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11話 旅の仲間、確定

2015/3/18 フマのアプトに【補助魔法:3】を追記しました。

2014/12/2 一部表現を修正しました。

2014/12/1 一部表現を修正しました。

2014/10/25 「前衛」「後衛」の説明を本文に挿入しました。

「ケ・イ・の・あ・ほおおおおっ!」


 僕の側頭部に飛び蹴りというか踏んづけみたいな直立姿勢でフマが直撃した。


 ごき。


(いた)ああああ!?」


 明らかに鳴ってはいけない音が僕の頚椎から響く。


「はっ!? 《治癒(ヒール)――4(フォール)!》」


 慌てて少女が治癒魔法をかけてくれた。


 僕はフマに困惑の眼差しを向ける。

 フマは顔を真っ赤にしてぷんぷんと怒っていた。


「あほあほあほあほっ! ケイの大あほーーーーっ! オレの話を華麗にスルーするなさっ!」

「え? 話? ……ごめん、何の話だっけ?」

「あほっ! ばかっ! 天然っ! まぬけっ! そいつが魔王だって話だっただろおがぁ!」

「うん? ……あ」

「『あ』、じゃないさ! なに忘れてんのさ! というかなに告白されてんのさ! そしてなにが『考えさせてください』さーーーっ! そこは断れよ!? 魔王とは付き合えませんって即断れよ!?」

「え? だって、付き合うのに魔王とか関係なくない?」

「お・お・ア・リ・さーーーーっ!」


 再び一本の矢となったフマが襲ってきたので、僕は上半身をそらしてひょいっと避ける。


「避けるなさ!」


 フマは憤怒の形相でギロっと睨む。しかし元が垂れ目ののんびり顔なので、怒っていても愛嬌がある。

 

「いいか!? 魔王だぞ!? あの、魔王だぞ!? 魔人の国の、王様だぞ!?」

「王様っていうより、女王様? というかお姫様?」

「そんなことはどうでもいいさ! そんなことは本当にどうでもいいんさ! オマエっ、人間をやめる気さ!?」

「……え?」


 人間をやめる? 何がどうしてそうなるの?


「やっぱり分かってないんさ! 

 高位四家は魔人としか子を成さない! 魔人の血を濃くするために! その王たる魔王だったらなおさらさ! 魔王の配偶者は魔人でないといけないんさ! つまりオマエは人間をやめて魔人になるって言ってるさッ!

 ああもうっ、そこで分からないって顔をするなさッ!? 魔人になればいいとか簡単に考えるなよッ!?

 ――はぁっ、はぁっ、いいかケイッ! 魔人になるには危険がともなう! 魔人になるには魔脈に浸って体を魔力に順応させるんだぞ! 魔力は人間の体には毒さ! 魔人化の生存率は半分以下なんさ! 

 運よく魔人になれたとしても今度は魔王の配偶者として縛られる! そして敵対国からは敵視される! 魔王と付き合うなんてっ……はぁっ、はぁっ、――百害あって一利なしさッ!」


 フマは言い終えると、ぜえぜえと肩で息をする。

 なんというか、すごく申し訳ない。

 僕が常識知らずなために、性格の良いフマに面倒な説明をさせてしまった。

 おかげでフマの言わんとするところが分かったけど。


「要するに、庶民の恋とは違うってことだね。言うなれば敵国のお姫様みたいな?」

「そ、そうさ! 分かってくれたか!?」


 うーん、分からなくはないけど、実感は湧かないなぁ。

 身分の壁。

 というか、魔人になれればという条件付きではあるけど、付き合おうと思えば付き合えるらしいあたり厳密には身分の壁とも違うかな。

 普通は付き合うことを許されないだろうからね。

 

 さて、僕はどうしたいのか。

 ……個人的には、愛があれば敵国のお姫様とだって付き合えると思う。

 二人でならどんな障害も乗り越えられるんじゃないかな?

