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平凡男と危険すぎて抹消されたアクマ  作者: 折れた筆
第三章 九尾巫女の厄日編
38/83

ジョーカーは敗者の手に

「結論から言っちゃうと、アタシら悪魔や天使の類はもともとただの人間なのよ」


 Q.信じますか? それとも信じませんか?

 A.信じません! ええ。断固信じませんとも。

 いやいやいやいや、普通の人間あなたみたいにあんなふうに爪伸びないから。

 俺的にはルシファーの説は許容しかねるぞ。

 疲れてるからってなんでもほいほい納得すると思うなよ。

 ちなみにアンノウンたちは自分の手番に回るたびに説明を交代しているらしい。

 と、言ってもほとんどノリなのだろう。どうでもいいが。


「残念ですが私の認識する世界にとっては事実です。

 私達天使や悪魔は、通称『概念存在』と呼ばれ、そのほとんどが人間を含めた動植物の体を依り代にこの世界に存在を許されています。

 この手の事象においてはよく勘違いされますが、対象の体に変質を促すような上位存在は、依り代の体にも自分の能力を使いこなすため、それ相応のスペックを要求しますので乗っ取りというよりは融合に近いです。

 無能な人の元へ概念存在が降り立つほど、世の中甘くはありませんのでそこはあしからず。

 とはいえ抜け道がまったくないわけでもないのが厄介なところなのですけどね。

 マスターにもいくつか思い当たる物語があるのではないでしょうか?

 強力な力を持った剣とか、精霊とか英霊とか、神様とか」


「あと、智欲の大罪(おまえ)とかな」と、心底つっこんでやりたい。

 やはり長いセリフになるときは相手の手番も無視してしゃべり続けている。

 ちなみに落ちた手札は二人まとめて、スペードの8とA、クラブの2、ダイヤのA、ハートの2と8だ。

 そこまでの説明を受け、ルシファーがソファーの背もたれに身を沈め、足を組んだ。


「アタシ、一応本名は『ルーシー』っていうのよ。バラしたくなかったけど。

 ムカつくからついでに教えてやるわ。ミカエルが『ミハエル』で、ウリエルが『ウルフ』、レヴィは『瑠美』、アスモが『明日奈』よ」

「精神波長が合う人間は、その名前や呼び音も似通ったところが出てくるようです。

 ミカエルがいい例ですね。

 常日頃から『ミカエル』に近い名を呼ばれ続けて生きてきたわけです」

「で、概念存在と完全に共鳴すると唐突に融合するわけ。

 アタシのときは…あの時はそうねー、確か、力を手に入れたって感じより、『力を取り戻した』って感じだったかしら。

 少なくとも拒否反応はなかったよーな気がするわ。

 表現がどー遠回りしても中二っぽくなるから、恥ずくて言いたくなかったけど。むしろ遠回りすると逆に恥ずいし」


 …「自分は悪魔です」って自己紹介するだけでも、十分に恥ずかしいだろうと考えるのは俺だけか?

 少なくとも俺、「大罪悪魔のご主人様です」なんてなかなか言えないぞ。


「これが概念存在の基本となっている『能力の継承方式』です。

 とはいえ、これはあくまでも基本。

 概念存在の能力によっては、基本の継承より親から子へと伝える『血統継承』の方がより精度の高い場合が存在します」


 残り手札十枚程度のここでアンノウンが説明を切る。

 ちょうどルシファーがジョーカーに笑われたところだった。

 しばらくして「このチビ、ほんとむかつくわね」と言い捨て、ルシファーが残りを継いだ。


「…アスモはその典型ってわけよ」


 不機嫌を隠さず、吐き捨てるように続けるルシファー。


「色欲の大罪はその能力の特性上、異性には事欠かないわ。

 女に生まれたなら、一月も外に出して放っておけばイヤでも後釜作って帰ってくるわよ」

「………悪い。嫌なこと訊いたな」


 実際に自分の女兄妹の身に降りかかる厄災ともなれば、想像するだに胸糞悪くなって当然だろう。

 ここは素直に謝るべきだ。沈黙するよかマシだろう。


「フン。なに謝ってんのよ。バッカじゃないの。

 アタシはただ、説明のババを引いただけよ。

 この際だから言ってやるわ。よっく覚えておきなさい。

 どの大罪であれ、そんなクソッタレな人の業を背負っているのが『大罪悪魔』なのよ。

 本人が望もうが望むまいがね。

 アンタも大罪悪魔おチビのマスターなら覚悟決めておきなさい。

 歩く道が善であれ悪であれ、筋を通さないヤツはただのクズよ。

 少しでもマシな人生送りたいなら、世界に負けようが他人に負けようがかまいはしないわ。

 最低限甘ったれた自分の弱さにだけは負けないことね。

 牙を剥くと覚悟決めたなら、知略を巡らせればハメて殺すための選択肢は見えてくるモノよ?

