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平凡男と危険すぎて抹消されたアクマ  作者: 折れた筆
終章 アンノウン神殺編
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暴かれた偽り

「――ッ!」


 土中に潜むと思しきアザゼルを炙り出すため、覇奪の大罪を地に突き立ててエクスカリバーを開放し、侵食破砕技を繰り出そうとしたルシファー。

 しかしその思惑は、技の出に突き出された手のひらによって押し留められた。

 覇奪に突き立たれた手はビクビクと痙攣してそれ以上の行動には至らなかったが、代わりにそのすぐ脇からボコボコと別の手のひらが出てくる出てくる。

 選択肢は『離脱』か『突破』か…はたまたその両方か。

 ルシファーは翼の推力を静止した覇奪へと叩き込み、強引に地へと叩き込む。


「喰らえ、覇奪!」


 エクスカリバーの魔剣特性、王水による融解、及び捕食能力。

 ルシファーはその力を直下50センチ四方へと解放。

 全力でやるとアンノウンに叱られること請け合いだからという理由で手加減したわけでは断じてない。

 ただ単に本気で壊しにかかるのもマズイなと思っただけだ。

 脳裏に月面探査ロケットの幻影なんか浮かんでなどいないさ。ああ、もちろん。

 なので、そのまま空中へと浮遊し、刀身にへばりつく融けた腕の残骸を切り払いながら態勢を整えた。


「おー、出てくる出てくる。…って、まんまゾンビじゃないの」

「死霊召還ですか。この期に及んでどこまでも迷惑な」


 短期決戦が望まれる状況においての死霊、悪霊、ゾンビ類召還による時間稼ぎ。

 タイムリミットギリギリまで追い込むやり口は、実にサスペンスのお約束だった。


「いい迷惑!」

「まったくですね」


 珍しく意気投合するこの二人。


「どーせ『その方が面白そうだから』とかそんな理由でしょ。

 ほんっといい迷惑よね、あのスリル狂い。

 付き合わされるこっちの身になってほしいわ」

「その言葉、そっくりそのままあなたにも贈ります」


 しかしそれも一瞬だった。

 人の振り見て我が振り直そう。


「おチビ、アンタこーゆー数に任せた戦い方、得意なんでしょ?」

「状況を見てものを言ってください。

 今の私にそんな余裕があるように見えますか?」


 群がるゾンビたちを覇奪で切り払いながら問うルシファーだが、アンノウンはアンノウンで地に手を押し当てたままの姿で雪月花の『花』の能力を駆使し、同じく群がる悪霊どもに銀の銃弾を放出し続ける。

 いまだにグレイプニールの縫合を実行し続けているのだが、その上でゾンビ相手もさせられているのだから、ここは後衛であるアンノウンが大したものだと褒めるべきか、それとも前衛である原因作ったルシファーが役に立たないと嘆くべきか、実に実に微妙なところだった。

 特にアンノウンは縫合作業中により地面から離れられないため、時折土中から手が突き出てくるのが心底イヤそうだ。


「そっちこそ『傲慢』の大罪特性を使って命令のひとつでもやってみたらどうなんですか?」

「あんな脳味噌腐ってるようなヤツラに効きゃしないわよ!