 だから問題は、僕が少女をどう思っているか。

 ……まあ、分からないから返事を保留にしたんだけどね。


 僕はちらりと少女を見る。

 真剣な顔つきの少女と目が合った。

 

「……私、魔王やめる」

「オマエもあほさーーーーっ!」


 やっぱり矢となったフマが、今度は少女めがけて襲いかかる。

 女の子座りをしていた少女だけど、頭を屈めただけで軽々と避けた。


「避けんなさ!?」


 フマは叫ぶけど、少女はそれを当然のようにスルー。

 そして少女は、僕に向かって言葉を続けた。


「私、魔王をやめるわ! だから、身分とか考えないで……私を、私だけを見てっ」


 先ほどは魔王の貫禄を垣間見せた少女だったけど、今は年相応に幼さの残る顔で、必死に僕を上目遣いで見上げてくる。

 赤い瞳が不安で揺れていて、思わず僕は手を差し伸べたくなった。


「……魔王とか、関係ないよ。僕が君を好きになれば、君が魔王だとしても僕は君と付き合うさ」


 ……僕は手を差し伸べなかった。

 付き合わない理由はないにもかかわらず、付き合うという選択をしなかったのだ。


 確かに少女は可愛い。

 僕に17年分の記憶はないけど、多分出会った女性の中でダントツに可愛いし、それに絶対美人になる。

 性格だって素直そうだし、僕をこんなに求めてくれる。

 でもだからって、お試しみたいな感覚で付き合いたくはなかった。

 いや、試しに付き合うのが悪いと言いたいんじゃない。

 僕だって長年付き添った女友達とかが相手なら、イエスと答えたかもしれない。

 あるいは、互いに気になっている間柄なら――。

 でも、この少女に関しては、そういう対応をしてはいけないと思った。

 こんなに真っ直ぐで一生懸命な少女の告白には、軽い気持ちで答えたくないと思った。

 なにせ、そうでないと……こんなに一途な少女の思いに、僕は報いることができないだろう。

 思いの重さが釣り合わないと、互いの温度差が埋められないと、きっと、良い結末は迎えられない。

 そんな、予感がしたのだ。


 ……だから僕は、返事を保留にしたまま、少女にとって嬉しくない言い方をしたはずだった。


「……はふぅ」


 気の抜けるような可愛い声。

 同時に、少女は僕の膝の上へとしなだれ掛かってきた。


「……え?」


 気がつけば、僕は抱きつかれている。

 

 ……なんで?

 どうして?

 どういうわけで少女は抱きついた?


