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辻斬り

決闘から数日が過ぎ、シノトはいつものように学院生活をおくっていた。

「はあ、平和だなあ」

机に寝ながら呟く。そして、自分の席の右斜め前の桔梗の席を見た。

(あれから、何も言ってこなくなったなあ)

決闘が終わった後、桔梗はシノトに聞いてきた。

「あなたは、わざと外しましたね」

しかし、あの時シノトは、偶然です。それに無理ですよ。としらばっくれたのであった。桔梗の方は納得していなかったが、これ以上は無駄だとわかり諦めていた。しかし、最後にシノトに見とれるような笑みを浮かべありがとうございました。と、言い残し、その場を去っていったのであった。


(まあ、わざとだったのは本当だからな)

シノトは内心で苦笑した。そして、彼女の期待をちゃんと応えられなかった事にちょっと罪悪感を感じていた。


桔梗の考えは当たっていた。


事実、シノトはあの時、桔梗の炎の一撃を紙一重に避けていた。そして、土煙が上がった時に抜刀の構えの状態から半時計回りに足運びをし、左手に持っていた木刀を回った勢いで投げたのだ。その後は上手く倒れてやり過ごしたのだ。


(まあ、僕の剣技、というより、流派は、特別だからなあ)


〈四季創剣流〉ー。

シノトの家に伝わる相伝の剣技であり流派である。この剣技は、シノトの祖父が、編み出した剣技だ。決闘の時に使ったのは、剣技の型の一つの技であった。


(できることならいつも使いたいのは、山々なんだけど・・・)

この剣技は、確かに使えば学院の上位と互角以上に闘うことができるだろうが、シノトは使う気にはなれなかった、正確には使うわけにはいかないのだ。実際、シノトは日常の中では何にもできない優しいが取り柄の問題児とされている。しかし、実際の剣の実力は桔梗やその他の上位生徒と互角以上に闘える実力は持っている。しかし、それでもシノトは、自分が弱いと偽っている。

その実力までも隠すのには〝理由〟があった。


「よお、相変わらずだな」

そんな時、数少ない友人であるアキト・ラグレスが話しかけてきた。

「いいじゃないか、こんなに平和なんだからさ」

「まあな、お前にとっては平和だろうよ」

「どういう意味?」

「最近、街に出るんだよ」

「出るって、何が?」

「〝辻斬り〟が」

アキトの言葉にシノトは眉をひそめた。

「辻斬りだって!?」

「ああ、そうだ」

辻斬りー。

それは、街中にいる人々を無差別に斬る者のことを示す。ほとんどの目的は、手に入れた新しい刀剣の〝試し切り〟又は〝金品の強奪〟が主である。

学院では街中での武器の仕様は禁止されていた。しかしある程度、自分の防衛に対しては特別になっていた。

「最近、街じゃあ、有名さ。皆、ビクビクしてるんだぜ」

「被害は、どうなんだ?」

「酷いもんだぜ、夜の道で、すれ違った奴を片っ端から斬るんだぜ」

「性別とわず?」

「いや、老若男女とわずだ」

「ひどいな」

「ああ、ひどい」

この時、シノトは自然と右手を拳にして指が食い込む程強く握っていた。

「〝剣警隊〟は、何をしてるんだ?」


剣警隊ー。

国が組織した剣士で構成された警備集団だ。一人、一人が高い腕を持つ剣士が多い。そして、ほとんどの隊員が学院の卒業生で卒業したらここに所属するのが当たり前でもあった。

アキトは、シノトの言葉に呆れたように言った。

「剣警隊も夜を巡回していたが、それでも阻止できなかったらしいぜ。それに、隊員の一人が遭遇して、殺られたそうだぜ」

「なんだって!?」

その事は、衝撃だった。

「ああ、本当だ」

アキトも重い口調で呟いた。

アキトと別れた後、シノトは辻斬りについて考えていた。


(辻斬りの目的は様々だけど、今回の事件は金品の強奪じゃない、となると、やっぱり、試し切りか、それとも・・・)

考えれば、考える程、余計に許せないな。

シノトが考え込んでいると。

「狐空さん」

少女の声が、シノトの思考を止めた。

そこには、美しい長い黒髪の美少女が立っていた。

珠依 桔梗、数日前に決闘して負けた。学院の上位剣士の一人だ。

「珠依さん、どうかしましたか?」

「いえ、ちょっと聞きたい事がありまして」

なんだろうと、思うのと同時に緊張にしていた。珠依 桔梗は、剣の実力とその容姿で男女関係なく人気でファンクラブがあると言われる。決闘後の何日かは、それらしい、生徒達にシノトは、危うく、袋叩きにされそうになったのだ。


(まずいなあ)

シノトは今の現状に混乱していた今は誰もいなく自分達だけである。もし、誰か、一人でも現れて見られたら勘違いされてしまうだろう。

(袋叩きじゃあ、済まされなくなる)

シノトの心中とは関係なく、桔梗は聞いてきた。

「狐空さん、あなたはなぜ、実力を隠しているんですか?」

シノトはなんとか落ち着くと言葉を考えながら答えた。

「僕は、上位を目指すとか、自分の実力誇示などに使いたくないからです」

嘘ではない。シノトは自分の本心を口にした。

「なら、何のためにその実力を使うんですか?」

桔梗の次の質問にシノトは、苦笑いを浮かべ答えた。

「自分が〝使うべき〟と思った時に」

その答えに桔梗の方は多少、驚き、次の質問については隔絶が悪かったがその質問はシノトを動揺させた。

「でっ、では、なぜ、体に〝包帯〟を巻いているんですか?」

「!?」

この質問にはシノトは息をのんだ。

「ぶしつけな質問をして、すいません。ただ、なぜ、怪我していないのに包帯をしているのか。あの時の決闘に制服の中を見た時に気になったので」

「あっ、実は僕は剣の実力がないために放課後によくしごかれて、アザだらけになってしまうのでそれを隠すために」

シノトは苦笑いをしながら答えた。

「そっ、そうですか。すいません、質問ばかりで」

「いえ、いいですよ」

桔梗と別れた後、シノトは学院寮の自分の部屋に戻った。部屋の中は風呂と調理場があり、家具はクローゼットが左端にあり、ベットがある程度の少ないものだった。シノトは、着ている服を脱ぎ始めた。上着とシャツを脱ぐと上半身を包む包帯が現れた。他人から見たら大怪我していると思われる程の巻き方をしていた。そして、包帯をほどくと背中には痛々しい〝傷痕〟があった。

(まあ、誰だって気になるよな)

傷痕を見ながら心中で呟ていた。そして、頭の中にある光景が浮かび上がっていた。

雨が降る中、道端に倒れている男性と女性、二人の体からは真っ赤な血が流れていた。そこに二人に駆け寄り、叫びながら呼び掛ける四~五歳の少年がいた。その少年も背中から血が流れて、背中を真っ赤に染めていた。少年は涙声で涙を流しながら叫んでいた。

『起きて、お母さん、・・お父さん、』

『起きてよ・・・ねえ・・』

そしてその声は途切れた。

シノトは自分が無意識に目をつむり、泣いていることに気がついた。シノトは涙を拭くと決意を改めて引き締めた顔になった。その顔からは学院で見せる弱々しい表情は人かけらもなかった。

「さて、今夜から調べてみるか」

シノトは、準備を始めた。


今日が初日。シノトにとってのデビューでもあった。









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