35話 佐々倉啓の報告
「あれ? そういう報告になったの?」
僕はフマから、フマがギルド長に行った報告内容を聞くや、思わず尋ね返した。
なお、ベッドの上で僕の膝の上に頭を乗せているニィには、リーガルの件を既に伝えてある。
僕とフマの会話にもついてこれるだろう。
「僕の記憶が確かなら、魔脈にリーガルがいな」
「わあーっ! わあーっ! ストップさっ!」
フマが風を操り、僕の顔に当ててきた。
魔法ではないため威力は弱い。
僕は突然の風に驚いて目を瞬く。
「よく考えてみるさ! 今ここでっ……とにかく、異空間さ!」
僕は言われた通り、ゲートを開く。
フマが飛び込み、僕はニィとベッドごと中に転送する。
その際はきちんと魔法を使った。
実体化は便利だけど、くせになったら人前でうっかり使ってしまうかもしれないからね。
僕の異空間は真っ暗なため、フマが魔法で火球を出す。
僕はゲートを閉じて、フマに説明を求めた。
事前の打ち合わせでは、リーガルが魔脈にいないことはギルド長に報告するということだった。
魔脈の管理者がいないことを報告しないと、何か問題が起こったときにギルドの対応が遅れるからだ。
でも、フマはそれすらも報告しなかった。
その理由を、フマはこう語った。
「報告する必要がなくなったさ。
多分だが、近いうちに、ケイのもとにスイシアが接触してくるさ。そこでケイがうまく頼み込んで、スイシアにリーガルの件を解決してもらうさ」
「……それ、うまくいくのかな?」
シア様とは夢の中で再会しそうな気はするけど、シア様が全部解決できるかどうかは不明だ。
「ケイがうまくやるさ」
「……やるだけやるけど、もし解決できなかったら、そのときはリーガルがいないことは報告してね?」
「もちろんさ。だが、そのときまでは、リーガルの不在は隠しておくさ。他の神に不審を持たれかねないからな」
まあ、隠しておけるなら、それに越したことはないんだろうけど。
「ああ、それと、今夜、ティファがここに来るさ」
「ん? ティファ?」
「ギルド長さ」
「……え? なんでギルド長が来るの?」
「魔脈の真相を聞くためさ」
「……いやいや、話していいの? 駄目でしょ?」
「ギルド長としてではなく、一個人として聞きたいらしいさ。ティファが口外しないことは、オレが友人として保障するさ」
「……それなら、いい……のかな?」
これまで秘密厳守にしていたから、誰かに漏らすことに不安が残る。
まあ、特に問題はなさそうだけど。
僕らは話を終えると、異空間から宿の部屋へと戻る。
時間は午後4時ごろ。
ニィ本人はもう大丈夫だと言っていたけど、僕はニィに安静にしてもらいたかったので、冒険者ギルドに魔物を売りに行くのは明日に回して、今日はゆっくり過ごすことを提案する。
ニィは渋るどころか、二つ返事。僕の膝枕の時間が延びるのが嬉しいらしい。もしかしたら、生き死にの戦闘があったから、その反動で甘えたいのかもしれない。……いや、その感覚は僕だけのものかもしれないけどね。
フマは、僕とニィの様子をしばらく眺めていたけど、ぽつりと「なんか……」と呟いて、僕の頭の上に乗ってきた。
え、からかわれてる? なんて思ったけれど、フマは何も言わないので、僕はよく分からないまま放置した。
そうして、時間がゆったりと過ぎていく。
「……来たみたいだよ」
午後8時ごろ。
闇夜の中、宿へと近づいてくる魔力反応がある。
人間とは比べ物にならない魔力量は、エルフのもの。
この感覚は、ギルド長だろう。
フマがロビーまで迎えに行く。
僕はベッドのへりに座っており、その隣にはニィがくっついている。
でも、ギルド長が来るから、ニィは僕の隣から離れる……かと思ったんだけど、そんなことはなく、僕が立ち上がっても、僕の隣で密着していた。
