66話 その神の名は(5)
2014/11/27 「リーガルが主人公の異空間に入ったことない」という描写が過去の事実と矛盾していたため、そこを修正。
「――ですので、ケイさんの神格化は認められました」
僕とメロウさんは、ソファに腰かけて対談している。
僕の膝の上にはニィが乗っていて、真面目な空気の中でこれは恥ずかしいのだけど、ニィには心配させてしまったお詫びも兼ねて羞恥に耐えている。
さらには僕の頭にはフマが乗っていて、仲間が2人とも僕に乗っているというシュールな図。真面目な話をしているのに。まあ、仲が良いのはいいことなんだけどね。
そうして罰ゲームのような状況で聞き終えたメロウさんの話によると、僕の能力は神レベルに十分達しているとのこと。
僕はめでたく神として認められました。
「ということは、僕には神の掟も適用されるんですよね?」
「はい。神同士の争いは禁止されています。よって、他の神はケイさんに手出しできなくなります。あ、もちろんケイさんも駄目ですよ?」
誰が好き好んで手出ししますか。
ようやく、これで一安心だ。
正直、もう神とは戦いたくない。ニィに諭されるまでもなく、そう思う。
「ん? そういえば、ニィやフマには他の神は手出しできるんですか?」
「はい」
「え?」
……え?
メロウさんが朗らかに笑う。
「掟は神にしか適用されませんので。しかしご安心を。長老会でそれを決めてしまえばいいんです。ケイさんは、イータさんとコハロニさんの恨みを買ってますからね、普通ならこんなことはしないんですが、今回は特別にケイさんの仲間も保護する必要があるでしょう。まあ、あの2人は反対するでしょうが、多数決で押し通しますよ」
メロウさんがにこにこと微笑んだまま言う。少し怖い。
「あ、ありがとうございます。助かります」
「他に質問はありませんか?」
「……そうですね、別の掟も教えてもらっていいですか?」
「いえ、神同士の争いを禁じるというそれだけです。他にはありません」
……え? それだけ?
少なすぎない?
「……神が、国を滅ぼしてもいいんですか?」
「はい、問題ありません」
「……」
「聞いたことはありませんか? 以前、魔脈を潰そうとした国が、そこの神に滅ぼされたという話を」
……聞いたことがあるような。
「まあ、昔はちょくちょく介入していたんですけどね、介入しても良いことはないと気付いた神が多く、最近は落ち着いています」
「……でも、やろうと思えばできるんですよね?」
「はい。ただし、長老会に抗議してもらえれば、こちらで検討しますよ。不当と判断されれば、長老会で止めることができます」
「そういえばさっきは聞きそびれたんですけど、長老会って、神の代表組織ですか?」
「察しがいいですね。その通りです。まあ、これも発足したのは最近なんですけどね」
「……最近のものが多いですね。もしかして、掟が作られたのも最近だったりします?」
すると、メロウさんは目を見開いた。
「これは驚きましたね。その通りです。掟は、長老会で作られましたので、これも最近のことです。
一昔前までは神同士で戦い、その数を減らしていましてね。さすがに減りすぎたため、抑止力として当時の最高戦力を集めて長老会を発足させ、掟を策定したんです。掟を破った神には、長老会の手で痛い目に遭ってもらいました」
「……なるほど。ところで、新しい掟って作れますか?」
「提案していただければ検討しますよ」
思うに、神を縛る掟が必要だ。
神が自由に人間を殺せるという状況は、まずすぎる。
転生してからこっち、僕が受けた被害の他に、人間が神の犠牲になったという話はほとんど聞かなかったけど、メロウさんの話によればいつ暴走するかも分からない。真剣に検討する必要があるだろう。
「掟について、他にご質問は?」
「……いえ、今はありません」
「そうですか。手続きのたぐいはありませんので、もうお帰りいただいても結構ですよ」
僕は……立ち上がらない。
いや別に、ニィが重いとかそういう話ではなく。
「ケイニーはどうしますか? 僕の異空間に閉じ込めたままですけど」
今回の騒動の、最後の後処理。
ケイニーの処遇。
メロウさんは驚いた様子。
ケイニーのことを忘れていたのかと思えば、そうではなかった。
「てっきりそのままにしておくものかと。ケイニーさんは暴走気味でしたからね、後のことはケイさんに一任しようと思っていました。まあ、掟がありますから、戦ったり殺したりはできませんが、それ以外なら可能ですよ?」
