1話 転生の神スイシア
2015/3/21 ※)作者の予想に反してそこまで「巡行」しない模様。その点には期待せずお読みください。
2014/10/05 タイトルを変更しました。
見切り発車しました。
とはいえ、きりのいいところまでは続ける予定です。
僕は死んでしまったらしい。
本来そのことを自覚できないのだけど(だって死んだら感覚ないし)、目の前には神様がいる。
少年とも少女とも判別できない、凛とした子ども。
体の線は細く、黒髪のボブカット。
服は飾り気のない無地のチノパンにシャツだけ。
神様っていうより、どこかのファッションモデルみたいな子だ。
「僕は、死んだんですよね?」
確認のため、聞いてみた。
この質問は破綻している。
死んでいたら質問なんかできないし、質問できているってことは、生きているってことだ。
死んだかどうかなんて、聞いている時点で死んでいない。
「うん! 死んだよ!」
神様はとても明るく言った。見た目クールなのに、イメージと違っていた。
「じゃあなんで、僕はここに?」
「生き返らせてあげようと思ってね!」
生き返れる。なるほど、これは転生だね。
「もしかして、異世界転生ですか?」
「うん? そこらへんの記憶は消したと思ったんだけどな。でもそうだよ。異世界だよ」
僕は記憶を探る。重大なことに気づいた。
「あれ……? 思い出せない……っ?」
僕はどこに住んでいた!? 僕の家族は誰だった!?
僕はどうやって生きていた!? 僕の世界はなんだった!?
記憶がほとんどない!
「あはは、心配しなくていいよ! 必要な記憶は残してあるから!」
神様はそう言った。
「アハ、アハハー、空が青いですネー」
「いや、ここは全部真っ白だよ!?」
……確かに、この空間は全部真っ白だった。
「ア、ソウカ、僕は夢を見てるんですネー?」
「夢じゃなくてボクを見て!? 目の焦点をずらさないで!?」
それから僕は、神様の突っ込みを受けながら10分ほど現実逃避していた。
「はぁ、はぁ、落ち着いたかい……?」
神様は肩で息をしていた。体力がないのかもしれない。
「いや、誰のせいだと……、まあ、いいや、そんなことより」
神様は一度深呼吸をしてから、子どもにしては凛とした瞳で僕を見据える。
「君の異世界転生にあたって、これから説明していくよ。いいかな?」
「はい。よろしくお願いします」
僕は頷く。記憶がないことを尋ねてみたいけど、転生の仕様かもしれないし、後回しでいいよね。
「あんまり時間もないからざっくりいくよ。ボクは君の能力をいじることができる。例えば武術の才能を、例えば魔法の才能を、君に与えることができる」
あ、これきたチート?
「だけどそれには代償が必要だ。体を病弱にしたり、知能を下げたり」
「え……? タダじゃないんですか?」
「それはそうだよ。そもそも自分好みに才能をいじれるんだから、それだけで既に一つの奇跡というものだよ」
「それは……そうかもしれませんけど」
でも、異世界転生っていったら、ねえ? チート授かるもんじゃない?