恥ずかしいけど、注意するようなことでもないので、そのままにしておく。
ドアが開く。
高身長のスレンダーな女性が入ってきた。
二重まぶたがちょっとミステリアス。
まじまじと見入ってしまったけど、ニィに腰をつつかれて我に返る。
「あら? ニィナちゃん1人? てっきりケイに会えると思っていたのだけど」
「ケイなら、ニィナの隣にいるさ」
後から入ってきたフマが、ニィの左隣を見る。あの、僕、右隣なんですけど。
「へぇ、すごいわね。本当に見えないわ」
彼女が、ニィの左隣を興味深そうに凝視し、それから腕を伸ばす。
「す、すごいわ! 触れないわよ!」
「いや、いないってことだと思うさ」
興奮気味の彼女に、フマが冷静につっこみを入れる。
ニィが、どうするの? と僕を見上げる。
このまま放置しても面白いとは思うけど、それは趣味が悪いだろうから、僕は2人に触れた。
「あの、僕はここです」
「うひゃぁ!?」
彼女は例に漏れず、悲鳴を上げた。
「驚かせてしまいすみません。僕の能力なんですけど、解除できないので」
「……いえ、それは聞いてるわ」
彼女は、悲鳴を上げたことを恥じているのか、頬を赤くしている。
ちょっと可愛い人だと思う。あ、ちょっと、脇をつねらないでっ、ニィっ。
「ケーィ、ちゃんと挨拶しなきゃ。ね?」
「うううん。そそそうだね」
ニィがにっこりと微笑んでいた。
僕は初めてニィが怖いと思った。
「ごほん。僕は、ケイ・ササクラです。はじめまして」
「はじめまして、ティファニーよ。ティファって呼んでちょうだい。それと、言葉遣いも普段どおりでいいわよ」
僕とティファさんは握手を交わす。
「ありがとうございます。でも、目上の人には、こっちのほうが楽なんですよ」
「あら、そうなの? ……もしかして、貴族かしら? 苗字持ちだし」
ティファさんは手を離さない。そういうものだろうかと、僕は握り返しておく。
「いえ、僕は……一般庶民? えーっと、なんでしょうね? 向こうの世界でどんな暮らしをしていたのか記憶がないですし、転生してからこっち、冒険者っぽいことはしてますけど、身分はどうなるんでしょう?」
「……え?」
ティファさんが困惑顔で首を傾げる。
僕の言葉の意味が理解できていないのかもしれない。
「あれ? フマから僕の話を聞いていたんじゃないんですか?」
「えっと、なんのことかしら?」
「あー、ケイが転生していることはまだ伝えていないさ」
ティファさんの横から、フマが答えた。
フマはそのまま続ける。
「どのみち全て話すんだから、さっさと異空間に行くさ」
「まあ、そうだね」
「異空間?」
ティファさんがすっかり取り残されているけど、すぐに分かるだろうから、僕は説明をせずに魔法を使う。
魔力をドアの形にして、唱える。
「《接続》」
予め作っておいた密談用の異空間に、僕はゲートを接続した。
僕らの目の前に、真っ黒のゲートが出現する。
魔法の気配を察して身構えていたティファさんが、ゲートをじぃっと睨みつける。
「これは……固有魔法? いったいどういう魔法なの?」
「中に入るさ」
フマが答え、先導するようにゲートの中へ飛び込んでいく。
数秒して、中から光が漏れてきた。
「まあ、とりあえず入りましょうか」
僕はティファさんを促し、ニィを引き連れて入っていく。
その後ろを不安そうについてきたティファさんが、ゲートを潜るのを確認して、僕は《接続》を解く。
ティファさんは、きょろきょろと異空間の中を見回している。
僕は説明をする。
「ここは、僕が作り出した異空間です。さっきの魔法は、この異空間に繋がるゲートを作り出す魔法です」
「……この異空間も、あなたが?」
「はい。僕が作りましたけど……」
ティファさんが釈然としない表情を浮かべている。
何に引っかかっているんだろう?
