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平凡男と危険すぎて抹消されたアクマ  作者: 折れた筆
第四章 レヴィアタンの依頼編
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そして彼らは剣を取った

 ミカエルのおごりで昼食をとる一同。

 メニューはそれぞれ、俺がステーキ(マジ疲れたからな)、レヴィアタンがカフェオレとシフォンケーキ、ミカエルがグラタン、ウリエルが大盛りカレーライス。

 そしてアンノウンが必殺「お子様ランチ」ときたもんだ。

 全員リアクションに苦慮したよ。

 注文がそろうまでは雑談な雰囲気だったので、せっかくだし、気になってたことでも訊いてみるとしようか。


「サタンとルシファーって同一人物じゃないのか?

 あ、ファミレスなんかで訊いていいことじゃないか。

 悪い。訊いてから気付いたよ」


 それ以前に余計なフラグは立てないに越したことはない。

 うっかりVS.魔王のバトルフラグでも立とうものなら目も当てられん。


「今の質問は――「かまわない。むしろ最高のタイミング。ナイス。 ぐっじょぶ。

 ミカエルざまぁ」

「さすがに不愉快だよ、レヴィアタン」


 …なかったことに…してはくれないのな。

 実にうれしそうだよ、レヴィアタン。

 これは立ったんじゃないか? フラグ。

 …せめて無害なのであってほしいなぁ。

 と、まあ、そんな感じにむしろ嬉々としてレヴィアタンが説明を始めてくれたので、こちらは静聴に聞かざるをえない。…これは早まったかもしれん。

 まさか6時間コースとかないだろうな?


「質問に答える。その矛盾はミカエルが原因。

 ルシファー。この場合はルシフェルだけど。

 ルシフェルの叛乱理由はそもそも妹や弟天使たちの解放。

 そのルシフェルが叛乱したとはいえ、即座にミカエルに剣を振り下ろせるわけがない。

 でも、ミカエルは迷い苦しむルシフェルを容赦なくぶった斬った。

 ミカエルマジサイテー。天使の面汚しもいいところ」

「とりあえずそこだけ聞くとサイテーですね」

「まあ、確かにサイテーだな」


 主従そろってミカエルを冷たい目で見る。


「いや、僕だってそれなりに迷ったわけでだね…」

「聞く耳持たない。ルシフェルの叛乱理由が天使開放じゃなかったらもっとひどい泥沼になっててもおかしくなかったはず。

 そもそも神とルシフェルを天秤にかけて、三割以上もの天使がルシフェルに味方したのは事実。

 しかも叛乱当初はただの直訴嘆願のつもりで、だからこそ三割もの天使が集まったのだとわたしは聞いている。

 なのにその直訴を叛乱にまで発展させたバカがいた。

 そう。当時剣も持たずに神に会いに行ったルシフェルを、容赦なく背後からぶった斬った、この目の前に居るエターナルレア級の神バカアホ天使が。

 で、そのまま直訴は叛乱に様相を変えてルシフェルは敗走。瀕死の重傷を負った。

 それでも天使勢は追撃をかけた。ルシフェルが救おうとした天使たちを使って。

 ルシフェルの真意を知るどこぞのアホ天使なら、少しぐらいの配慮はできたはず。

 でも当然のようにしなかった。ほんと腹切ってでも詫びてほしいと思う。

 介錯喜んでするから。

 ミカエルに斬られたことといい、助けようとした天使たちに追われたことといい、わたしの泉に療養に来たルシフェルがどれほど泣いたと…。

 ああ。なんか今無性にダレカヲ殺したくなってきた…。(フゥフゥ)」


 …息を荒く、ミカエルを殺気全開の視線でねぶるレヴィアタン。

 もしかしてコイツの嫉妬及び執着対象はルシファーのやつだったりするのか?

