26話 デート
僕は盗賊の死体の引き渡しを終えて、倉庫からギルドに戻るが、そこにフマとニィの姿はない。
魔力感知で探ると、4階に2人の魔力がある。
話はまだ終わっていないらしい。
僕は掲示板に張り出してある依頼を眺めて、それから本棚にある魔物の情報冊子を読んで、時間を潰す。
40分ほどたっただろうか。
2人が降りてくるのを感じ、僕は冊子を本棚に戻して2人を出迎える。
ニィが【存在希薄】を無視して抱きついてきて、僕はそれを受け止めた後、フマに触れて認識させる。
僕がお金の話を持ち出す前に、フマが話を切り出す。
聞けば、「リーガル」という名前の魔脈に調査にいかないかというもの。
魔脈に異常が起きているので、その原因を突き止めてほしいのだそうだ。
「ケイは、魔脈に行ったことはないだろ? 一度は行ってみるのがいいと思うさ」
「そうだね。興味もあったし、ちょうどいいね」
「それに、魔脈周辺にはB級やA級の魔物があふれているから、討伐して回収すれば金になるさ。今回の依頼はオレたちのランクじゃ受けられないために正式な案件じゃないから、依頼の報酬はないが、魔物の素材を売却すればかなりの金額になるさ」
確かに、A級のフェンリルヴォルフ1体でかなりの金額になった。それが複数あれば、儲かりまくりだろう。
僕は拒む理由もないので、快諾した。
「オレはギルド長に、依頼を受けるって伝えてくるさ」
フマは飛んで階段から上に消えていく。
待っている間、周りの冒険者がちらちらとニィを見ていたけど、先ほど絡んできた冒険者を威圧した効果か、誰も話しかけてはこなかった。
「さっき絡んできた冒険者のことで、ギルド長には何か言われなかった? 町中で魔力を開放するな、とか」
「ううん、全く。ギルド長はフーマの知り合いだったから、あれくらい当然って思ってるんじゃないかな」
「知り合い……もしかして、妖精? 人間より魔力量が多いみたいだけど」
僕は2人が会っていた人物の魔力量を思い出す。
護衛の対象だった魔脈のスライムと同等くらいはありそうだ。
「妖精じゃないわ。あれは、エルフよ」
「エルフ?」
え? いるの、エルフ。
「エルフって、耳がとんがってる、あの?」
「?」
ニィはきょとんと首を傾げる。
「耳は尖ってないよ?」
「え?」
あれ? もしかして僕のイメージとは違う?
まあ、魔王にしたって、世界を侵略する倒すべき存在ではなく、ただの魔国の王様だったんだし、イメージと異なっていることもありうるだろう。
「エルフは、私たちみたいに魔力に順応した人間よ。だから魔力量が多いの。
私たちと違う点は、順応した魔力の種類。
私たちは魔脈の魔力に順応するけど、エルフは、森にあふれる魔力に順応するの。
魔脈のほうが魔力の密度が高いから、その分私たちのほうが魔力量は多いわ」
ニィは周りに遠慮して、「魔人」という言葉を使用せずに説明してくれる。
魔力量で考えれば、エルフは、魔人と人間の中間に位置するんだろう。
外見的にはおそらく人間と大差ないに違いない。魔人がそうだったから。
それからいくらか話をしていると、フマが戻ってくる。
合流してから、僕は2人に盗賊の死体の引渡しによる収入を教え、3等分することを提案し、受付で2人のギルドカードに7万7000グリーシアを振り込んだ。
僕らは宿を探す。
風呂のある高い宿か、風呂はないけど料理のおいしい宿にするかで迷った。
するとニィが、自分が風呂を作れるから2番目の宿でいいと言った。《水》で水を出し、炎魔法で沸かすのだそうだ。
「……いいけど、それなら2部屋取って、僕が入っているときはニィは違う部屋に行っててね?」
「……私も、一緒に」
「それは駄目です」
「……でも、2部屋取るのはもったいないわ」
「だったら、ニィの風呂の案は却下ね」
「……むぅ」
ニィは難しい顔をして悩んでいたけど、風呂を作りたかったのだろう、2部屋取ることに決定した。
