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25話 ティファニーの依頼



 受付の順番が回ってきて、ギルドの受付嬢に、フマが用件を伝える。

 アイル村での襲撃事件の説明をしに来たと伝えると、さっそくギルド長室に通されることになった。


 フマとニィの後ろに、こっそりと僕もついていこうかとも考えたけど、後で2人から聞けば済む話だし、盗賊の死体の引渡しもしなければならない。


 僕は2人と別れることにして、盗賊の件を片付けるため、受付嬢の肩に触れた。


「ひぅ!? あっ……えっと、申し訳ありませんが、列にお並びください」


 しまった。割り込みしたように見えるのか……。


「あー……はい、すみませんでした……」


 僕の能力を説明しても、僕が並んでいたことを証明することはできない。

 仕方なく、僕は並び直す。


 ただ並ぶだけでは同じことを繰り返すので、僕は前後の冒険者に僕の能力を説明し、受付嬢に証明してくれるように頼んでおいた。

 相手の冒険者からは胡乱な眼差しを向けられたけど、僕の番が回ってきたときに、説明したとおりの現象が起きたため納得して証言してくれた。

 今度からは、列のできていないときに並ぶか、フマやニィに任せるとしよう。


 僕は受付嬢に、盗賊の件を話す。


 アイル村からの道中に盗賊に襲われそうになったこと。

 それを返り討ちにしたこと。

 身なりのいい盗賊の死体は持ち帰ったこと。


 その上でどうしたらいいか指示を仰いだら、死体はギルドのほうで引き取ると言われた。

 懸賞金がかけられている場合はその金額が支払われ、そうでない場合は、死体の処分を請け負ってくれるとのこと。

 ギルドの建物の裏側に倉庫があり、その中で手続きを行うのだという。


 僕はお礼を告げて、早速ギルドから出て裏手に回りこむ。


 ギルドの建物の横には馬車でも通れる道があり、その道を真っ直ぐ進むことで、裏側へと行ける。

 そこには、馬車を何台も停められる広場と、ギルドと同規模の倉庫があった。


 僕たちの乗ってきた馬車も広場に停まっており、筋骨隆々の人夫(にんぷ)が、スライムの入った大瓶を倉庫の中へとちょうど運び終えるところだった。

 おそらく倉庫の中には、ギルドで所有している魔物の素材などが保管されているのだろう。


 僕は倉庫の中へと足を踏み入れる。

 手前にはカウンターがあり、その奥には素材の鑑定を行うような台がいくつも並び、そのさらに向こう側には、天井まである棚が所狭しと整列していた。

 

