レヴィアタンDEAD END
明かされた対戦カードは嫉妬の大罪レヴィアタンVS.狂希の大罪アザゼル。
開戦は乱入者であるアザゼルから、レヴィアタンへの攻撃によって行われた。
具体的には、首を括られて消滅しかけていたニャルラトホテプを力任せにブン投げるという方法で。
レヴィアタンはレヴィアタンで、傍らに頭から突っ伏していたルシファーの両脚を掴み取ってスイングし、投擲されたニャルラトホテプのどたまに向けて、同じくルシファーのどたまをジャストミートしてホームラン。
さらにジャイアントスイングで一周振り、アザゼルに向けてルシファーをピッチャー返し。
アザゼルはこれをさらりと回避し、回避されたルシファーはそのまま飛んでいってスタンドスクリーンに突き刺さった。
「…アザゼル。弁償」
「お門違いも大概にしろ」
周囲に帯遊する出刃包丁を投げまくるレヴィアタン。
アザゼルがこれをひょいひょい避けるものだから、投擲された包丁は、そのまま観客席へと飛んでいく。
当然上がる悲鳴と怒号。
「おい、アンノウン。あいつら両成敗にできねぇか?」
「無茶を言わないでください、マスター。
とはいえ仕方ないですね。…call『M61バルカン砲』」
重射撃形態のアンノウンがため息をついて召還したガトリングガンが、的を外して観客席へと向かう包丁やらなにやらを弾幕を張ることで落としていく。
当然観客に当たらない射撃角度でだ。
アンノウンに対する観客たちの好感度がまた少し上がったような気配がするが、代わりにストーカーに対する嫌悪感が天井知らずにうなぎ上りだ。
「…このままではキリがありませんね。
仕方ありません。マスター、会場のマイクは扱えますか?」
「あ、ああ、なんとかなる、と思うぞ」
「それなら観客に避難の指示を出してあげてください。
左下部スラスター射出。ウィング展開」
その言葉通りにアンノウンの左下部の本型ブースター、いや、姿勢制御装置が固定シャフトから射出され、背表紙の上下から翼を展開。
そのまま90度角度を変えて自分の背に張り付き、ベルトを吐き出して拘束し始めた。
「マスター、シートベルトを忘れないでください」
「ちょ、ま、おい!」
嫌がっても勝手に縛り上げてくるぞ、この本!
俺の背に問答無用で装着されたブースターが、アンノウンの「GO」指示を受けて火を噴く。
直後、ひどい重力加速度を感じて景色がぶっ飛んだ。
気付いたら実況席に戻っていたわけだが、アイツ、よくこんなもの四つも背中に背負ってられるな。
「……ちっ、きしょ…視界が歪み、やが…くそっ」
膝が勝手に地に着いたまま、立ち上がれない。
脳震盪でも起こしやがったか?
ふざけろよ、俺の体。情けねぇにもほどがあんだろ。
「――ッ!」
歪む視界で周囲を見渡すも、さっきまであったはずの場所、つまり机の上にマイクスタンドがない。
なにかの拍子に飛ばされたのか? 思い当たる節が多くて泣けてくるな。
「…どこだ? どこにある…?」
俺、ルシファー、レヴィアタンと三人分は用意されてたんだ。
必ず見つかる。マイクはどこだ?
