29話 魔王ニィナリア・アッシュロード・エスタンテ vs 法則の神リーガル(1)
2014/10/19 脱字を修正しました。
「ニィィイイイイイ!」
僕は力の限り叫ぶと同時、魔力感知に集中する。
洞窟の入り口付近には、僕とフマの魔力はある。
しかし、ニィのそれがない。
なんで! どうして!
僕はいつでも《転送》できるように、2人を魔力で包み込んでいた。
それなのに、ニィは、ニィは!
僕はニィがいるであろう、先ほどの峡谷を魔力感知で探し出す。
途端、洞窟の入り口からニィとリーガルの魔力が吹き出した。
「ニ、ニィッ!?」
「ちょっと落ち着くさケイ! これは魔力の残滓さ。おそらくニィナとリーガルの解放した魔力が洞窟の内部を伝って流れてきたさ。……信じられない話だがな」
「それだけ全力ってことでしょ!? 早く助けに行かないと!」
「だから落ち着くさ。ケイは、あの場に戻って何ができる? 策はあるんさ? 魔法ならさっきのとおり、呪文を唱える時間を与えてくれないさ。戻るんなら、それ以外の手段を持たないと無駄死に、どころじゃないな、ニィの足手まといにしかならないさ」
「……っ」
くそっ、どうすれば!? 僕はどうすればいい!?
「ケイ! いいから、まずは落ち着けっ」
フマが僕の頭に取り付き、ぽかぽかとパンチを連打する。
「いたっ、いたたた!? 痛いって! 分かった! 分かったから!」
見れば、フマは垂れ目を吊り上げていたが、同時に涙をたたえていた。
「ケイはっ……、ケイは、何も分かってないさっ。リーガルの強さも、ニィナの覚悟も、オレの気持ちも、何一つ、分かってないさっ」
フマは涙声で腕を振るう。その拍子に涙が頬を伝い、フマはそれをぬぐった。
僕は初めてみるフマの涙に、言葉を失う。
「リーガルは、神さっ。他の生き物とは、次元が違う存在さっ。
魔力量は、魔王であるニィナと比べても、桁が違う!
魔力操作は、さっきのリーガルの攻撃を見ても分かるとおりに、尋常じゃない錬度さっ。
それに、リーガルは魔力を水に変換していたさ。あれは、オレの実体化と同じもの。魔法じゃない。いいか、あれは魔法じゃないんさ。
魔法は呪文を唱えることで、魔力を水に変えられるが、実体化は、呪文なんて使わないで、魔力を直接水に変えられるんさ。魔法の発動スピードじゃ、実体化には太刀打ちできないんさっ」
「……フマは? フマは実体化できるんだから、対処できるんじゃない?」
「オレが実体化できる物質は、自分の体と、服と、風のみさっ。でも、実体化は魔力量がもろに反映されるから、オレの魔力量じゃ、リーガルの実体化には対処できないさ。
一応、予め魔法を唱えて発動させておけば、対処はできるだろうが、それでもじり貧さ。それに、リーガルが神代魔法を使えば、もう、どうしようもなくなるさ」
「じゃあ……どうすればいい?」
「逃げるさ」
フマは僕を睨みつけた。
その翡翠の瞳には、恐怖の色。
そして、強い意志。
フマの言葉は、怖いから逃げるということではないだろう。
「ニィナは、あの場に残ったさ。それがどういうことか、ケイは分かるさ?」
「それは」
僕が答えようとした瞬間、ニィとリーガルの魔力反応が消えた。
2人が魔力を抑えたんじゃない。本当に、消えたのだ。
「フマ!? これは!?」
「わ、分からないさ! だが……ケイ、ニィナはどうしてあの場に残ったさ!?」
今にもニィのもとに飛び出したい僕の気持ちを押さえるように、フマは言葉を被せてきた。
「それはっ、リーガルの攻撃を食い止めるためでしょ!?」
「ケイを逃がすためさっ!」
フマは緑色のショートヘアーを振り乱し、涙でぐちゃぐちゃになった顔で僕に食いついてくる。
フマの鬼気迫る剣幕に、僕はたじろいだ。
「ニィナはっ、ケイをっ、逃がすためにっ、あの場に残ったさ! なのにっ、なのに! そのケイが戻ったら、ニィナの覚悟は!? ニィナの命は!? ケイはそれをっ、無駄にするつもりなんさ!?」
僕は奥歯をかみ締め、両手を握り締めることしかできない。
フマの言わんとするところは分かる。
僕とニィの立場が逆だったなら、同じことを僕もするだろう。
大切な人を逃がすために、自分を犠牲にする。
だけど、それなのに、逃がした大切な人が、戻ってきてしまったら?