メロウさんの言葉に、僕は漠然と違和感を抱いた。
一任してくれるのはありがたいんだけど、丸投げというか、なんというか、敗者は強者に任せるというか、弱肉強食というか。
……ああ、そうだ、力こそ全てって感じなんだ。
だからこそ、互いに放任。
他の神の行動が気に入らなければ力で止めればいいという姿勢。
そして敗者に救済はない。たとえ、敗者にこそ正しき道理があったとしても。
……改めて、新しい掟の必要性を感じるね、これは。
弱者が守られるような掟を考えないと。
「ケイニーのことなんだが、わたしに任せてはくれないだろうか?」
僕が思案していると、しかめ面のリーガルさんが現れた。
「リーガルさんは、ケイニーをどうするつもりなんですか?」
「わたしの世界に閉じ込め、1年の禁固処分にしたのち、わたしの心の法を説いて聞かせる。今回はお前に迷惑を掛けたからな、責任をもって改心させるつもりだ」
リーガルさんの後ろには、ヤック少年が思いつめた表情で俯いている。
そういえば、ヤックはケイニーを慕っているふうだった。
彼もつらいのかもしれない。まあ、こっちも被害受けてるから弁護はしないけど。
「もし、ケイニーが改心しなかったら?」
ケイニーは僕とニィに殺意を抱いていた。
掟をかいくぐって何かされても困る。
「そのときは、わたしはケイニーを見限る。あれにとっては、それが一番つらいだろう」
「……なるほど、リーガルさんラブでしたからね」
「ら、らぶだとっ? わたしにそういう趣味はないぞ!」
「いえ、すみません、そういう意味ではないんですけど、えっと、慕ってましたからね」
まさかそう取られるとは思わなかった。
「でも、見限るのはやめてほしいですね」
「なに? ケイニーの肩を持つというのか?」
リーガルさんが険しい視線を寄越してくる。
いや、さすがにそれはないですって。
好感度ゼロだし。恨みもありますし。
「おそらくですが、リーガルさんに見限られたら、ケイニーの不満は全部こちらに向きますから」
「ああ、なるほど、確かに」
こういうところは単純だよね、リーガルさんは。
まあ、勘違いで僕を襲うぐらいだしね。傀儡説はなかなかだったけど。
「お仕置きの方法ですけど、僕に考えがあります」
ケイニーは、神としては老成しているのかもしれないけど、考え方は人間の子供のようだった。
子供なら論理で諭せば教育できるし、反省させるのも容易だろう。
でも、としつきを重ねているケイニーには、そう簡単にはいかないと思う。
ならばどうするか。
「教育はリーガルさんに一任しますけど、お仕置きはきついのを与えようと思います。一度徹底的に、増長した心を砕く必要があると思うんです」
「……そうだな、それがいいのだろうが。しかしお前らしくないな。お前はふわふわとして頼りない方針を取っていなかったか?」
ふわふわとして頼りない方針ってなんですか。
「……どんな方針かは知りませんけど、こっちは命狙われてますし、ニィに殺意向けさせるわけにいきませんし。それに、リーガルさんと違って、話が全く通じませんでしたから。リーガルさんは僕から手を引いてくれましたからね」
「……普通は、簡単に許さないものだと思うがな」
「必要なければやらない主義ですから。まあ、あのときは下手に動けないというのもありましたけど」
神に狙われの身だったから。いや、それは後付かな?
やっぱり、必要じゃないと思ったからかね。
やりすぎると恨みを買い、足りなければしっぺ返しを食う。ちょうどいいのがベストだ。
「それで、具体的にはどうするのだ?」
「やること自体は変わらないんですけどね、僕の異空間に長期間閉じ込めます」
「……わたしの世界に閉じ込めるのと変わらないのではないか?」
眉をしかめるリーガルさん。多分不思議がったんだと思う。いつもしかめ面だから分かりにくい。
「いえ、変わりますよ。リーガルさんも体験して知ってるじゃないですか、僕の異空間とリーガルさんの神世界の違いを」
「……ああ、なるほど」
リーガルさんは察したようだ。
僕は微笑みながら言う。
「そうです、真っ暗で、狭いんです」
「……」
沈黙するリーガルさん。
フマが僕の頭から降り、僕の顔を見て言う。
「ケイ、その顔気持ち悪いさ」
「ひ、ひどい!」
静まる場。入らないフォロー。
ニィも、何も言ってくれなかった。
うん、微笑んでみせるのはやめようと誓ったね、僕は。