 僕は助けを求めるように、フマを見た。

 フマは……怒りを通り越した無表情をしていた。

 そして。

 感情の抜け落ちた緑色の瞳で、こう口にした。


「あほは死なないと治らないさ。《風槍(ウィード・スピラーナ)――×(クルルルクス・)1000トエーネ・トエーネ・トエーネ》」


 フマを中心とした円状にぶわっと魔力が展開し、半径5メートルの円盤と化す。

 直後、槍状となった風の矛先が、隙間なく、一斉ににょきっと顔を出した。


 ……あ、これやばいわ。


「1000回ほど臨死体験すれば、ケイの間抜けで常識知らずな性格も直ると信じてるさ。ついでに記憶も戻ればラッキーさ」

「いやいやいやいや、普通に廃人になるでしょそれ!」

「廃人になったらそこの魔王に看病してもらえばいいさ」

「……え? ちょっと待って? え? 本気で言ってる? さすがに冗談だよね? え? さすがに冗談だよね?」

「時には荒療治も必要さ。大丈夫さ。即死しなけりゃ魔法で治してやるから。安心して致命傷を負えばいいさ。ほら、まず1回」

「ひぃいいいいいいいい!?」


 僕はマーカーをばらまき、全力で転移。

 さっきまで僕がいた空間の、胸元あたりを風の槍が射抜いた。


 ……それから30分ほど、僕はフマが1000発打ち終えるまで、森と大空を舞台にした命がけの鬼ごっこを演じたのだった。




「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……ツッコミが、マジ過ぎるでしょ……」

「はぁ、はぁ、はぁ……それは、ケイのせいさ……」


 僕とフマは互いに疲労困憊(こんばい)の有様だった。

 僕は死と隣り合わせの逃亡で神経をすり減らし、フマは不規則に転移しまくる僕を執拗に追い回して疲れ果てていた。


「はぁ、はぁ……というか、なんでケイの魔力がもつのさ……? 転移の回数は、1000は超えただろ……?」


 フマは疑問を口にする。

 その疑問は当然だといえる。

 僕の魔力量は、人間の中でも最低レベル。

 フマにしてみれば、スズメの涙も同然だろう。


 だがしかし、僕は《転移》を効率運用することができる。

 マーカーに用いる魔力を圧縮することで、少量の魔力でも必要な密度を実現できるのだ。

 そのおかげで、1000回の連続運用にも耐えることができた。

 というか、最後は気力でもたせた。

 いやだって、避け損ねたら致命傷のレベルですもん。

 フマは殺す気じゃないから殺意は感じられないけど、狙ってくる箇所はどれもえげつなかった。

 心臓や頭といった即死箇所を除く、各臓器、および四肢。

 放っておけば機能不全や多量失血で死ねる場所を狙われれば、誰だって死に物狂いで逃げるでしょ。


「ぜぇ、ぜぇ……フマ、魔力量が全てじゃないんだよ。魔力圧縮ができれば必要な魔力量は節約できるんだ」

「……いや、それだけじゃないと思うさ」


 うん? それだけじゃない? 他に何が?


「必要な魔力量を減らすためには、魔法の熟練度を上げないといけないさ。

 ケイの場合は、転移の魔法をよほどたくさん練習したか……あるいは、魔法のアプト(適性)レベルが異常に高いかだと思うんさ」

「……ああ、なるほど。それなら後者だね」


 いわれてみれば、普通は魔力密度が基準を満たしても、量を注がないと魔法は発動しない。

 つまり、【魔力操作:Ex】によって魔力圧縮を行い、【空間魔法:Ex】によって転移に必要な魔力量を減らすことで、僕の魔法事情が成り立っている。


「参考までにフマの経験でいいんだけど、1回の転移にはどのくらいの魔力が必要なの? というか僕レベルの魔力量だと転移何回ぐらいが妥当?」

「……大体だが。転移1回にはケイ10人分の魔力が必要さ。理由は、固有魔法は燃費が悪いというのと、空間魔法が高等技術だからさ」

「……うん? つまり、転移1000回だと僕10000人分?」

「そうさ。でもそれはアプトレベルが低い場合さ。【空間魔法】のレベルが高ければ、その分必要な魔力量は激減するさ。オレの感覚で計算すれば、ケイのアプトレベルは……」


 そう言ってフマは小難しい顔つきで計算を始めた。

 あれ? これ僕の特殊性がばれるパターン?


 僕は誤魔化そうか考えて、フマ相手ならいいかと思い直す。

 ついでに少女も傍にいるけど、まあ、ばれても大丈夫でしょ。


 フマはだんだんしかめ面になっていく。

 多分、計算はできたけど、その結果が信じられないといったところじゃないかな?