 ここもギルド内ほどではないけどそれなりに混んでいたため、僕は列に並び、またしても前後の冒険者に証言を頼み、無事に受付へと漕ぎ着ける。

 買い取りに時間が掛かるのか、ギルドよりこっちの列のほうが遅々として進まなかった。


 ようやく順番が回ってきた僕は、受付嬢に、盗賊の死体の引渡しがしたいと告げる。


「それでは、死体をカウンターの奥へとお持ちください」


 案内嬢を紹介され、死体を持って案内嬢についていくように伝えられる。


 僕はそのまま案内嬢のもとへと行き、死体を魔法で運搬していることを告げた。

 彼女は信じていない顔をしていたけど、仕事だからだろう、鑑定台へと案内してくれる。


 鑑定台の横には、ガタイのいい男が待ち受けていた。

 案内嬢は、彼に案件を伝えると、役目を終えて引き上げた。


「《接続》《転送》」


 僕は台の上に盗賊たちの死体を出現させる。

 計4体の死体だ。

 それぞれマジックアイテムを装備していて、どれも剥き出しの喉元を、フマの風槍かニィの炎剣で切り裂かれている。


 僕は鑑定をしてくれる彼に目を向けた。

 彼は口をぽかんと開けて呆けていた。


「あの、見てもらえますか?」

「……あ、ああっ、わりぃわりぃ。今のは、魔法か?」

「はい。固有魔法です」

「そうか…………初めて見たな…………ごほん」


 感じ入っていた男は、自分の仕事を思い出すと、カウンター脇のデスクから書類を持ち出し、盗賊の体を調べていった。


 ……数分後。


「懸賞首は、こいつだけだな」


 フマが頭領と判断した盗賊を、彼は指差した。


「マジックアイテムはどうする? ギルドで買い取りはしているが」


 僕は考え込む。

 盗賊の身につけているマジックアイテムは、装飾品が一つに、残りは武具だ。


 武具は、僕には扱えない。

 近接戦闘はからきし駄目だし、たとえ装備したところで、その重みでむしろ弱体化すると思う。


 じゃあフマとニィはどうかというと、フマは体の大きさからして合わないし、ニィは既に最高の装備を整えている。

 2人にも不要だろう。


 武具は売り払ってしまおう。

 残るマジックアイテムは装飾品の腕輪だけど、つけるとしたら僕だろうね。

 デザインはそんなに悪くはないんだけど、僕の今の服装には合わないと思う。

 とはいえ、マジックアイテムの性能次第では贅沢はいってられないから、効果を調べる必要がある。


「この腕輪ですけど、どういう効果があるか分かりますか?」

「実際につけてみて魔力を流せば、分かるぞ?」


 僕は腕輪を魔力で包み、僕の手元に転送させる。

 それは銀色の腕輪で、台座には緑色の宝石がはまっている。

 留め具を外して、僕は左の手首に装着する。


 ……少々重たい。

 あまりつけたくはないけど、やっぱり効果次第だと思う。


 僕は腕輪に魔力を通す。

 少し流して、そこそこ流して……。


「えーっと、魔力ってどのくらい流せばいいですかね?」

「発動すれば、なんとなく分かるもんだが」


 ……つまり、まだ足りないということかな?

 でもこれ以上流すと、消費量が多すぎる。

 ああ、そうか、僕が魔法を使うときって、少ない魔力で発動できていたけど、それって【空間魔法:Ex】のおかげなんだよね。

 空間魔法以外に魔法を使えなかったから実感湧かなかったけど、僕の魔力量って、普通のマジックアイテムを使うのに支障があるレベルに違いない。

 つまるところ、マジックアイテムが使えないということだ。

 まじですか。


「……すみません、全部売ります」

「お、おう、請け負った」 


 彼は僕に同情するように苦笑して、先ほどの案内嬢に手続きを引き継ぐ。

 金銭のやり取りが済み、ギルドカードに入金してもらい、僕は2000グリーシアを引き出した。

 今回の内訳は以下のとおりとなる。


 懸賞金、+7万グリーシア。

 マジックアイテム合計、+16万5000グリーシア。

 ギルドカードの口座残高、46万1800グリーシア。

 手持ち、2796グリーシア。


 ちなみに、前回のフェンリルヴォルフによる収入がおよそ20万グリーシアだった。それを考えると、今回の収入は割とある。

 ただし、後でフマとニィとで3等分にするから、実質7万グリーシア強の収入ではあるけれど。


 僕は用事が済んだので倉庫を出て、フマとニィを待つべくギルドの建物に戻った。




 ****




 ギルド職員の女性に案内され、フマとニィはギルド長室へと通された。


 カリオストロのギルド長は、女性である。

 身長170センチのスレンダーな体型で、後姿は頼りなさげに見えるものの、その表情には潜り抜けた修羅場と経験による深みがあり、年齢のつかめないミステリアスな雰囲気がある。

 しかし力こそ全てである冒険者にしてみれば、やはり細身の女性というのは上に立つ者として思うところがあり、摩擦が絶えないと想像できる。

 だが、それゆえに有名であった。

 カリオストロの英雄、エルフの女、ティファニー。

 カリオストロの町に彼女の戦いを知らない者はなく、その武勇は、冒険者の町カリオストロのギルド長という地位とともに、他の町にまで広まっていた。

 そんな彼女の発言は、無視できるものではなく、その背景もあって、アイル村のギルド長ザックは、フマとニィナリアを直接説明に行かせたのだった。


 ティファニーは、部屋に入ってきたフマとニィナリアを、デスクから立ち上がって迎えると、心の底からの笑みを湛えた。


「フマ!」

「ティファ!」 


 ティファニーが両方の手の平を上に向け、そこにフマが着地する。


「うふふ、元気そうね、安心したわ」

「そっちこそ、前より目のクマが良くなってるさ」


 フマとティファニーが再会を喜び合う。


 ……エルフとは、森の魔力に順応した人間である。

 エルフは森の中に集落を作り、大半がその中で一生を終える。

 その活動場所と温和な気質から、自然の魔力から生まれる妖精と交流があり、フマとティファニーは、互いに冒険者ギルドに身を置くものとしても親密な関係を築いていた。

  