「この魔法って、結構魔力を使うんじゃない?」
「……ああ、なるほど」
ティファさんは、僕の魔力量を正確に把握しているんだろう。
異空間を作るのはそこそこ魔力を消費しそうだから、僕が作ったということに疑問を抱いたんだろうね。
「僕の魔法のアプトが、高レベルなんですよ。だから、少ない魔力でも魔法を発動できるんです」
「……レベル4かしら。只者じゃないと思っていたけど、納得ね」
ティファさんはすっきりとした表情で頷く。
僕はフマに視線を送る。どうするか? と。
フマは首を左右に振った。やめておけ、というところだろう。
まあ、わざわざExだと教える必要もないよね。
「えーっと、どういう話でしたっけ?」
「ケイが転生していることを話すさ」
僕がティファさんに聞き、それをフマが答えた。
「ああ、僕の身分の話だっけ? えっと、ティファさん、僕は転生をしてるんです」
「……テンセイ?」
イントネーションが合っていない。まあ、いきなり言われても結びつかないよね。
「違う世界で一度死んで、こっちの世界で生き返ったんです」
「…………」
ティファさんが嘘つき少年でも見るような顔をする。
僕は信じてもらえないことに疑問を抱き、むしろこれが普通の反応なのだと気付き、どうしてすぐに信じてもらえると思い込んでいたのかを考え、フマとニィがそうだったからだと思い出す。
2人はどうしてすぐに信じたんだっけ?
……僕が尋常じゃない能力を持っていたからだっけ?
うん、そんな気がする。
じゃあ、ティファさんに僕の能力を見せればいいのかな?
ギルドカードでも見せようか?
僕はちらりとフマを見る。
Exを伝える? という視線だったのだけど、フマはそれを、任せた、という意味で捉えたらしく、フォローを始めた。
「ケイは嘘をついていないさ。それはティファも分かっているんじゃないか?」
「……まあ、そうなんだけど」
「信じられないのは理解できるさ。だがそのうちそう思うのがありすぎて、そう思うのが馬鹿らしくなってくるさ」
ん? あれ? なんかけなされてる?
「ケーィ。私はいつでも信じてるわ」
ニィが柔らかく微笑んでくれる。
僕はそれに癒されて、ニィのふわふわな赤髪を撫でた。
「そこ、別世界に入らないさ」
フマが咎めてくる。
僕は話を思い出して、引き継ぐ。
「そういうわけですので、僕の身分はよく分かりません。まあ、貴族でも王族でもないので、消去法で、庶民だとは思いますけど」
「違う世界って、どういう世界だったの?」
「それは、覚えていません。転生のときに、記憶を消されているので」
「それは、どうして?」
「向こうの世界の文明が、こっちの世界に流入しないようにするためらしいです」
「……じゃあ、本当に、何も覚えていないの?」
「両親の名前も、思い出せません」
「…………」
ティファさんは、少しだけ悲しむような表情を見せた。
でもそれも一瞬だけで、すぐに気を取り直す
「ケイの服は、向こうの世界のものなのね? 変わった素材ね。初めて見るわ。触ってみてもいいかしら?」
「いいですよ。どうぞ」
僕は腕を差し出し、ティファさんが触感を確かめるように袖に触れる。
そこにフマとニィも群がる。いや、触ったことあるでしょ、2人。
「不思議な手触りね。でも、気持ち良いわ。どんな魔物の素材なのかしら」
なんとなく、そういうもんじゃないと思うけど、はっきりしたことは分からないので黙っておいた。
ひととおり堪能した3人が僕から離れると、ティファさんが本題に入る。
「さてと、それじゃあそろそろ、真相を聞かせてもらってもいいかしら?」
ティファさんがフマではなく、僕を見て言うので、その流れで僕が説明することになった。
「えっと、じゃあ初めから説明しますね?」
僕はまず、魔脈の峡谷でリーガルと遭遇したことと、リーガルが僕のことを転生者ではなく創造された生命と勘違いし、シア様の手駒だと言って襲ってきたことを話した。
「その、リーガルの主張した説なんだけど、私としては、暴論とも思えないわ。普通は、異世界の存在なんて信じられないもの。
もちろん、ケイのことを疑うわけじゃないわ。よければ、ケイがスイシアを信じる理由を聞かせてもらってもいいかしら?」
「僕は、シア様がそういうことをするとは思えないんですよ。要するに、シア様を信じてるってことですね。僕は、フマやニィと同じくらい、シア様を信じられますから」
僕が言い切ると、ティファさんは納得したようだった。
「そう。分かったわ。えっと、続きをお願いできる?」