そして、戻ってきてしまったがために、その大切な人が死んでしまったら?
……その理屈は、分かる。
でも、だからといって、今の立場で、僕がニィを見殺しにできるかというと、それは無理だ。
たとえそれが、ニィの覚悟を踏みにじる行為だとしても。
僕は……そういうふうにして助かったら、一生自分を許せなくなる。
もう、罪悪感なしに誰かを好きにはなれないし、なにより、ニィを失った人生なんて、生きたまま死んでいるようなもんだ。
だから僕は、絶対に……絶対に!
「最後に一つ!」
フマはとうとう、涙をぼろぼろとこぼしながら、それでも僕をキッと睨んで言った。
「オレは、ケイにっ、あの中に戻ってほしくないさ……っ」
それからフマは、涙をこれ以上こぼさないように、目をぎゅっとつむって、耐え忍ぶ。
僕はフマを両手で包むと、胸に抱きしめた。
「うぐっ……ぅ……ひぐ……うっ……」
フマの嗚咽が漏れる。
フマは、怖かったのだろう。
あの魔脈の峡谷も。
あのリーガルも。
そして、彼に、ニィが、……僕が、殺されるのも。
僕は一度、目をつむる。
胸中の荒波を鎮め、そうしてそこから、揺るぎない意志だけを抽出し、心に宿す。
「僕は、認めない」
ニィが戦い死ぬのも、フマが悲しみで涙するのも、僕は認めない。
絶対に、仲間を失わずに済む未来を、手に入れてみせる。
僕は、すっと目を見開くと、憎たらしいほどに青い空を見上げ、睨みつける。
とりあえず、駄目元だ。
「ねぇ、シア様。見てるんですよね? 状況、分かってますよね? シア様に敵対する神様に襲われています。単刀直入に言いますが、助けてください」
僕はしばらく待ってみるも、反応はなかった。
そうなるだろうとは思っていた。神様というのは、そう易々と呼ばれてくるようなものじゃない。
ならば、やることは一つだ。
「ねぇ、フマ、知ってた? 僕はね、ニィよりも強くて……神様と同格なんだ」
待っててくれ、ニィ。
すぐに準備を終えて、助けに行くから。
必ず、必ず、迎えに行くから。
僕ははったりをかませてフマを落ち着かせると、僕の推論を裏付けるため、フマから端的に情報を聞き出した。
****
時は、数分ばかりさかのぼる。
魔脈の峡谷で、佐々倉啓たちがリーガルからの逃走を試みる場面。
これから、激戦が演じられる。
役者は、4名。
フマとニィナリアを高圧縮の魔力で包み、《転送》で逃げる準備万端の佐々倉啓。
風属性の極大魔法を唱え終わり、風の砲弾をいつでも斉射できるよう、背後に控えさせているフマ。
炎剣を構え、《身体強化――4》を唱え終わり、マジックアイテムの装備を全て起動させ、魔法戦・白兵戦のどちらにも対応できるニィナリア。
対して、魔脈の主であり、神でもある、リーガル。
両者が、峡谷の狭い足場で対峙し、一触即発の空気を醸し出している中。
佐々倉啓が、開幕の一言を投じた。
「――さようなら」
直後、佐々倉啓が《転送》で逃亡することを察したリーガルは、佐々倉啓を殺すために攻撃に転じる。
リーガルは、2階建ての建物ですら飲み込める大きさの魔力を、音速を超えた速度で前方へと打ち伸ばす。
同時に、それらの魔力を実体化し、水へと変えた。
その鉄砲水は、佐々倉啓が《転送》を半分も唱え終える間もなく佐々倉啓たちを襲う。
しかし、このとき、このコンマ1秒の攻撃に反応できた者がいた。
魔王、ニィナリア・アッシュロード・エスタンテ、その人である。
ニィナリアは、予め《身体強化――4》を唱えていた。
――《身体強化》。