そんな僕の考えを知ってか知らずか、神様はにやりと怪しくほほえむ。
「ただし。君の記憶が失われた分は、タダで君の才能を伸ばすことができるよ」
「え? そうなんですか?」
話によれば、記憶とは知識で、思い出で、経験で、それは大きな代償となるのだという。
「そのために、僕の記憶を消したんですか?」
「それは誤解だよ、必要な手続きだったんだ」
「必要な手続き?」
「君のもといた世界と、転生先の世界。発達した文明が全く違うからね。転生先の文明を大きく改変してほしくなかったんだ」
「ん? でもそれこそが異世界転生の醍醐味なんじゃ?」
「全てはあちらの神様次第だよ。今回は許容されなかった。それだけさ」
なるほど。保護したかったのかもね。過保護かもしんないけど。
「そういえば、あなた様は向こうの神様じゃないんですか?」
「ボクは両方の神様だよ。二つの世界をまたいでるんだ」
「それって、すごくないですか?」
「さあ、どうだろうね? 神様は何かしらに特化してるからね。単純な比較はできないよ」
得意分野が違うということだろうか。分野が違うのだから、純粋な比較はできないと。
「そうですか。ところで、いまさらですけどお名前を聞いても?」
「スイシア。呼ぶときはシアでいいよ」
「シア様ですか」
「あ、敬語はいらないよ?」
「……いえ、僕としては、こっちのほうが楽なので」
「そう?」
むしろ神様相手にタメ口とか、そっちのほうが気疲れする。
「すみません、話がそれましたね。それで、僕の記憶がなくなった分、新しい才能をいただけるんでしたっけ?」
「そうだよ。あと、前世でいらない才能があったら、それを別の才能に変えられるよ。とりあえず、どんな能力がほしいか相談しようか。君は向こうの世界でどういう才能がほしい?」
うーん、とりあえず、魔法かな? 欲を言えば、無双したい。
「最強魔法が使えるようになりたいです」
「うん? 最強魔法? むぅ、そういうカテゴリーはないんだけど、要するに魔法の天才になりたいんだね?」
「はい」
「方向性を聞きたいな。一口に魔法と言っても、属性がいろいろとあるからね。全属性に精通するのは、さすがに君の失われた記憶だけじゃとても足りないよ。そうだね、どういう魔法を使いたい?」
「どういう魔法……」
いざ具体的に問われると、難しいな。
適当に例を挙げてみるかな。
「今から適当に現象を挙げていくので、それが可能な魔法を教えていただいていいですか?」
「なるほど、面白そうだね」
「山を吹き飛ばす」
「山!? か、過激だね……」
「あ、するつもりはありませんよ。参考にするだけですから」
「そ、そう? 分かったよ。吹き飛ばすなら……固有魔法かな? ちょっと属性じゃ無理そうだ。固有魔法というのは、一般的でない、いわばオリジナル魔法だね。属性じゃなかったら、固有だよ」
「属性は、基本四元素の火・水・土・風と、特殊な光・闇ですか?」
「むむ? よく分かったね」
「なんとなく、そんな感じかと。そうそう、光魔法にレーザーとかないんですか? それで山を吹き飛ばすのは?」
「光は闇を払うのが特徴だよ。山、この場合は土塊かな? 土塊を消滅させる効果はないよ。この場合だと浄化しちゃうね。レーザーなら、固有魔法の、例えば消滅魔法なら可能かな」
「消滅魔法があるんですか」
「いや、ないよ?」
「え?」
「作ればいいんだよ。だからこその固有だし」
「ああ、なるほど」
今の話をまとめると、既に存在する一般的な魔法が属性魔法で、それ以外の、術者オリジナルが固有魔法といったところかな?
ある意味、固有魔法は何でもアリなんだな。
「じゃあ、海を割るには?」
「海!? 君、神様になりたいの!?」
「いいえ、あくまで参考ですよ」
魔法ならこれくらいできるかと思ったんだけど、神様が驚くぐらいだから難しいのかもね。残念。
「むぅ、海を割るとしたら……やっぱり固有魔法かなぁ?」
「また固有ですか」
「いや、だって、規模が規模だもん。それに特化させないと無理だよ」
「ふむふむ、なるほど。じゃあ、そうですね、重力魔法は可能ですか?」
「作るのは可能だよ。固有魔法は、基本的に何でもできると思っていいからね」
うーん、何でもできるか。制限があると夢がなくなるけど、無制限だと、夕飯何食べたい? 何でもいいよ。ぐらいにとっかかりがないなぁー
こうなったらせっかくだし、原理的なところを攻めてみるかな?
「そうですね……、死を司る魔法はできます? 即死効果や、死者蘇生とか」
「いや、いやいやいやいや! それ神の領域だから! さすがにそれは無理だから!」
うーん、さすがに無理か。
「じゃあ、空間転移はできますか?」
「空間転移?」
さっきまでの要求に比べて一気に易化したのか、拍子抜けしたようにぽかんとするシア様。
「空間魔法は可能だと思うよ?」
お? きたこれ?
