2話 初めての魔法
2014/10/05 タイトルを変更しました。
ブックマーク登録されていて驚きました!
楽しんでいただければ幸いです!
僕は周囲を確認する。
森の中だ。
見渡す限り出口はない。
どこかから鳥のさえずりが聞こえてくる。
まだ異世界という実感は湧かない。
でも、これだけは事実だろう。
死んだ僕は転生した。
シア様の奇跡で転生を果たした僕。
直前、どこからか突入してきた少女によって、シア様の操作にミスが生じたように思えた。
しかしどうだろう? 果たして不祥事は起きたのか。
体に異常は見当たらない。
精神にも異常はないようだ。
僕は首を傾げる。
大丈夫……だよね?
いや、心配したって仕方がない。どうせ答えは出ないのだから。
僕は気持ちを切り替える。
さて。ぼーっとしているわけにもいかない。
異世界というぐらいだから、魔物がいてもおかしくないし、そうでなくても狼に襲われれば、僕は死ねる自信がある。
あるいは猪にだって僕は負けるだろう。恐ろしいことだ。
とにかく、自衛の方法を確立するべきなんじゃないかな。
「よし、レッツマジック!」
まずは魔法だね! シア様から授かった才能を生かさなきゃね!
さて、まずどうやったら魔法が使えるかなんだけど……。
僕はなんとなく魔法を使おうと思ってみる。
要はあれだ、魔法を行使する意思があれば脳裏にその方法が思い浮かぶんじゃないかと、そういう試みだ。
○○○じゃあるまいし――。
うん? ○○○ってなんだっけ?
……まあいいか。とにかく、ものは試しだ。減るもんじゃないし。むしろ減ってほしい、魔力が。そしてできてほしい、魔法が!
「よーし、……空間魔法!」
気持ちの勢いで叫び、魔法を使おうと念じてみる。
果たして――。
「……うん、駄目ですよね」
何も起こらなかった。
うんともすんとも言わない。
魔力が減った感じもしない。
「うーん、どうするか……。まずは手札を確認しようか」
そう、まずはできることを認識しないと。
「魔法に関してシア様から授かった才能は、【空間魔法】、【魔力操作】、【魔力感知】、この三つのはず。【魔力増大】は代償が足りなかったからもらっていない、と」
僕は考える。
空間魔法を使いたい。
でも使い方が分からない。
さあ、どうしようか?
さっきは漠然と考えた。魔法を使おうと。
しかし駄目だった。
ならば……。
「そうだね、より具体的に考えてみようじゃないか」
僕は想像する。魔法を行使するまでの流れを。
まずは結果だ。
空間魔法を行使した結果、どういう現象を起こしたい?
「やっぱり最初は、空間転移でしょう」
森を抜けるのが楽になるだろうし、何より魔物や獣に襲われても簡単に逃げられるだろうから。
さて、結果が決まれば次は過程だ。
転移するには、どういう過程が必要だろう?
転移先の座標指定はいるだろうなぁ。
それから、魔力を消費し、魔法が発現して、転移すると。
流れとしては、座標指定、魔力消費、転移という感じかな?
そこまで考えた瞬間、体がぼんやりと温かくなった気がした。
「これは……?」
体を見下ろす。もちろんそこには何もない。
しかし、分かる。全身を巡る何かの存在。
温度があるわけじゃない。体の中から感じられる温かみ。
触覚があるわけでもない。皮膚の下を流れる気体のようなもの。
少し、むずがゆい。時間がたてば慣れる気がする。
「ふむ。これはもしかすれば、もしかしなくても魔力だよね?」
思わず笑みがこぼれた。
これは前進に他ならない。
僕は高揚感を抑えつつ、己の魔力に意識を向ける。
魔力感知ができたんだ。魔力操作もできるんじゃないか?
全身の魔力を右手に集中させるイメージ。
「……おお!?」
見えるわけじゃない。でも、右手に魔力が集まるのが分かる!
これは――いける!
僕は魔力を右手から外へと放出する。
思ったとおり、体から離すことに成功した。
離脱した魔力は、僕の思うがままに操作できる。
意志を持った生き物のように、空中をすいすいと泳がせることができた。
「……なんとなく、体内操作より体外操作のほうが難しそうだと思ったんだけどな。まあ、うまくいくに越したことはないか」
あるいは、【魔力操作】という才能のおかげなのか。判断材料はない。
「さて、仕上げかな」
実のところ、魔力を操作している間に魔法の使い方に当たりがついていたりする。
いける気がする。
……多分、魔法はイメージだ。
鮮明な想像を糧にして、魔力が現象へと昇華するのだろう。
――僕は、思い描く。
「……《転移する空間……、座標の選択。》」
僕は呟きながら、己の魔力を飛ばして二メートル先の中空に停滞させる。
それと同時に、力むようにして魔力を凝縮させていく。
「……《己の身を――映せ!》」
イメージしたのは、目の前の魔力の塊から自分が出てくる姿。
「《――写せ!》」
体内の魔力が……高ぶっていく!
「《――移せ!》」
その瞬間。
噛み合った。
「っ! よし! 《空間転移!》」
体内と体外で、共鳴する魔力。
呪文ともいうべきワードを言い終えるや、僕は二メートルだけ先に進んでいた。
無意識に歩いたのか? いや、違う。二メートル先に転移していたのだ。
歓喜に喉が震えた。
「っ~~!」
ガッツポーズ!
「よしよしよし! 移動は完璧! これで何がきても逃げられる!」
このとき僕は思ったね。
さあ猪でも狼でも魔物でも何でもかかってこいと。
空間転移で逃げきってみせると。
もちろん本気じゃなかった。
成功したとはいえたったの一回。
距離なんかたかだか二メートル。
まだまだ実戦レベルじゃない。
ガサ。ガサガサガサ。
「……ぁ」
そう、まだ実戦レベルじゃない。
だから本当に来なくてもいいのよ。
「…………」
魔法に集中して接近に気づかなかったのだろう。
姿を現したのは、高さ二メートルはあろうかという巨大な狼。
漆黒の体毛の上を、ぬらりと覆う厚い膜が感じられる。
その魔力、優に僕の四倍以上。
それ以前に、前蹴り一つで死ねる気がする。
初めて目にする魔物の存在。
恐怖に肌が粟立ち、呼吸を忘れて釘付けになる。
僕は転生して早々、二度目の死を目前に迎えた。