これは、身体能力を○倍にするだけでなく、知覚や思考なども○倍に加速させる。
そして、4。
これは、知覚速度を通常の5倍に――すなわち、コンマ1秒をコンマ5秒に引き伸ばすことを意味している。
コンマ5秒の攻撃であれば、一流の剣士なら容易に反応可能だ。
もちろん、ニィナリアもしかり。
ニィナリアは、リーガルの攻撃を前に佐々倉啓の《転送》が間に合わないことを悟った。
このまま放っておけば、自分たちはやられる、と。
ゆえに、ニィナリアは、佐々倉啓の魔力の脱出カプセルから抜け出し、自ら戦陣へと進み出たのだ。
ニィナリアは、リーガルの魔力が水に変わることを知らなかった。
だが、ニィナリアの行動は最適解を引き当てた。
ニィナリアの取った行動はひどく単純だ。
リーガルに最速で切り込む。
ただ、それだけ。
リーガルまでの距離は、たったの10メートル。
ニィナリアの速力は、《身体強化――4》により通常の5倍。
さらに、ニィナリアのマントに仕込まれた魔法陣により、《身体強化――1》を加算。
さらにその上に、ニィナリアの靴に仕込まれた魔法陣により、速力にのみ適用される《身体強化――4》を加算。
ゆえに、速力だけ見れば、通常の10倍。
結果、ニィナリアは10メートルの距離を、たったの1歩で詰める。
ニィナリアは、鉄砲水の中へと突入。
鉄をも溶かしうる炎熱を炎剣にまとわせ、水を切り裂きながら、突破。
その際、ニィナリアの駆け抜けた範囲で、数1000℃の炎により、水が急激に水蒸気へと気化。
それにより、水蒸気爆発が発生し、鉄砲水は内部から爆散したのだ。
チュドォォオオオオオオオン。
鼓膜を突き破らんばかりの轟音が、峡谷の中を響き渡る。
通常であれば、水蒸気爆発によって佐々倉啓は体をばらばらにして死んでいた。
しかしそれは、フマによって助けられることになる。
フマは、リーガルの攻撃を視認して応戦していた。
フマ自身、こっそりと《身体強化――4》を唱えて思考を加速させていたため、展開していた風属性極大魔法、《極大――風魔砲》を鉄砲水に向けて発射できていた。
しかし、フマの魔法は風。気体である。
切り刻み、あるいは圧迫することには特化しているが、鉄砲水という大質量の固体を相殺できるほどの威力は望むべくもない。
そこにきての、水蒸気爆発である。
鉄砲水は周囲に爆散し、フマたちを襲ったのは、その衝撃波であった。
衝撃波であれば、風との相性は悪くない。
フマの極大魔法は、鉄砲水そのものを防ぐことはできないが、水蒸気爆発の衝撃を防ぐことはできたのだ。
こうして、佐々倉啓とフマは無事にリーガルの面前から撤退できたのだった。
……では。
残された2人はどうなったのか。
ニィナリアは、背後で水蒸気爆発が起きるより早く、リーガルの傍を駆け抜けていた。
その際、炎剣をリーガルの胴へと叩き込み、剣としての能力を遺憾なく発揮させている。
まず、切れ味。
ニィナリアの10倍の速力により、驚異的な速度を有した刃部が、リーガルの胴体を上下に切り離した。
次に、形状。
フランベルジュとしての波打つ刀身が、日本刀のようなきれいな切断面ではなく、不均質で修正困難な切り口を生み出し、《治癒》による完治を難しくさせた。
最後に、炎。
炎剣にまとった数1000℃の熱が、切断面を焼き、炭化させ、魔法による治癒ですら困難極める凶悪な致命傷を作り出した。
ニィナリアは手元に確かな手ごたえを得た。
しかしそれで安心することなく、そのまま50メートルほど駆け抜け、リーガルと距離を取り、油断なくリーガルを見据えた。
直後、水蒸気爆発。
