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24話 冒険者の町カリオストロ

2015/1/31 勝負までの流れを修正。



 ****




 空がなく、地面もなく、壁もなければ仕切りもない。

 かろうじて、床とおぼしき透明な何かがあるだけ。

 全てが白く、どこまでも白く、果てしなく白い無限の世界。

 俗に、神世界。


 ――正式に、異空間。


 それは、神代魔法《空間創造》によって作られた世界。

 神ならば誰でも使用できる魔法である。


 その空間には、2人の子どもがいた。

 1人は黒髪ボブカットの、中性的な美貌を持った子ども。転生神、スイシア。

 もう1人は、赤髪お下げの、可愛らしい女の子。息災の神、ロニー。


 どこから取り出したのか、ソファーに座る2人の前には、スクリーンに投影したような映像が流れている。

 そこには、佐々倉啓、フマ、ニィナリアの3人が、盗賊相手に蹂躙している様子が映し出されていた。……正確には、フマとニィナリアの2人であるが。


 その映像は、リアルタイムの映像である。

 制約はあるが、いつでも、どこでも、自由に世界を映し出すことができる。

 それもまた、神代魔法。安直だが《神の視点》と言い、これも神であれば誰でも使用できる魔法だ。


 《神の視点》を行使する2人の表情は、対照的だった。


「ふむ、3人の実力を隠すための連携訓練が、いつの間にか、3人の実力だと訓練が成り立たないって論点にすり替わってるね。目的は実力を隠すことだったろうに、もはや実力を出して戦うことに切り替わってるよ。

