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12話 魔王の言葉

2014/12/3 一部表現を修正しました。

 魔王救出部隊。

 それは4人を1部隊とする、4部隊の、計16名。

 それぞれの部隊は、主戦力たる高位四家の魔人2名、雑務をこなす魔人1名、空からの哨戒を務める魔物1体で構成されている。

 最初の2名は、武力重視。S級とA級相当の実力者。

 雑務の1名は、補佐担当。部隊間の連絡、および魔王城本部との連絡をこなし、さらには広範囲感知魔法で魔王を探す。

 最後の魔物1体は、(わし)の魔物。名をヴェズルフェルニルといい、A級の魔物で、空からの探索と偵察を行う。


 彼ら4部隊は、アイル村から東北東12キロメートル地点の森の中に隠されていた転移装置から姿を現すと、魔人たちは浮遊に準ずる魔法を、魔物は翼を用いて空高く飛行した。

 

 彼らはアイル村へと向かう道中、近辺を魔力感知で探査。

 結果、アイル村から町に続く街道に、100人強の行列ができていることを知る。

 

 炎を体に纏い飛行する初老の男は、氷の足場を作り空中を疾駆する壮齢の女性へと声を掛ける。


「レイ嬢よ、この人間の流れをどう見るかのう?」

「はい、エンデベルド卿。キーグリッド卿の魔力に当てられて、アイル村に避難命令が出されたものと思われます」

「そうじゃろうのう。では、村から南の森に4キロと、5キロにある反応はどうかのう?」

「……エンデベルド卿。私では動物と判別できない微弱な反応です」

「4キロ地点には、反応が二つ。5キロ地点には、反応が四つじゃ。レイ嬢よ、これをどう見るかのう?」

「はい。両方に、“第三者”の疑いがございます。……ところでエンデベルド卿。ニィナ様の魔力は補足できないのでしょうか?」


 時速60キロほどで駆けながらも息一つ乱さない女の質問に、同じ速度で滑空する男はおかしそうに笑った。


「ほっほっほっほっ。ニィ嬢をうまく隠しておるのか、この近辺にはおらぬのか、……それとも、うまく隠れておるのか」

「……やはり……」


 声のトーンの落ちた女に対し、男は朗らかに告げる。


「レイ嬢に責任などありゃせんよ。たとえレイ嬢がニィ嬢に旅人への憧れを持たせたとしても、ニィ嬢がその一心で城を抜け出したのだとしてもじゃ。ニィ嬢にはもともとあそこは窮屈な檻じゃった。鳥が空に羽ばたこうとするのを、誰が責められるというんじゃ?」

「……はい。エンデベルド卿」

「なに。それにニィ嬢の脱走と決まったわけでもなかろう? 本当に誘拐された可能性もないとは言い切れん」


 どこかおかしそうな含みを持たせた男の口ぶりからは、誘拐された可能性など一つも考えていないことが窺えた。

 女も同様なのだろう。迷いのない口調で断言する。


「はい。ゼロだとは思われますが」

「ほっほっほっ。仮にも魔王じゃからのう。……さて、どうやら4キロ地点の反応の一つは、話にあった妖精のようじゃ」

「っ! ではそこへ?」

「向かうとしようかのう。……伝令。アイル村、南へ4キロ地点の反応に向かう。全体へそのように」


 男は、風を纏うもう一人の魔人へと通達する。

 その魔人は各部隊の連絡を担う魔人へ、そして魔王城本部へと、共有魔法を用いて連絡を行った。


 直後、四つの部隊は妖精のいる場所へと行き先を変える。




 ****




 僕とニィは森の中を、フマは上空を、村へと向かって進んでいた。

 フマには村までの道案内を頼んである。空から見渡したほうが村までの方角が分かるためだ。

 そのためフマには、一人先に前方を飛んでもらっている。

 僕はその方角へとマーカーを飛ばし、木々を貫通させながら一直線に向かわせて、気が向いたら転移する。

 本当は村までの数キロを一気に転移できるとは思うのだけど、もしかしたらフマを見失うかもしれないし、そこまで転移回数を節約する必要もない。

 大体500メートルごとに転移を繰り返そうと思っている。

 僕の腰にはニィがひっついていて、転移する際には彼女も一緒だ。


 道中は割と暇だった。

 マーカーを飛ばす速度は軽く音速を超えられるので、フマが先に行くまでの間、僕とニィはその場に突っ立っているだけでいい。

 そのわずかな隙間時間で、僕はニィに気になっていることを聞いてみた。


「ニィ。僕と初めて会ったとき、『ずっと待ってた』みたいなことを言ってなかった? あれはどういう意味だったの?」

「……それは、……えっと……」


 ニィはもじもじと顔を俯けた。

 

