71話 決意の朝
窓から朝日が差し込んでいる。
すっきりと目覚めた僕は、右隣を見て、微笑が浮かぶ。
仰向けに眠るニィのなだらかな胸の上で、フマが突っ伏して眠っていた。
いい夢でも見ているのか、こちらに向けられたフマの顔は、気持ち良さそうに緩んでいる。
……やっぱり、1人で眠るよりは3人がいいよ。
しばらく僕は寝息を立てる2人を眺めた後、仰向けになって天井を見つめ、考え事を始める。
昨日はいろいろなことがあった。
そのなかで僕は死にかけた。
3度も。
1度目はケイニーに、2度目はルエに、3度目はケイニーに。
そしてそれを乗り越え、僕は神様と同列になった。
……流されていたように思う。
いや、正確じゃない。
そう、僕には覚悟が足りていなかった。
生きようという覚悟も、幸せを求める覚悟も。
そのことに僕はあのとき気付いていなかった。
ケイニーと戦ったとき、ニィとフマと一緒に生き残ることを僕は考えていた、つもりだった。
生きようと、それが一番なのだと、思っていたつもりだった。
でも――。
心のどこかでは、失敗することを受け入れていた。
たとえ殺されたとしても、仕方がないと諦めていた。
……前世の記憶がないせいか、それとも、元々達観した人間だったのか
まあ、理由はどっちだっていいんだ。
大切なのはこれからだ。
僕は気付くことができた。守りたいものに。
今の、この関係。
ニィとフマ。
誰一人欠けさせないし、誰一人悲しませない。
そのためには、僕は死ぬわけにはいかないし、最後まで徹底的に抗わないといけない。
理不尽に。不条理に。
僕は、最善を求め続けなければならない。
僕はごろんと横向きになり、ニィの寝顔を見つめて癒されながらも、思案を続ける。
ニィ、君のいるこの世界を、神様なんかには壊させない。
まずは掟を増やそう。
簡単に人を殺せないように、神様をがんじがらめにしよう。
……そういえば、僕自身が他の神様を止めるのはありなのかな?
争いを禁じるっていう掟、あれって、止めるのは含まれない?
まあ、それについてもシア様に……いや、シア様は長老会のメンバーじゃないんだっけ? それならメロウさんか、彼に相談しよう。
近いうちに向こうから連絡するって言ってたから、そのときにでも。
僕はニィの白い頬をちょん、とつついた。
弾力のある肌が押し返してくる。
「んぅ……」
ニィが甘い吐息を漏らす。
かと思えば、長いまつげが震え、ゆっくりとまぶたが持ち上がる。
「……ケーィ」
「ごめん、起こすつもりはなかった」
「ううん」
ニィは胸の上のフマに気付くと、首だけ動かして僕のほうを向く。
それから片腕を動かして僕の手を握ると、満足そうに微笑んだ。
「はぁ……ニィ、可愛すぎ」
キスしたくなったけど、フマをよけてするのは体勢的に苦しそうだったので、代わりにニィの頬を撫でることで愛でる。
するとニィの赤い瞳が困ったように揺れて、逸れると同時に頬が紅潮した。付き合って間もないのもあるけど、こういう初々しさは健在だ。もう、ほんとに食べちゃいたい。
「……ゆっくりやっていこうね」
「?」
頬を赤らめたまま不思議そうにするニィ。
僕はなんでもないと微笑みかける。
「今日は、テノンと一緒に依頼を受けるんだっけ?」
「うん」
「そういえば、ニィは師匠って呼ばれて嬉しそうだったね」
「だって、弟子を持つのは初めてだったから」
「まあ、弟子入りを正式に認めたわけでもないんだけどね。テノンが勝手にそう呼んでいるだけで」
「……私は、テノンに教えられることもあると思うわ」
「まあ、全くないとは言わないけど、やっぱり適役じゃないと思うよ僕たちは」
テノンは、こういってはなんだけど優秀なだけの人間だ。
魔法の習熟は周りよりも早いようだけど、使う魔法はスタンダードなもの。
僕はExレベルに頼ったアクロバットな空間魔法しか扱えないし、ニィの本質は魔王としての魔力量を活用する炎魔法にある。どちらもスタンダードとは言いがたい。
僕たちに教わるくらいなら、人間の魔法使いに教わるほうがよほど有益だろう。
「ねぇ、多分だけど、私たちが教えなくてもいいと思うの」
「え? どういうこと?」
「テノンは、私たちの戦いから自分で何かを学ぶと思うの」
「……ああ、そういうことか」
教えなくても、学ぶ。ニィはそう思っているようだ。
確かに、テノンは勉強熱心のようだったから、それくらいはやってくれそうではある。
「でも、だったらやっぱり師匠って呼ばれなくてもいい気がするなぁ。基本放置でいいってことでしょ?」
すると、ニィから困ったような目を向けられた。
「ケーィは弟子入りしたことがないでしょ?」
「え? ……おそらく?」
前世のことは分からない。
「いいえ、絶対そうよ」ニィが僕の頬を摘む。「いい? 弟子入りしたいってことはね、その師匠のようにありたいってこと。そう思われて誇るのはいいけれど、気付かないのは駄目」
「ふぁ、ふぁい」
何か思い入れでもあるのか、ニィの視線は強く、僕は反論できない。
ニィの指が離れてから(ちなみに痛くはなかった。むしろすべすべの指が気持ちよかった。あ、変な意味じゃないよ?)、僕はちょっと考えてから、ニィに伝える。
「それじゃあ、テノンの弟子入りを認めてあげようか」
「うんっ」
ニィは微笑み、僕は微笑み返す。
ああ、テノンの喜ぶ顔が目に浮かぶよ。
さて、今日の予定はテノンと依頼をこなすことだけ。
昨日は忙しかったから、のんびりといきたいものだね。
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