 とはいえ、魔王があんな調子じゃしょうがないだろうね。実力を隠して人間として戦っても、結局、装備のせいでA級以上の実力になっちゃうんだから。

 でも、『装備のせいで』ってところが重要かな? 素の実力じゃないと思えば、人間たちの反感は買わずに済むかもね。代わりに、物欲は刺激するだろうけどさ」


 スイシアは、興味深げに解釈を入れる。

 面白い映画を鑑賞していて批評してしまうのと同じである。

 しかも隣に同好の友がいるとなれば、口に出してしまうのも当然であった。


「ねー、それよりあそぼーよー」


 だがロニーは、佐々倉啓の動向など興味ないとばかりに、スイシアの肩をゆっさゆっさと揺さぶる。

 こちらは映画の主役が気に入らなかったと見える。

 佐々倉啓に落ち度はないのだが、ロニーにとって佐々倉啓は、スイシアと遊ぶ上での邪魔者でしかなかったのだから。


「うーん、佐々倉啓が嫌いだとしてもね、魔王のほうは、ロニー好みじゃないのかい? 実力的にも、()()()()()()()に達しているよ?」

「……佐々倉啓が好きってところが嫌い」


 ロニーの言い分は、まさに子どもであった。


「……もう、分かったよ。ちょうど区切りがついたところだしね」

「ほんとっ!? シアちゃん、今から遊ぶ!?」


 佐々倉啓たちの盗賊討伐が終了したため、スイシアは苦笑しながら腰を上げる。

 なんだかんだで、スイシアもロニーに甘い。

 ロニーが聞いていないと分かってはいても、退屈しないようにと、映像を鑑賞している間は佐々倉啓たちの行動に逐一説明を加えていたのだから。

 そうして佐々倉啓たちの行動に一区切りつけば、今度は鑑賞をやめて、ロニーの遊びの誘いに乗る。

 ロニーが離れない理由である。


 スイシアは《神の視点》を終了させ、ロニーはソファーの()()()を解除する。


「それで、何して遊ぶんだい?」

「積み山! 積み山しよ!」


 スイシアは柔らかく微笑んで、ロニーの言葉に応じたのだった。


 ……積み木ならぬ、積み山。

 神代魔法を用いて擬似的な自然を創造し、できた山を切り取り、操作して、崩れないように積み上げていく遊びのこと。

 高く積み上げたほうが勝ちであり、コントロールを失えば負けである。

 その壮大なスケールは、まさに神々の遊びといっても過言ではなかった。


 たとえその本質が、魔力と魔法の鍛錬にあるのだとしても。


 神は、魔法を使い、それゆえに魔力を持つ。

 その意味するところを佐々倉啓たちが知るのは、そう遠くない未来である。




 ****




「カリオストロにどうして冒険者が集まるのかというと、3つの魔脈が近くにあるからさ。

 魔脈の傍では強い魔物が生まれるって話はしたさ? 魔脈に近い町では、魔物を討伐するために冒険者が多く集まるさ。

 ましてや、魔脈が3つもあれば、冒険者の町と呼ばれるのも当然さ。冒険者の数も、質も、他の町とは比べ物にならないんさ。


 そしてカリオストロは、冒険者を中心に回る。

 強い魔物が討伐されれば、その素材が出回り、武具やマジックアイテムとなる。そういった装備品は活発に売り買いされ、他の町にも輸出される。

 他にも、宿泊施設や、食糧、日用品も冒険者に必要とされる。

 町の中では冒険者を顧客とする商売が、町の外へは魔物の素材や生産された装備品を輸出する商売が成り立っているんさ」 


 フマの解説を聞きながら、僕らの乗った馬車は、カリオストロの門を潜る。

 門の脇には兵士が立っていたが、じろじろと睨んでくるだけで、特に声がかかることもない。

 僕らの他にも馬車はあり、隊列を組むように行列を作って、順番に町へと入場した。


「……へぇ」


 視界に入ってきたのは、石造りの町。

 地面はどこも石畳で、整備された道路の左右には、3階建てや4階建ての建物が立ち並んでいる。


 夕陽に間延びした影が、いくつも通りを行き来していて、仕事帰りだろうか、馬車の左右は混雑している。


 この世界で初めて訪れた町にして、冒険者の町、カリオストロ。

 ついに、僕らはやってきたのだ。

 

「……えっと、これからどうするんだっけ? まずは宿? いや、それより冒険者ギルドだっけ?」

「少し落ち着くさ。オレたちはこの馬車を護衛しているんだから、とりあえずこの馬車と一緒にギルドまで行くさ」


 気持ちが浮つく僕に、フマが呆れる。

 

 いや、だって、初めてだし。


 ニィもそうなっているだろうと、僕は腕の中の顔を覗き込む。


「魔国もこんな感じに……いやでも、それだと予算が……でも、魔法を使えば……」


 ニィは真剣な眼差しでぶつぶつと呟いていた。

 あれ? そういう方向なの? 観光気分は?


「ニィナは気に入ったんだと思うさ」

「……そうだね」

「こういうところは一国の主さ」

「……うん」


 気持ちを共有できなかった僕は、もやもやとしてしまう。 

 ニィをぎゅっとしたくなったものの、思考を邪魔するのもよくないと思い、僕はフマを呼び寄せ、小さい頬を指でつついた。


「な、なにするさ!?」

「んー、なんか、ニィのが移ったかも」

「や、やめるさ! ニィナが2人になったら誰が相手をするさ!?」

「誰って、フマ?」

「そんなの無理さー!」


 フマが暴れて逃げようとするので、僕は《固定》をフマの体にかけてから、頬をうりうりといじっていた。

 途中で諦めたのか、フマは大人しくされるがままになっていたので、心底嫌がっているわけではないと僕は信じている。

 恨めしそうな目をしていたけど……それは見なかったことにしておこう。




 カリオストロの冒険者ギルドに到着すると、僕らは馬車から降り、馬車は建物の裏手へと進んでいった。

 護衛の任務は無事に終了したので、僕らとクロッシュさんたちは、手続きをするためにギルドの中へと入っていく。


 外観から察してはいたものの、やはり中はアイル村の冒険者ギルドとは比較にならない大きさだった。


 カウンターには10もの受付があり、それにもかかわらず、それぞれの受付には冒険者の列がずらりと並んでいる。

 また、冒険者の姿も多種多様であり、戦士風の皮装備から、甲冑、うろこ状の防具やチェーンメイルなど、他にも魔法使いらしきローブや、隠密なのか黒装束もあった。

 種族も人間だけではないようで、獣耳があったり、小人みたいな背丈であったりと、様々だ。

 依頼の数も多いらしく、依頼の掲示板が3つあり、その1つ1つがアイル村の掲示板の3倍の大きさがある。

 