「私ね、旅人は自由だって教えてもらったの」


 ニィは恥ずかしそうにしながら、話を続ける。


「レーィは言ってたわ。旅人は自由だ、旅人になればどこへでも行けるんだって。

 それでね、私思ったの。……いつか、旅人が私を迎えに来てくれないかしらって……」


 最後のほうは、羞恥で尻すぼみになっていた。

 これは……白馬に乗った王子様が迎えに来てくれるみたいなお話なのだろうか?


 ニィの話は一区切りついたらしい。


 ニィは困ったような上目遣いで僕を見上げた。

 

 うっは!

 裸シャツからの上目遣い!

 誰だよこんな小悪魔にしたの!

 上着を着せたのは僕だけどね!?


「……え、えっと……つまり、その旅人が僕だったと?」

「うん」


 ニィは僕のわき腹に、顔を埋めるようにして頬をくっつける。

 肌がぴとっとくっついて恥ずかしい。あと、ニィの赤髪がちょっとくすぐったい。


「……《転送》」 


 フマがそこそこ進んだので、一度進んでおく。


「……魔王って、そんなに自由が」


 僕は少女がどうして自由に憧れるかを聞こうとした。

 でも、言葉を途中で終わらせる。

 僕は、こちらへと向かって空を飛んでくる……16の反応に警戒する。

 僕の少ない魔力量では相手の魔力量を測ることはできないけど、でも、その魔力の集団が、何か明確な意思を持ってこちらへと向かって来ていることは分かった。


 僕らを目的とする集団。僕はある考えを思い浮かべる。


「……魔王捜索隊?」


 そんな。まさか早すぎる。


 僕は否定したかったが、ニィにそれを遮られた。


「あれは……お爺様。それにレーィも」

「もしかして、知り合い?」

「魔人の……おそらく私を探しにきた部隊でしょうね」


 ニィは表情を曇らせるも、すぐに切り替えて凛とした雰囲気を纏う。


「私が魔王として出迎えます。フマをこちらに。離れてると襲撃されるかもしれないわ」

「……了解」


 僕は急いでフマに魔力を飛ばし、多少大ざっぱにフマを包み込むと、すぐに目前へと転送させる。


「ふわ!?」


 フマは奇妙な声を上げて、幹にぶつかる寸前に飛行を停止する。

 僕はフマの肩に触れて、僕の存在を認識させた後、現状を説明した。


「魔王捜索隊がもう来たみたい。……ほら、あっちの方角。それで、ニィが出迎えるってさ」

「フマ、お願いがあるの。見通しをよくしたいから、半径20メートルほどの範囲の木をなぎ払ってほしいの」


 フマは一度に声を掛けられて数秒驚いていたものの、すぐに応じて動き出す。


「分かったさ。……《風魔刃ウィード・ウェル・ブレイトーラ――×8(クルルルクス・エイタ)》」


 僕らを取り巻くようにフマの魔力が展開し、そこから八方に向けて、幅5メートルほどの風の刃が射出される。

 それらは刀身を水平に維持しており、一抱えほどの幹をスパスパスパッと切り裂いていき、蛇行しながら範囲内の樹木を次々と切り倒していく。

 目標の木々を全て伐採し終えると、フマは新たに呪文を唱える。


「《風魔砲ウィード・ウェル・キャニトーラ――×40クルルルクス・フォール・トエーネ》」


 フマは全方位に向けて、直径1メートルほどの風の砲弾を4回に分けて斉射した。

 切り倒されていた木々が砲弾を受けて、軽々と10メートルほど吹っ飛び、範囲外の樹木へとぶつかって落ちる、その繰り返し。

 瞬く間に突如として、周囲に空き地が完成する。

 僕は現実味のないその光景を、ぽかんとしながら見送った。


「うん、ありがとう」


 すっかり魔王モードへと移行し始めているニィは、キリリとした赤い瞳でフマに視線をやり、それから、“客達”のほうへと体を向ける。