「はい。その後、リーガルに襲われて……、僕は転移して逃げようとしたんですけど、間に合わなくて、ニィが1人で応戦して、その隙に僕とフマが転移したんです……。あれは、あんなのは、もう二度とごめんですね」
僕はニィを非難するように見つめる。
ニィは毅然と見つめ返す。
「あれは、ああするしかなかったわ。じゃないと、3人とも死んでいたもの」
「それはっ……、でも……」
ニィは、ふっと、表情を和らげる。
「ケーィは、私より強いんでしょう? なら……、次は、そうなる前に、守って。私はその後ろから、ケーィを支えるから」
「ニィ……」
僕らが熱く見詰め合っていると、ティファさんが気まずそうに口を挟む。
「ちょっといい? 転移って、他の人も一緒にできるの?」
「ああ、それはですね、厳密に言うと転送です。まあ、僕の固有魔法なんでそこら辺の定義は一般的じゃないかもしれませんけど、僕一人だけなら《転移》で、僕以外を含めると《転送》ですね」
「そんな魔法が……」
ティファさんは呆然としていたけど、しばらくして落ち着いたのか、僕に先を促した。
「そうですね、僕はニィを助けようと思って、リーガルに対抗できる手段を考えました。リーガルは、魔力を直接」
「ケイ、ちょっと待つさ」
僕がリーガルの戦闘方法を話そうとしたところで、フマが止めた。
「ん? どうしたの?」
「確かにこの空間だと、神からの覗き見はないさ。だが、それはリーガルの異常を知られないためであって、神の秘密を喋っていいことにはならないさ」
「……あー、そうだね。うん、危ない所だった」
リーガルを封印したことや、リーガルが不在であることは、いずれは解決するたぐいの問題だ。
それを知った所で、ティファさんはそれが解決するまで黙っていればいいだけのことだし、仮にティファさんが口を滑らせたとしても、リーガルを封印したメンバーではないティファさんは、神から狙われることもないだろう。
だけど、神の秘密となれば話は別だ。
知ってしまえば最後、墓場まで持っていかなければならない情報だし、もしも漏れてしまえば、神から命を狙われる。
「すみません、ティファさん。神に命を狙われうる情報なので、リーガルの戦闘手段は話せません」
僕が謝ると、ティファさんは気にしないとばかりに首を振る。
「むしろ、私のことを思ってのことなんだから、感謝するわ。教えられるところだけでいいから、続きを聞かせてちょうだい?」
「分かりました。僕はニィを助けるために、リーガルと戦えるよう、フマから必要な情報を教えてもらって、僕は新しい空間魔法と、実体化を習得しました」
「…………?」
ティファさんが固まる。
「……ごめんなさい、もう一度言ってもらえるかしら?」
「はい。僕は新しい空間魔法と、実体化を習得しました」
「……ちょっと待ってね」
ティファさんは頭を押さえると、そのままの状態でフマに尋ねる。
「ねえ、フマ。新しい魔法の開発って、短時間でできるものだったかしら?」
「まさか。普通は、イメージを固めるのに数週間を費やし、理論を構築するのにさらに数週間を費やして、それを魔法にするのにさらに数週間、最後にそれを実戦レベルにするのに数ヶ月かかるさ」
「そうよね。私の記憶違いじゃないわよね」
「ああ、そうさ。ティファの常識は間違っていないさ」
僕はフマに、お前は異常だと断言されているようで、面白くない。
「別に、アプトのレベルが高いんだから、普通じゃなくても変じゃないでしょ」
「一般に言うレベルの高さを、ケイの場合は何段階も越えているんさ」
「そんなに?」
「ケイはもっと常識を知るべきさ。そうだよな、ティファ?」
話を向けられたティファさんは、神妙に頷く。
「ええ。もしもケイの今の言葉を他の魔法使いが聞いたなら、ケイは彼らに殺意を向けられるでしょうね」
え? まじですか?
「ケイは、常識の中での強さを、知るべきだと思うさ。そうしないと、自分がどれほど常識外れの異常なのか、分からないと思うさ」
「それは良い案ね。高ランクの冒険者と組ませるのはどうかしら?」
「いいと思うさ。他の冒険者の戦い方を見て、学ぶものもたくさんあると思うさ」
「じゃあ、私のほうで話を進めておくわね。参加するのはケイ1人だけ?」
「いや、オレとニィナも参加するさ。オレは魔法使いとして、ニィナは剣士として戦闘に加わるさ。ケイは、そうだな、異空間を使えばいくらでも収納できるから、荷物持ちとして参加させるのがいいと思うさ」
フマとティファさんが勝手に話を進めていく。
あれ? そういう話だっけ?
