72話 テノンとの依頼
僕たちは勘違いをしていたようだ。
テノンに戦い方を見せる?
Eランクの任務で、僕たちが戦うような強い魔物とは遭遇するはずもないのにどうやって?
当のテノンも、一緒に任務を受けたがったものの、受けた後どうするのかは考えていなかったらしい。
早朝、依頼を受ける冒険者でごった返すギルドの中。
テノンと落ち合い、テノンの弟子入りを認めると伝えた後に、この問題が発覚したものだから、テノンを上げて落とす羽目になった。可哀相なことをしたと思う。
どの依頼を受けるか散々悩んだ結果、僕たちは薬草採取の依頼を選んだ。
なぜか? 他のEランクの依頼は、町から出ないものばかりだったからだ。
店の手伝い、農園の手伝い、落し物の捜索、などなど。
町の中で活動する限り魔物とは遭遇しない。戦いを見せたいなら、外に出るほかないというわけだ。
「……地味だね」
カリオストロの町から伸びる街道。そこから草原の中に入り、僕たちはテノンから聞いた特徴を頼りに薬草を探している。
依頼が草原の草刈ならこの辺りを魔法で一掃するんだけど、そうもいかない。
一つずつ雑草を目で見て確認して薬草だけを選び取る。これをひたすら繰り返すのはしんどい。
少し離れて、見つけた薬草を風魔法で刈り取りながらフマが言う。
「Eランクの任務といったらどれもこんな感じさ。地味で、地道。みんなこれを経験して、上のランクに上がるのさ」
「まあ、僕だってそれを否定する気はないよ。この作業だって無駄なものじゃないし、やりがいだってあると思う。でもやっぱり、稼ぐなら魔物の討伐だね。A級でも狩れれば簡単に稼げる」
「若いときから楽ばかりしてたらロクな大人にならないさ」
「適材適所だと思うけどなぁ」
「はいはい」
僕とフマがたわいもない話をしていると、手作業で薬草を摘んでいるテノンが会話に入ってくる。
「一応言っておくけど、このやり方も楽してるからな? 普通はケイ師匠の異空間みたいに収納する魔法がないから、収納袋を背負って作業するんだぞ」
各々の腰の辺りには、黒い円盤が浮いている。
それはゲートで、異空間に繋がっている。
摘んだ薬草をゲートに入れれば、異空間に収納されるという仕組みだ。
「まあ、使えるものは使わないとね。というか、それを言うなら風魔法で薬草を刈ってるフマも楽してるよね?」
「オレは体が小さいからその代わりさ」
「……別にいいけどね」
ふと、ニィが静かだと思い僕は様子を窺う。
若草色の草原の中で、ニィの鮮やかな赤髪はすぐに見つかる。
垂れてくる髪を押さえながらニィは足元を覗き込んでいる。
「ニィ、どう? 見つかってる?」
「……見分けるのが難しいわ」
「よし、僕が教えてあげよう」
僕がニィのもとへ向かおうとすると、フマが口を出してくる。
「ケイも初心者だろ?」
「なに、フマも一緒にいちゃいちゃしたいの?」
「真面目にやるさ」
「冗談だよ。テノン、ニィに教えてあげて」
「……えっ」
テノンが顔を赤くする。初々しいね、気持ちは分かるけど。
僕はテノンのもとまで歩いていき、ひそひそ声で言う。
「ニィに手を出しちゃ駄目だからね?」
「ななななんのことだよケイ師匠!?」
動転するテノン。
僕はにっこりと微笑む。そして失敗したと気付く。
「ケイ、また気持ち悪い顔してるさ」
案の定、フマに駄目出しをされた。健全な微笑みでない自覚があるぶん、ダメージは大きい。
「……ほら、テノン行ってきて」
「あ、ああ」
僕はテノンを見送り、テノンがニィと2人で薬草を探すところを少しもやもやしながら眺めた後、フマと冗談を言ったりしながら作業を再開した。
太陽が真上にきたあたりで昼食を取る。