フマに宿を案内してもらい、とりあえず3泊分を取る。
現金払いだったので、ギルドカードからお金を引き出している僕が払っておいた。
宿で夕食を取り、部屋に戻ると、ニィが早速風呂を用意してくれる。
「《光》」
まず部屋に明かりを入れる。
「《水》」
次に、座って浸かれる程度の高さで半径2メートルほどの円筒状に水を操作して形成する。
「《炎獄よ。それを燃やしてはくれないだろうか? 意のままに、炎》」
最後に、水の表面に炎を走らせ、熱を水だけに伝えて湯を沸かす。
これでインスタント風呂の完成だ。
時間は1分とかかっておらず、風呂の広さも湯加減も申し分ない。景色に関しては、どのみち宿の風呂が町中にあることを考えると、文句のつけようもない。
「ニィは、火魔法は使えないの?」
「使えるけど、使う必要がないから使ってない」
まあ、炎魔法が上位互換みたいなものか。
「それにしても、やっぱり魔法はすごいね。これくらいは、誰でもできるもんなの?」
「使うだけなら、全属性は使えるでしょうけど、実際に風呂を作るとなると、水を変形させる操作、水を床に染みないように留めておく持久力、火を延焼させないようにするコントロール、お湯にするための火加減の調整、これらを同時にこなす技術力が必要になるわ。そうすると、一般人には無理でしょうね」
「……ちなみに、これは目安でいいんだけど、冒険者のランクでいえば、魔法使いならどのぐらいでその技術が身についてるの?」
「……フーマ」
「だいたい、B以上だと思うさ」
ニィは判断材料を持ってなかったのだろう。フマが答えた。
僕はフマの答えに安堵する。
もし風呂を作成する技術がSランク相当のものだったら、風呂に浸かるときに微妙な気持ちになっていただろうから。
僕はフマとニィの2人にもう一つの部屋へと移動してもらう。
フマはいてもらっても良かったけど、ニィが寂しいだろうから行ってもらった。
僕は服を脱いで風呂に浸かる。
お湯は現在進行形でニィが操っているらしく、僕が浸かってもお湯は揺れず、立ち上がっても、お湯は原型を留めたままで、体にお湯はつかなかった。
なにこれ、便利すぎる。
僕はお湯に浸かってくつろぎながら、ぼんやりと、魔法について考察する。
魔法を使うことで、魔力が、現象になる。
《水》なら、魔力→水だ。
でも、《水》で使用した魔力が全て水に変換されたかというと、そうでもないのだろう。
魔力感知によれば、今浸かっているお湯には魔力が感じられる。
全ての魔力が水に変わっているわけではないのだ。
おそらく、水を操作するために魔力を使用しているのだろう。
つまり、《水》で消費された魔力は、魔力→水、魔力→水の操作、この二つで使用されている。
魔力には、不意の衝撃には弱いという性質がある。
以前僕が、木に魔力が通っていることを知らずに魔力を飛ばし、木に弾かれて霧散させてしまったことがあった。
でも、フマとキーグリッドが魔力をぶつけあっていたとき、2人の魔力は霧散していなかった。
弾かれることを予期していたかどうかで、魔力の存続が左右されるのだろう。
ということは、ここで僕がニィの維持しているお湯に対して魔力をぶつけたら、このお湯を操作している魔力が霧散して、お湯が床に広がってしまうかもしれない。
あるいは、僕の魔力をニィが感知していて、ぶつけられることを予期していれば、お湯を操作している魔力が霧散することはないだろう。
実際に試してみるつもりはない。
当たり前だ。
水浸しになったら僕が困る。
そうではなく、魔力というものは興味深い。
魔力の維持は、僕らは当たり前のようにしているけど、案外繊細なものなのかもしれない。
そういえばフマは、魔力から生まれているんだった。
普段のフマは実体化しているけど、実体化を解いた状態で、魔力による不意打ちを受けたとしたらどうなるんだろう?
フマを構成している魔力は弾けて消えてしまうのではないだろうか?