 2人に取り残されたニィナリアは、ティファニーがエルフであることを、その魔力量から看破していた。

 エルフは森の魔力に順応しているため、人間に比べて魔力量が多い。

 ティファニーが肉付きの少ない体で数々の武勇を打ち立てられたのは、ひとえに魔法によるものだった。


 ニィナリアは、自分の立場をティファニーにどう説明したものか悩む。

 エルフである彼女であれば、もしかしたら自分の隠している魔力に気付くのではないかと考えて。

 

 とはいえ、力量が上の者が下の者の力を測れても、その逆が成り立たないのと同様に、魔力量に関しても、ニィナリアはティファニーのそれを手に取るように感じられるが、ティファニーはニィナリアの魔力量が漠然と高い気がする程度にしか分からない。

 ティファニーはニィナリアがただの人間ではないと感付くだろうし、ニィナリアが魔人であると思い至る可能性も高いが、魔王であるとは考えもしないだろう。


 ニィナリアは自分の立場について少し思案して、フマに任せればいいかと思い直す。

 それは考えるのが面倒になったわけではなく、ティファニーと懇意であるらしいフマの意思次第で、どうとでも説明がつくからだ。

 信頼に足るとフマが判断しているならば、真実を告げてもいいだろう。

 お互いの立場上、本音を避けたほうがいいのならば、妥協案で済ませるだろう。

 全ては、フマの考え次第なのだ。


 フマとティファニーのあいさつが済んだところで、フマがニィナリアにティファニーを紹介した。


「ニィナ。ギルド長のティファニーさ。カリオストロへの魔物の侵攻を幾度も食い止めたことから、カリオストロの英雄と呼ばれているさ。ギルド長としての発言力もあるから、何かに困ったら頼ればいいさ」

「こらこら、職権乱用を勧めないの。初めまして、ニィナちゃん。ティファニーよ。ティファって呼んでね」

「ニィナリアです。ティファさん、よろしくお願いします」

「んー、固いわ。もっと肩の力を抜いて? 言葉遣いも形式ばらなくていいわよ」

「……分かったわ、ティファ」


 ティファニーは艶然として、ニィナリアは可憐に微笑み、握手をする。

 握手をしたまま、ティファニーは尋ねる。


「ところで、ニィナちゃんって、何者? ただの人間じゃないわよね?」


 瞬間、ティファニーは目を細め、年を重ねた者だけが持つ重圧を瞳に宿し、ニィナリアの赤い瞳を射抜いた。

 それを受けたニィナリアは一瞬固まり、しかし魔王の顔を出すことなく、ぷいとフマに顔を向ける。


「ニィナは、遍歴の魔人さ」


 フマの言葉に、ティファニーは納得と疑問を同時に感じた。


 遍歴の魔人。ニィナリアに旅の良さを教えたレイチェルも、そうである。

 魔人は基本的には魔国にしか住まず、それ以外の国からは疎まれる存在だ。

 だからといって、外界を知らないままではいられない。情報は武器だ。いくらA級やS級の魔人がごろごろといる魔国が保有戦力からして最強の国であったとしても、情報を軽んじることはできないのだ。