 ってか、いい加減起きろっつのよレヴィ!」


 まともに付き合ってると何時間でも経ってしまいそうなゾンビどもの相手。

 それに辟易してきたところに目に映った、レヴィアタンの鼻ちょうちん。

 ブチリときたルシファーは、覇奪をアンノウンの方へと放り投げ、レヴィアタンを保護する水の膜へと頭から突っ込む。

 その勢いのまま、グースカピーと気持ちよさそうに居眠りするレヴィアタンの横っ面を、魂のこもった渾身のグーで殴りつけた。


《――げぶふっ》


 おお、最強のうろこを持つはずのレヴィアタンに打撃が通った。

 さすがはるしふぁー伝説。レヴィアタン相手にガチでやりあった経験は今も生きているらしい。


「――ぷはっ! 起きた、レヴィ?」


 水膜の中を泳いで渡り、水面へと顔を出したルシファーがレヴィアタンへと問いかける。


《………う》

「…う?」

《…き、きぼちわるい…》

「――ちょ、」


 長いエラで口を押さえるような仕草をしたレヴィアタンに大変いやな予感を覚え、ジタバタと大急ぎで空中へと離脱するルシファー。

 その直後、レヴィアタンはどこへともなく飛び去って――もとい泳ぎ去っていった。

 ………ちなみにトイレは観客席と一緒に元の世界に置き去り。

 恨むならミカエルくんの方へどうぞ。


「また哀れな人形が増えそうですね。

 …今98代目でしたっけ?」

「知らないわよ、んなこと。

 ったくもー。役に立たないったらありゃしないわ」


 そうこう言っている間にまたしてもアンノウンの直下から手が一本生え出し、彼女の腕をつかむ。

 いい加減辟易としながら銃弾を浴びせるアンノウンだが、今度の腕は異様にしぶとい。

 警鐘を鳴らす己の直感。ハッと気付くアンノウン。


「――まさかアザゼル


 気付くが、もう遅い。

 起爆の光に呑み込まれるアンノウン。

 狂希の大罪が十八番、ニャルラトホテプにやらせた自爆テロだ。


「おチビっ!!」


 爆風に煽られて吹き飛ぶアンノウン。

 唯一の救いは、通常よりはるかに防御力の高い重武装の上からくらったことか。

 つかまれたのも篭手の上からだったため、ほとんどの武装は吹き飛ばされたがアンノウン本人へのダメージは少ない。…ように見えた。


「おチビ! 生きてんの、おチビっ!?」

「…生きて…ますよ」


 うつ伏せに倒れ四肢を踏ん張って立ち上がろうとするアンノウンにルシファーが駆け寄る。


 ……そして彼女は智欲の大罪、アンノウンがひた隠しにしていた秘密を目撃した。


 彼女は知っていた。

 智欲の大罪が戦闘時において自身の体表に不可視の紙片を貼り付け、防御力をかさ増ししていた事実を。

 しかし、「それ」は本当に、ただそれだけのためのモノだったのだろうか?

 智欲の大罪が「それ」を使い出したのは、いつだ?

 そしてもしも「それ」が、本当に彼女の推測通りの意図をもって扱われていたのならば………彼女にとってはなんとも後味の悪い話であっただろう。


「……おチビ。アンタ…その『傷』、いつのものよ…?」

「………」


 彼女が見てしまったものは、爆風の衝撃によって軒並み剥がされてしまった体表を覆う紙片の裏に隠された、右腕の「貫通傷」。

 そして右の手のひらには「裂傷」を確認。

 ワンピースの奥から滲み出す、十字の赤い血液。

 どの傷も昨日、今日の戦いにおいて、まったく覚えのない傷痕だ。

 だがこの場にただ一名、少なくとも手のひらの裂傷と胸の十字傷に覚えのある悪魔が居る。

 傲慢の大罪悪魔・ルシファー。アンノウンにその傷を刻んだ張本人だ。


「アンタ…アンタまさか、回復能力が一切ないとか言わないわよね!?」


 しかしいくら問いかけても智欲の大罪は答えない。

 そう。これが、これこそがアンノウン最大の嘘。

 見ていたはずなのに見咎められなかった真実。

 ミカエルやラファエル、ルシファーや九尾と、皆に語られていたはずの「後遺症」について、ただ一人アンノウンだけが語られていなかった。

 これこそ智欲の大罪が先手必勝の攻撃特化へと進化した本当の理由。

 打って出る以外に生き残る術はなし。

 一気に攻め立て、可能な限りノーダメージに抑えるのみ。

 故に彼女はルシファー戦以降、極力近接戦闘を控え、距離を置いた射撃系戦術に重きをおいていった。

 彼女には最初から、防御に特化する選択肢などありはしなかったのだ。

 これが智欲の大罪に施された最大のリミッター、「コンティニューなし、ワンコインクリア」の制約。

 彼女が自らの意思で己に課した制約の鎖だ。


「…術式『アイアスの種子』を発芽。

 call『カスタム・ロー・アイアス』」


 回復能力がまるでない。…と、なれば、アンノウンに残された命はほとんどないに等しいはず。

 果たしてどれだけの修羅場をくぐってきたのか。

 果たしてどれだけの無茶を通してきたのか。

 果たしてどれだけ地道に命を削られてきたのか。

 狂希の大罪の呪いにより、今この瞬間も刻一刻と命を削られているはずだ。

 それでも彼女は花を咲かせる。

 アイアスの花弁に身を包み、ボロボロの茎を支柱で立ち上がらせながら。

 そう。「生き抜く限り受けて(call)立つ(ある)のみ」。

 もう一花、咲かせてみせよう、智欲の大罪(アンノウン)


「肉体年齢は十二か三といったところでしょうか?

 今の私ではこの辺りが精一杯のようですね。

 ……アザゼルを、倒します。手を貸してください、ルシファー」


 アイアスの花弁に身を包み、しかし成長した肉体は小学生か中学生レベルの不完全な代物。

 だが、それでも彼女の戦う意思は折れない。

 血のにじむ傷痕を花弁の包帯で縛りつけながら、それでも彼女は立ち上がった。


「おチビ、アンタ…」

「setcallモデル雪月花『月踏剣舞ブレイドワークス』!」


 戦う。だから立つ。そして剣を取る。

 残された力を振り絞り、彼女は最後の雪月花を召還した。

今まで隠し続けてきたフラグを開放しました。

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