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44話 4使いニィナリア・アッシュロード vs Sランク冒険者アレックス(3)



 ****




 ――――キキキキキンッ!

 

 波状攻撃を仕掛けていたニィナリアだったが、アレックスに押し返されてしまい、たまらずその場を離脱した。


「……どうしたの? 追ってこないの?」

「この勝負、引き分けにしませんか?」

「え?」


 ニィナリアは不審そうに柳眉を歪める。


「私には、あなたのほうが優勢に見えるけれど?」

「かもしれません。ですが、僕の勘は、勝負がつかないと言ってるんですよ」


 事実、ニィナリアはアレックスの守りを崩せず、アレックスはニィナリアの足に追いつけず、持久戦の様相を呈し始めていた。


「つまりこれって、実力は大して変わらないってことなんですよね。それなら、引き分けでいいんじゃないかと思うんですが、どうですか?」


 本音には、やはり女の子とは戦いたくないというのもある。

 それに、アレックスは戦闘狂いではない。

 ニィナリアの実力を確かめられたので、決着をつける必要はないとも考えていた。


「……そうね。そうしましょう」


 ニィナリアは構えを解き、アレックスに向かって歩いていく。

 その顔は無表情に近く、特に何を思うでもないらしい。


 アレックスも構えを解いており、2人は握手を交わした。

 両者とも、汗によって髪が顔に張り付いているが、ニィナリアにいたっては息が弾んでいる。


「さすがね。息一つ乱していないなんて」

「白兵戦なら、僕が勝つかもしれません。でも、きみには魔法がある。……そもそも、魔法を使わないで僕とまともに戦えることが、おかしいんですよ」


 アレックスは苦笑して――。


 直後、表情を一変させると、槍を構えて突き出した。


 ニィナリアも、フランベルジュで応戦する。


 ――キンッ!


「……どういうこと? あなた、いったい……?」

「どうしてこのタイミングなんですかね……?」


 2人は、それぞれ別の相手と対峙していた。


「ウズウズして手が出ちまった。俺はケイニーっつうもんだ。聞きたいことがあるんだが……まあ、やり合いながら話そうぜ?」

「ケイニー先輩が出て行ったから、自分も合わせたっす。ケイニー先輩の話が終わるまで、手合わせ願うっす」





 ****




「おいおい……どっちもバケモンかよ。あの嬢ちゃん、どうしてあんな速く動けんだ? そしてアレックスはなんであれに対応できてんだ?」 


 僕の隣で、グレッグさんが呆れ気味に言った。


 僕も似たような気持ちだ。

 ニィは、まあ、あのくらい動けても不思議じゃない。

 すごいのはアレックスさんだ。明らかに速さが違うのに、読みと技術で追いついている。


 現在、ニィがアレックスさんに波状攻撃を仕掛けている。

 グレッグさんは身体強化の魔法を使い、2人の攻防が見えているらしい。

 僕も《加速空間》で自分の時間を5倍に速めて観戦している。ただしこの状態だと、周囲の音がゆっくりと間延びして聞こえるので、グレッグさんと会話をするときはいちいち魔法を解かないといけない。


 そういうわけで《加速空間》を解いたり掛け直したりしながら観戦していると、2人の勝負は決着したようだった。

 距離が離れているから会話は聞こえないけど、雰囲気からして引き分けになったんじゃないかな?


 そうして一段落したときだった。

 視界の両端から、2つの影が飛び出した。


 2つの影は、尋常じゃない速度でニィとアレックスさんの背後に迫る。


 キンッ!


 金属同士のぶつかる音が、辺りに響き渡った。


「……え? 子ども?」

 

 ニィとアレックスさんに襲い掛かったのは、テノンと同年代くらいの少年だった。

 ただ、普通の少年ではない。

 青系統の髪色もそうだけど、2人の少年が手に持つ武器が、異様だ。

 ニィに対峙する少年は、身長の倍はある大剣を振り回している。木の枝か何かのように、軽々と。

 アレックスさんに相対する少年は、身長の3倍はありそうな槍を突き出している。その速度はあまりに速すぎて、矛先が視認できない。


「あれは……ケイニーとヤックじゃねえか」

「え? 知り合いですか?」

「知り合いも何も、魔脈の名前を忘れたのか? リーガルの魔脈、ケイニーの魔脈、ヤックの魔脈。これで分かるだろ?」

「……へ? 神様?」


 まさか、リーガルがいなくなったことがばれて、僕を襲いにきた?


「あの2人は、たまに現れて、勝負を仕掛けてくるんだ。そのたびに俺とアレックスで相手してるんだが、さすがに剣の神と槍の神だけあって、向こうが満足するまで勝負はつかねえな」

「……じゃあ、今回も、ただ単に勝負をしにきただけ……?」

「お嬢ちゃんっていう新しい相手を見つけて、早速やってきたんじゃねえか?」


 それなら……いい。

 殺しにきたんじゃなければ、放っておけばいい。


 僕は冷や汗をこっそりと拭いながら、ニィたちの戦いを見守ることにしたのだった。



量が少ないのはお許しを……。

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