「……ケイ。オマエ、……オレの勘違いならいいんだが……【空間魔法】のレベル、5じゃないか?」


 5、か。

 確か5は最高レベルだったよね。

 さて、どうしよう。

 嘘をつくか、真実を教えるか。


「……フマ、知りたい?」


 僕は若干意地悪ながらも、フマに尋ねてみる。

 するとフマは、眉根を寄せたまま、しばらく考え込んだ。


「…………知りたい。だから、こうしよう。オレもステータスを見せる。だからオマエもステータスを見せてくれないか?」

「ステータスって、えっと、3以上のものを全部見せるってこと?」


 教会で聞いた話では、3以上が才能ありというレベルだった。

 3が一流、4が超一流、5が無双だったかな。それぞれがどのぐらいすごいのかはよく分からないけど。


「いや、全部見せる必要はないさ。手の内は全て晒すもんじゃないからな」


 ああ、そういう認識なのね。

 フマは続ける。


「だから今回は、魔法に関する項目だけでいいさ」

「……分かった」


 僕はポケットからギルドカードを取り出し、ステータスのレベル3以上の魔法の項目を表示させる。


 ====


 アプト


【空間魔法:Ex】


 ====


 フマもギルドカードを手に取り……というかギルドカードちっさ!? 妖精サイズ? 僕のは5センチ×10センチくらいあるけど、フマのはそれぞれ半分くらいしかない。


「じゃあ見せるさ」

「あ、うん」


 僕とフマはギルドカードを交換する。

 小さくて少し見にくいけど、そこにはこう表示されていた。


 ====


 アプト


【風魔法:4+】

【火魔法:3】

【水魔法:3】

【土魔法:3】

【補助魔法:3】

【妖精魔法:4+】


 ====


 うん、僕のExも大概だけど、フマも大概だと思う。

 記憶が正しければ、3以上の項目は普通は二つ三つほどしかなかったはずなんだけどね。

 魔法の項目だけで六つもあるよ。

 しかも「+」て何?

 ちょっと気になるんだけど。


 僕はフマに聞こうと思って、フマに視線を向ける。

 そこには案の定、僕のステータスを見て固まったフマがいた。

 そりゃそうだよね、Exだもんね。

 完全にチートだもんね。


「おーい、フマさんや?」


 僕の呼びかけに、フマはぎぎぎと無表情の顔を向ける。

 さっきの件もあり、僕はびくりとする。

 まさか風弾(ウィード・バレータ)の嵐が飛んできたりしないよね?


 フマは無言で僕にギルドカードを返却すると、自分のギルドカードをポーチにしまった。


「さて、何の話だったさ?」


 フマは何事もなかったかのように口火を切る。


 ……うん、気持ちはすごく分かるよ。

 見なかったことにしたんだね?

