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平凡男と危険すぎて抹消されたアクマ  作者: 折れた筆
終章 アンノウン神殺編
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雪渦巻いて拳花狂乱

「…フィルター形成…展開」


 怒りに震え、謎の言葉を吐き出したアンノウン。

 なんのスキルを発揮したのか、彼女の体が虹色のシャボンに包まれ、そのまま「パチン」と弾けた。


「これより召還するすべての紙片に特性『天使殺し(アルマデル)』及び『ゾンビ殺し(キラー)』の能力を付与。

 アザゼル…あなたは私を本気で怒らせました」

「…全攻撃に、特殊能力を持たせるための、フィルター、だと…?」

「あーらら。やっちまったわねー、アザゼル」


 ボロボロになったアザゼルの言葉に反応し、疲れて傍観していたはずのルシファーが、覇奪の針山に腰掛けつつも思わずといった風に声を出す。

 智欲の大罪は基本的には温厚だが、ただひとつ、マスターのことに関してだけは異様に沸点が低い。

 以前うっかり彼を殺害して、判決『月面送り(アポロ)』とひどい目に遭ったルシファーだが、おそらく今回のこれは、あの時ルシファーを追い詰めた「重複call」の発展系だ。

 永続的特殊能力付与のフィルターとは恐れ入った。

 まさかとは思うが、万が一これ以上怒らせたら「全武装エクスカリバーフィルタリング化」なんて途轍もない真似をさらすかもしれない。

 チート特性、ここに極まれり、だ。

 とりあえずアザゼル、さっさと死んで消滅しろ。

 これ以上アンノウンを怒らせるな。核の雨が降っても知らないぞ。

 まかり間違って『約束された勝利の核』なんてものが完成したら、お前、どう責任取ってくれるつもりだ?


「……ブーストナックル」


 そして攻撃特化悪魔の進撃は始まる。

 属性加算。天使殺し&ゾンビ殺しを付与された鋼鉄の拳が、パイルバンカー付きで飛んでくる。

 焔に焼かれたボロボロの体で回避を試みるアザゼル。

 だがそんな甘い回避は許さない。

 瞬間、素手となった右手を返して中指を立てるアンノウン。

 応じてバンカーが地を削りながらもアッパーの軌道に乗る巨人の篭手(ギガント・ガント)

 アンノウンはそこからさらに立てた中指をグッと引き込んでトリガー。

 インパクトの瞬間、さも当然のごとくリロードされていたパイルバンカーのマグナム弾装が火を噴いた。いまさらもいまさらだが、智欲の大罪相手に弾切れなんてものは期待できないらしい。

