58話 神候補佐々倉啓 vs 剣の神ケイニー(4)
2015/3/18 佐々倉啓の心理描写を補足しました。
僕は、ケイニーと戦いたいとは思わない。
恨みがないわけじゃない。
ニィを傷つけられた。
僕を殺そうとした。
でも、だからって戦いたいとは思えない。
例えば、報いを受けさせたいとは思う。
苦しみに歪む表情を見てみたいとも。
ただ、それはもはや戦いではない。
感情のおしつけだ。
それはなんか違うと思う。
なんというか、不毛だ。
負の感情は害しか生まない。
相手を傷つけてそれでどうなると言うんだろう?
確かにスッキリはするだろう。
でも、そんなことをして相手は反省してくれるんだろうか?
反省なきそれは一方的な暴力でしかない。
傷つけることに意味はあるのか?
なんのために、傷つける?
だから僕は、ケイニーを理解できない。
僕に殺意を向けるケイニー。
それほどまでに、僕は恨まれているんだろうか。
そんなことに、意味はあるんだろうか?
気に食わないからと殺して、それが解決になるのだろうか?
「さあ、来いよ、ケイ・ササクラ。優しく切り刻んでやるから」
僕の考えを置き去りにして、勝負は既に始まっている。
これは気の進まない戦いだ。
害意が僕の心にくすぶっている。
そんなものは邪魔だ。
理性がなければ有益な判断などできないだろう。
だけど、この戦いそのものには意味がある。
僕の神格化がかかっている。
僕は勝たなければならない。
――悪いけど、殺されるわけにはいかないよ。
僕は心を入れ替えると、ケイニーを異空間に封印するべく攻撃を開始した。
――加速空間、10倍。体に連結。
発動と同時に、視界が暗くなる。
周囲での1秒が、僕にとっては10秒。
1秒間に入ってくる光が、僕にとっては10秒に引き伸ばされる。
すると明るさが10分の1になる。
……なんか、僕の魔法って暗くなるの多くない?
異空間の中しかり、ゲートで体を覆う防御しかり。
魔力感知があるから視覚に頼らなくてもいいんだけどね。
僕は圧縮した魔力をケイニーに向けて飛ばす。
その圧縮度、イータとコハロニ水準。
多分、神様の中でもトップレベル。
ケイニーの魔力じゃ防御できないんじゃないかな。
僕の魔力がケイニーへと直線で向かう。
それに対し、ケイニーは魔力をぶつけて弾こうとする。
しかし、僕の魔力密度のほうが上。
まるで水でも押しのけるように、僕の魔力がケイニーの魔力を侵食する。
ケイニーに逃げ道は残されていない。
僕の魔力を防ぐことはできないし、逃げるにしても、僕の魔力は通常の10倍の速さで動くため、たとえケイニーが身体強化をしていても振り切ることはできない。
終わった。
僕はそう思った。
そのとき、ケイニーが手に持っている大剣を横に振るった。
その所作は軽く、その軌道は僕の魔力を断とうとするもの。
でも、ケイニーの魔力じゃ僕の魔力には届かない。
大剣を振ったのは悪あがきだ。
大剣に纏わせた魔力は、僕の魔力に弾かれ、実体である大剣は魔力を素通りする。
「――!」
僕の魔力が切り離される感覚があった。
その感覚は、同一平面にある僕の魔力全てに適用されていて、その延長上には僕自身が含まれていて――。
僕は咄嗟に転移を発動させた。
避難用に設置していた近場のマーカー地点へと、移動する。
瞬間、さっきまでいた場所に残された魔力が、切断された。
思わぬ攻撃に、切られた魔力がコントロールを失い、霧散する。
ケイニーが、僕に向けて大剣を振るう。
――マズい。
僕は転移する。
そして、マーカー用に、魔力をあちこちに配置する。
ケイニーのほうを見れば、再び大剣を振ろうとしていた。
僕はその場で大気を固定し、別の場所へと転移。
直後、固定していた大気が切断される感覚。
ケイニーが大剣を立て続けに振るい、僕は転移を連続で行う。
……ズズン、ドッ、ドドッ、ズズン。
遠くから重い音が聞こえ、目を向ければ、遠くの岩が切れていた。
いや、それだけじゃない。
よくよく見れば、地面に落ちている岩が、ところどころ切れている。
……ズズズズズズズズズ。
僕は次々と切り替わる視界の中、地震のような地鳴りと揺れを感じた。
その正体はすぐに知れた。
足場が、ずれていっている。
山そのものが切れていた。
僕はケイニーの立っている足場のほうへと転移する。
反対の山肌は、切られたような断面を残して、というか比ゆではなく、切られた断面を残して、遠くへと流れていった。
その間も、ケイニーの大剣は振るわれ続ける。
僕は転移を繰り返しながら、自分の魔力が残り4分の1を切るのを自覚する。
……じり貧か。
他の攻撃手段を考えないと。
とりあえず、魔力残量に関しては……接続。
僕は、予めリーガルさんの魔脈につなげておいた異空間へ、ゲートを開き、体に連結する。
すると、傍に出現した黒い穴から、魔脈の魔力があふれ出す。
大きな魔力に浸ることで、魔力の自然回復量というものは増大する。
僕の場合、元々魔力が少ないのもあって、魔脈の魔力に浸れば1秒で1割ほど魔力が回復する。
みるみるうちに、僕の魔力残量は最大量まで回復していく。
その様子をケイニーは察したのかもしれない。
次の瞬間、ケイニーの周囲には本人を覆い隠して余りある数の大剣が出現した。
「やばッ!」
数百本はあろうかというそれらが、全方位に向けて縦横無尽に振るわれる。
わずかな時間で安全地帯なんて割り出せるはずもない。
僕は自分の異空間へと避難した。
すぐに空間投影を発動させ、ケイニーとその周辺の様子を映し出す。
それを見て、僕は言葉を失う。
ケイニーの立っている場所が山の頂きになっていた。
『《神の視点》』
ケイニーがモニターで僕の姿を探す。
『逃げたか? ……いや』
ケイニーは唐突に走り出した。
その方面には、空間投影で使用している魔力の通り道、すなわち、僕のゲートがある。
――針の穴程度なのに見つかるの!?
僕はケイニーの近くに転移する。
ケイニーはモニターを使って僕の【存在希薄】を無効化したのだろう。
数百本の大剣を上空に待機させたまま、僕のほうへと顔を向けた。
その顔は無表情だけど、青い双眸が見開かれている。
「逃げ足だけは褒めてやるよ」
「……褒めているようには見えないけどね」
僕は会話のために、加速時間を6倍にまで落として言う。
ケイニーの身体強化が6倍にあるらしく、これで会話が成立する。
「もう十分に生き延びただろ? 早く俺に殺されろよ」
「まだ、死ぬ予定はないからね、無理な相談だ」
「だったら、早く負けを認めろよ。もうあんたに勝機はねぇんだからよ」
「……それはどうかな?」
再び始まる、斬撃の嵐。
僕は異空間に避難し、斬撃がやんだところで山肌に戻り、斬撃が再開したら異空間に避難し、やんだら戻り、を繰り返す。
その間、僕は打開策を考えていたけど、妙案が浮かばない。
避難を8回ほど繰り返したあたりだろうか。
「おい、ふざけんな」
とうとうケイニーが痺れを切らした。