「いや、すごいね、これ。魔力感知で知ってはいたけど、実際に目で見ると壮観だね」


 僕の呟きにはニィが同意した。

 フマは、特に驚きはないようだった。


「今回はあんたらのおかげで盗賊の被害を受けずに済んだ。感謝してる」

「いえ、僕らも護衛を任されていたわけですし、助け合うのは当然ですよ」


 僕らとクロッシュさんたちはその場で別れ、それぞれの受付の列に並ぶことになる。


 順番を待っていると、後ろから声がかけられた。


「よぉ、おチビちゃん。随分といい装備してんじゃねえか」


 振り返る。チェーンメイルを着た冒険者の男が5人、それぞれ下卑た笑みを顔に張り付けていた。

 しかし、ニィが振り返ると、全員が驚きに目を見開き、次の瞬間には表情を別の欲望に染め上げる。


「なかなかに稼げる話があるんだが、この後に一緒にメシでもどうだ? 奢るぜ?」


 ニィは男たちを一瞥した後、フマに視線を向ける。

 僕も、いちいち姿を見せるのは面倒なので、フマに任せる。


「オレたちは金に困ってないぜ。他を当たってくれ」


 いつもと口調を変えて、ぶっきらぼうにフマが言う。


「金とは言ってねえ、マジックアイテムに関するもんだ。とにかく、話だけでも聞いてみねえか?」


 にやにやと気持ちの悪い笑みを浮かべつつ、向こうのリーダーとおぼしき男が、話をしているフマではなくニィの肩へと腕を回そうとする。

 これにはさすがに僕も黙って見ていられない。もちろんニィならどうとでも対処できるだろうけど、明らかに醜悪な感情を抱いている男がニィに触れるのを我慢できなかったのだ。


 男が回そうとした腕がニィの肩にかかる直前、僕はそれを下から支えるように押し留めた。

 瞬間、僕の【存在希薄】の効果が消え、男に知覚される。


「ぅは!?」


 男は奇声とともにびくんと肩を跳ねさせた後、どたどたと後ずさる。

 そして僕の姿を上から下まで探るように見下ろすと、余裕を取り戻したのかにやりと笑った。


「何かと思えば、ただのガキんちょかよ。影が薄すぎて気付かなかったぜ」


 男の何気ない一言が僕の胸に突き刺さる。

 うぐっ、ひそかに気にしていたことを……!

 僕だって好きで【存在希薄】を発動させているわけじゃないってのに!


 などと憤るあまり言葉に詰まって睨んでいると、男は僕を避けて相も変わらずニィの肩に触れようとする。

 僕は体を割り込ませてそれを遮る。


「なんでいちいち触ろうとしてるんですか?」

「おいガキんちょ、邪魔だどけ」


 男が僕の肩に掴みかかってくる。

 避けると後ろのニィにそのまま届いてしまうので、僕は体を張って受け止めた。

 男は無骨な手でぎりりと肩を締めてくる。


「痛っ」

「お前には用はないんだよ」


 身長差もある。男はそのまま力任せに僕を脇へと退けようとする。


 ――それに甘んじるとでも?

 

「《固定》」


 僕は男の手首に魔法をかけた。

 

「なっ、なんだ……?」


 男は焦ったような声を上げ、それからそれが僕の仕業だと気付くと粘着質な笑みを浮かべる。


「おいおい、魔法で攻撃しちゃあいけねえなぁ」 


 僕は男の手から離れ、反論する。


「攻撃? 僕はただ止めただけ――」

「あー、待つさ待つさ」


 そこへフマが割り込んできた。

 どうしてと不満の視線を向けると、任せろとばかりにフマが胸を叩く。何か考えがあるらしいので任せることにする。


「魔法で攻撃したとしたら、どうなんだ?」


 フマが腕を組み、男に尋ねた。

 

「もちろんギルドに報告する」男の返答に僕が正当防衛を主張しようとしたところで、男が言葉を続けた。「だが、俺たちもそこまで悪魔じゃねえ。誰だってミスはある。お前たちにチャンスをやろうじゃねえか。『対等な勝負』で片をつけてやってもいいぜ?」