 彼らの姿はまだ視認できないけど、もう数十秒で見えるはず。


 僕とフマは、後のことをニィに任せることにして、ニィから5メートルほど後方へと下がった。


 僕は、ニィの、威厳を醸し出す雰囲気を見ながら思う。


 ――魔王が裸シャツで出迎えてもいいのかと。


「……まあ、どうしようもないよね」


 多少なりとも、というか全面的に僕に原因があるのだけど、それにはあえて目をつぶり僕は努めて考えないようにして、彼らの到着を待つことにしたのだった。




 僕はまず、魔力障壁を張る。

 魔力の扱いに長ける妖精のフマでさえ認識できなかった圧縮度。

 魔力障壁は相手の魔力を弾く効果がある。


 次に、これまた高圧縮したマーカーを、空き地の左右に2個、森の中に8個、空に8個、配置。

 逃走経路を確保する。


 僕は前方の空を睨む。

 人間離れしたスピードで、四つの影が向かってきている。


 その内の一つは鳥の魔物。

 翼を広げた長さが3メートルを超える巨大な鷲のようだ。

 その1体は途中で別れて、上空で待機する。


 それ以外の3人。

 それぞれが濃密で莫大な魔力障壁を展開している。


 3人はそれぞれ別々の移動手段を用いていた。

 1人は炎を身に纏い、1人は氷の足場を生成し、1人は風を吹かせている。

 3人は、ニィの10メートル先に降り立つ。


 また、この3人と1体のほかにも、森の上部スレスレを隠れるように飛んできて、森の中にひっそりと待機する3つの部隊がある。

 それぞれ、空き地の後方と左右に展開しており、魔力を全く隠していない者と、その後ろで息を潜めるように魔力を隠している者との二手に分かれている。


 と、前方に降り立った3人が、こちらへと歩み寄ってくる。


 先頭は、赤髪をオールバックにした好々爺。

 真ん中は、水色長髪を後ろで束ねた美女。

 最後尾は、暗い茶髪の中年男。


 僕が3人を観察していると、ふいに後頭部を誰かがしがみついた。

 大きさからしてフマだろう。怖いのか、震えが伝わってくる。


「あ、ああ、あれはやばいさ……。キキ、キーグリッドよりも、さらに上さ……」

「どの人?」

「あの、真ん中の爺さんさ……」

「へぇ。……魔王級?」


 僕がそう尋ねると、フマの震えが落ち着いてきた。


「……いや、ニィナは規格外さ。そうさな、あれと比べたら、全然大したことないさ」

「そう」


 僕は何気なく会話をしながらも、魔力を追加で飛ばしていた。

 その数、12。前方の3人にそれぞれ四つずつ。

 《固定》にも《転送》にも使える量だ。


 3人は、ニィの数メートル前までやってくる。

 裸シャツ姿のニィナに対して、その格好を訝しむ者はいないようだ。

 もしかしたらいろいろと予想がついているのかもしれない。


 3人は立ち止まる。

 同時に、3人は(ひざまず)く。


「陛下」


 3人を代表して、先頭のおじいさんが声を上げた。


『よい。楽にしろ』

「はっ」


 ニィの……いや、魔王の言葉。

 それは僕の脳を直接揺さぶり、びりびりと痺れさせる。


 ……ああ、これは、なるほど。

 裸シャツとか関係ない。跪きたくもなる。


 魔王の言葉。それに覇気。

 ニィから発せられる全てに、僕は体が屈服しそうになるのを必死で抑えた。


 ニィの許可を得た3人は、立ち上がって直立する。


『随分と早かったではないか』

「はい。我らが陛下のためなれば」

『そうか。心配をかけたな』

「いえ。陛下のご無事は確信しておりました。陛下に敵う者などおりません」

『それならばよい。……さて、(われ)が城を無断で抜け出した理由だが』

「……」

 

