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平凡男と危険すぎて抹消されたアクマ  作者: 折れた筆
終章 アンノウン神殺編
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地に墜ちた翼

「setcallモデル雪月花『月踏剣舞ブレイドワークス』!」


 これが最後の雪月花。

 彼女が身にまとうのは、月齢三十枚の形を模した三十種のブレード。

 上部Kの字型、高速機動へと特化した、色彩は闇色、火も風も噴かずに引力の力を以って飛翔する、重力制御仕様のブースター。

 そのシャフトに蝶の羽のように取り付けられていく、満月未満防性十三枚の楕円形ブレード。

 同じく本来の経文ワンピースの上から腰部に深くスリットの入ったロングスカートのように装着されていく、攻性十一枚、半月以下の薄型ブレード。

 頭上に天使の輪のごとく満月が輝き、両腕には上弦、下弦の半月が具現。

 ティラノサウルスに装備させていたような黄金のトンファーへと変化した。

 レヴィアタンのようにその姿を総評するならば、「月の妖精」とでも評するべきか。


「アザゼル、あなたの望み通り、私のすべてを以ってここに臨みましょう。

 とはいえ、確実に勝ちたいだけなら、このままゾンビたちをけしかけ続けることをおススメします。

 好きな方を選んでください。私はどちらでもかまいませんので」


 この言葉、普通なら安い挑発と思えるが、アンノウンはもはや本気だ。

 ゾンビを引っ込めなければ核弾頭の雨が降る。

 しかしその心配は無用で済みそうだ。


「いいね。その勝負、乗ろう。

 もはや退屈な勝利で酔えるほど若くはないのでね。

 やはり勝利の美酒はギリギリの剣が峰でこそ最上を味わえる」


 悪霊たちの眼窩から暗い光が消え失せ、ただの屍へと還ってその体を崩れ去らせていく。

 お互い意思表示は受け取った。最終ラウンド真っ向勝負。

 土中から姿を現したアザゼルは、しかし、


「少しばかり時間をいただけるかな? さすがにこの姿では格好がつかないからな」


 と、ボロボロになった衣装を指してから、同じく土中より『城』を一軒生やしてみせた。

 ルシファー邸とはまた別の西洋館。

 この状況ではまったくの無意味だが、出入りに跳ね橋を架ける石造りの城だ。


「ホラーハウスときましたか。いいでしょう。

 しかし手早くたのみますよ?」

「どうも」


 アンノウンの許可を得て城へと入っていくアザゼル。

 一方、アンノウンの方はタイムアウトを取られたがために一時的に気が抜けたのか、トンファーの一本を地に突き立てて膝をつき、息を荒く吐き出し始めた。


「…おチビ、アンタやっぱり」

「言わないでください、ルシファー。

 …これで最後なんです。これが最後なんです。

 私はもうマスターを守れない。守れるだけの命がない。

 だから、終わらせなければならないんです」

「待って待って、ちょっと待って。

 アツクなってるとこ悪いけど、ちょっと待ちなさいよおチビ。

 そもそもアンタ、なんでそんなことになってんのよ?

 智欲の大罪(アンタ)ならそんなの、いくらでもどうとでも対処できたはずでしょ?」

「………」

「いまさらだんまりはなしよ? でしょ?」


 おそらくルシファーだけでなく、ミカエルやレヴィアタンなど、だれでも疑問に思うだろうその問題に対し、アンノウンは苦笑の気配だけを返した。


「……ですね。認めましょう。

 だからこれは、ただの私のわがままです。

 おそらくですが、倒れれば…再び元居た場所へと私は還るのでしょう。

 それは絶対と言っていいほどにいやです。

 あの場所がどれだけ高次元な場所かは知りませんが、私はそんなものを求めた覚えはない。

 最初からいらない、いらなかったんですよ。

 戦いを呼び寄せる『力』も、退屈でしかない、娯楽を探し続けて生きていく『永遠』も。

 だから倒れたくなんかない。だから還りたくなんかない。

 なのに同時に、私は、私が手にしたこの命を最後の一滴まで手放さず握り締めていたいとも感じているんです。

 だから、妥協できない。智欲の大罪としての能力を振るい、この命に手を加えてしまえば、私はきっとこの愛しさを失ってしまう。これ以上ないほどの矛盾です。

 命を感じれば感じるほどに死に近づいていく。

 倒れれば還るとわかっているのに、生きている感覚を手放したくはない。

 だからこれは、ただの私のわがまま。

 この『痛み』は、私が今、ここに生きて戦っていることを証明してくれる。

 この『思い』は、私が今、ここにこうして存在していることを確かに教えてくれる。

 矛盾を抱えた私が出せた答えは、マスターを守りぬき誇ること。

 わがままは承知です。無茶だと知っていながら貫き通したい。それだけです。

 ……あなたは笑うのでしょうか、ルシファー?」


 地に膝をつき、それでも意地を張ろうとするアンノウン(バカ)の姿になにかデジャブでも思い浮かんだのか、ルシファーの表情が苦々しく歪む。

 そもそもにして『大罪悪魔』という存在に「わがまま」を貫かない者などいないことを思い出すルシファー。

 自分は当然として、レヴィアタンも、サタンも、マンモンも、ベルゼブブも、今は敵であるアザゼルでさえも己のわがままに対して妥協はしない。『大罪悪魔』とはそういう者達の集まりだ。

 改めて認識し直したルシファーは、「パチン」と指をひとつ鳴らして取り出した血の色カラーの携帯に、ポチポチととある番号をプッシュしながら鼻を鳴らした。


「フン。アンタ、アタシの意見なんて最初はなから聞く気ないじゃない。

 感想だけ言ってやるわよ。

 智欲の大罪とかヌカスヤツだから、もーちょっと頭のいいヤツだと思ってたわ。

 なんでこー、アタシの周りのヤツらはバカばっかりなのかしらね?