 逃げ場所探し続けて生きていく負け犬の人生、お断りなんでしょ?

 人間ってのはねぇ。牛でも豚でも、魚でも木の実でも、自分以外の命を喰って生きてんのよ。知恵をしぼって加工しながらね。

 それは相手が誰だろうとなんだろうと変わりはしないわ。

 考えて、追い詰めて、獲る。それが世界のルールよ。

 アタシらの牙は獲物を喰らうために、アタシらのおつむは獲物を追い詰めるためにあんのよ。

 そしてその責任は自分のプライドで取って生きていく。

 腕一本、足一本…体ひとつに魂まで賭けて。

 その生き様の果てに狼に成るか、野犬に成るかは自分で決めなさい。

 責任逃れの見苦しさに覚えがあるのならね。

 アタシは世に名高き傲慢の大罪、泣く子も黙らせるルシファー様よ。

 人でも神でも、筋を通さないクズに容赦はしないわ。よく覚えときなさい」


 手札の残りは二人合わせて5枚。


「…ちなみに色欲の大罪は、基本的にいつの時代も他の大罪悪魔が保護しています。

 マスターの代ではルシファーのメイドとして付き従っているようですね。

 うっかり手を出せば覇奪カリバーで首を落とされます。

 ご愁傷さまです、マスター」

「いやいや、手ぇ出さないから! ってか、覇奪カリバーってなんだよ!」


 覇奪カリバー。アンノウン流の場を和ませるためのジョークかね?

 ぶんぶん手を振って否定するが、アンノウンにはまるで信用されていないっぽい。

 ルシファーも性犯罪者を見るような軽蔑しきった目で一瞥くれたし。


「まーいいわ。…概念存在の能力の継承は以上の二つ。

『融合継承』と『血統継承』、この二つだけ…の、はずだったわ。

 おチビ、アンタが顕れるまではね」


 ルシファーが引いて残り3枚。ジョーカー、スペードおよびクラブのQ。


「…は?」/「………」


 なんか意味不明なことを言い出したぞ。


「ニブいわね。途中飛んじゃったけど、ここまで説明して、まだ理解してないの?

 引かされたババ、ここで返すわ」


 アンノウンがルシファーの手札を引こうとした瞬間、彼女は己の手の位置を故意にずらしてアンノウンにジョーカーを無理やり引かせた。(イカサマ)

 さらに、アンノウンが引かされたジョーカーを手札に加えて整える前に、彼女のクラブのQを右手の人差し指で「ピン」と弾き(イカサマ)、ゆるく回転しながら落ちてきたそれに最後のスペードのQを投擲。

 串刺しにして壁に貼り付けた。


「アタシわね、本来の継承に則るなら、『依り代(アンタ)概念存在おチビが融合したはず』だって言ってんのよ」

「ちょ、ちょっと待てよ! なんだよそれ!?」


 さすがにそれはありえねぇだろ。おい、なんとか言えよアンノウン。


「………」

「本来なら智欲の大罪としてのおチビの能力を、マスターであるアンタが全部身につけて一体化するはずだった。

 それが概念存在としてのアタシたちのルール。

 人間と概念存在は別個での存在はできない。

 より正確に言うと『別個の状態で世界に干渉はできない』それをアンタたちは覆した。

 抜け道の可能性をいくつか考えたけど、どれも当てはまらないのよ。

 そのおチビにはなまの実体があった。

 ほとんどのヤツらは『それ』を智欲の大罪であるおチビの仕業だと思ってるわ。

 でもね、『智欲の大罪を顕現させてのけたマスター』もまたクレイジーな存在だってのは間違いないのよ。

 アンタにはおチビの本体を利用して同化を拒み、自分の身代わりになる器を継承の土壇場で生み出した疑いがある。

 可能性は低いけどね。でも、ゼロってわけじゃない。

 少なくとも、なにかイレギュラーなルールが妙な干渉を起こしてるのは間違いない」

「………」


 アンノウンは、負け札のジョーカーを手に沈黙。

 智欲の大罪は、己のマスターが異常であることを否定はしなかった。


「ねぇ、おチビ。アンタのマスター――


                  ――イッタイナニモノ?」


どうでもよくなった感がありますが、

ババ抜き勝負は一応ルシファーの勝利です。

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