 僕はニィが言い訳をするとは思えなかった。

 それは性格的な意味ではなく、魔王としての尊厳が、「言い訳」という言葉を打ち消していた。

 魔王が言い訳など口にするとは到底思えない。魔王の言葉なのだから、正当な理由があるだろう。

 それほどの重圧が、魔王の言葉からはにじみ出ていた。


『神の意思だ』

「……」


 僕はその言葉に疑問を持たない。いや、持てない。

 おそらく僕を含めた全員が、魔王が続きを話すのを静かに待つ。


(くだん)の神代魔法のことだが、その時に神の使いが現れている。我はその使いに会ったのだ。そして、(えにし)を感じ取った』

「その神の使いはどのような目的を?」

『それは分からん。使い自身も、それをうまく認識できていないようであった』

「……本当にそれは、神の使いでございましょうか?」

『証拠はない。使いの話も、聞き終えたわけではない。が、(われ)を正面から殺せる人間だ。それでもなお疑うか?』

「っ!?」


 おじいさんは驚愕に目を見開く。

 ……神の使いって、僕のことを指してるよね?

 ねぇ、ニィ、君の言葉はどこまでが本当なんだい?

 全てに重みがあって、僕には判断できないよ。


『もちろんそれが証拠になるとは思わない。しかし(われ)を上回る人間が存在している時点で、正常なことではない。そこに神の介在があることは、疑いようがないだろう。そして、その者に対して我は直感した。この者と共に行き、結末を見届けねばならないと』

「……しかし、城を空けるのも正常なことではありません」

『適任がいるだろう。フルードに任せる』

「……先代魔王陛下ですか」

『心配するな。(われ)は魔王をやめる気はない。我が必要な時は呼べ。それ以外の連絡は、共有魔法を使え。フルードには魔王の抜けた穴を、裏で埋めてもらう。……これまでと何ら変わらんだろう?』

「……ですが」

『神の使いは転移魔法を扱う。魔石に魔力を込めれば、壊さずとも転移は可能だ。呼び出しにはいつでも応えよう。これでも不満か?』

「……いえ、御意にございます。それでは調整しますので、しばらくお待ちを」


 3人は恭しく一礼して、離れていく。

 しかし空気は重いままなので、僕とフマは、ニィには近づかず、後ろから見守る。


「……さすが、魔王だね。僕らに対する態度とは全然違う」

「当たり前さ。特にこの場に関しては、向こうの魔法で魔王城の幹部たちに中継されているはずさ。身内とはいえ、公式の場と変わりないさ。それに魔王としての責任も問われていたさ。だからこそ威厳を崩すわけにはいかないさ」

「そうなんだ」

「オレとしては、ケイとニィナに、今回の神代魔法の件について詳しく聞きたいさ。二人だけで先に話していたんだろ?」


 フマは僕の頭をぺしぺしと叩く。

 フマは勘違いしているらしい。


「違う、違うって。僕はニィに何も話してない。というか、ニィの話、僕も聞きたいぐらいなんだけど。神の使いって、僕そんなんじゃないし」

「は? オマエ、あんなステータスしておいて、神の使いじゃないっていうのか?」

「うーん、神とは関わったけど、使いじゃないね。そういう意味では、ニィの言った『使い自身も目的を認識していない』ってのは、その通りかもしれないけど、僕としては、使いじゃないと主張したいね」

「……そこらへんも含めて、後で聞かせてもらうからな?」

「そうだね。隠しておく必要もないし」


 僕がシア様と会った場面から、話してもいいだろう。


 と、僕とフマが雑談している間に、向こうも話がついたらしい。

 3人はニィのもとへと戻ってくる。

 調整とやらは、終わったのだろうか。だとしたら随分と早いことだ。


「全ては、陛下のお心のままに。ただし一つ条件が。神の使いの実力を、我々はまだ把握しておりません。それに、使いの姿も。まずはその姿から拝見したいのですが、よろしいでしょうか?」

