決闘前日
それから、数時間後、シノトの回りには多くの人が集まっていた。
〝なぜ、そうなった〟・〝どういうことだ〟と質問してくる人達が絶えなかった。
質問してくる半分は好奇心の者が多かったが、男子の生徒の多くが怒気剥き出しの顔で詰め寄ってきた時はシノトは肝を冷やした。
でも、それは仕方がないことだ、とシノトは思った。
何しろ相手は学院内でも一、二を争うほどの腕をもつと言われる女子生徒で、学院内の中で五本の指に入る美少女でもあったからだ。怒気剥き出しで詰め寄ってきた男子生徒はほとんどが彼女のファンであった。
少女の名は珠依 桔梗。
『炎の巫女』という二つ名で呼ばれている美少女だ。
学院上位の剣士と決闘することになってしまったシノトはその後、逃げるように学院のはずれで授業用の木刀を振るっていた。
「ハッ、ハッ、」
(本当にえらいことになったなあ)
無心になって木刀を振るう。
そんな練習をしているシノトに一人の男子がやって来た。
「よお、やっぱり、ここでやってたか」
「アキトか」
「よ」
アキト・ラグレス。
シノトの数少ない友人でなかなかの顔立ちと高位の貴族のためか、女子生徒に人気がある。
「ああ、誰も来ないからね」
「そうだろ、こんな所で鍛錬やるのお前ぐらいだけだよ」
シノトは、その言葉に苦笑を浮かべた。
「しかし、お前があのお嬢様と決闘するとわな」
感心した顔で言ってきた。
「お嬢様?」
「なんだ、知らないのか?珠依家ってのは日本でも、五本の指に入る貴族の家柄で強い霊力をもつ家系だぜ」
「うそ」
シノトは呆然と立ち尽くしていた。
(闘えるかな?〝今の僕〟に)
唖然とするシノトの様子を見たアキトはシノトと同じように苦笑を浮かべた。
(ま、あのお嬢様の目的は、別にあると思うけどな)
アキトは、内心でそう呟いた。
そして、今だに絶望的な表情をするシノトに再び苦笑するのであった。
(さて、あの巫女様はどうアタックするのかな?)
友人の不安をよそにアキトは笑っていた。
これがシノトと学院の美少女の出会いの序章になるのだった。