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平凡男と危険すぎて抹消されたアクマ  作者: 折れた筆
第一章 ルシファー強襲編
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平凡男とアクマのお食事

「ありがとうございました」の声を背に自動ドアのセンサーをくぐる。

 さすがに今時のコンビニでも純然たる「癒し」は売っていなかったが、代わりに一番高い缶コーヒーを買ってやった。

 このぐらいの贅沢はしてもいいだろう、なあ、俺?

 少し移動して店の邪魔にならない場所を陣取り、背を預け、買ったばかりのコーヒー缶のプルタブに手をかける。

「カコッ」と小気味いい音を立てた缶を、その音の余韻ごとコーヒーと共にのどの奥に流し込む。

 苦くて泣けそうだった。



「買ってきたぞ」

「おかえりなさいませ、マスター」


 奥の居間からトテトテと悪魔幼女が寄ってくる。

 本当にどうしよう、コレ。

 大学生としてのプライドも、男としてのプライドもガリガリ削られた。

 次は人としてのプライドをヤラれそうで戦々恐々だ。


「マスター、マスター」


 幼女が左手のビニール袋に手を伸ばしてクレクレと催促してくる。

 一つ嘆息して手渡してやると、ピューと擬音が付きそうな勢いで取って返してちゃぶ台の前に陣取り、三歳児級の小さな手でビニールを外そうと四苦八苦、


「ああぁ」


 ――してるかと思ったら落とした。無表情ながら涙目になってるのが印象的だ。

 お、気丈にもなかったことにして、せっせせっせと「魔方陣」を描いている。

 ってなんだそりゃ!?

 じっと見つめていると、ふくれてすねたような気配を漂わせつつも毎度の無表情で、


「…私の記憶を元に、30秒前の状態に復元します」


 などと、のたまった。


「そんなことできるのか、お前」

「知識を司る悪魔ですから、このぐらいは当然です」


 しばらくすると、魔方陣がピカッと光って元通り。

 復元した弁当をそっぽ向いて渡してくる。

 どうやら開けろという意思表示らしい。

 ご要望のままにビニールを剥がす。

 ふと気になることができたので弁当を手渡しながら訊いてみる。


「そういやお前、箸使えるのか?」

「私をだれだと思っているのですか?」


 知識を司る悪魔さんなんだろう?

 だが、気になった問題はそこじゃあない。

 実践して見せようとする悪魔さんを、生温かく見守る。

 すると、


「…む…むぐ…ぬぅ」


 やはりというかなんというか。お分かりだろうか?

 箸の使い方を知っていようがなんだろうが、それを持つ手は三歳児。

 普通ならグー握りが当然の「おてて」なのだ。

 満足に使えようはずもない。

 先ほどのビニールの一件を鑑みるに、器用さもそれほど高くはなさそうであるし。


「…くぅ。これが『身体が付いてこない』感覚ですか。

 これはまた、なんとも歯がゆい。

 経験しなければわからない感覚ですね、これは」

「ま、わかってたけどな。…ほらよ」


 あらかじめ用意しておいたスプーンを放る。

 幼女悪魔はおでこでワンバウンドして、手元に落ちて来たところをキャッチしてみせた。

 普通の子供なら、おでこに当たった辺りで目を瞑って取り落としていることだろう。

 ノーダメージならノースタンなようだ。


「いざ。ハンバーグ初挑戦」


 高々と獲物を掲げて逆手に持ち替え、狩るようにそれを突き立てる幼女。

 弁当を見つめるまなざしに、キラリと星が瞬いたような気がした。

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