 言いがかりもはなはだしい。先に手を出してきたのは向こうであって、僕の魔法は正当防衛だ。

 攻撃魔法の使用は抜き身の剣を向けるのと同等の意味を持ち、ギルド内であれば罰則を受けるとギルドで説明されたけど、攻撃魔法でなければ制限はされていない。

 日常的に魔法が使われているのは見かけたことがあるし、まあさすがに無闇やたらと人を《固定》して回ったらアウトだけど、迷惑をかけなければ問題ない。

 そのうえ正当防衛であれば、なんら過ちはないわけだ。


 しかし、フマはこう返した。


「いいぜ、さっきの魔法が攻撃かどうかはともかく、その勝負はしてもいい」


 男が怪しく目を細める。


「ほう? 勝負が終わってから喚いても遅いぜ? 約束は――」

「ああ、分かってる分かってる。勝負の前に交わす約束は守るし、勝負の条件もそっちに従う」

 

 そうしてフマが手早く話をまとめていく。

 その手際が明らかに手馴れていて、絡まれたときの対策がマニュアル化されているらしいことに僕はちょっとだけ呆れてしまった。





 ギルドの表には、大きな人だかりができていた。

 その人だかりは、騒ぎを聞きつけた野次馬たちで、中心から少し離れて観戦をするように取り囲んでいる。


 その中心にいる僕たち3人は、チェーンメイル装備の5人の男たちと対峙していた。


「魔法、武器の使用は認めるが、周囲に被害の出る手段はナシだ。

 負けを認めさせるか、戦闘不能にすれば勝ち。

 俺たちが勝てば、おチビちゃんには少々付き合っていただく。

 妖精が勝てば、お咎めはなしだ。それでいいな?」


 男は、にやにやと笑っている。


「勝負後の条件が対等じゃない」


 僕は声を上げたが、それが聞こえるのはフマとニィだけ。

 フマがそれに答える。


「勝負は初めから見えているさ」

「いや、まあそうだけど」

「任せておくさ」


 フマは平然とした表情で、向こうの男に答える。


「それでいいぜ。で、誰と誰が勝負するんだ?」


 フマの問いに、男たちが5人とも前へと進み出た。


「そっちは妖精、こっちは俺たち全員だ。文句はねえな?」

「ああ、いいぜ」

「何が『対等な勝負』だ! こんなの、全然対等じゃない!」


 僕は相手の身勝手な行動につい声を荒げてしまう。


「ケイ、落ち着くさ。こういうのは、()()()()()()()()()()()()()()


 フマは企みがあるらしく、垂れ目を細めてにやりと笑う

 僕は言葉を飲み込み、自分の能力を苦々しく思いながら頷きを返した。


 ちなみに、なぜ勝負の人員がフマだけかというと、ニィは傷ついたら向こうも困るだろうから分かるとして、僕の存在を認識されなかったためだ。

 リーダー格の男には認知されたけど、他の4人には見えていない。「おい、だからガキんちょが1人いただろっ?」「いや、だからいなかったって。リーダーが一人芝居を打っているのは見えたけどな。なあ?」「そうだぜ? 白昼夢でも見てたんじゃねえか? へへ」「チッ、もういい。邪魔モンが減って悪くはねえしな」こんな感じで僕の存在は勝負から抹消されていた。

