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平凡男と危険すぎて抹消されたアクマ  作者: 折れた筆
終章 アンノウン神殺編
79/83

紙吹雪は流れ星を描いて

 そして再び辿り着いた中央「元」武舞台。

 完全に破壊されたそこに、やはりというかなんというか、彼女のマスターをコンクリ詰めならぬ結界詰めにした智欲の大罪が待っていた。

 その姿は先ほど見せたままのアイアスの花弁を身につけた十二、三という年頃の少女態。

 ブースターシャフトに蝶の羽のように取り付けられた十三枚の楕円形ブレードと、ワンピースの上から腰部に深くスリットの入ったロングスカートのように装着されている、攻性十一枚、半月以下の薄型ブレード。

 頭上には天使の輪と見まがう満月が輝き、両腕には上弦、下弦の半月を収納した黄金トンファー。

 月齢三十枚を身にまとった雪月花が『月』、「月の妖精」としての姿だ。


「首尾はどうですか? ルシファー。ベルフェゴール」


 今の今までなにかしらの作業をしていたのか、自身の周囲に例の『編纂call』で何枚もの紙片を展開していたアンノウン。


「レヴィには合流の指示を出したわ。たぶんうまくやるでしょ。

 で、アザゼルは潜ったみたいね。下には気をつけときなさい」


 同じく携帯電話のベルフェゴールが著作権放棄の件を報告してくる。


『連絡は取れたよ。後で声明出すから好きにやれって。

 ああ、後、「月は出ているか?」とか言われてネタかと思ったけど』

「ええ。この姿のことですよ。

 ちょっといろいろコントロールが難しいものでして…。

 とはいえ、これである程度の下準備は整いました。

 後はレヴィアタンが合流してくれれば――」

「呼んだ?」


 ひょっこりと岩陰から顔を出すストーカー。

 追跡能力の高さには定評ありな嫉妬の大罪さまだ。


「…なるほどね。レヴィ、アンタ、アザゼルの居場所わかってるのよね?」

「モチ。」

「前衛はルシファーと覇奪とベルフェゴール、中近距離に私。

 レヴィアタンにはバックアップとマスターの保護をお願いします」

「…まあ、その辺が妥当か」

『めんどーい』

「ん。任せて」


 三者三様の了解を受けて、恐るべきことに大罪悪魔の内五柱によって構成されるパーティが組み上げられた。

 もっとも、その内の二柱は剣に携帯とアイテム扱いだが。


「レヴィアタン、アザゼルのあぶり出しを」

「ん。すでに捕捉はできてる。…すぅぅぅぅ」


 とある一点に視線を集中させたレヴィアタンが頬を膨らませて、

 ――ボシュッ!


「…鉄砲魚仕込のウォーターガン」


 圧縮水鉄砲を放射。しかしここで余計な茶々を入れてはいけない。

 まあ、あえて逆鱗に触れて刺されたいと言うのなら話は別だが。

 口元をぬぐいながらもいまだに土中を泳ぎ回っているらしいアザゼル相手にウォーターガンを連射するレヴィアタン。

 さすが『嫉妬の大罪』の正確なトレースに業を煮やしたのか、土中から飛び出て手術用のメス――、


『ああ、なるほどなるほどー。ジャック・ザ・リッパーのメスかー』

「あによ今さら!」

「正式名称は『汚らわしき血染めのメス』というらしいですね。

 しかし私の目には見えています。その程度の代物、効きはしません」


 を、何本となく投擲してくる狂希の大罪。

 しかしその攻撃射線に威力を見切ったアンノウンが飛び込み、両腕のトンファーを開放。

 ティラノサウルスが用いたものと同様の鉄扇盾を掲げて道を切り開く。

 アイアスの特性『飛び道具に対して無敵』がある限り、半端な投げ武器など通用しない。


「ルシファー、レヴィアタン! 合わせてください!」


 大盾をトンファーへと戻したアンノウンは、その戻る過程の勢いを初期動作へと利用してトンファーを高速回転。

 カミソリ状の刃を持つ鉄扇トンファーの痛撃が、一撃、二撃と連続で繰り出される。

 そして盾にしたメスごと両腕を弾かれガードが上がるアザゼル。

 しかしかの邪神はそれを無視して翼から触手を生やす。

 己を包み込み、打ち据えようとする触手に対し、アンノウンは防性十三枚の蝶の羽を散らせて周囲を切り刻む。

 そこからさらにスカート部、攻性十一枚の内十枚の刃へと指を這わせるアンノウン。

 尾の一月だけを残して抜き放たれる十の刃。

 仕掛けは十本の指に繋がれた糸。

 それにられた人形たちが、敵対者一点へと刃を向けてずらりと並ぶ。


「ルシファー!」

「楽しいマネしてくれんじゃない、おチビ!」


 バックアップに入ろうとするルシファーへと、放出した十三枚の蝶の羽が空に道を、彼女用の足場となって助走距離を生み出す。

 そして最後の一枚はトランポリンと化してルシファーを射出。

 アンノウンの攻撃タイミングに合わせて同時十一撃がアザゼルへと向かう。

 両腕を上げられ、触手を切り刻まれたアザゼルは、己が翼で身を包み込んでガード態勢に入る。

 しかしかまわず全身に突き立つ十の薄月と、ガードの上から力任せに貫く覇奪の大罪。


「てりゃあ!」


 そのまま蹴りを入れることで覇奪を引き抜くルシファー。


(…サポート十三枚、攻撃十一枚、半月トンファー二振りに満月の輪、か。

 合計二十七枚。一枚はおそらく隠しの新月として、残り二枚…。本命は新月?)


