20話 ニィナリアへの思い
2014/11/29 一部表現を適切なものに修正しました。
2014/10/10 タイトル変更しました。
ベッドの上で、僕はニィに膝枕をしている。
実際は腰に抱きつかれているだけなのだけど、ニィの頭が僕の膝の上に乗っているので、膝枕には違いない。
ただしうつ伏せの状態ではあるが。
フマも同様の格好をしている。
ニィの膝の上でうつ伏せになって、自分の頭をニィの膝にうずめている。
こちらは不貞寝しているかのようにぴくりともしない。
僕はニィの赤髪をすいていた。
光にかざすように。あるいは感触を楽しむように指の間を滑らせて。
ニィの髪は、長すぎず、短すぎず、ちょうど僕の膝にあふれる程度で落ち着いているので、触り放題だ。
波打ちながら広がる様は、色合いだけなら赤い海。
僕の指は、すいーすいーと航海していく。
とても穏やかで、静かな海。
だからだろうか、僕の心まで、穏やかで、落ち着いた気持ちになってくる。
ニィは時折、甘えるように身じろぎをする。
ニィの顔が僕の膝をくすぐるので、ニィが動くと僕まで身じろぎしてしまう。
そんなときには、僕は片方の手でニィの頭を撫でるのだ。
動かないでくれと。こうしてあげるから勘弁してくれと。
すると、ニィは動くのをやめる。
そうして数分したら、催促するようにまた動くのだ。
髪をすき、頭を撫でて、髪をすき、頭を撫でて。
それを延々と繰り返して、僕は誰かが起き出すまで待っていた。
……本当に、穏やかな時間だ。
心がとても安らぐ。
もし、こんな時間がずっと続くのなら、僕はニィと、ずっと一緒にいたいと思う。
そう、ずっと一緒に……。
……僕には「恋」というものがよく分からない。
可愛いければ可愛いと思うし、美しかったら美しいと思う。
魅力があれば、離れたくないとも思う。
でも、それだけだ。
きっと「恋」というものは、それ以上の感情なんだ。
真っ直ぐなニィを見ていると、そう思う。
「恋」というものは、それを疑えないほどに圧倒的。
認めたくなくても、認めざるをえないほどの存在なのだろうと。
だから僕は、「恋」を知らない。
そんな感情に心当たりがない。
だから、ニィの気持ちもほとんど理解できていないだろう。
でも、そうでなくても、僕はニィと一緒にいたいと思える。
そう思えるほどに、ニィの温もりは居心地がいい。
それはまるでニィの髪や瞳の色のように。
きっと炎は温かで、僕の心を温めてくれるのだろう。
返事を……決めてしまっても、いいのかもしれない。
僕はもう、ニィを手放したくないと思っているのだから。
「……」
僕は無言で、この穏やかな時間を噛み締める。
1秒1秒を逃してしまわないように、まんべんなく。
そうして、30分ほど過ぎたあたりだったか。
すぅ~、すぅ~。
かすかな寝息が聞こえてきた。
見れば、ニィの小さな背中が規則的に上下している。
「……待ちすぎたかな?」
もうすぐお昼ご飯の時間だけど。
フマを見ても、寝ているのか、規則正しい呼吸を繰り返している。
んー……、まあ、いいか。
僕は背中から倒れて仰向けになり、乳白色の天井を眺めながら、目をつむった。
正午を過ぎたころに目覚めた僕は、ニィとフマを起こして、村長の家を出た。
その際、ニィとフマは、1泊のお礼を村長に告げていた。
もう村長にお世話になる必要はない。
避難していた村人が帰ってきているから、再開した宿に今夜は泊まるのだ。
僕らは少し遅めの昼食を取る。
お馴染みとなった食堂には、冒険者の姿は一転して見えず、村人がちらほらと座っている程度だった。
僕はメニューに粥があったので、試しに頼んでみた。
どんなものが出るかと期待していたのだけど、フレークのようなものがどろどろした粥が出てきた。
麦のような匂いが喉に詰まる。
味は塩味で、燻製の肉が入っている。
なんか予想外だったけど、こういうものと思えば、普通に食べられた。
ニィも同じものを頼んでいた。
ニィは食事のとき、興味深そうに食べるのだけど、彼女は日々の食事をしているというより、観光をしているような気分なのだろう。
毎回食事の感想を言ってくれる。
今回の粥は、「シンプルな風味で、素材独特の雑味が楽しめる」だった。それ、褒めてないよね?