そこまで考えて、僕は思考を中断させる。
何を僕は、フマの殺し方を考えているのだろう?
僕は寝そべって全身でお湯に浸った。
その状態で《作成》と《接続》を唱えられるか試してみる。
どういう理屈だろうか、水の中で声にはなっていないはずなのに、発動した。
そのまま、異空間から空気を吸えないかと口の中にゲートを作ってみる。
すると吸えたので、お湯の中で寝転んでうとうととしていると、僕がお湯の中で寝ていることを感知したらしいニィが、僕がおぼれているのではないかと心配したらしく部屋に突入してきた。
僕は慌てて起き上がり、説明する。
どうにか引き上げてもらった後、僕はのぼせそうだったので、風呂から上がった。
なお、ニィの入浴時に異空間による呼吸法を施してくれと頼まれたけど、ゲートを作るときに口の場所を視認しなければならず、ニィの裸を目にするわけにはいかない僕は丁重にお断りさせていただいたのだった。
翌朝。
僕のベッドには相変わらず、フマとニィがいた。
僕はいいかげん、ニィに告白の返事をしたいと思う。
いつまでも曖昧な関係というのはよろしくない。
……というか、僕のためにもはっきりとさせたい。
そうすれば、風呂にだって2人で入っても問題はないし、ベッドの中ではいちゃいちゃとしてもいいわけだ。いや、もちろんフマもいるから一線は越えないけども。
そして、告白の返事をするなら、今日が最適だ。
なぜなら、リーガルの魔脈の調査には、明日の朝に出発することになったからだ。
今日は丸々お休みにして、各自自由行動を取ることになっている。
今日はデートをして、その中で返事をすればいいと思う。
……どういうデートコースにするのかという問題もあるけど、それは午前中に調べて、午後からデートをすればいいんじゃないかな?
まあ、そんな感じだね。
僕らは宿で朝食を取り、それから各自自由時間となる。
僕はニィに午後の予定を空けてもらい、それからデートの準備に赴こうとした。
しかし、ニィが黙っていなかった。
「ケーィ、私もついていく」
「え? いや、午前はちょっと、1人で行きたいから……」
「私がいたら、邪魔?」
ニィは否定しづらい言葉を選んでくる。
「いや、邪魔ってわけでもないけど……」
「一緒に行っちゃ、ダメ?」
「うーん、僕1人で行かせてほしいかな」
「……ケーィがいないと、私、寂しい」
「うっ」
心がズキリと痛んだ。
僕がやろうとしていることは、本末転倒ではないのだろうか?
ニィを喜ばせたいがために、ニィを悲しませようとしているのではないだろうか?
それでいいのだろうか?
「……じゃあ、ニィも行く?」
「うん! 行く!」
僕は考えを改め、ニィと一緒に行くことにした。
要は、考え方だ。
おススメのデートコースの模索? ニィと町中を散策するだけでそこがデートコースになるだろう。
デートのための服の購入? ニィと買いに行けばショッピングになるだろう。
告白の返事をする場所やタイミングの計画? ニィとデートをしている中で見つければいいだろう。
僕は肩の力を抜き、ニィと2人で町へと繰り出す。
フマは気をつかったのか、そうでないのか、町の外へと飛んでいった。
「へい、きみ、一人ぃ? お兄さんとお茶しない?」
「……8回目」
「ん?」
「『4使いの赤い少女』。知らなかったら、力尽くでいらっしゃい」
ニィが殺伐とした流し目を使う。ナンパ男は、ニィの雰囲気に飲まれ、顔を引きつらせたまま置いていかれた。
「ごめんね、ニィ。僕の姿が見えていれば……」
「ケーィのせいじゃないわ。気にしないで。あんなの、5秒もあれば対処できるわ。それに、噂が広まれば、声を掛けてくる邪魔な虫もいなくなるでしょ」
ニィは押し殺すように言う。柳眉も逆立っており、立て続けに邪魔をされて、おかんむりなのだろう。