ニィナリアは大量の魔力を炎剣に吸わせ、炎剣を振るい、駄目押しとばかりに灼熱の大炎をリーガルにぶつけ、水蒸気爆発と挟み撃ちにする。
体は、ニィナリアの業火に燃やし尽くされ、炭となり、水蒸気爆発の衝撃で砕け、灰燼と化す。
普通の人間であればそうなっていた。
「《身体強化――5》」
聞こえてきた呪文に、ニィナリアは表情を硬直させる。
リーガルは、生きていた。
それどころか、最上級魔法を唱えたのだ。
ニィナリアの身体強化レベルは、自身の魔法と、マントの魔法陣により、5に引き上げられている。
速力だけはリーガルを凌駕できているが、それ以外の部分、膂力や、思考速度、反応が、リーガルが最上級呪文を唱えたことで、互角に持ち込まれてしまったのだ。
そして一番痛いのは、リーガルを殺せたであろう機を逸したこと。
ニィナリアのアドバンテージは、その思考速度であった。
ゆえに、リーガルの意識の隙間を縫い、致命傷を与えることができたのだ。
にもかかわらず、どうしてリーガルは生きている?
ニィナリアはその回答を目の当たりにしていた。
それを認めたニィナリアは、苦々しげに、柳眉を歪める。
「神は……まさか……」
「その認識は正しい。我々は、『魔力体』だ」
リーガルは、相も変わらぬしかめ面で、業火の中から姿を現す。
しかし、その体が上下に分かれていることはなく、それどころか傷も見当たらない。
また、炎に接しているのに燃えてもいない。
それもそのはず。
リーガルは今、魔力そのものになっているのだから。
魔力体。それは、魔力から生まれ、魔力を本体とする体のことだ。
妖精であるフマの本体も、魔力体である。
魔力体生命は、普段は実体化をしていることが多い。
実体化をしなければ、物体に触ることができないからだ。
しかし魔力体生命が実体化を解き、魔力の体に戻ったとき。
その体は不死に近くなる。
魔力と実体は、互いに干渉しない。
魔力を剣で切ることはできないし、炎で焼くこともできはしない。
つまり魔力の体というものは、一般的な方法では傷をつけることもできないのだ。
魔力体が死ぬのは、その魔力が全て消失したときのみ。
そのため、魔力体生命を殺す方法は、二つ。
一つは、実体化をしているときに、その体を文字通りに木っ端微塵にすること。
失われた実体の分だけ、魔力を消費するので、全身を吹き飛ばしてしまえば、全ての魔力を消費するというわけだ。
もう一つは、魔力体を、それと同等以上の魔力で不意打ちにすること。
魔力に触れられるのは、魔力のみである。
そして、意識外からの不意打ちには、魔力というものは弱く、あっという間に霧散してしまう。
くしくもこれは昨夜、佐々倉啓が風呂で考えていた殺害法であった。
以上のことを踏まえた上で、今回ニィナリアがリーガルに与えたダメージは、前者によるものだ。
実体への攻撃である。
ニィナリアのすれ違いぎわの一刀両断。
それはリーガルの体にダメージを与えていた。
たとえ実体が致命傷を負ったとしても、リーガルが「実体化」を解いてしまえば、傷を負った実体の分、魔力を消費するだけで終わる。
ニィナリアが与えたダメージは、刀傷一本分であった。
しかしリーガルを殺そうと思えば、実体を徹底的に破壊しつくし、粉々にしなければならない。
もしも、ニィナリアの駄目押し――業火の燃焼と水蒸気爆発による挟み撃ちが決まっていれば、リーガルは魔力の大半を失い、瀕死の状態にあっただろう。
だが、そのときには既に、リーガルは実体化を解き、魔力の体に戻っていた。
