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70話 穏やかな夜



 日が落ちきる前に、僕は《転送》でグレッグさんとアレックスさんを冒険者ギルドに送り届けた。

 2人はギルド長のティファさんに今日のことを報告すると言っていた。

 報告内容には、僕が神様の仲間入りを果たしたことも含まれることだろう。

 ティファさんが頭を抱える姿が容易に想像できるね。同情してしまう。


「そういえば、僕が神様になったことって、周りからすればあまり関係ないよね。崇めないといけないわけじゃないし、貴族みたいな身分でもないし。それだったら、ティファさんも扱いには困らないかな?」


 宿の食堂で夕食を取っているときに僕は尋ねた。

 するとフマが溜め息をついて、僕のシチューから鶏肉をフォークで刺して奪おうとする。意味が分からない。

 肉は結構貴重で、シチューには2欠片しか入っていない。

 させてなるものかと、僕はフマの抱えるフォークを《固定》で留める。

 

「ちょっと、フマは食べなくても生きていけるでしょ?」

「だからといって食べられないわけじゃないさ」

「僕は肉を食べないと生きていけないの、分かる?」

「ふん、冗談さ。ケイが変なこというからさ」


 フマはテーブルの上にあぐらをかく。ちなみにズボンなので心配はいらない。


「人間が神になって、扱いに困らないわけがないさ」

「え? でも、公表しなければそれでいいんだし、特別対処が必要ってわけでもないんだし、困らなくない?」

「まぁ、オレも公表しないほうがいいとは思うさ。ただ、それがとんでもない情報ってことには変わりないさ。あー、つまりオレが言いたいのは、どう扱うかは決まっていても、だからといってストレスがないわけじゃないってことさ」


 ……ああ、精神的にまいるってことね。

 

「……フマ、ティファさんのフォロー、頼んだよ?」

「はぁ、言われなくても分かってるさ」


 がっくりとうなだれるフマに、対面のニィが声を掛ける。


「私も行く?」

「……いや、オレ一人でいいさ。そっちのほうがやりやすい。それと、もしかしたらニィナの魔力量について、報告が上がってるかもしれないさ。ヒュピを起こすときに全力を見せたからな。一応気に留めておくさ」


 ニィの魔力量についての報告って、なんだろう?


「具体的に、どういうこと?」

「魔王としての魔力量がばれたかもしれないってことさ」


 ひそひそ声でフマは答えた。

 僕は少し考え、フマに提案する。


「ティファさんには結構知られてるし、もういっそそれについても教えてもいいんじゃない?」


 するとフマに睨まれた。


「ティファの心労を考えるさ」

「……ああ、そうだね」


 なるほど、そっちの理由か。

 




 夕食を終え、風呂を済ませた後。

 宿の一室で、ニィが魔国と連絡を取り合っていた。

 僕はベッドに腰掛け、フマは僕の膝の上に腰掛け、窓際で喋るニィを見守っている。


「違いますわ! 遊んでばかりじゃないです! ……もうっ、お爺様、私は疲れてるんです、報告は手短にさせてください」


 相手は、エンデベルドおじいさんっぽい。

 ニィの祖父で、以前一度だけ会ったことがある。


 それにしても、ニィの口調が変わっていて面白い。

 エンデベルドおじいさんが相手だと、口調がお嬢様みたくなるようだ。

 

「――ええ、この近辺で神代魔法の余波が観測されても、すぐに調査には出向かずに一度私を通してください。ケーィが関係している可能性が高いですから」


 ……そういえば、転生初日は神代魔法が観測されたとかで、ひと騒動があった。

 今日、それから昨日も、リーガルさんが神代魔法《空間創造》を使っていたから、調査のために魔国がまた動こうとしていたのかもしれない。


「――ということですわ。昨日と今日の戦いに関しては以上です。

 最後に、ケーィが神になりました。『時空の神』です。たとえ人間でも神であれば、魔王の伴侶として不足はないと思いますわ。それでは」


 ニィはそれだけ言うと、一方的に通話を切ったようだ。

 というか伴侶って、もうそこまで考えてるのね……。

 

 などと呆れていると、ニィが僕の腹目掛けてダイブしてきた。

 膝の上にいたフマが慌てて退避する。


「駄目……だった?」 

「え?」


 ニィの炎球がほのかに照らし出す部屋は薄暗い。

 しかしそれでもはっきりと分かるほど、顔を上げたニィの頬は赤かった。

 

「駄目って……、あ、もしかして……?」


 耐えかねたのか、ニィが恥ずかしそうに、僕の腹に顔を埋める。

 僕はニィの頭を優しく撫でる。


「駄目じゃないよ。まだ気が早いような気はするけど、ゆくゆくは、ね」

「……ケーィ」


 顔を上げたニィの赤い瞳が濡れている。

 僕はニィを抱き起こし、膝の上に座らせると、頬に手を当ててキスを……。


「あー、ごほん、オレは森で寝るから、今夜はよろしくやるさ」


 僕とニィはびくっと硬直し、それからフマが出て行くのを見守り……。


「……ねぇ、フーマも一緒に」

「……ふふ、それは良い考えだね」


 僕とニィは互いに見つめ合うと、にやりと笑う。

 そして僕は、フマに魔力を向かわせ、それに気付いたフマがなぜか逃げようとするも、僕の【魔力操作:Ex】を振り切れるはずもなく、あっさり捕まる。


「《転送》」


 ニィの胸の前にフマを呼び出す。

 フマが現れた瞬間、ニィがフマを抱きかかえた。


「んぐ!?」

「フーマも一緒に寝ましょ」


 ニィがフマを胸に抱きかかえたまま、横倒しにベッドへごろんと寝転がる。

 そこに僕は寄り添う形で横になり、フマごとニィを抱きかかえる。


「あ、暑苦しいさ! ニィナ、手を離すさ!」

「だーめ。フーマもいっしょ」

「わ、分かったから! もう逃げないから、もっとスペースを空けるさ!」

「密着ー、仲良しー」

「話を聞いてないさ!?」


 ニィの声は甘く、なんだか僕はほほえましい気持ちになりながら、ニィのふわふわの赤髪に触れる。

 さっき風呂に入って乾かしたばかりだから、とてもさらさらで気持ち良い。

 

「フーマ、かわいいーっ」

「ちょっ、ケイ! 助けるさ!」

「ん? ……フマは可愛いねー」

「敵しかいないさ!?」


 それからもフマは文句を言っていたけど、最後まで魔力体になって逃げようとはしなかった。

 また捕まることを分かっていたのかもしれないけど、それ以外の理由もあったと信じたい。


 

第4章の始まりです。


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