僕は食糧用の異空間から3人分のサンドイッチを取り出し、ニィとテノンに渡す。それを見てテノンが尋ねる。
「あれ? フマは食べないのか?」
「ん? オレはいいさ。元が魔力体だから食べなくても平気なんだ。そうさな、嗜好品みたいな感じだな。美味しいものなら食べるが、そうでないなら食べるだけもったいない」
「このサンドイッチが美味しくないとでも?」僕が冗談めかして言うと、フマは肩をすくめる。
「ま、金が腐るほどあるならもらおうか?」
「……ところで、実際のところはどうなの? 正直に言って、フマは一緒に食べたい?」
僕は声を低くして真剣に聞く。
それに気付いたフマは困ったように緑色の瞳を逸らす。
「べ、べつに空腹は感じてないから、食べる所を見ててもなんとも思わないさ」
「……ふうん?」
僕は手に持っていたサンドイッチを爪ほどのサイズにちぎると、それを勢いよくフマの口に突っ込んだ。
「んぐ!?」
「ニィ、確保」
「ふふっ、任せて」
ノリノリのニィがフマを抱きしめ、飛んでいけないように拘束。
そこへ口の中のものを飲み込んだフマが叫ぶ。
「もうっ、分かったから解放するさっ!」
「まあまあ、僕が食べさせてあげるから」
「や、やめろっ、やめろぉーっ! ――んぐ」
僕はフマに食べさせ、そしてフマを拘束して手のふさがっているニィにも食べさせてあげる。
無理やりされてふてくされながら口をもぐもぐさせるフマと、頬を赤く染めながら嬉しそうに咀嚼するニィ。
ちらりと見れば、テノンが居心地悪そうにしていた。
あー、こっちだけで盛り上がるのは良くなかったね。
僕は反省し、その後はフマを解放して4人で食べた。
フマの分はみんなから少しずつ分けたから問題ない。
午後は、森に入って魔物を狩った。
え、薬草摘み? フマの手際が良かったのもあって、ノルマはクリアしている。
フマは草を見分けるのがうまく、僕の成果の3倍も採取している。
考えてみればフマは妖精で、もともとの生活の場が森だったのだから当然かもしれない。うん、そういうことにしておこう。
魔物の感知はニィに任せ、C級と思われる魔物のもとへと向かい、フマ指導のもとテノンに経験を積んでもらった。
C級の蛇1体、C級の猪2体を、テノンは中級魔法でなんとか倒した。最初は魔法を外していて見ていてハラハラしたけど、フマの指示が的確だったのが幸いした。
その後、今度は僕たちの戦いを見せるべく魔脈に向かった。
テノンは猛反発したけど、経験ということで我慢してもらった。
テノンに聞いたところによると、リーガルの魔脈、ケイニーの魔脈、ヤックの魔脈の中で、魔物という観点で一番危険なのはケイニーの魔脈らしい。
ヤックの魔脈では魔法金属の生産が行われているため、安全のために魔物が狩りつくされており、リーガルの魔脈では、僕たちをおびき寄せるために魔物が弱体化した経緯がある。
向かったのは、もちろんケイニーの魔脈だ。
魔脈の主はリーガルさんのもとで教育されているから、心配は要らない。
魔脈の入り口付近の森を探すだけでA級の熊のつがいが見つかったため、僕とニィで討伐。
ちょっと可哀相な気はするけど、放っておくと増え、そのうち町を襲うようになる。実際に4年前に魔物の侵攻があったそうだ。そのときにティファニーさんが大活躍してギルド長に就任したのだと、フマが自慢していた。
僕とニィの戦闘を見たテノンは、絶句していた。
「何かの参考になりそう?」
「…………」
僕が尋ねると、テノンは思いつめたように考え込む。
「……とりあえず、戦いは見せてもらったからもう町に帰らないか?」
「そうだね、帰ろうか」
暗い顔のテノンを引き連れて、僕らは冒険者ギルドに帰還した。