僕が食事を取るとき、周りからどのように見えているのか気になる。
【存在希薄】の効果で、スプーンがひとりでに動くように見えるのだろうか。
いや、手に持ったものは【存在希薄】の効果を受けるから、皿の中のものがひとりでに減っているように見えるのかもしれない。
ただ、それを不審がられることはなく、というのも、周りの視線がニィに引き付けられるからだ。
ニィの美少女っぷりもさることながら、食事を取る光景が、一言で言えばお行儀がいい。
流れるような所作で、食事を口に運ぶのだ。
場違い感がはんぱない。
貴族や王族のお忍びだと思われていないか心配だ。
身なりもいいから、不埒な輩が寄ってきそうだけど、今のところそれはない。
フマという妖精が傍にいるからか、それとも100人抜きをしたという僕の噂が広まっているのか。
どちらにせよ、このまま何もないことを祈るばかりだ。
お昼を終えた後は、旅に必要な物を買い揃えた。
出発は明日の朝。馬車の護衛をしながらの、1泊2日の旅。
その間の食糧と、テントや寝袋、ロープなど、野営に必要な道具一式を買い込んだ。
量に糸目はつけなかった。荷運びは、《作成》した異空間に丸々放り込めば事足りる。
買ったそばから《接続》でゲートを作り、ぽんぽんと収納していった。
……で、それが終わったら、服屋に行った。
ニィが、「村にいる間は、庶民の服を着たい」と望んだからだ。
1時間ばかりあれこれと取っかえ引っかえした結果、普段着を3着、寝間着を2着購入した。
ニィは自分で支払っていて、ギルドカードを使っていた。
ニィは今朝、ギルドカードを発行したばかりだ。どうやって入金したのかと聞くと、「レーィが入れてくれたの。連絡したら、すぐに対応してくれたわ」と返ってきた。
話によると、ニィがギルドカードを作ったら、魔王城に連絡するように言われていたらしい。
連絡がいくと、そこからレイチェルさんに話がいき、レイチェルさんのギルドカードからニィのギルドカードに入金がされたのだそうだ。
ニィは早速着替えていた。
冒険者のかっこいい装備から、村娘の少女らしい服装に変身だ。
服単体ではぱっとしなかったのに、ニィが着ると、途端に華やかになった。
僕が呆気に取られていると、ニィは嬉しそうだった。
なお、ニィの残りの服は、僕の異空間に収納した。
「旅の荷物」フォルダに加えて、新たに「ニィの服」フォルダができあがったのだけど……、そのうち、家1軒分の収容能力を代用させられたらどうしよう。そのときはストライキしてもいいよね?
諸々の用事を終えると、夕方になっていた。
僕らは宿に向かう。
部屋を借りるときばかりは僕の存在を認識してもらわないといけないので、僕は受付の女将さんに触れて、驚かれるといういつもの儀式を行った後、2部屋を取った。
2食付きだったので、宿で夕食を食べ、それからは各自自由時間とした。
するとやはりというべきか、僕の部屋にはニィがやってきた。
僕自身、1人だと暇だったし、……ニィには言っておかねばならないこともあったため、ちょうどいいといえばちょうどいい。
僕はニィを部屋に迎え入れた後、2人でベッドに腰掛け、ニィが毎度のように腰に抱きついてきて、僕はそれを受け止める。
日は落ちているので部屋は薄暗く、光の魔法も使っていない。
こういう視界の悪い環境では、言いにくいことでも言えてしまうものだ。
そのうえニィはお喋りなほうではなく、2人で密着したまま無言を楽しむこともしばしば。
何かを言い出すタイミングは、そこらじゅうに転がっているといっても過言ではない。
僕は口を開け、……考えて、思い至って、……何も言わないで口を閉ざした。
……本当は、そろそろ告白の返事をしようかと思っていた。
もう僕の心は決まっていたし、返事を先延ばしにする理由もない。
だから、この機会に、言ってしまおうかと考えていた。
答えはもちろんイエスだ。
ニィが可愛いからというのもないわけではない。
でも、それ以外にも、僕はニィを失いたくないし、ニィの気持ちに応えたいと思った。
別に一目惚れじゃなくたっていいじゃないか。
これから少しずつニィと同じステージに登っていけばいい。
だから、この場で、ニィに告げようと思っていた。
……でも、考えてみたら分かることだった。
今この場で告白の返事をするとします。
僕とニィは恋人となります。
その後、どうなる?