かれこれ8回目だ。
まあ、ニィの容姿であれば仕方がないような気もする。
僕とニィは最初に服屋へ行き、新しい服を購入し、着飾っている。
ニィは、チュニックワンピースに、パンツ、ブーツ、髪にはベールという装い。
少女らしい服装で綺麗にまとまっているのだけど、それだけでなく、首元や鎖骨の白い肌が妙に色っぽかったり、薄い唇に引かれた紅が可愛かったり、白いベールに覆われた赤い髪が眩しかったりと、ニィ自身の美貌がよく映えている。
ニィの表情も、邪魔が入らなければあどけなく緩んでいるので、それはもう、傍から見れば誰もが見惚れてしまうのは防ぎようがない。
事実、道行く人々が老若男女関係なく視線を奪われている。
そのニィが、ナンパされないわけがないのだ。
しかし僕らにとってナンパは面倒で邪魔なだけなので、追い払うだけでなく、噂も流すことにしている。
4使いの赤い少女。
昨日の冒険者ギルドでの一件を、二つ名とともに広めようという魂胆だ。
いずれは、ナンパの回数も激減するだろう。
ただし、Aランク冒険者か、怖いもの知らずのただの馬鹿なら、お構いなしにナンパに来るだろうけど。
僕らが屋台の並ぶ通りを食べ歩き、ニィが、ハート形のプレッツェルを興味深そうにぽりぽりと食べていると、彼らに会った。
防具はつけていないが、引き締まった体の男2人組みだ。
彼らはニィに目を奪われ、僕らとすれ違う寸前。
ニィのことを知っていながら、声を掛けてきた。
「おぉ、あんたがあの『4使い』の一人か」
僕らは立ち止まる。
彼らは冒険者に見えるから、昨日の一件をギルドで知ったのかもしれない。
「思ったよりめんこいな。どうだアレックス、勝てそうか?」
アレックスと呼ばれた爽やかな金髪青年は、苦笑する。
「やめてくださいよ。女、子ども相手に物騒な話はしたくないです。それに、ほら、迷惑がってますよグレッグさん」
グレッグと呼ばれた髭の中年男は、頬を引きつらせる。
「そ、そんな殺気だった目をするほどか?」
見れば、ニィが親の仇でも見るような目を向けていた。
「……貴方たちで、13回目」
「お、おう、よく数えてんな」
「グレッグさん、そうじゃありませんって。余暇を邪魔してるんですから、早いところ退散しましょう」
アレックスさんはグレッグさんの腕を引き、去っていく。
グレッグさんは引きずられながらも、腕を振り、「今度手合わせでもしようぜ」と捨て台詞を残していた。
僕は今までのナンパとは毛色の違う2人に、何を思うでもなく見守っていた。
そこへニィがぽつりと言う。
「アレックスって男、あれは強いわ」
「ん? ニィがそう言うってことは、相当だね」
「でも、人間にしてはってところだけど」
「それでも十分じゃない?」
取りとめもないことを話しながら、僕らは食べ歩きを再開するのだった。
肩の力を抜きすぎたのか、それともナンパが多すぎてムードが出なかったのか、ニィとのデートは普段とあまり代わり映えがしなかった。
もちろん、邪魔のないときはニィはいつもどおりご機嫌だったので、僕としては嬉しい。
それに、思えば、今までは用事に追われ、のんびりと観光する時間が取れていなかった。
そういう意味では楽しめたと思う。
屋台をひととおり巡った後は、雰囲気のいい喫茶店に入り、ちょうどお昼の時間だったので、軽食を取り、それからクッキーと紅茶で余韻に浸った。
ニィがときおり僕を見てはにかむので、すっかりニィに気を取られ、食事の味は覚えていない。
ただ、とてつもなく美味しかったような気がする。料理が良かったとも思うし、ニィの笑顔がスパイスになったとも思う。
そういえば、今まで食べてきたものは、どれもまずいと思ったことがない。だったら原因は、後者なのだろう。
喫茶店でゆっくり過ごして、店を出た後、ニィが空中散歩をしたいと言い出した。
