。作り手としての矜持でもあるんだろうか、使ってほしいなら妥協すればよさそうなものだけど。
それはそれとして、初めて聞く名前が出てきた。
武具店を出た後、宿に向かいながら僕はフマに尋ねる。
「カナって誰? 剣の達人?」そこまで言って、僕はアレックスさんが思い浮かぶ。「もしかしてSランク冒険者?」
「ケイも分かるようになってきたな。正解さ。この町にはSランク冒険者が2人いてな、1人がアレックスで、もう1人がカナさ」
「なるほど、そうなるとさっきの剣はSランク冒険者しか扱えないってことになるのか」
「ま、カナで実演できたってことは、切れ味は本物なんだろうけどな。カナ限定だろうが、おそらくなんでも切れるぞ、あれ」
「僕のゲートも切れるかな?」
「いや、それは剣の神にしか無理だと思うさ」
僕たちはそのまま無事に宿へと帰り着き、1日を終える。
新しく聞いた名前、ノエルとカナ。2人と出会うのはそう遠くない未来――というか、翌日のことだった。
12月24日に投稿しました「番外編 クリスマスイブ」は、活動報告の記事のほうに転載しました。この番外編は、本編とは一切の関係がありませんので、お読みにならなくても問題はありません。次話にお進みいただいて結構です。