 …まあ、どうでもいいな。


「…ぁ、はぁ…はぁ。…話を戻す。

 けっきょく傷ついたルシフェルをかばうため、堕天使たち、正確には堕天使の烙印を押された者達はルシフェルの影武者を立てた。

 それが怒り狂ったサタナエル。今で言う憤怒の大罪、魔王サタン。

 サタナエルは当時、ルシフェルの姿でいくつもの修羅場を戦い抜いた。

 正直なところ、今わたしが…血と。涙と。絶望に――」


 言葉の途中でレヴィアタンの姿がフッと消える。


「…倒れたルシファーを目撃したら…サタナエル同様。

 自分を抑えていられる自信は、ない…!」

「――とか言いながら包丁振り下ろすのやめてくれるかな!?」


 テーブルの上に土足で上がりこみ、脳天めがけて大上段から逆手に握った出刃包丁を振り下ろすレヴィアタンに真剣白刃取りで受け止めるミカエル。

 これがわずか一瞬の出来事なのだから驚きだ。


「…(ちっ。)その後。怪我の癒えたルシフェル改めルシファーは、サタナエルのとった行為を広く公開。

 サタナエルをただの影とはせずに魔王にした」


 包丁をミカエルに白刃取りさせたまま、何事もなかったかのように元の座席に座りなおす彼女。

 これでだれも騒ぎ出していないのだから世界は不思議に満ちている。

 恐るべし、ストーカーの頂点、嫉妬の大罪レヴィアタン。

 包丁振り回して当たり前だと世界に認識されているのか!


「影武者の出世はいろいろ問題あるけど、ルシファーは魔王になることにこだわらなかった。

『文句があるならアタシのとこまで昇ってきなさい』が、その際にルシファーが言い放った一言。魔族・堕天使関係なしの実力主義の誕生。

 サタナエルはサタナエルで、やはりルシフェルこそと思っていたから影でいることを望んだのだけれど、結局ルシフェルに折れた。

 魔族と元天使じゃどうしたって一枚岩にはなれない。相容れない。

 それでも一緒に戦わないといけない状況だった。

 だからルシフェルは下克上上等のイメージをサタナエルに背負わせた」


 説明を続けながら自分のバッグをごそごそ漁りだすレヴィアタン。

 彼女は長方形の平べったい石を取り出してテーブルに置いた。

 同じくバッグからもう一本包丁を取り出す。


「歪みを引き起こしたのはこのときのミカエルの対応が原因。(シュリッ…シュリッ)

 ミカエルは、要約すると『魔族と堕天使が天界打倒のため手を組んだ』とだけ伝え、(シュリッ…シュリッ)

 ルシフェルの負傷をについては言葉を濁して事象をぼかした。(シュリッ…シュリッ)

 たぶんルシフェルを斬ったことが口を重くしたんだとは思う。(シュリッ…シュリッ)

 どうであれ折を見て刺すけど。(シュリッ)死ぬまで刺すけど。(シュリッ)

 復活しても刺すけど。(シュリッ)

 でも、それがそのまま人間にも伝わってしまった(シュリッ)」


 …うん。どうであれこんなところで出刃包丁砥ぎ始めるのはやめようね、レヴィアタン。みんなドン引きだから。

 そして刃に曇りがないかを日の光に晒して鈍く輝かせながら、ためつすがめつ砥いだ包丁を見定める彼女。


「その結果、原因となったサタナエルが影武者を演じていた事実が伝わらず、ルシファー、サタンの同一視が生まれた。

 人間からしてみれば、ルシフェル叛乱直後に影武者サタナエルが台頭し、いつのまにかサタンと復帰したルシファーとで二本柱になってた感じだと思う。

 途中抜けてるんだからわけわかんなくて当然。

 そうしてルシファーは叛乱失敗の責任を果たす目的もかねてNo.2の座に落ち着いて今に至る。そんな感じ」


 最後にレヴィアタンは、再びバッグから取り出したミカエルくん人形(ちなみに98代目と背中に記載されていた)に研ぎ終わった包丁を抉りこむように突き刺し、説明を終えた。

この物語はフィクションです。作中に語られるレヴィアタンの解釈はすべて架空のものです。

「天使を捨てられなかったルシフェル」を条件とする解釈のひとつに過ぎませんので、どうぞお間違えなきようよろしくお願い申し上げます。

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