 僕の存在を明かして参戦することもできたけど、フマに止められたので控えた。あの5人がフマに勝てるとも思えなかったので、大人しく見守ることにしたのだった。


 フマと、チェーンメイルを着た男たち5人が向かい合う。

 僕とニィは、フマの後ろに下がって見守る。


「オレはいつでも準備はいいぜ。そっちのタイミングで始めてくれ」


 フマがそう告げた


 男たちは相変わらず嫌らしい笑みを浮かべたまま、それぞれが剣を抜き放つ。

 そして、構える。


「《身体強化(フィーズ・フォルス)――2(ツァイ)》」

「《身体強化(フィーズ・フォルス)――2(ツァイ)》」

「《身体強化(フィーズ・フォルス)――2(ツァイ)》」

「《身体強化(フィーズ・フォルス)――2(ツァイ)》」

「《身体強化(フィーズ・フォルス)――2(ツァイ)》」


 始まったのだろう、5人が同時に詠唱する。

 途端、彼らの体を流れていた魔力が消費された。

 呪文の意味は分からないけど、今までの経験から、身体強化の魔法だと思う。


 彼らは重心を下げて、一歩目を踏み込んだ。


 男たちの詠唱に続き、フマの詠唱が高らかに響き渡る。


「《身体強化(フィーズ・フォルス)――4(フォール)》」


 フマのほうも、魔力を消費して魔法が発動する。


 ――辺りが静寂に包まれた。


 両者とも、戦闘の準備は整っている。

 これから勝負が始まるのだろう。


 僕はそう思っていた。


 しかし、予想は裏切られる。


 勝負は始まっているはずなのに――誰も、動かなかったのだ。


 フマの詠唱に、相手の男たちだけでなく、ギャラリーたちでさえ、静まり返って微動だにしない。

 そして、誰もが目を丸くしていた。


「……今、なんて?」


 一歩を踏み込んで、踏み込んだだけで終わった男が、力のない声で尋ねてくる。


身体強化(フィーズ・フォルス)――4(フォール)だ。それがどうした?」


 フマはしたり顔で返す。


「……嘘、だろ? はったりだ。ただの妖精が、4(フォール)を習得しているはずがない」

「だったら、試すか?」


 フマは、そのときになって初めて魔力障壁を張る。

 体内の魔力を抑えることなく、体の周囲に濃密な魔力を展開させた。


「っ!」


 男たちは、苦悶の表情で膝をついた。

 それは、ギャラリーたちも同様だった。


 フマはすぐに魔力障壁を解く。

 フマの魔力に圧されていた者たちに、生気が戻った。


 なお、僕とニィはフマの魔力障壁に合わせて自分の魔力障壁を展開していたため、影響はない。


「お前は……なんなんだ……!?」


 勝負をしていたはずの男たちの顔には、先ほどまでの余裕は皆無で、すっかり恐怖が張り付いている。

 それに対して、フマはどうということはないとばかりに明るい調子で答える。


「ちょっと強い妖精さ」


 彼らは何か言いたげに口をパクパクとさせる。


「ああ、そうそう、こっちのニィナも、オレと同じくらいの力はあるさ。ニィナ、身体強化(フィーズ・フォルス)を見せてやれ」


 ニィはフマの意図を理解し、魔法を発動させる。


「《身体強化(フィーズ・フォルス)――4(フォール)》」


 ここまでくれば、僕にもフマの企みは理解できた。


 まず前提として、フマとニィの使う身体強化の魔法は、高等な魔法なのだろう。少なくとも、冒険者に関係なく一般人ですら絶句するほどに。

 次に、フマは実力を示した。向こうはフマをただの妖精と高をくくっていたようだけど、フマは妖精女王の直系だ。ただでさえ妖精は高い魔力を持つ。ましてやフマなら、そこらの冒険者なんて眼中にない。

 最後に、ニィをフマの同列に持ってきた。こうすることで、フマだけでなく、ニィすらも、ちょっかいをかけられる相手ではないと認識させた。


 その証拠に、ニィが呪文を唱えたことで、相手の男たちはただでさえ青かった顔面を蒼白にした。


「ま、負けだ。俺たちの負けだ……。許してくれ……」


 彼らは膝をつき、頭を下げる。

 フマの企みは見事に成功したのだった。


「じゃあ、オレたちは行くぜ」


 フマが先導し、僕とニィはギルドの中へと戻っていく。

 フマに聞いたところによると、絡んでくる冒険者には実力を示すのが早いため、毎回そうしているらしい。


 そしてフマの狙い通り、それから受付の順番を待つニィに絡んでくる冒険者はいなかったのだった。




 冒険者ギルドといえば、主人公に絡んでくる冒険者を返り討ちにするのがテンプレですよね。

 まあ、今回返り討ちにしたのはフマですけど。

 体を張った佐々倉啓に、ただでさえカンストしているニィナリアの好感度が上昇したとかしなかったとかは余談ですね。


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