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平凡男と危険すぎて抹消されたアクマ  作者: 折れた筆
第四章 レヴィアタンの依頼編
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砕け散った鎖

『…命銘、約束された暴食(エクス・ベルゼブブ)です…』


 アンノウンの手に握られた、身の丈倍に値する出刃包丁がドラゴンの肉を切り刻んだ。


「肉ぅぅぅぅぅぅ!!」

「に~く。に~く!!」


 飢えた実況席を筆頭に、会場からアンノウンへとラブコールが送られる。

 当のアンノウンはその歓声に応える気なのか、出刃包丁をリセットして自身の周囲にレイピアを多数(アンドドレイクの巨体を考えると百本近く)召還し、「ビビビビビッ」と最後の一仕事。

 肉刺しレイピアの一本をこちらの実況席に投げつけてきた。


「キタキタキタキター☆」

「あ、コレ矢文が付いてる」

「レヴィ、読んどいて。…ンマ♪」


 付属の矢文をレヴィアタンに向けて放り投げ、レイピア片手に直接がっつき始めるルシファー。

 コイツほんとに金持ちのお嬢か?


「会場諸君。今から智欲の大罪さまからのお手紙を読み上げる。心して聴け。

『販売権を売り子に委譲。売り上げの50%要求。

 日本円にしてドラゴン肉一欠片千円、一串五欠片(ごかけ)で五千円。一人一本限り。ビール推奨』

 以上。…最上級ステータスアップアイテムが五千円とか…」

「…いまいちよくわからんな」

「…ん~。こう言えばわかる? 麻薬ドラッグとかの百倍価値」


 おいおい。


「………まさか警察にしょっ引かれないだろな?」

「だいじょうぶ。現実世界にはドラゴンいないから」


 いてたまるかっつの。


「あ。売り子のみなさん。レイピア飛んでくるから迂闊に動かないように。たぶん死ねる」

「くっはー☆ たぎってきたぁぁぁ!!」


 てか仕事しろよ、お前ら。

 アンノウンはアンノウンで、各所に点在する売り子さんたちをターゲットして肉付きレイピアを投げまくる。

 観客は観客で肉を目当てに殺到するし、売り子さんがたはレイピア投擲に恐怖した直後にお客に迫られまくるしで半泣きだ。


「…カオスだ」

「ま、よくあることよー。食べる?」

「いらんわ」


 せめてもっと普通なのよこせ。

「強くなったら殺す」とか言ってたのはどこのどいつだっつの。


「そ。レヴィは?」

「いただきます…んまー♪」


 ほんと仕事しろよ、お前ら。

 

「おーいカメラ、実況仕事してないんでこっちからオーダーだ。

 九尾とウリエルどうなった?」


 俺からのオーダーを聞いてくれるかは正直微妙だったが、どうやら彼らはここのバカどもよりかは仕事をしてくれるらしく、スタンドスクリーンに九尾とウリエルの映像を送ってくれた。

 …よかった。二人とも骨にはなってないぞ。ちゃんと焼け残ってるし、息もしている。

 ウリエルに至ってはすでに起き上がって九尾の付き立てた刀を引き抜きにかかってるぞ。

 このあたりさすがは火の属性たちか。まんま火葬状態だったのによくもまあ原型残ってるもんだ。


「(…どうせなら全裸マッパになっときゃよかったのに)」

「……なんのつもりだい、ルシファーくん?」


 人の耳元で、さも己の感想のようにささやくのはやめてほしいとこだな。

 手元に愚者狩り(ハリセン)があったら張り叩いているところだぞ?