 僕もそうするよ。


「えーと、僕が転移を効率よく行えるって話かな。もう終わったけどね」


 僕はフマに乗って、話を終わらせた。


「う~、私も見せっこしたぁい」


 僕の隣から(気がついたら抱きつかれている。恐ろしい子)、不満げな声が上がる。


「ん? 君は持ってないの?」

「城の外にはほとんど出してもらえなかったの。ギルドカード? 私も作りたい」


 僕はフマの顔色を窺いながら、少女に提案する。


「じゃあ、これからギルドに行って作ってもらう? まだ日は昇ってるし、時間はあると思うよ」

「ちょ、ちょっと待つさ! そいつをどこまで連れて行く気さ!?」


 やはりというか、フマが反論する。

 フマとしては、魔王を傍に置いておきたくないのだろうね。 


「支障がなければ、本人の希望するところまでかな?」

「支障は大アリさっ! というかそいつ、魔王城で許可を取って出てきたんだろうな!? ケイから聞いた話だと、そいつの希望で連れて来たって話だったが!」

「魔王城の許可……?」


 あー、そりゃまずいわ。


「多分、取ってないと思う……。そうだよね?」

「うん」


 僕が少女に尋ねると、少女は悪びれもせずに頷いた。


「……ごめん、フマ」

「……しょうがないさ。知らなかったんだから」


 僕が謝ると、フマは許してくれた。

 やっぱりいいやつだ。


 それにしても、困ったことになった。

 魔王を無許可で連れ出したとあっては、今頃魔王城では大混乱。

 すぐにも魔王捜索隊が出されて、いずれは僕が犯人だと知られ、問答無用で襲われる可能性もある。

 こうなったら魔王城に引き返すのがベストなんだけど……。


「まいったね。マーカー残してないから魔王城に転移できない」

「!? 駄目! 私は戻らない! あなたについていく!」


 僕の言葉に、少女がすがりつく。


「……でもね、さすがに魔王が独断で城を空けるのは……」

「すぐに城の者が探しにくるわ。そこできちんと告げる。許可を取るから、だからお願い、一緒に行かせて!」

「うーん……」


 僕は美少女の哀願から逃げるように視線をそらす。


「フマ、どう思う? 魔王城に戻るにしても、転移が使えないから結局送り届けるしかないけど……ちなみに、魔王城までどのくらい掛かる?」

「空を飛べば2日、いや3日さ。……ん?」


 フマは何かに気付いたように首を傾げる。


「それにしては、キーグリッドの到着が早かったさ?」

「それは転移装置を使ったんだと思う」


 フマの疑問に少女が答える。


「魔国の保有する転移装置が世界各地に設置されてるの。場所は機密だから、……本当は私も知っているべきなんだけど、使っていくうちに覚えればいいと思って……ごめんなさい。この近くのは知らないわ」

「いや、気にしないで。それに機密なら、僕とフマは知らないほうがいいだろうし」


 落ち込んでいる少女の肩を、僕は励ますように叩いておいた。


「それで、提案だけど……これから、魔国だっけ? そこに向かうってことでいいかな? とりあえず村に戻って準備を整えてからになると思うけど。で、君はそこできちんと許可を取ること」

「…………」


 少女は俯いたまま答えない。

 僕は少し考える。


「……じゃあこうしよう。もしも許可が取れなかったら。週に1回ぐらい、君が暇な時を見つけて、僕の転移で外に出かけよう。それならすぐに戻れるし、……こっそり抜け出せるからさ」

「……本当?」


 僕は微笑みながら力強く頷いてみせる。

 少女は赤い瞳に光を宿して、了承した。


「逢瀬……密会……楽しそう……」

「いやいやいや言葉は選ぼうね!? 単に遊びに出かけるだけだからね!?」

「デート……」

「ちょっと!?」


 頬を赤らめる少女に対して、僕はどうしたらいいか分からずフマに助けを求める。


「オレもいるから安心するさ。というか方針が決まったら早く戻るさ。村までそこそこ距離があるさ」


 ちょっと不機嫌なフマに、僕は苦笑する。

 フマとこの子は反りが合わないみたいだ。


 ……この子、か。そういえば名前を聞いてなかったね。


「これから魔国までは旅の仲間になるんだし、自己紹介だけでもしとく?」


 僕は二人に声を掛け、自分から始める。


「僕は佐々倉啓。……えっと、好きな食べ物とか?」

「前衛・後衛、得意魔法ぐらいでいいんじゃないか?」

「うん? 前衛・後衛?」

「前衛は、仲間の前に立って敵と近接戦闘を行う陣営さ。普通は、剣士とか槍使いが請け負うさ。

 後衛は逆に、後ろに控えて、遠距離で敵を攻撃する陣営さ。こっちのほうは、魔法使いとか弓使いがやるさ」

「なるほどね。じゃあ、僕は後衛かな。前衛は無理。あと、得意魔法は空間魔法」

「了解さ。次はオレさ。名前はフマ。後衛で、得意魔法は風魔法さ」


 僕とフマが自己紹介を終えると、最後に少女が口を開く。


「私はニィナリア・アッシュロード。前衛も後衛もできるけど、このメンバーだから前衛をする。得意魔法は炎魔法。……それで、ケーィは私のこと、ニィって呼んで」


 少女に熱っぽい視線を向けられ、僕は感染する前に視線を逸らす。


「……分かったよ。ニィ」

「ふふっ、ケーィ」


 ……あれ? なんかすごく恥ずかしいんだけど!?


「……えっと、村まではどうする? フマは飛べるし、僕は転移があるけど、ニィは?」

「私も飛べるわ。《炎獄よ。此方に空を飛ぶ衣を与えては――」

「ストップ、ストーップ!」


 呪文を唱えだしたニィナリアを、僕は慌てて止めた。


「……ニィ。その格好で空を飛ぶのはやめようか」

「……うん」


 僕が裸シャツを指摘すると、ニィは忘れていたのか、赤面して俯いた。

 ……やば、可愛すぎ。


「村に入る前にニィの服を用意しよう!」


 僕は気を紛らわせる。

 フマにじろっと睨まれた。

 ……え? なんで睨まれてるの?