 下から腹を撃ち抜かれて血を吐きながら縦に吹っ飛ぶアザゼル。

 同時にブースターを噴かせて先回りに走るアンノウン。


「setcallモデル雪月花『遮絶吹雪ステルスワークス』」


 ここで再びの雪月花。

 飛び往くアンノウンの姿が白の雪国仕様に特化される。

 純白化した本型ブースターに吹雪を噴かせながら、手の中で形作られていく雪の小太刀を握り締める。

 吹っ飛んでくるアザゼルの懐に飛び込み、二刀を突き込むアンノウン。

 そのまま左右にスラッシュ。


「――ガハッ」

「はあああぁぁぁぁっ!!」


 縦縦、横横、突いて斜め。

 クロスに裂いて、二文字横縦。

 さらにブースターを右側正噴射、左側逆噴射に高速回転。

 二文字竜巻滅多切り。

 締めに胃と心臓に小太刀を突き込んだまま放棄し、ブースターを正常機動。

 足袋を履いた足で小太刀の柄を駆け上り、かかとに氷柱つららを発生させて肩口へと叩き込む。この間十二秒の三十七連撃。

 氷柱を掴んで触手での反撃を試みたアザゼルに対し、アンノウンはこれを砕け散らせて冷気全開、「ポムッ」と雪だるま化。

 触手に突き立たれて砕ける雪だるま。

 しかし中身はすでにそこに無し。雪国仕様変わり身の術だ。

 さらにこれがまた陰険な罠。

 消炎手榴弾ホワイトグレネードが仕込まれた雪だるまはその場で起爆し、粉々に爆散。

 視界を奪う吹雪のカーテン。

 そしてその奥から叩き込まれる、透明かつ巨大な氷雪手裏剣三連撃。

 触手とメスとで対処するその間に、まったく逆方向から堕天使の首を絡め取る氷の鎖分銅。

 手裏剣は消炎手榴弾ホワイトグレネードの起爆と共に発動する罠紙片トラップ

 誘導装置ビーコンはかかと落としで叩き込んだ氷柱だ。

 いわゆる鎖鎌の『鎌』の部分にあるのは二メートル大の巨大な氷塊と、その上にて小太刀二刀を構えて佇むアンノウンの姿。

 巨塊に引かれて落下し始めるアザゼルへと向かい、ブースターを噴かせて張り詰めた鎖を駆け昇るアンノウン。


「刻印剣舞六連『天使殺しの六芒星アルマデル・ヘキサグラム』」


 繰り出されたのはウリエルをくだした小太刀二刀による六連撃。

 首を吊られて直下へと引きずられゆくアザゼルの背に、アンノウンの決め技のひとつが落下ベクトルを押し上げるカウンターにて叩き込まれた。

 苦悶の声を漏らしながら墜ちていくアザゼルをくるくると回転しながらやり過ごすアンノウン。

 手中に残る二本の小太刀を投擲し、追撃。

 アザゼルの両の手のひらを串刺しに。


「モデルチェンジ雪月花『撃上花火ファイアワークス』」


 ここでアンノウンのスタイルが重射撃形態へと変化。

 これを見ている側は再び最大射撃でも行うのだろうと推測してしまうところだが、どうやら違う。

 撃ったのは直下への散弾銃ショットガンのばら撒き一発だけ。

 しかし撃ち放たれた弾丸は、その軌跡を赤く発光させて何百、何千もの線を描いて地に反射。

 真紅の矢印のような軌跡を空に描いた。


曳光弾えいこうだん

 別名、追跡弾頭トレーサー

 射撃後に発光することでその軌跡がわかるように作成された弾丸。

 主に合図や射撃修正用として使用されるサポート用弾頭である。

 弾丸にマグネシウムなどの燃焼金属を仕込んでいるため、殺傷能力はそれほど高くはない。

 とりわけ今回のアンノウンのように散弾銃に仕込んだとしても射撃修正用としてはまったくもって意味を成さず、殺傷能力も皆無だと言っていいだろう。


 ショットガンを放棄し、その銃口があった場所から光の尾へと手を伸ばしてその軌跡を掌握するアンノウン。

 彼女に使役された光はことさらに強く発光し、幾重もの六芒星魔法陣へと整形されて道を示し、同時にアザゼルの呪縛へと形を変えた。

 背に六芒星を刻まれ、先に地表に墜ちた巨大な氷塊の上に叩き付けられ、胃と心臓、さらに両手を小太刀に貫かれたその身に、赤い光の糸によるさらなる呪縛が科せられる。


「call『アポロ11号ロケットブースター』…最大展開!」


 そしてアンノウンの両肩や腕、脚、腰と装着されていく、彼女の体型用にサイズを縮小されたアポロ11号パーツ類。ロケットブースターの数々。

 ここまでくればさすがにわかる。人間大砲ならぬ悪魔弾頭だ。

 姿勢制御に特化したブースターの配置と鋼鉄武装はこれが理由か。

 最初からロケットブースターの仕様を前提とした本型ブースターの配置。

 そして全身に装備したブックホルダー。

 そのほとんどすべてにロケットブースターを筆頭とした推進系武装を装着し、同時発動。

 両肩に背負った鉄塔に火を吹かせ、劫火を従えて急速落下するアンノウン。

 その概念特性は『約束の地への踏破』。

 勝利をひたすらに求めるエクスカリバーに対し、アポロはどれほど敗北を積み重ねようと決して諦めない概念を持った、負け犬たちの切望が永い時を経て具現化した宝具だ。

 故にこそ最強の一角。命中率はその諦めの悪さ故に最大。

 そしていかな障害があろうと必ず押し通る。

 その突進は事前に配置した六芒星魔法陣を通過するたびに圧力が倍増し、硬く固く握り締められた鋼鉄の拳が全ブースターの推進力を一点に集約させて眼前の敵を打ち抜く。



       メテオ・インパクト!!



 鋼鉄の弾丸と化したアンノウンが、大気圏離脱の勢いを以ってその拳を叩き落とす、打上花火が究極系。

 その全推進力を以って、ミカエルの手により切り取られた大地そのものを押し抜いて打ち上げる。

 智欲の大罪は伊達じゃない。その手の知識のひとつやふたつ、当然の如く持ち合わせている。

 心臓の小太刀へと直撃したその拳は、小太刀の柄と刀身を砕け散らせながら直進し、アザゼルの心臓ど真ん中へと吸い込まれて敷かれた氷塊のつぼみを砕いて花開かせる。

 さらに重圧を科して剣山と化した氷塊の底へとアザゼルを送るアンノウン。

 天使とゾンビに特攻を強要する宇宙進出級破壊力の拳打。

 運悪く着弾点に選ばれた大地は当然のようにひび割れてクレーターを耕される。

 単独で星を痛めつける危険すぎる悪魔と、それだけの打撃を受けてもいまだに消滅しないゾンビ神に同族ながらも開いた口が塞がらないルシファー。

 怒り心頭のアンノウンは、そこからさらに至近距離からブーストナックルの能力を駆使した拳撃の連打でアザゼルをタコ殴り。

 ロケットブースターの後押しも受けて、大地のひび割れが徐々に広範囲へと拡散していく。

 正直なところまだまだ殴り足りないアンノウンだったが、大地の悲鳴を聞き届けて一時的に拳を収め、休息中のルシファーが待機する針山へと退避した。


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