『そうだな。では使いの能力を見せよう。目の前に現れるだろうから、身構えておけ。だが攻撃はするなよ? ……ケイ。彼の前に姿を見せてやれ』

「……了解」


 ニィはこちらを振り返らずに、指示を出す。僕は空気を読んで、おじいさんの前に移動する。

 さすがは【存在希薄:Ex】。話しかけても気付いてもらえない影の薄さを遺憾なく発揮し、僕がおじいさんの前に立っても彼が僕を認識することはない。まるで無視されているような寂しさに包まれるけど、役に立つ能力なので憎むこともできない。

 僕は背後からの魔王の視線に体を強張らせながらも、おじいさんの肩をぽんと叩く。

 その瞬間、【存在希薄】の効果が切れ、認識不可のベールが暴かれる。

 ニィに目の前に現れると聞いて、おじいさんは警戒していたのだろうけど、それでもなお唐突に現れた僕に、なんと彼は顔色を変えなかった。

 ……まぶたがぴくりと震えたのは見えたけど。


「初めまして。佐々倉啓です」


 僕はあいさつをしてみた。


「……失礼しました。エンデベルド・アッシュロードと申します。それで、貴殿が神の使いでしょうか?」


 エンデベルドおじいさんの質問に、僕は苦笑せずにはいられない。


「分かりません。ただ、神と直接会ってはいます。使いかと問われると微妙ですけど」

「では、そのお力を、我らにお示し願えますか?」

「えーっと」

『一つが、存在遮断能力だ。ケイがいたことに、まるで気が付かなかっただろう?』


 僕が困っていると、ニィが言葉を継いだ。

 話はニィに任せることにして、僕はニィとエンデベルドおじいさんの間から身を引く。


「はい。魔力も気配も感知できませんでした」

「エンデベルド卿。熱源探知、生命探知、ともに反応ありません。その、目の前に誰かいるのでしょうか?」


 後ろの3人目から、報告と疑問の声が上がる。


「ササクラ様のお姿が見えないかのう?」

「はい。私には何も」

「そうか。恐ろしいのう」

『暗殺にはこれ以上ない能力だ。そしてケイは、魔法を必中にする能力も持っている。ケイ、魔力を』


 僕はニィの言わんとするところが理解できた。

 僕は魔力を放出し、圧縮していく。


「……なんと」


 エンデベルドおじいさんは、その様子に驚愕を隠せないようだった。


『見ての通り、ケイの魔力量は微小だ。しかし、魔力を圧縮する術を持っている。……あとは、この魔力を相手の体内に打ち込んで、そこで魔法を発動させればいい。この密度の魔力を防ぐ術はなく、百発百中。さらには一撃必殺というわけだ』

「……これほどの力、神の使いと認めざるをえません。ササクラ様、疑念を向けたこと、謝罪申し上げます」

「あ、いや、気にしないでください」


 エンデベルドおじいさんに頭を下げられ、僕は慌ててそれを止めた。


『もうよいか?』

「はい。陛下は、こちらの2名と?」

『そうだ。護衛もいらぬ。異論はないな?』

「はい。御意にございます。では、魔石を用意しますので、1時間ほどこちらでお待ちいただいてもよろしいですか?」

『分かった。待とう』

「では、早速」


 3人は空き地の隅に移動し、他の3部隊と合流する。

 それから少し会話をした後、エンデベルドおじいさんと、もう1人、一緒にいた美女を残して、他の全員が引き上げていく。

 

 その瞬間。


「ケーィ!」


 ひしっ。

 ニィが少女となって僕に抱きついた。


「……え? あの? ニィ?」

「どうだった? かっこ悪くなかった?」

「え? いや、かっこ良かったよ」

「ふふふっ。やったっ」


 心から嬉しそうに、僕のわき腹に頬ずりをしてくるニィ。


 ……えっと?

 魔王モードは?

 まだ魔人の2人が残ってるんだけど?

 

 僕は半笑いで、エンデベルドおじいさんと美女を見る。

 エンデベルドおじいさんは、好々爺然とした笑みを浮かべているが、愉快そうな雰囲気は感じられない。

 美女のほうは、それはもうあからさまな不機嫌顔だった。


 2人がこちらに近づいてくる。


 僕は逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。



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