もう邪魔をされたくないのだそうだ。
僕は了承し、上空に向けてマーカーを飛ばす。
高すぎると酸素濃度が心配なので、およそ上空1000メートル地点にマーカーを設置した。
「それじゃ、行くよ。《転送》」
僕は魔力でニィを包むと、2人で上空に転移する。
途端、僕らの体は自由落下を始める。
同時に、ニィの魔力が僕らを包む。
「《炎獄よ。此方に空を飛ぶ衣を与えてはくれぬだろうか? その衣は、炎の羽衣》」
体を包む魔力が炎に変わり、僕らの体がふわりと浮かぶ。
炎は全く熱くなく、また、強風が吹いているはずなのに、風を感じられない。
炎の羽衣が遮断してくれているのだろう。
やっぱり魔法は便利だ。
「できれば歩きたい」
ニィがそう言うので、僕は足元と、その前方に、限りなく薄く延ばした板状の魔力を敷く。
「《固定》」
これで、50メートル程度の渡り廊下が完成した。
僕はニィに声を掛け、ニィが高度を下げる。
すると、足が、固定された大気――透明な廊下へと着地する。
眼下には、カリオストロの町の全景が広がっている。
草原の若草色の海の中に、孤島のように存在する、塀に囲われた灰色の町。
草原は1方向にのみ伸びていて、他の3方向は森だ。
森の奥には山脈が見える。
頭上には、突き抜けるような青と、燦然たる太陽。それに、雲が棚引いている。
「歩こ?」
ニィが恥ずかしそうに左手を差し出してきたので、僕はその手を取った。
手を繋いで、上空からの景色を楽しみながら、2人静かに歩いていく。
……頃合だと思った。
2人きりで邪魔も入らないし、タイミング的にもそろそろ言っておかねばならない。
僕は意を決して、口を開く。
「ねえ、ニィ。……その、……えっと。……告白の返事、だけどさ」
ニィが僕のほうを向き、赤い瞳でじっと見つめてくる。
僕はその瞳に吸い込まれそうになりながらも、言葉を続けた。
「あの……、僕も……」
覚悟を決めて、言う。
「僕も……、ニィのことが、好きだ」
僕は顔が熱くて、目を逸らしたかったけど、ぐっと堪えてニィを見つめた。
ニィは、ぱちぱちと瞬きをした後、だんだんと目を見開いていき、そして、瞳を濡らした。
「っ!」
ニィは倒れるようにして、僕の腰に力いっぱい抱きつき、ぐりぐりと顔を押し付けてきた。
僕は、ニィのいつもと変わらない行動に心が和みながら、ニィの頭を、ベールの上から優しく撫でる。
ニィの肩が、小刻みに震えていた。
え? な、泣いてる?
「に、ニィ?」
「……」
ニィが、顔を上げる。
赤い瞳は潤み、頬は、朱が差している。
ああ……なんて可愛いんだろう。
僕は手をニィの頬にそえ、親指で、目じりの雫を拭ってあげた。
ニィが、目を、そっとつむる。
僕は目を細める。
僕の視線の先には、ニィの柔らかそうな赤い唇。
僕は身を屈め、肩膝をつき、ニィに覆い被さるようにして口付けをした。
……感触が、甘い。
息を止める。
触れるだけのキス。
僕は5秒ほどたってから、唇同士の温かい感触を残して顔を離した。
ニィが目を開く。
ぽーっと蕩けた赤い瞳で、僕を見つめてくる。
「……可愛い」
僕はニィの頬にキスを落とし、それからニィのまぶた、額、こめかみ、鼻、顔の輪郭、あごというように、顔中に唇で触れていき、最後に、ニィの唇に、ついばむようにキスをした。
そうして表面でのキスを終え、僕はニィの顔から少し離れる。
ニィは、やはりぽーっとしたまま僕を見つめ、僕が何もしないでいると、首に腕を回して抱きついてきた。
僕はぎゅっと抱きしめ返す。
ニィの様子次第では、ディープなほうにも挑戦しようかと思ったけど、やめておくことにする。
そのまま僕らは抱き合ったままで、僕はニィの髪をすきながら、ニィはされるがままで、とても静かな時間を過ごした。
魔脈の調査には次回行く予定です。




