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59話 神候補佐々倉啓 vs 剣の神ケイニー(5)

2015/3/18 佐々倉啓の心理描写を補足しました。



 ケイニーの周囲に浮かぶ数100本の大剣。

 それらが無造作に、かつ乱雑に振るわれ、四方八方へと不可視の斬撃を送り込む。

 その斬撃は、おそらくケイニーの剣の神様としての能力なんだろう、何でも切断する。

 魔法も、物質も、魔力さえも。

 

 山の斜面に立っていたはずが、周囲の山肌が切り取られ、いつの間にやらケイニーの立つ場所が山の頂きとなっている。

 まるで野菜の皮むきでもしたかのように、斜面は全て、綺麗な断面。


 転移して避けるにしても、斬撃が多過ぎて安全地帯を見出せない。

 僕は自分の異空間に避難し、ケイニーが攻撃の手を休めると、山肌に戻る。

 それを8回繰り返しただろうか、ケイニーが斬撃を再開する代わりに、声を出した。

 

「おい、ふざけんな」


 僕が逃げてばかりいるから、痺れを切らしたのだろう。

 ただ、僕だって言いたい。


「お互い様でしょ。魔法も魔力も切れるって時点でチートなのに、剣の数が数100本? その全てに能力が付随してる? ふざけてる」 

「あ? 能力なんかどうでもいいんだよ。逃げてばっかりいやがって。やる気あんのか? つーかよ、あんたからリーガルの兄貴の魔力が感じられるんだが、あんた、兄貴の魔脈から魔力を盗んでるな? いったいさー、どんだけ兄貴をおとしめれば気が済むんだよー。なー?」


 ケイニーが無表情のまま目を見開き、手に持つ大剣を山肌に幾度も叩きつける。

 そのたびにスパッと地面が切れ、切断線が延々と地を這う。

 

 ズズズズズズズズズ。


 地震のような、地鳴りと揺れ。

 山が切れてずれ落ちるのか?


 そう思った直後、立っていられないほどに揺れがいっそう大きくなり、僕は異空間へと避難する。

 空間投影で映し出した映像では、赤いモノが噴き出していた。

 

 ……だから、どんだけ切れるんだよ!?


 山肌ではまるで傷口から血が流れるように、噴き出したマグマがケイニーの作り出した斜面を流れている。

 ケイニーはというと、魔力体となって上空に浮かんでいた。

 ふいに、どす黒く見開いた碧眼が、モニター越しに僕を見据える。


 うわ、監視の場所ばれてる……。


 このまま異空間にこもっていても仕方がない。

 僕は策もなく出て行こうとして……。


「おい、これ以上長引かせるっつーんなら……あの小娘から殺すぜ」


 僕はケイニーの近くの大気を固定すると、その足場へと転移した。

 眼下で赤いマグマが流れるなか、硫黄の臭いと熱気にさらされ、一瞬だけ僕は顔をしかめる。


「もしかして、小娘ってニィのこと?」


 僕はできる限り平静を装って尋ねた。

 ケイニーは同情を求めるように言う。


「あの小娘、生意気だよなー。力もねーくせに俺に歯向かうんだぜー? ま、あんたのやる気を引きだす餌にはなるみてーだからよー、利用価値はねーわけじゃねーけどよー。あんたを殺したら、もう用済みだよなー?」

「……ニィは関係ないでしょ。リーガルさんに勝ったのも、連れ去ったのも、神格化をしようとしているのも、全部僕だけだ。ニィには手を出さないで」


 ケイニーは不快そうに眉をひそめる。


「俺の敵になりたがるやつを、どうして野放しにしなければならない?」

「敵っていっても、君を殺そうとしているわけじゃない。だったら、ニィを殺そうとする必要もない」


 どうして殺そうと思うのか。自分の命が脅かされているわけでもないのに。


「殺す必要がある? 殺す必要がない? ああ、確かにあんたの言うとおりだ。必要かどうかで言えば、必要じゃないんだろうさ」 


 意外にも、ケイニーは同意した。

 だが、ケイニーは恨みに濁った目を向けてくる。


「ただな、そうじゃねぇんだよ。リーガルの兄貴を、あんたらは踏みにじった。これはな、誇りの問題なんだよ」

「……リーガルさんが、それを望んでると?」

「兄貴は優しいからな、望んじゃいねえさ」

「……そんな、自分1人の感情だけで?」

「それだけで十分だろ。それとも何か、あんたは俺が、他者の願いを聞き入れてあんたを殺そうとしているとでも思ったのか?」

「……でも、必要もなく、誇りのためだけに、人を殺す? 殺すって、そんなに簡単なことなの?」


 ケイニーは顔を歪めたまま、不思議そうに首を傾げた。


「なに言ってやがる。殺すことが難しいわけねえだろ」

「……あ、いや、方法が簡単かどうかじゃなくて、命が重いって話」

「命が重い? そりゃどういう意味だ?」

「え? ……簡単に殺すなって意味で……」

「たくさん死んで、それ以上に生まれる。それが生き物だろ? 死ぬことは前提だぜ?」

「いや、だからって奪っちゃ駄目でしょ」

「争い、殺し合い、奪うことの何が駄目なんだ?」

「えっ……そりゃぁ……」 


 ケイニーは、本気で分からないと言いたげだった。

 これがこの世界の常識なのか、それとも神様だけの常識なのか、あるいはケイニーの持論なのか。

 なんにせよ、僕は言葉を失った。


「……えっと……」

「ま、あんたの言いたいことは分からなくはねえ」


 僕はケイニーを見る。


「要するに、命乞いだろ?」

「いや、違うから」

「あ? 違うのか?」


 話が通じないって、こういうことを言うのかと僕は閉口した。

 ケイニーは面倒臭そうに青髪をわしっと掻き上げる。


「あー、もう、話はいいだろ? 結局のところ、戦いで勝敗を決めねえといけねえんだ。もう、あんたと話すことはねえ。だからよ……」


 ドスッ。


「え?」

「死んでくれや」


 腹部に、異物感。

 見下ろせば、血にまみれた刃が生えている。


 ……あれ?

 いつの間に?

 だって、魔力は何も感じなかった……。


「忘れてたぜ。あんたは人間なんだよな。あんたを殺すのに、魔力はいらねえ。魔力を纏わせていないただの剣が刺さるだけで、あんたは死ぬ。大技なんか必要ねえんだ」


 あまりにも唐突で現実味がなかったのか。

 自分の身の心配より先に、死角から投擲されたのだなと現状を冷静に分析していた。


「……ごふ」


 直後、頭がカッと熱される。

 腹部を灼熱が満たしきる。

 それが喉元までせり上げ、吐血する。

 腹筋が痙攣する。

 痛覚が麻痺する。

 視界が揺れる。

 浮遊感。


 僕は大気の足場からマグマの川へと落下していく。

 その途中、上下の感覚もないままに、自分の異空間へと転移した。


 ――真っ暗な闇。

 モニターを出す余裕もない。

 明かりもない。

 僕は横向きに倒れ、腹部の刃を両手で掴む。


 ……駄目だ、力が入らない。

 ……。


 僕はまぶたが重くなり、目を閉じた。


 意識が、遠のいていった。



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