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平凡男と危険すぎて抹消されたアクマ  作者: 折れた筆
第一章 ルシファー強襲編
5/83

平凡男とアクマのチカラ

 …結論から言おう。

 今回はプライドではなく、食欲を殺された。

 それもR18ギリギリの危険度で。



 つい先ほど、俺がコンビニで買ってきた夕食のハンバーグを前に、スプーンを高々と掲げた緑髪黒目の悪魔幼女は、ナイフでも突き立てるかのようにスプーンをくるりと逆手に持ち替えて肉に向かって勢いよく振り下ろし、「どザシュッ」と会心の一撃の効果音を鳴らしてのけやがったのだ。

「ザシュッ」じゃあないぞ。「『ど』ザシュッ!」だ。

 思わず驚愕に目を剥く俺を置いてきぼりにしつつ、悪魔幼女は狂気の笑みを感じさせる無表情で、「ドシュドシュッ」「ズガガッ」と追撃の連続技を慣行。

 頬に飛び散った肉をぺろりと舐め取り、血も涙も、情けも容赦も諸行無常もなにもない、連打、連打、また連打。

 察するに、初めての食事にエキサイトし過ぎたのか、知識を再現できる能力とやらを意識的か、無意識的かは知らないが暴走させてしまっているのだろう。

 きっとそうだ。そうに違いない。

 いやむしろ間違いない。頼むからそうであってくれ。

 これがこいつの食事風景のデフォルトとかありえないから!

 焼けているはずの肉がどんどん赤くなっていくんだぞ。

 血が生温かく飛び散って鉄のにおいを漂わせてくるんだぞ。

 牛か豚かのひづめがころりと転がってくるんだぞ。

 眼球だけは再現するのマジやめて。想像しただけでも失神するから。


 命は大切に!

 食べ物はもともと生きていた「者」なのだと決して忘れてはいけない!!

 特にそこのりんごほっぺ幼女悪魔!!!


「はむはむ」「ブチリッ」「もぐもぐ」「ゴキュリ」と、もう猟奇的殺人現場を目の当たりにしているのではと、一時期錯覚しかけた。

 仕舞いには「ブモォッ!?」「ピギィッ!?」と牛や豚やの断末魔の悲鳴まで再現されて…その横でから揚げ弁当を食え、いや「喰え」と!?

 一口だけ勇気を出していってみたけど、肉の食感が最高に嫌過ぎたわ!



 そして、


「…お前、次から風呂場でメシな」


 結論。解体処理は風呂場と相場が決まっている。

 サスペンスものでは当然のお約束だろう。

 包丁でものこぎりでもチェーンソーでも好きに使ってくれ。

 しかし警察だけはお断り。

 だが宣告された方は不服なのか、ピクリと反応して頬と古紙の翼を膨らませてみせた。


「不当な要求は断固拒否します」


 つーんとそっぽ向く幼女悪魔。

 だがこっちも逃がさずアイアンクロー。


「キ・ミ・は、数分前になにをしでかしたか忘れちゃったのかな~、知識欲の悪魔くん?

 部屋の血痕も飛び散った肉片も、復元できりゃいいってもんじゃあないんだぞ?」

「ぎゃ、ぎゃくたいはんたい、です」

「とゆうか、そもそも、なんで俺はお前が居座ることを容認しかけてるんだ?

 お前、俺になんかやったろう? 吐け。吐きやがれこのチビすけ」


 どこぞの中二病やゲーマーじゃあるまいし。

 この順応、容認の早さは俺的に普通じゃない。

 そしてそれが的中であることを示すかのように、幼女悪魔の体がビクリと震えた。

 やりやがったなコノヤロウ。


「吐け悪魔。さっさと吐かんとその紙くずの翼を芋虫に喰わせるぞ」

「ひぃ! な、なんとういう鬼畜なことを思いつくのですか、マスターは!?」

「角はシロアリだ」


 この一言がトドメになったか、りんごの木でできた角を持つ悪魔は真っ青になって怯えだした。

 神に核弾頭を叩き込むような悪魔の弱点が、芋虫とシロアリとは世も末だが、まあいい。


「さあ、吐け」






「…………………………………………………………………心臓、です」


「心臓?」


 つぶやいてみてからハッとした。

 そうだ。確か、あのとき、


「マスターの心臓には、本を開いた時に、『私のページ』が一部、張り付いています」


 そう、そうだ。あの透明な本を開いた時、心臓を直接触られるような違和感と、妙に力を抜かれるような感覚があった。


「マスターの心臓に張り付いたのは、私の持つ『空白のページ』の一枚。

 なにも記されていないそれに、マスターの生命データと遺伝子情報をコピーし、本体である私に転写して、それをベースに肉体を構成しました。

 ページは今もマスターに張り付いて同化しており、私の体はマスターの生命波長にほぼ同質。

 それ故に、マスターは私のことを右手か左手、もしくは第三の手のように認識してしまっている可能性が高いです」


 それは、在って当然、ということだろうか?


「…マジ、かよ」

「………………申し訳、ありません…」


 がっくりと項垂れる俺に、悪魔は言葉少なに一言だけ謝り、口を閉ざした。

 説明だけで、言い訳はなにもせずに。

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