「…チッ…レヴィアタンのヤロウ…」
すぐに見つけられたひとつには、土台についたスイッチの部分に出刃包丁が。
アイツ、後でしばく。――残り二つ。
狭まる視界が山なりに伸びる黒い線を捉えた。
「…おい、お前…まだ飛べるかよ…?」
二つ目のマイクスタンドはスチール棚の向こうに姿を覗かせて手が届かない。
背後のブースターに声をかけてみるも、返答はなかった。
さらに狭まってきた視界の中、黒い線を逆にたどって最後の三つ目を探す。
運がいいのか悪いのか、最後の一本は俺の視界を避けるように大回りして、俺のすぐ後ろへと続いていた。
「……最初から、視界に映っとけよ、な…」
そうして俺は、ようやくスイッチを押すことができた。
何度も移動を繰り返しながら戦っていたレヴィアタンは、中央の武舞台でアザゼル相手に彼の手術用のメスと、己の出刃包丁を噛み合わせながら、会場に退避勧告が発令されるのを確かに聞き届けた。
この世界の観客衆を、現実世界のそれと同じに考えてはいけない。
なまじ自分の力に自信がある分、実際に自分に被害が及びでもしない限りは簡単に退避してはくれないのだ。
だから包丁ぶん投げた。そして、今こそダメ押しの時。
現代における『嫉妬の大罪』が獲得しえた新能力をお披露目すべき時だ。
「アザゼル。見せてあげる。これが初お披露目。嫉妬の大罪が近代絶技。
名付けて固有結界『嫉妬深き者達の呼び声』」
右腕を天高く掲げたレヴィアタンを中心に、闘技場全体が謎の空間に覆われていく。
そしてすぐに最初の犠牲者がでた。
ある観客の携帯に「メールだヨ」と音声が届き、自然にそのメールが開かれる。内容は「今どこにいるの?」。
また、ある観客のスマートフォンにもメールが届き、勝手に開く。
「今なにしてるの?」「時間あるかな?」「話したいことがあるんだけど」
「今から会えない?」「すぐそっち行くから」etc.etc.
着信拒否は無意味。電源は消えない。
機器を破壊すれば脳に直接メール内容が送られていく。
会場全体から響き渡る、
「メールだヨ」 「メールだヨ」 「メールだヨ」
「メールだヨ」 「メールだヨ」
「メールだヨ」 「メールだヨ」 「メールだヨ」
「メールだヨ」 「メールだヨ」
の音声嵐。
特に被害経験者相手には効果絶大のトラウマ奥義。
加害者はこれが立派な心理戦術であることを理解せねばならない。
少なくとも智欲や覇奪を考え出した作者が、ティラノや試製四式重迫撃砲などと同等の戦術的価値を見出して、同カテゴリに放り込んだ事象であることだけは間違いない。
相手から返信がないのに五本も六本も連続してメールを送るのは是非やめよう。
これが嫉妬の大罪の心理戦術『嫉妬深き者達の呼び声』。
嫉妬の大罪悪魔たるレヴィアタンが、世界中すべてのストーカーたちの加害メールを業務上横領し、その被害対象となる空間内に存在する人数の分だけ己の業のカウントを倍増させる、人が一箇所に集まれば集まるほどに脅威や嫌悪感を増す禁断の秘奥義。
戦闘の真っ最中に業カウントを上昇させる、ルールを戦技にまで昇華させたレヴィアタンの近代絶技だ。
さらに言うなら現代のストーカーには送信だけではなく受信、すなわち盗撮、盗聴の能力も存在する。
つまり、敵の思考を盗み聞きするレヴィアタンに、致命打は当たらない。
これが嫉妬の大罪レヴィアタン。
初期設定に不死身と記された最強生物であり、後に嫉妬の大罪を背負わされて大罪悪魔化。
さらに現代において受信能力と送信能力を獲得。
甘く見てると刺し殺される悪魔の中の悪魔。
とはいえ、この状況下でのメール送信による能力増大はもって五、六分。
観客衆の退避が完了すれば、それがタイムリミット。
それ以降の能力増大は、味方や敵対相手を被害者にし続けることでしか上昇することはない。
とはいえ命懸けの戦闘の真っ最中に、迷惑メールをやまほど送られてくるだけでも大概な技であることに変わりはない。
なにより携帯がものすごくうざったくて、イライラする。
「アザゼル………死んで。」
しかし、どのような状況、理由であれ、戦闘中に相手が隙を見せればそれを狙わない手はない。
能力を増大させたレヴィアタンは、音も立てずに堕天使の背後に姿を現し、振り向いたかの男の胸に飛び込んで、深々と包丁を突き立てる。
…それは、どう見ても痴情のもつれで男が刺されたようにしか見えない光景だった。
――レヴィアタンDEAD END。
「メールだヨ」
byレヴィアタン。