魔力の体には、炎も、衝撃波も効果はない。
よって、リーガルは今、ほとんど無傷の状態でニィナリアの前に姿を見せていた。
リーガルが魔力体に戻ったことで、リーガルの魔力が完全に解放される。
それにより、ニィナリアとは桁違いの魔力が、峡谷を埋め尽くす。
ニィナリアはそれに飲まれぬよう、自身も持てる魔力を全て解放した。
洞窟中を、リーガルとニィナリアの魔力が駆け巡る。
こうして、佐々倉啓とフマのもとまで2人の魔力が届くことになるのだった。
なお、リーガルの魔力に対抗するには、ニィナリアの魔力は全然足りない。
魔力に順応している体ではあるものの、ニィナリアのこめかみを汗がつたう。
リーガルの魔力は、魔脈から噴き出す魔力よりも濃い。
ニィナリアはなんとか動けはするものの、体力の消耗が著しかった。
そんななか、ニィナリアは逸る気持ちをぐっと抑え込み、リーガルとの会話を続ける。
無闇に飛び出したところで、勝ち目がないのを理解しているがゆえ。
むしろ、弱点がないかを会話から探ろうとする。
「……もしかして……神は、魔脈の魔力から、生まれる?」
「ふむ、察しがいい。よくぞこの一瞬でその答えに達り着いたものだ。
だが、それゆえに、お前は死ぬ。ターゲットではないお前なら生かして帰しても良かったのだが、秘密を知られたのなら話は別だ。恨むなら、己の能力の高さを恨め、魔王よ」
ニィナリアにとってはやぶへびとなったが、どちらにしてもニィナリアに逃亡の意志はなかった。
佐々倉啓を殺そうとするリーガルは、ニィナリアにとって殺さなければならない相手であったから。
今さら自分の死が確定したところで、大した動揺はない。
「私を殺すつもりなら、ただで殺せるとは思わないことね。あなたを道連れにしてあげるわ」
「それほどまでにササクラ・ケイが大切か。
しかし、わたしに一糸報いるには、お前には力が足りないぞ。
確かに、歴代魔王の中でも最強に類するお前なら、そう簡単には死なないだろう。だが、それだけだ。
お前は神の次点レベルに過ぎない。神と同格にはなれないのだ」
「だとしても、魔力の性質そのものは同じはず。
たとえ膨大な魔力量を誇ったとしても、コントロールを失えば、魔力は拡散して失われる。不意打ちにはもろいものよ。せいぜい油断しないことね」
「わたしはお前よりも、魔力を精密に操作できるし、魔力を鮮明に感知できる。慢心があっても、お前に不意打ちは食らわんよ」
リーガルは明らかにニィナリアを侮っているのだが、眉間に皺をよせた状態では、とても隙があるようには見えない。
そのせいもあって、ニィナリアは攻めるタイミングを計りかねていた。
「ふむ、しかし、ここでやりあうのも都合が悪い。横穴で落盤でも起こされれば、それを後で修復するのはわたしなのだ。面倒なことに、魔脈の管理者を名乗っているからな。
そういうわけで、魔王よ。――わたしの世界に招待しようではないか」
刹那、ニィナリアは最速の後ろ飛びで距離を取った。その距離、3歩で300メートル。
しかし、この地下空間は、あますところなくリーガルの魔力で埋め尽くされている。
すわなち、リーガルの魔法から逃れる術はない。
「《空間創造》」
――神代魔法、《空間創造》。
神ならば誰でも使える。
全てが白く、果てしのない世界を作り出す魔法である。
リーガルとニィナリアを包む魔力が高まりを見せ、次の瞬間には発動した。
同時に、2人の姿が魔脈の峡谷から消え失せる。
こうして、佐々倉啓の魔力感知の範囲から、ニィナリアは消失したのだった。




