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平凡男と危険すぎて抹消されたアクマ  作者: 折れた筆
第一章 ルシファー強襲編
6/83

平凡男と真紅のアクマ

 あれから丸一日が過ぎた。

 昨日の夕飯と一緒くたに買っておいたアイツ用の朝と昼分の食事を冷蔵庫に押し込んで、扉にメモ書きを貼り付ける。

 大学に顔を出し、特に話がしたい気分でもないので人気ひとけの乏しい席を選んで置物と化した。

 講義の声は当然のごとく右から左へと流れていって、まるで覚えていない。

 しかも長々と時間を使った割にはたいそうな結論は出てはいない。

 せいぜい「血の繋がらない家族とか、いきなり現れたクローンとか、そういう類のものに唐突に遭遇するとこんな気分なのか」という無意味な実感と理解を得ただけ。

 これからどうするかという、根本的な問題がまったく解決してはくれない。


 いつまでなのかもわからないまま部屋に置く?

 ――ありえないな。

 年頃になるまで育てて嫁に取る? 

 ――そんな趣味はないな。むしろいろいろ危険過ぎる選択肢だ。

 ならあの妙な能力使わせて一稼ぎ? 

 ――それでヒモかよ? 人として終わってるだろ。


 …まったく、どうしたものか、だ。はぁ。


「とりあえず、バイトでも探すか」


 なにをするにもとりあえずは金か。

 世知辛い世の中だよ、まったく。

 コンビニに向けていた足をスーパーへと向けて方向転換。

 冷凍食品でも買っとくか。

 ついでにご機嫌取りにお菓子でも買ってやるかと財布の中身を確認していた。


/(この時の俺は、まだ気付いてはいなかった。

 いや、問題を先送りにしていたと言った方がより正確だろう。

「その時」にはまだ時間がある、と、だれも保証などしてはくれないのに勝手に思い込んでいたのだ。

 だがそれは当然のように叶わぬ願いだった。

 厄災はいつだってこちらの都合など聞いてくれはしないのだ。

 それこそ、他者に自慢されることを極端に嫌うようなヤツは、特に。)




「お邪魔するわよ!」


 いきなりだった。本当にいきなりだった。

 前振りも、フラグも、導入も、アポイントも、扉のノックすらもなく、冷蔵庫を漁っていた俺と、煎餅初かじりでご機嫌度MAXのチビ悪魔の前に、唐突に「そいつ」は現れた。

 少なくとも、俺の思考はこの時完全に停止した。

 なぜかって? 考えても見て欲しい。

 我ながら情けなくも、さえない、モテナイ大学生の俺の安普請のアパートに、



 滑らかな金髪はストレート。

 宝石のような碧眼を輝かせ、獅子の金糸細工を施された真紅のドレスを着込んだ推定年齢十六、七の美少女がやってくるなど、

     アリエルワケガナイ!!



 もう一度言う。アリエルワケガナイ!!

 こんなとき、一般的な普通の人間はどんな反応を示すのだろう?

 少なくとも、俺は凍り付いて石化したさ。笑わば笑え。


「いたいた、あなたね。Hello おチビさん」


 ずかずかと遠慮のかけらもなく、土足で上がり込んだ少女は完全に石化した俺を見事にスルーして緑髪黒目、古紙の翼に樹木の角の幼女悪魔に話しかけた。

 正直、この時の俺の感想は「ヤバイ、見られた」だ。

 まるで殺害現場な感想に我ながら辟易するな。

 どうにも昨夜の惨劇がいまだに後を引いているらしい。

 ついでにそれはそれとして、とりあえずブーツは脱いで欲しいと思う。


「どちらさまでしょう?」


 だが幼女悪魔は怯まない。

「バリボリ」煎餅かじりながら無表情に応対してくれた。

 そして金髪少女もいい度胸。

 煎餅かじってるチビを上から下までじろじろ見回し。

 果ては頭ぐりぐり角までいじくりまわし始めた。

 …靴を脱げと言うタイミングを完全に逃した。泣ける。


「へぇー、ほぉー。

 これがあの、元原罪悪魔Extra demon『アンノウン』かぁ」

「『アンノウン』?」

「話の流れから、おそらく私の呼称のための名称と推測できますが…、unknown 不明、未知ですか。

 まあ、名無しも不便ですので、せっかくです。使わせていただきましょう」

「おチビちゃん、軽いわねー。いろんな意味で」

「ひっくり返さないでください」


 逆さまに持ち上げられて、なぜかシャカシャカ振られる幼女悪魔。

 本当に名前、アンノウンで決定していいのだろうか?

 あとスカートめくるな。18禁になるぞ。

 おいチビ、お前も少しは恥らえ。


「あなたは、聖書関係者ですね?」

「そうよー。最強最悪の大罪悪魔と称された、『智欲の大罪』アンノウン。

 …わざわざ遠くイギリスからこんな島国の、しかも小汚い豚小屋まで飛んできてあげたのよ。

 むせび泣いて感謝しなさい? お――」

「左様ですか。もう一度問います。

 あなたはどちらさまでしょう?」


 絶妙のタイミングだった。

 金髪少女は口元に手を当てて「おーほっほっほっ」とやりたかったのだろうが、開放された幼女悪魔はそれを許さない見事なタイミングで発動キャンセルしてのけた。

 それがよかったのか、それとも悪かったのかは知らない。

 少女は苦虫を噛み潰したかのような屈辱の表情を一瞬だけ見せ、すぐにそれを、手品のように取り出した扇子の奥に押し隠して、数歩下がる。


「これはこれは、申し遅れてしまいましたわね」


 おそらくは一時的なものだろう。

 まるで人が変わったかのようなスタイルの変化だったが、口元の三日月が本性を物語っている。

 少女は持っていた扇子を「消し」て、真紅のドレスの裾をつまみ、優雅に一礼をして、みせる。見せる。魅せられる。

 右に一枚、左に一枚と背中から黒いモノ、いや、翼がメキメキと生え出したのだ。

 そして六枚目の羽が生えたと同時に、推定悪魔少女は顔を上げた。


「わたくし、ルシファーと申しますの」



『ルシファー』(Lucifer)

 元は全天使の長という立場にあった最上級の天使。

 しかし如何様な理由によるものか神と対立し、天界を追放されて神の敵対者となった『傲慢の大罪』を司る大悪魔。

 天使と悪魔の対立関係を激化させ、戦争にまで導いた原因とも噂される反神論者。

 その実力は彼女こそが本当の『魔王』ではないのかと疑われるほどであり、序盤に出てくるにはありえないほどの格を持つ、ラスボス級存在である。

 


 左右三対の翼が一斉に伸びきり、空間を叩いた。

 一礼したその仕草は、おそらく舞踏へと誘う招待状のようなものだったのだろう。

 少女を中心として静かにひび割れていく部屋と、世界。

 暗闇に堕ちた世界はすぐさま飛び散った色をかき集め、渦を巻く。

 俺はその光景を目に焼き付ける危険を避け、目を瞑ることにして世界の再構成を待った。


 チート級幼女悪魔アンノウンVS.ボス級金髪碧眼悪魔ルシファーの、エンカウントバトルが今、始まる。

 この戦い、LV1平凡男は、果たして生き残れるのだろうか?

そろそろ第3部「平凡男と名を奪われたアクマ」に埋めておいた爆弾を起爆します。

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