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34話 フマの報告(2)

2014/10/24 タイトルを変更しました。



 ****



 フマが妖精女王フユセリへの報告を終えて30分後。


 冒険者ギルド、ギルド長室。

 そこでは、ティファニーとフマがソファーに座り、テーブルを挟んで向かい合っていた。


 身長30センチ前後のフマがソファーに座る様は、赤ちゃんがダブルベッドで寝るくらいに違和感があり、また、愛嬌がある。

 ティファニーは毎回それを思うのだが、フマの用件が依頼ランクA以上に相当する魔脈調査の報告とあっては、気を緩めてもいられない。

 ティファニーは頬が緩まないよう、心持ち真剣な表情を装った。


「それで、調査のほうはどうだった? ……もしかして、失敗した?」


 フマはギルド長室に入ってからずっと、己の過失を責めるようなしかめ面をしている。

 まさか、重傷人が出たのだろうかと、ティファニーは心配する。


「いや、依頼は成功したさ。メンバーも無事さ。唯一、ニィナが魔力に当てられて体調を崩しているが、数時間で治る軽症だから、心配は要らないさ」

「あら? そうなの? それは幸いだけど……」


 ティファニーはフマの返答に、肩透かしを食らう。

 無事に調査が終わったのなら、どうしてフマはしかめ面をしているのか?

 ティファニーは、調査結果に問題があるのではないかと推測する。

 例えば、魔脈の異常が、解決困難であるというような。


 フマは報告を続ける。

 

「それで調査結果だが、リーガルの魔脈周辺の魔物が弱体化していたのは、やはり魔脈の魔力が弱まっているからだったさ。

 どうして魔脈の魔力が弱まっていたかというと、管理者であるリーガルが、そこら辺の調整を誤っていたからさ」

「リーガルって、あの魔脈を管理している神よね? よく会えたわね」

「峡谷まで潜ったら、向こうから出てきたさ」


 ティファニーは、「峡谷」という単語に内心驚いた。

 そんなところまで潜っていたのかと。


 魔脈の峡谷といえば、魔脈の魔力の噴出口であり、魔力濃度の一番濃い場所である。

 魔力に順応している者でさえ、そこで平気な者は存在しない。

 それこそ、規格外の魔王ぐらいのもの、と言いたいところだが、ニィナリアが平気だったのは、慣れていたからだ。

 魔王城の地下に存在する魔脈に、ニィナリアは幼い頃から鍛錬のために入り浸っていた。

 もしもその経験がなかったならば、ニィナリアの魔力量をもってしても、峡谷の底知れない魔力に精神の消耗を余儀なくされていただろう。

 経験という意味では、フマも魔脈には何度か入ったことはあったが、フマの魔力量では峡谷に長居はできない。

 ましてや「優秀なエルフ」程度のティファニーでは、峡谷に辿り着くことすら叶わない。

 ニィナリアが魔力に当てられたというのも頷けると、ティファニーは思った。むしろ、フマと佐々倉啓が無事であったのが驚きだ、とも。

  

 そして、フマの話によれば、峡谷に行かなければ神には会えず、原因を突き止められなかったとのこと。

 峡谷まで辿り着ける冒険者は、冒険者の町カリオストロにしても片手で数えられるほどしかなく、今回の依頼をフマたちに頼んで正解であったとティファニーは実感したのだった。