「本当に可能ですか? 空間魔法って、かなり根源的で無敵だと思うんですけど」
「その分、扱いが難しかったり、膨大な魔力が必要だったりするから、釣り合いは取れてるよ」
あ、そういうこと。効果が良ければ、それだけ他のパラメータが悪くなると。そうそううまくはいかないかー。
「じゃあ、空間魔法を効率よく扱うための、補助的な才能はありませんか?」
「うん、それならあるよ。まず魔力操作と魔力感知は必須かな。空間魔法は難しいから。それから魔力増大。でも、これら全てを授けるには代償が足りないね。どうしてもほしいなら、他の代償が必要だよ」
それは、そうだろうね。他の代償か……。
まあ、まだ空間魔法に決定したわけじゃないんだけど、でも夢が広がるよね。
転移できたら移動に時間がかからないし、戦闘でも有利に働くだろうし。
空間を固定して、敵を拘束ってのもできるかもだし。
周囲の空間を隔絶して、結界なんかもいけそうだ。
ふむ、空間魔法の取得を真面目に考えてみようかな。
となると、補助の才能のために更なる代償が必要なんだけど……ん? これなんてどうだろう?
「空間魔法以外の魔法を一切使用できなくするっていうのは、どうしょう? これだとどれだけの補助を獲得できます?」
「おや? いいのかい? たとえ火魔法の才能がなくても、火種を作るくらいならできるけど、それすらもできなくなるよ?」
「まあ、あくまで参考ですから」
「ふむ、そうだね、君の記憶と、属性魔法を代償にするなら、空間魔法と、魔力操作は手に入るかな」
なるほど、まだまだ足りないと。あと必要な補助才能は、魔力感知と魔力増大だっけ?
さて、他に代償にできそうなものは……、これなんてどうだろう?
「例えば、ですけど、存在感を薄くするとか。注意をひかないと視界に入らなくなるみたいな」
「ふむ。それなら引き換えに、魔力感知は可能かな」
良し。空間魔法、魔力操作、魔力感知ときて、あとは魔力増大だ。
「うーん、あとは……、えーと…………、何がありますかね?」
「誰の記憶にも残らないほど存在感を薄くしたら、魔力増大もできるよ?」
「さすがにそこまでは……」
「あはは、もちろん冗談だよ。ただ、そこまで無理して必要な才能をそろえなくてもいいんじゃないかな? 時間をかければ鍛えることはできるんだし、今のままでも十分に天才の域だよ?」
「うーん、でも、できることなら全部そろえたいですね。せっかく選べるんですし、こんなチャンス二度とないでしょうし」
「まあ、それもそうだね」
僕はしばらく熟考する。その間シア様は、うんうん唸る僕を静かに見守る。
30分はたっただろうか。
「あーっ、もういいや! 思いつかん! 魔力増大は諦めます!」
「あはは、いいと思うよ! ほどほどが一番さ!」
「それじゃあ、あとはよろしくお願いします」
「うん、任せて!」
シア様は、空間に向かって何かを操作するように指を動かす。
すると、僕の体の周りを淡い光が包み込む。
「それじゃあ、転生させるよ? 細かい説明はしないから、向こうで自分で確認してね?」
細かい説明をしてくれてもいいじゃないかと思ったけど、シア様の性格からして面倒くさがったわけでもなさそうだ。そういうものなんだろうと納得する。
僕を包む光が一層の輝きを増す。
「じゃあ、いってら――」
そのとき、シア様の横から何かが飛び出してきた。
「シーアちゃーん。あーそぼーっ!」
「うわっ、ロニー!? 今大事な操作を……あ」
「え?」
シア様のやっちゃった感あふれる声に、僕は間抜けな声しか返せなかった。
最後に見えたのは、固まったシア様のお顔と、無邪気にシア様の腰に頬ずりする可愛らしい少女。
そして、僕の意識は異世界へと飛ばされた。