金髪少女と高速のチビアクマ
おそらくは空間転移とか、心象空間への移動とか、もっと単純に結界とか、そういう場所への強制移動だったのだろう。
目を開ければそれなりの変化を目撃するだろうことは想像に難くなかった。
だがしかし、目を開け、周囲を探るよりも先に、「バシッ」という打撃音が聴覚に響いた。
すぐさま目を開け、状況を探る。
まず真っ先に目に映ったのは、挨拶抜きに殴りかかった、緑髪黒目の幼女悪魔アンノウンと、それを受け止めた金髪碧眼の少女悪魔ルシファーの姿だった。
ルシファーは先ほど目にした六枚羽に獅子の金糸細工を施されたドレス姿だったが、アンノウンの方はパピルスの古文書製らしい、もともと一対の翼を展開した四枚羽という始めて見る姿。
X字に並ぶ紙のシャフトと60度に開いた本のブースターという、機械翼に近くなった翼が、それぞれのページに記された魔方陣から火を噴き風を吹き、推力を維持しつつ同じくアンノウンのページを周囲一帯へと撒き散らす。
「いきなり殴りかかるとか、余裕なさすぎじゃない?」
殴りかかったアンノウンの右腕は、魔力、というヤツだろうか?
黒く変色して目に映る周囲の景色をビキビキ削っている。
受け止める側のルシファーも、同じく右手を赤く発光させて胸元で押さえ込んでいた。
言われずともわかる。
アンノウンは殺す気で先制攻撃を仕掛けたのだ。
「ゲストのもてなしぐらい、させなさいよ、ね!」
ルシファー左手の爪が伸びる。
真紅の彩りを帯びたその爪はアンノウンの頭部めがけて直進し、一方滞空状態だったらしいアンノウンは、翼の紙片を一枚足場に使って跳び、同時に背表紙から逆噴射をかけての急速離脱を成功させた。
「まったく、育ちが悪いんじゃないの、アンタ?」
「あいにくと、私はまだ生後一日なのです」
こちらに離脱してきたアンノウンが裸足の両足で地面を削る。
うっかり血みどろの足を想像しかけて頭を振った。
気にするな。あれはアクマなのだ。
「ま、いーか。コホン。『我が城へようこそ。智欲の大罪アンノウンとその僕』
――おわぁ!?」
口上の途中でまたしてもアンノウンが仕掛けた。
雷のページ手裏剣。左右四枚ずつの八連続投擲。
すぐ間近で撃たれたもんだから、ゴロゴロビシャビシャうるさくてたまらない。
「案内は不要です。戦場の把握はすでに終わりました。
大方向こうに見える城の自慢でも始めるつもりなのでしょう?
いらぬお世話です。マスターに危害が及ぶ前に片を付けるとしましょう」
「あの、幼女悪魔さん、あなたの攻撃で鼓膜に危害が及びかけているのですが?」
「上・等。小手先の技が通じるなんて思うんじゃないわよ!」
「紙だと思って侮らないことです」
俺の苦情はしかし全無視。
飛びかかるアンノウンの手には、冷気漂う氷のペーパーナイフ(文字通り紙)の二刀流。
おそらくヤツはハンバーグの惨劇を再び起こす気だ。
対するルシファーは両手の爪をそれぞれ束ねてナイフと同程度の長さに。
真っ向受けて立つ気配。
先手はアンノウン。
ブースターの出力を開放し、殴りかかるようにナイフを突き出す。(1秒)
後手のルシファーはナイフを受けつつ体を左に流し、アンノウン突進のベクトルエネルギーをギリギリで回避。その場に留まる。(2秒)
アンノウン再びの逆噴射。両足で地面を抉りながらもなおの飛翔。
上翼風の逆噴射と下翼炎の正噴射により上下逆転して跳ね上がる。
高く上昇出来た理由は足に仕込まれたページと思われた。(3秒)
振り返りざまに繰り出されたルシファー右手薙ぎ払いの爪が跳ぶアンノウンの髪を一房奪う。アンノウン、ルシファーの背後へ(4秒)
ブースター120度開放し、アクセル。
アンノウン、落下しつつ全力のクロス斬りを繰り出す。(5秒)
ルシファー空振った爪剣を開放。
五指の爪をそのまま伸ばして地面に突き立て六枚羽を振動。
全力のサイドダッシュによりアンノウンを回避。
しかし回避しきれず右腕を斬られる(6秒)
アンノウン頭から落下し、バウンド。
上下感覚不明瞭状態に陥りブースター使用不能。
物理防御にページを集中、ガードを固める。(7秒)
ルシファー反撃。右手を引き抜き、左手の爪剣を開放。
右足を強く踏み込み、五爪を撃つ。
しかしアンノウンが集中した紙片への接触と同時に爪は伸長を停止。
逆に掴まれた。(8秒)
アンノウンは攻撃をあえて受け、敵の方向を再認識。
ナイフを一本捨て、右手で爪を掴み取る。
血がページを汚すが無視。
推進翼出力全開180度、Full Boost!(9秒)
そして、10秒目。
アンノウンは両手持ちでナイフを叩き込み、ルシファーは負傷した右腕でそれを受ける。
両者そのままの体制で数メートル地を削り、一時戦闘を停止した。
勝負どころです。評価1Pから歓迎。
「よろしくお願いします」by幼女悪魔