 むしろ止めたよね僕?


「……ニィは僕と転移しようか」


 そうして、フマは空を飛び、僕とニィは森の中を長距離転移しながら村へと戻ったのだった。




 ****




 魔王城にて。


 フマおよび佐々倉啓が魔王城に滞在していた期間は、1時間にも満たない短時間であった。

 にもかかわらず、彼らが残した波紋は、魔王城の隅々まで広がり、中の者達はてんやわんやの大騒ぎである。


 具体的には、魔王城の主たる魔王ニィナリア・アッシュロードが、忽然と消え失せたのだ。

 それも魔王城の最高層、露天風呂での入浴時。

 どこから抜け出したのか見当もつかない。

 魔王城では備品をひっくり返す勢いで魔王捜索が行われていた。


 それと同時に、神代魔法の調査に出向いていたキーグリッドが持ち帰った妖精(手がかり)

 それが逃げ出してしまうというハプニングもあり、魔王捜索のついでに妖精の捜索も行われていた。


 しかし、どちらも難航する。

 特に魔王のほうは、目撃情報すら集まらない。

 妖精に関しては、いくらか目撃もあり、衛兵の中には戦闘に入った者もいた。

 だがその衛兵の証言によれば、妖精が転移をしたという。

 転移の魔法を妖精が使えるとは考えられず、第三者の存在が浮き彫りにされた。


 そこで、このような推論が立てられた。

 転移を使える第三者による、魔王と妖精の拉致である。


 しかし疑念もある。

 一つ、魔王を拉致できる存在がいるのか?

 単純な魔力量で言えば、現魔王が魔人のトップであることに疑いはない。

 また、幼きころより英才教育を施されており、魔法はもちろん、体術も習得している。

 そう易々と、拉致される存在ではありえないのだ。


 そしてもう一つ。

 連れ去られたのが魔王と妖精であることだ。

 どちらか片方だけならまだ分からないでもない。

 しかし両方となると、第三者の意図が分からなくなる。


 そこでこのような仮説が立てられた。

 一つ、第三者は、例の神代魔法の使い手である。

 一つ、第三者と妖精は協力関係にある。

 一つ、第三者の計画に魔王が必要であった。


 すなわち、キーグリッドが調査に出向いたときには、第三者が傍におり、その関係者である妖精を連れ帰ってしまった。

 その妖精を助けるべく、第三者は魔王城に潜入した。

 その際、計画に必要となる魔王を、神代魔法を用いて拉致し、妖精の救出にも成功し、ひっそりと帰還した。


 と、このような内容である。

 

 くしくも、その仮説はいい線をいっている。

 佐々倉啓は神代魔法の件と無関係ではなかった。

 佐々倉啓と妖精は仲間であった。

 佐々倉啓に魔王が……必要ではなかったが、その逆で必要とされた。


 このように、仮説は真実にそこそこ近づいていた。

 だが、魔王城の重鎮たちの対応は、佐々倉啓にとっては好ましくないものとなる。


 魔王を拉致されたのだから、魔王を取り戻そうとするのは当たり前。

 要は、追っ手である。

 さらに言えば、場所も特定されている。

 まずは、神代魔法に匹敵する魔力が観測された地点。

 キーグリッドが出向いた村周辺である。

 第三者はその周辺に潜んでいる可能性が高い。

 幹部は、佐々倉啓のもとへと確実に追っ手を仕向けるのだ。

 また、時間をおけば逃げられてしまうだろうから、電光石火の追跡が必要だ。

 よって、魔王救出部隊は速やかに結成され、即日に出立したのである。

 その部隊は魔人と魔物の混成部隊であり、足の速いもので構成されていた。

 さらに目的地付近には、人間には見つかっていない転移装置が設置されていた。

 魔王救出部隊が例の村に到着するまで、そう長い時間は掛からない。

 彼らと佐々倉啓たちが遭遇するのは時間の問題だった。



 毎日更新するのってハードですね……。

 一日が48時間になればいいのに。

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