「苦労をかけたわね」

「いや、……そんなことはないさ」


 フマの微妙な間に、ティファニーはちらりと視線を向ける。


 フマが何を思ったのか。それはもちろん、リーガルとの戦闘だが、それをここで口にするわけにはいかなかった。

 ギルドに報告できないから、というのもあるが、なにより、いつどこで他の神に見られているか分からないからだ。

 神たちとの全面戦争だけは、絶対に避けなければならない。


 フマはリーガルのようなしかめ面を維持し、話を続ける。


「リーガルと話し合った結果、ま、色々あったんだが、どうにか、魔脈の魔力を正常にする約束を取り付けたさ」


 これはもちろん嘘である。

 管理者不在により、魔脈が今後どうなるか分かったものではない。

 しかし、これについては妖精女王フユセリのほうから、スイシアが解決するのではと聞かされていた。

 よってフマは、いずれ真実となるであろう嘘をついたのである。


「それじゃあ、放っておけば正常化するのね?」

「そうさ。具体的な日数は分からないが、数週間で元に戻るんじゃないさ?」


 数週間。なんとも幅の広い言い回しである。

 とはいえ、フマたちにとっては割と現実的な時間でもある。

 もしも数週間のうちにリーガルの魔脈が元通りになっていなかったとしたら。

 それはすなわち、リーガルの件がスイシアとロニーによって解決できなかったことを意味する。

 そのときには、佐々倉啓の命があるかどうかは、それこそ神のみぞ知るところだ。

 フマとしては、佐々倉啓を、命の続く限り補佐する所存である。

 つまり、数週間でリーガルの魔脈が元通りにならなければ、佐々倉啓の命ともに、フマの生存も疑問視されるというわけだ。

 なんとしても、それこそ妖精女王の力を借りてでも、リーガルの件は早急に解決しなければならないのだった。


「ちなみに、リーガルとの交渉内容は、教えてはもらえないのかしら?」

「それは無理さ。ちょっと事情があってな」

「そう。なら仕方ないわね」


 本音をいえば、ギルドとしては把握しておきたい所ではある。

 しかしその交渉には神が関わっている。無理に聞き出そうとすれば、当事者である神の逆鱗に触れないとも限らない。

 以前、神の怒りを買ったために、町一つが滅ぼされたという記録が残っている以上、ティファニーとしても消極的にならざるをえなかった。


「報告結果としては、この上ないほどの大成功、とみていいのかしら?」


 ティファニーの念押しに、フマがしかめ面のまま頷いた。

 ティファニーは言う。


「そう。()()()()()()()そう処理しておくわ」

「……助かるさ」


 ティファニーは途中から気付いていた。フマのしかめ面のわけを。


 フマは、もっともな顔をして、嘘の報告をでっちあげることができなかった。

 なぜなら、もっともな顔をするということは、相手に嘘を信じ込ませようとする行為だからだ。


 しかし今回の報告は、真実を口にするのがいけないのであって、嘘を信じ込ませる必要はどこにもない。

 フマとしては、不必要に友人であるティファニーを騙すのは、友情を裏切ることに他ならなかった。

 だからフマは、自分が嘘の報告をしていることを隠さないためにも、しかめ面をしていたのである。


「フマの判断を、私は信じているわ。だからこれはただの興味なんだけれど、あなたの友人としてなら、真相を聞けるのかしら?」 

 

 ティファニーとしては、どちらでも良かった。

 もちろん聞けるのなら聞きたかったが、しかし、フマが聞かせられないと判断するのなら、聞くのに相応以上のリスクがともなうということだ。

 それならば、聞かないの越したことはないのである。


「どうしても、というのなら、オレたちの宿に来るといいさ。……ただし、間違いなく聞いたことを後悔するとは思うがな」


 ティファニーを宿に呼ぶのは、佐々倉啓の異空間が必要だからだ。

 真実を語り聞かせるには、異空間をおいて他にない。

 神の目を逃れるには、必要なことだった。


 また、フマの言う「聞いたことを後悔する」とは、佐々倉啓のことである。

 常識ある者は、佐々倉啓の異常性に頭痛がするだろう。

 それは、神を封印したということ、だけではない。

 異世界からの転生者であること。

 また、数々の超越した能力。

 そして、なにより本人がそのことを正しく理解していないこと。

 とはいえ、元々この世界の住人ではない佐々倉啓にそれを正しく理解できるはずもないし、たとえ理解できたとして、自分の異常性に頭を悩ますくらいなら、いっそ理解できないほうが幸せではあった。

 まあ、佐々倉啓が苦しまない分、周りの常識人が頭を抱えるわけだが。 


 その第一人者であるフマの乾いた目が、絶対に後悔するぞと物語っていたため、ティファニーは好奇心と躊躇いとに板ばさみにされる。

 ティファニーは逡巡し、そして……。


「……仕事が一段落してからになるわ。夜でいいかしら?」


 そこはやはり冒険者と称するべきだろうか、リスクを承知で好奇心を取ったのだった。



前話に引き続いて、主人公(佐々倉啓)不在……。

じ、次回はティファニーが宿に来るので、彼も登場するはずっ。

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