 ゆえに、魔人はできるかぎりその身を隠して世界を巡る。

 いってみれば、遍歴の魔人は諜報員である。

 ……とはいえ、彼らが人間の国の害になることをするかというと、そうでもない。

 というより、彼らにとって脅威となることを、人間ができることのほうが少ないのだ。

 それよりも彼らは、人間の国の魔脈や魔物の状況を調べるついでに危険度の高い魔物を討伐することがあるので、現状において、彼らは有益である。

 それを理解しているギルド長などは、冒険者登録している者が魔人であると確信しても、それを公にして排斥することなく黙認するのが常だった。


 そのことはティファニーにしても理解している。

 だからこそ、人間にしては膨大な魔力を秘めているらしいニィナリアが、遍歴の魔人だと教えられても、それを納得し容認することができた。


 しかし、だ。

 遍歴の魔人というのは、十分な訓練を積み、数多(あまた)の戦闘を経験した猛者がなるものだ。

 ニィナリアのような少女は時期尚早に思えてならない。

 ティファニーは何かが引っかかった。


「本当に、それだけなの? 何か隠し事をしていない?」

「何言ってるさ。これが全てさ」


 ティファニーとフマが、しばらく瞳の奥で探りあいをする。

 ちなみに、フマは駆け引きはできるが、ティファニーには及ばない。

 しかしフマは、ティファニーに真実を悟られる真似はしなかった。

 それはフマの技量によるものではなく、認識の仕方によるもの。

 ニィナリアは魔王である。

 しかし。

 ニィナリアがこうして旅をしているのはなぜかと問われれば、フマは間違いなくこう答えるだろう。

 「ケイに惚れているからさ」。

 つまりニィナリアがここにいる理由として、魔王は関係ないのである。

 だからティファニーにニィナリアを紹介するなら、魔王を休業して佐々倉啓とともに各地を遍歴をしていると言うだろう。

 そしてフマは、魔王という部分は、佐々倉啓に惚れていることと同程度に説明する必要がないと判断していた。

 もちろん隠したほうがいいという認識はあるが、もともとの解釈がそれなのだ。

 結果、ティファニーは読み取ることができなかった。


「……私の立場上、聞いてしまえば黙認できないこともあるわ。それを考慮して秘密にしておいてくれるのは、貴女の友人として嬉しいことよ」

「ティファの年齢みたいに誰だって秘密の一つや二つはあるさ」


 途端、ティファニーとフマは、先ほどまでの探り合いの雰囲気を微塵も感じさせず、2人しておかしそうに笑い合う。

 そしてティファニーは、握手をしたままのニィナリアに優しく微笑み、ようやくその手を離したのだった。


 ティファニーは一つだけ確信していた。

 今のやり取りの中で、ティファニーはニィナリアの手から動揺が伝わってこないかをひそかに探っていた。

 しかし、何も感じられなかった。

 焦りも、それどころか緊張すらも。

 ニィナリアは自然体だったのだ。

 まるで、腹の探り合いが日常茶飯事であるかのように。


「ニィナちゃんは、どこかのお姫様だったりする?」

「いいえ。この装備は、私の自慢ではあるけれど、私はお姫様ではないわ」


 もしもティファニーの質問が、「王様か?」というものなら、さしものニィナリアもわずかに動揺したかもしれない。

 しかし「お姫様か?」というものに対しては、ニィナリアは嘘をつくこともなく否定できる。

 なにせ、姫ではなく、魔王なのだから。


「その装備は、魔国の?」

「ええ。いいでしょう?」


 ニィナリアは買ってもらった服を自慢する少女のような笑みを浮かべた。

 ティファニーはそれを眩しそうに見ながら、心の中で一つ頷く。


 ――やはり、魔国の要人だ、と。


 高位四家のどれかの家が、有望な娘を後学のために遍歴に出したのだろう。

 そして親馬鹿の当主が、娘に高価な装備を与えたのだろう。


 ティファニーはニィナリアの身の上に対して、そのように確信したのだった。




 アイル村近辺での、キーグリッド襲撃事件。

 それをティファニーに説明する段になって、フマは頭を抱えていた。

 ニィナリアが魔人であること。

 これをティファニーに教えた時点で、ザックにした説明に矛盾が生じてしまうからだ。

 

 ザックには、ニィナリアがキーグリッドに誘拐されたと説明していた。

 そうするのが、あのときはベストだった。

 しかし、ニィナリアが魔人だと知られてしまえば、状況は変わってくる。

 なぜなら、魔人であるキーグリッドが、魔人であるニィナリアをさらうというのが、かなり不自然であるからだ。

 強引に通そうと思えば、駆け落ちをしたといえなくもない。

 しかし、その辺の誤魔化しに関して追及されれば、途端にメッキがはげるだろう。

 

 よって、フマは、より真実に近いものを教えることにした。

 もともとティファニーはフマにとって親しい友人でもあるので、完全な真実は無理でも、近い真実であれば教えてもいいと思ったのだ。


 そこでフマは、まず、ニィナリアが魔人であることを秘密にしていることと合わせて、ザックにしたものと同じ説明を、建前として話した。

 その後に、実は自分がキーグリッドに負けていたこと、佐々倉啓という少年に救われたこと、そのときにニィナリアを連れ出したこと、ニィナリアを取り戻そうと魔人の追っ手がやってきたこと、話し合いで折り合いをつけたことを明かした。