「まーだ生きてるのね、ウリエルのやつ。あいかわらずしぶといことしぶといこと…。

 九尾のほうはさっきの業火に体力持ってかれたよーね。レヴィ?」


 ルシファーの呼びかけに串焼き頬張ってたレヴィアタンが反応する。


「むぐ? …ん。確認した。九尾の狐、リタイヤ。

 しかし惜しみない賞賛を与えたい。ぐっじょぶ九尾。ないすふぁいと」


 パチパチパチと会場から九尾へと拍手が送られる。

 アンノウンからも多量の肉が付いたレイピアが一本投げ落とされた。


 ――九尾の狐・玉藻の前、及び寄り代の雫嬢、脱落。


「残りはアンノウンとウリエル…それにメタルスライムか」

「否定する。確認してみたところ、メタルスライムはすでに九尾に墜とされてたもよう。

 ちびちゃんがアンドドレイク相手に怪獣大決戦やってる間に、ウリエルと三人でもぐら叩き状態だったみたい」

「なら残りはウリエルだけか…許可する、アンノウン。遠慮なく殺れ」


 アンノウンVS.ウリエル。

 そのどっちにも痛い目に遭ってほしいと願うだれかがいるような気がしてならない。


「容赦するな。手加減もいらん。首を落とす気でいけ。

 結果消滅させてもかまわん。責任は俺が取る」

「ちょ、ちょっとアンタ、なにマジになっちゃってんの?」

「…まるでだれかに乗り移られたかのような本気っぷり」


 そしてこの時、だれも予想していなかったことが起きた。

 アンノウンが映る画像から「バギンッ」となにかが砕け散る音が鳴り響き、彼女の目の前に一巻きのパピルスの古文書が現れる。この現象の意味を理解しているのは、おそらく俺とアンノウンだけだろう。

 そう、『カスタム・ロー・アイアス』の封印が解かれたのだ。本気すぎるにもほどがある。

 アンノウンにもその、だれのものかもよくわからない本気が伝わったらしく、殺戮モードに思考が切り替わる。

 ガントレットにまで進化したメタルアームに、さらなる紙片をinstall。

 試用兵装とか言っていた『ドラゴンクロウ』を上乗せして、ドラゴンの爪と機械の篭手を併せ持ち、より生物機械っぽく変化して凶悪化する両腕。


「なに!? なにが起こってるの!? 魔神化でもした!?」

「わからない。わからないけど、どこかで誰かが怒ってるような気がする」

「――ッ。聴こえる、ウリエル!? 本気でかかんなきゃマジ滅ぼされるわよアンタ!

 三途の川に流されたくなかったら死ぬ気でかかりなさい!」

『チッ。クソがっ!』


 殺戮モードに切り替わったアンノウンが、地上から飛び立って距離を置こうとするウリエルに向かって、ブースターシャフトから戦闘機に搭載されているようなミサイルを撃ち出した。

 その数六発。アンノウン自身もブースターを噴かせて距離を詰める。

 上昇するウリエルに、それを追う六発のミサイルとアンノウン。

 上昇の途上で振り返ったウリエルが、右腕を燃え上がらせて紅蓮の拳を真下へと振り抜く。

 直撃を受けて誘爆するミサイル群。

 最後尾にいたアンノウンはこれを回避。

 お返しとばかりに左手のひらをウリエルに向けて突き出し、右の拳を大きく弓引く。

 篭手の上腕半ばから噴出し始める蒸気。


「――まさかっ!?」/「――コレはっ!!」


 振り抜いた篭手が「ドウ」と噴射音を鳴らして飛んでいく。

 伝家の宝刀、ロケットパンチだ。

 …いや、アンノウンのイメージならブースター。ブーストナックルか。

 アンノウンは振り抜いた右腕でさらにターゲッティング。

 構えを左右を入れ替えてスイッチし、今度は左の篭手を撃ち出した。

 アンノウンの手が素手の状態に戻される。

 同時に右上部のブースターシャフトから一丁のスナイパーライフルが具現化し、

 彼女の肩に押し当てられて狙撃態勢が整った。

 対物アンチ・マテリアルライフル、『ZVファルコン』。

 1990年代に開発された大口径狙撃銃。装弾数二発限りの、しかしヘリコプターを撃墜するなどの意図で運用された重量兵器だ。…人に向けて撃つと原型を留めないらしい。


 そして精密狙撃用のスコープがウリエルを捉え、鋼鉄の銃口が火を噴いた。

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