……ベッドの上で、2人きりという状況。
ニィはどういう行動に出ると思われます?
こういってはなんだけど、僕だって男だ。
「恋」という感情を理解できていなくても、ニィほどの美少女に迫られれば、どうなるかなど目に見えている。
でも、そういうのは、できれば僕も「恋」してからがいいと思うんだ。
しかし、だ。
そうなると、今度はニィに負担をかけるかもしれない。
せっかく恋人同士になっても、相手に手を出すなという、生殺し状態を強要することになるのだ。
もちろん、ニィが欲求不満になると確かめたわけでもない。
でも、そうなる可能性がある以上、というか今までのニィの甘えたがりな言動からその可能性が高い以上、安易に恋人という関係に移行してもいいのだろうか。
もう一度タイミングを考え直したほうがいいのではないのか。
僕はそう考えるのだ。
……どうしよう。
僕はずるいことを考えている。
このまま返事を保留にして、恋人の関係にはならないで、しかし友達以上のスキンシップを取る。
今までの関係を故意に続ける。
僕が「恋」を体感するまで。
そしてニィが迫ってきたら、こう言うのだ。
まだ恋人じゃないから、それはできないと。
そういうのは、恋人になった人とするものだと。
そんなのは、誠実じゃない。
自分を守ろうとして、相手を傷つけているだけだ。
男なら、恋人になりたいと思うなら、自分を傷つけてでも、相手を守らなければならないだろう。
そう、勘違いをしてはいけない。
僕はニィに応えたいんだ。
ニィの一番になりたいんだ。
「……」
あ、やばい。
支配欲が出てきた。
具体的にはむらむらしてきた。
僕はニィの髪をすいている手に意識を集中させる。
気を抜けば、ニィの耳に、あるいは肩に、手が伸びてしまいそうだ。
……ちょっと待て。こんな状態で告白なんでできない。
というかなんで興奮した?
どこに興奮する要素があった?
わけが分からない。
とりあえず、困ったときのフマ頼みだ。
最近、魔力感知で仲間の魔力を認識できるようになった。
だからフマが森の中にいるとしても、フマの居場所を掴むことができる。
僕はフマの場所に、魔力を飛ばす。
遠隔操作でフマを包み込んだ。
「《転送》」
目の前にマーカーを出し、そこにフマを出現させる。
「え?」
フマは裸だった。
「きゃあああああ!?」
「ご、ごめんっ!?」
フマとおぼしき妖精は、身を隠すようにしてよがる。
僕は謝りながらも、目の前にいるのが本当にフマなのか自信がなくなった。
部屋は薄暗く、フマの姿はよく見えない。
しかも今の悲鳴は、フマらしくもない。
もしかして、人違いだった?
「……フマ?」
「……そうさ」
魔力の実体化によって服を着たフマが、目の前に飛んでやってくる。
と、とりあえず、謝っておかないと。
「本当にごめん。まさか裸だったとは思わなくて」
「いや、別にそれはいいさ。ちょっと驚いただけさ」
フマはばつが悪そうに、そっぽを向いている。
僕も視線を合わせづらかった。
「……でも、来てくれてよかったよ」
おかげで興奮も冷めた。
「なんの用だったさ?」
「えーっと」
ニィと付き合うことにしたよ、という報告をしてしまうか?
でも、こういうときのシチュエーションって、こだわるべきかもしれない。
特にニィは、少女の色が強いから、ロマンチックなほうがいいだろう。
そうと決めたら報告はやめだ。
「汗を流したいと思って」
「え、オレが水を出すのか? ニィナがやるんじゃないのか?」
同意とばかりに、ニィの腕に力がこもる。
「……1日刻みで交替とかは?」
「面倒さ。そもそもオレに頼む理由がないさ」
「……はい」
僕は諦めて、ニィに水を出してもらった。
昨夜と同じように、ニィには後ろを向いてもらい、僕は汗を流す。
それから僕はニィが同じ水を使うのを止めることもできず、部屋を出てニィの水浴びを待った。
……告白の返事はシチュエーションを整えてからにしよう。
それが終わったら……僕とニィは2人で水浴びをするのだろうか?
僕は露天風呂でのニィの裸を思い出してしまう。
再度興奮してしまいそうだったので、僕は顔を手でぱたぱたとあおいで気を紛らわせた。
あれ? 出発……?
そしてバトル展開はまだ……?