 もちろん、ニィナリアが魔王であることは伏せられ、それによって説得力の弱いところが出てきても、フマはごり押しした。

 

「魔人1人が連れ出されたにしては、追っ手が来るのが早すぎない?」

「向こうにとってそれだけ大切だったんさ」

「大切なのに、どうして遍歴を認めてもらえたの?」

「話し合いによるものさ。内容は、魔国の機密に関わるから言えないさ」


 フマは内心ひやひやものだったが、当のティファニーはニィナリアを魔国の要人だと思っていたため、フマの説明に納得することができていた。

 たとえ納得できなくても、友人のフマが秘密にするといえば、ティファニーはそれを尊重しようとは思っていたため、どちらにしても大事にはなりえなかったのだが。


 なにはともあれ、フマは無事に説明を終えた。

 濃い内容だったため、その頃には1時間が経過していた。


 真実に近い説明を聞き終えたティファニーは、ぽつりとフマにこう尋ねた。


「ケイ・ササクラは、何者なの?」


 それについてフマは、転生のことを話せないから焦りながら……ではなく、ティファニーの疑問に同情するように答えた。


「それは本人の個人的な情報だから、オレが話すわけにはいかないさ。ま、人間ではあるんだが……到底信じられないよな? オレもそうさ」


 生気のない目でぼんやりと笑うフマに、ティファニーは言葉にできない苦労があったのだろうと察し、友の労をねぎらうのだった。




 襲撃事件に関して、ザックは強者が立て続けに襲来したことに危機感を抱いていた。

 それを各ギルドで共有するべく、発言力のあるティファニーに助力を願ったのだが、ティファニーはフマの話を聞いて、その件が既に終わっていることを知った。

 しかし聞いた話は公にできるものではないため、結局ティファニーはこのように手を打つ。


「アイル村には近々魔脈の調査のために人を送らないといけないから、襲撃事件については、そのついでに調べてもらうというていにしておきましょう」

「ありがたいさ」


 実質、何もしないということではあるが、調査をしたところで意味がない以上、こうするのが最善であった。


「フマは、相変わらず異変を探しているのよね?」

「そうさ。何かあるさ?」


 ティファニーは、フマが妖精女王の娘であると知っている。

 世界に異常がないかを調べていることも。

 

「『リーガルの魔脈』周辺の魔物が、ここ最近弱体化しているの」

「弱体化……ということは、魔脈の魔力が弱まっているのか?」

「そう考えられるわ。近々調査隊を派遣しようと思っているけど、なにぶん魔脈の調査でしょ? 適任者がいなくて」


 魔脈からは非常に濃密な魔力が流れ出ている。

 そこを調査できる者となれば、魔力量が多く強い魔力障壁を張れる者か、あるいは強力な魔法耐性を備えている魔法武具を装備している者に限られる。

 また、魔脈周辺には危険度の高い魔物が住み着くことも多く、よって、調査隊はAランク以上の冒険者で構成するのが鉄則だ。


「Aランク以上の冒険者なら、ここにはたくさんいるだろ?」

「まぁ、そうなんだけどね。でも今回は、魔脈に異常がある可能性が高いし、管理者である神に異常が起きている可能性もある。もしかすればSランクの危険度になりかねないとなると、すぐには集まらないのよ」


 フマは考え、ニィナリアと目配せをして意思を確かめ合う。


「まだ集まっていないのなら、オレたちが調査に行ってもいいか?」

「いいの? フマたちのランクからして正式な依頼にはできないから、報酬は出せないわよ?」

「片手間に魔物を狩れば金には困らないさ。一応、ケイと相談してからになるから、改めて返事をすることにはなるが」

「フマたちがそれでいいのなら、是非もないわ。妖精に、魔人に、底の知れない人間のパーティ。話を聞く限りだと、なかなかに適任だもの」


 フマにしてみれば、異常の調査のため。

 ニィナリアにしてみれば、調査と観光のため。

 佐々倉啓にしてみれば、観光と付き添いのため。

 そしてティファニーにしてみれば、条件の見合う調査隊の派遣のため。


 こうして、ギルドとしての依頼ではなかったが、カリオストロの町に来て初めての依頼が成立する。

 なお、この調査に関する依頼のランクが文句なしのSであることは、彼らが調査に赴いて知ることとなる。



20時に間に合わなかった……。

数分なんて、誤差の範囲ですよね!?

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