 ほらおチビ、プレゼントよ。受け取んなさい」


 だれに繋げたのやら、番号を押し終わった携帯電話をアンノウンへと投げ渡すルシファー。


「――なっ!? これは!?」


 その携帯を受け取った瞬間、三半規管を揺さぶられるような感覚を受けて気力を奪われ膝から崩れ落ちるアンノウン。

 取り落とした携帯からは、場にそぐわないのんきな声がもれ出てくる。


『だれだか知んないけど、ごめんねー。

 この番号からかかってきたら能力叩き付けろってルシファーの指示でさー』

「…怠惰、の、大罪…!」

「電話だけに、call『ベルフェゴール』ってね。

 後で座布団の一枚でも寄越しなさいな。

 ベル、おチビの相手は任せたわよ!」

『あれま、ちみっこちゃん相手か。

 しゃーない。めんどいけど本気出すかー。

 普段はともかく、この件で手ぇ抜くとルシファーマジで怒るんだよねー』

「――ぐぅ!」


 さらに圧力を増した脱力音波に煽られ、アンノウンの体が地に横たわる。


「ちょっとベル。アンタ手ぇ抜いてんじゃないでしょーね?

 おチビの武装解けてないわよ?」

『しょーじき全力全開なんですけどー、なにかー??』


 装備した雪月花、『月踏剣舞ブレイドワークス』が解除されずにそのまま顕在化している。

 怠惰の大罪(ひきこもり)の全力を以ってしても智欲の大罪(アンノウン)の戦意は奪いきれないらしい。


「死に掛けててもおチビの方が各上かー。

 ま、最初からベルには時間稼ぎ以外期待してないけど」

『ひどっ!』

「…ったく。貸してんなら貸してるって、ちゃんと言っときなさいよね。

 利子付けて倍にして返してやるわよ! アタシをだれだと思ってんの!?」


 覇奪の大罪を再び引き抜き、問答無用で攻城を開始。

 石壁をぶった切るルシファー。


「悪いわね、アザゼル。

 アンタがあんまり時間取らせるから、おチビのやつ、もうおねむの時間よ!」

「…余計な、ことを…」

『ほほー。戦ってんのアザゼルくんかー。前に会ったのいつの話だったかなー?

 たしか大罪化してすぐオーストラリアに行っちゃったんだっけ?』

「アメリカだっつの! ちゃんと聞いときなさいよ、このナマケモノ!」


 ルシファーの振りかぶる覇奪の大罪の刀身が、柄ひとつに対し刀身五本と熊手化し、家の壁に爪あとを刻む。

 つかつかとアザゼル邸へのお宅訪問に往くルシファー。

 刻んだ壁に蹴りを入れてこじ開け、玄関無視して侵入していくお嬢様。

 もうやりたい放題だ。戦闘中でなければ出禁くらってもおかしくないだろう。


「おやおや、これは困ったお客さんがいたものだ」

「最初にケンカ吹っかけてきたのはアンタのほうでしょーが。

 今すぐ呪いを解くなら、少しは優しくしてあげるわよ?」


 わざわざ入り口のすぐ横と無意味な大穴開けて侵入を果たしたルシファー嬢。

 片や着替えを済ませた直後にそんなはた迷惑な闖入者に相対する羽目になった家主どのは、踊り場で左右に分かれて登る西洋式の階段をゆったりと降りながら、本来闘うはずだった智欲の大罪の姿を求めて視線をさまよわせた。


「聴こえなかった? おチビならもうおねむの時間よ。

 はしゃぎすぎて疲れたみたいね。

 ムダに時計を使った、アンタの失策よ」

「…そうか、それは残念だな。

 せっかく久々に血が熱くなったというのに」

「アタシらみたいなベテランやチートを相手にするときは精々気をつけることね。

 存在感思いっきり薄くなるから。

 ま、代打でわるいけど……、

 今回ばっかはアタシがマジで相手してあげるわ。

 もっぺん訊くけど、呪い解く気はある?」

「特にないな」

「そ」


 最初からたいして期待していなかったのか、軽く簡潔に一言だけ返して覇奪の大罪を石床に突き立てるルシファー。


「じゃーしょーがないわね。

 屋敷吹っ飛ぶけど弁償しないから覚悟しといてよね!」


 本気になったルシファーの身体から幾条もの鎖が具現化し、じゃらじゃらと音を立てながら彼女の頭上に風穴を開けていく。


「わるいわね。少しの間借りるわよ、サタナエル!」


 サタンの名を呼びながら具現した鎖のすべてを右腕一本に巻き付け、その先に繋がる「なにか」を自分の方へと引き寄せるルシファー。

 その瞬間、アザゼルの屋敷に深い亀裂が走った。

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