 気がつけばアンノウンの防性十三枚が周囲を覆い、漂っている。

 後方宙返りの要領でアザゼルから距離を取るルシファーが見たのは、頭上に浮かぶ天使の輪こと、満月が拡大化し、その両端に手を添えてもっとも薄い三日月型の刀を二本引き抜くアンノウンの姿。

 なんの理由か素足へと戻っていた足元には、彼女の紙片が収束。

 ルシファーの記憶が「見た覚えがある」と進言。

 あれはいつのことだったか?

 だがルシファーが思い出すより前にアンノウンが行動を開始。

 足元に仕込んだ紙片群が爆発的な推進力を発揮し、浮遊する十三枚の月を足場へと利用し、慣性の法則を無視したかのような鋭角の連続跳躍を慣行する。


「跳」「跳」「跳」「跳」「跳」「跳」「跳」「跳」「跳」


 仕込んだものは、ただそれだけの情報紙片。

 しかしそのシンプルさ故に効果は絶大。

 とりわけ重複の容易さが他の宝具類と比べて群を抜いており、これをOvercallレベルで量産してアポロのブースターに「倍」の文字でも付け加えようものなら、冗談抜きに雪月花『花』の拳一発で世界が真っ二つに割れかねない。

 故に一応よいこのアンノウンはこれを封印。

 瞬間最大火力や推進力、防御力が一気に跳ね上がる、いざという時の為の隠し技としてのみ使用している。

 この瞬間、アンノウンは一秒間の壁を越え、雷に匹敵するほどの体感時間と速度域に到達する。

 正直なところ、見切るにはルシファーの目でさえ難しい速さだが、逆に言えば最後の跳躍点さえ見抜けば致命的なカウンターが入る。

「だからこそ」と直感するルシファー。

 おそらくアンノウンはここで「新月」のカードを切ってくる。

 狙いは腕か? 首か? それとも脳天か?

 いや、やはり真に見切るべきは十三枚目の跳躍点だ。

 智欲の大罪がその跳躍点を踏む瞬間にこそ、この勝敗を分ける答えがある。

 そしてベテランである彼女ら…ルシファー、アザゼルともに彼の背後にあった「それ」――十三枚目の跳躍点を見抜いてしまったことを勘が告げて警鐘を鳴らす。


「ダメ! おチビ!!」


 しかしアンノウンは止まらない。

 十二枚目の跳躍点を駆け抜け、


 ルシファーとアザゼルが見抜いた、「十四枚目」の跳躍点を使わず、十三枚目の隠し跳躍点――すなわち彼の真上に配置した「新月」を以って、思考が硬直したアザゼルの両腕を二刀三日月にて斬り落とし、そのまま落下していく。


「――な! バカな!?」

「レヴィアタン!」

「『ヤマタノミズチ』!」


 アンノウンの求めに応じ、機を窺っていたレヴィアタンがヤマタノオロチならぬヤマタノ水ヘビを召還し、両腕を失ったアザゼルを絡めとる。

 どうも魔術で生み出されたレヴィアタンの技のひとつらしく、ご丁寧にも喰らいついていく牙はそのすべてが出刃包丁で構成されている。


「ルシファー! 今!」

「わーってるわよ! いくわよ覇奪! ベル!

 伊達や酔狂で大罪やってるんじゃないってとこ見せてやるわ!」


 その言葉とは裏腹に、細くサーベル化する覇奪の大罪。

 突き立つ刃はそのままにすっぽ抜け、引き抜くルシファーの手には覇奪の柄のみ。

 そして再び突き入れる際にはまた再現されるサーベルの刃。

 さらに携帯電話ことベルフェゴールが詠う脱力音波がそのガードを甘くする。


「エクスカリバー千本ノック!

 受けられるもんなら…受けてみなさい!!

 オーラ、オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!

 てぇぇぇぇぇりゃぁぁぁぁぁ!!!!」


 突けば突くほどに量産されていくエクスカリバーの刃。

 王の財宝がなんぼのものか? 覇奪これ一本と神代の技量さえあれば、いかな剣が峰であろうとも踏み越えてみせよう!

 脚を突き、肩を突き、胸を突き、翼を突きと残る五体、いや三体のすべてに黄金の針を叩き付ける傲慢の悪魔。

 アクセル全開で邪神をハリネズミへと変えていく魔王ルシファーの凶刃。

 口を開こうとしたアザゼルに対し、当のルシファーは「気分よく殺ってんだから水を差すな」と言わんばかりにのどを刺す。

 その間、墜ち往くアンノウンは全武装に回収指示を出し、同時にOvercallを発動するべく紙片を最大規模で放出。

 まるで紙吹雪の流れ星のような姿で地表へと落ちて行く。


「……全リミッター、開放――」


 紙片の渦の底に月の妖精を内包した流れ星が強く光煌く。

 これまでに類を見ないほど爆発的に紙片を撒き散らす、その発光体。

 地表へと激突する、その直前に完成しホバリングしたそれは、「かつて」を誰よりも強く継承しつつ、なお「これから」を果てなく飛翔するだろう、常識を超越した新世代への条理。

 月齢三十枚の月を従えて金色に輝き、体中に身につけたブースターを全開に噴かせて大気の渦を払い除ける、魔王と同格かそれ以上のキケンな威圧を世界に振りまく超越的アクマ。

 彼女が大罪悪魔であることを承知の上で。

 彼女が危険と断じられ、歴史から末梢された存在であることを承知の上で。

 あえて云おう。

 

 ……そう、『神は舞い降りた』、と。

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