まあ、高ランク冒険者と組むのは、それはそれで興味深いことなので、僕は2人を止めることはせず見守っていた。
結局、明後日以降に、他のパーティと組んで依頼を受けることになった。
「ごめんなさい、ついつい話が弾んじゃって。続きをお願い」
「いえ、いいんですよ。えっと、どこまで話しましたっけ?」
「ケイが新しい魔法を習得して……ちょっと待って、実体化も習得したって言った?」
「え? はい。確かに言ったと思います」
「待って、落ち着いて、落ち着くのよ私。ねえちょっとフマ! これはどういうこと!?」
あんまり落ち着けていないティファさんが、フマに説明を求める。
「どういうこともないさ。ケイの言ったことが全てさ」
「いえ、ありえないわよ! 実体化って、妖精の特権でしょ? なんで人間が習得してるのよっ?」
妖精の特権というより、魔力体生命の特権という感じだろうけどね。
神は普通に使えるみたいだったし。
「知らないさ、そんなこと。聞くならケイに聞くさ」
「ケイ! どういうことっ?」
「いや、僕に聞かれても……」
多分、【空間魔法:Ex】か【魔力操作:Ex】のせいだと思うんだけど。
「魔力操作のレベル次第では、できるようになるんじゃないですか?」
「なるわけないじゃない!」
「あ、そうなんですか……」
「もう、これは、いよいよ常識を教えるべきだわ!」
いや、実体化を習得したことと常識は関係ないと思いますけど。
「ティファ、落ち着くさ」
フマがティファさんをなだめること数分、ようやく続きを話せるようになる。
「ご、ごめんなさい。私ったら、ついつい取り乱してしまったわ」
「いえいえ、いいんですよ。それで続きですが、それから僕はニィを助けに戻って、リーガルを……その過程の戦闘はすっ飛ばして結果だけ言うと、リーガルを僕の異空間に閉じ込めました」
「……フマっ!?」
「ケイ!」
「なんで僕!?」
それからフマは、ヤケを起こしたように取り乱すティファさんを頑張ってなだめていた。
僕はお疲れ様と思いながら、ニィの赤髪を撫でてその様を眺めていたのだった。
その後、ティファさんは、「ケイに常識を叩き込んでやる!」と燃えていた。
多分リーガルを封印したことと常識は関係ないし、一種の八つ当たりだと思ったけど、それは言わないでおいた。
ティファさんが帰るとき、フマが「オレは仲間さ。いつでも分かち合うさ」とか言って慰めていたけど、その意味するところは知らない。何か通じるものがあったんだろうね。
ティファさんを送ってきたフマが、僕を見て、溜め息をついていた。
よく分からないけど、お疲れのようだったので、僕はフマを呼び寄せて肩でも揉んであげた。
とはいえ、フマの肩は手の平サイズで小さすぎるため、凝っているところを的確に揉むことができず、効果があったのかは疑問だ。
ただ、フマが文句を言わずにされるがままになっていたので、無駄ではなかったと思っておこう。
風呂をしようという段になって、僕は今夜もニィと別々に入ろうとする。
ニィからは一緒に入ろうという熱烈なアプローチを受けるも、僕は順序を追って進みたかったので、ニィが悲しそうな顔をしても、頑として譲らなかった。
代わりに、寝るときに思いっきり愛でることを要求される。
愛でるとはいっても、要するに撫でるかキスするかぐらいなのだけど、やり過ぎると、僕の我慢が持つかどうか……。
とはいえ、やぶさかではなかったので了承し、結局、僕はニィが安心したように寝息を立てるまで耐え切った。
フマを視界に置いていたのが良かったのだろう。
フマもいつの間にか眠っていた。
考えてみれば、魔力体である妖精が眠るというのもおかしな話だと思う。
もしかしたら、生き物はみな眠るものなのかもしれないね。
そんなことを考えていると、まぶたがだんだんと重くなっていった。
僕はまぶたを閉じ、リーガルの件について、シア様に聞かなければならないことを整理する。
そのうち僕は、シア様と再会するべく、眠りの世界へと落ちていった。
おそらく次回、2章が終わります。




