幻想の継ぎ方
どうにかこうにか生きて戻ってくることができたルシファー家のソファーにどっかりと沈み込む。
アンノウンも真似して隣のソファーに沈む。
ほんっとに寿命が縮まった。よく何事もなく帰ってこられたよなぁ。
正直一度や二度の戦闘は覚悟してたぞ。
しっかし大罪悪魔たちの集会なんてどう考えても物語の転機に関わる重要フラグだよな。
まさか今までのことが全部序章だなんて言わないだろうな?
もしそうなら、最悪人生儚んで天国に旅立っちゃうぞ。
…あ。ミカエルが受け入れてくれる保証がない。
どっちへどう転んでも最悪だ!
「やっほーい。おっまたせー」
しばらくのんびりダレていると、着替えを終えたルシファーが顔を出した。
今度のドレスは「用事が終わった」感が伝わってくるラフな黄色の部屋着のようだ。
イメージ的にひまわりのワンポイントは似合わないんじゃなかろうか?
「どうせなら青いドレス着て来いよ。警戒心解かせろ」
「アタシゃ信号機か!」
などとじゃれているともう一人、かな?
扉の向こうに紅茶や菓子を載せたワゴンが顔を覗かせた。
「…お茶…お持ち…しました…」
ギリギリ聞き取れるかどうかの声量。
顔をすっぽりとヴェールで覆い隠し、手にも薄手の黒い手袋を着けたエプロンドレスとカチューシャだけの、いわゆる古式ゆかしいオールドファッションスタイルなメイドさん。
えーと、このタイプはなんだったかな?
「ヴィクトリアンですよ、マスター」
そう、それ。ていうか人の思考読まないように。
にしてもちっちゃいな、この子。百三十センチぐらいか。
って、あれ? この子どっかで?
「アスモデウスですよ、マスター」
そう、それ!
「それなんの芸風よ、アンタら」
マスターが無言で考察し、アンノウンが答えを教えることで思考をバラす。
アスモデウスは一礼するとそそくさと逃げていった。
なんか頭がぼーっとするな。
………。
「おチビ」
「はい。call『巨大ハリセン』」
大きくふりかぶってぇ。「スパーンッ!」
「ぐはっ」
ぴよぴよぴよとひよこが行進。
「お触り厳禁、色欲の大罪ってわけよ。
うっかり触るとエナジードレインくらっちゃうわよ?」
「…さ、先に、言えよ」
聞くところによると確か相手は中学生。
うっかり道を踏み外してロリコンに走るところだった。
「言ってどーにかなるよーな生易しいモンじゃないわよ。
顔隠させて肌隠させて、声も抑えさせて仕草も気をつけるように言い聞かせて。
それでもフェロモン強烈なんだから」
「全大罪悪魔中、唯一の血統継承方式らしいですからね」
「ケットウケイショウホウシキ? なんだそりゃ?」
俺にはよくわからない言葉だったが、一方のルシファーが難色を示した。
「ちょっとおチビ、さすがにそれ、アタシらのプライベートに関わるんだけど」
「私も大罪悪魔の一柱です。語る資格はあるはずでしょう?」
「ま、そう言われるとそーなんだけどさー」
アンノウンの言い分に認めるところはあるらしいものの、しかしイヤそうな顔で渋るルシファー。
アンノウンはトランプを呼び出し、その中からスペードのAから5までを抜き出して、ルシファーに見せ、シャッフル。
ちなみにこのシャッフルは小型のドームに竜巻を発生させて行っている。
アンノウン、手先不器用だからなぁ。
それはそれとしてシャッフルを終えたカードをテーブルに並べ、それぞれ一枚ずつを選択。
アンノウン、スペードの3。ルシファー、スペードの4。
僅差でアンノウンの勝利。
舌打ちしたルシファーがトランプをまとめて二つのデックに分け、両手に一山ずつ持って改めてバラバラとシャッフル。
ブリッジ状に反らせてもとの一山に戻して再び真っ二つに割り、片方をアンノウンに渡した。
「ババ抜きでいいわよね?」
「はい、かまいません」
「いったいなんなんだ?」
「マスターに説明するかしないか、勝負して決めただけです。
今回イカサマはしていませんのであしからず」
二枚ずつそろったカードをそれぞれ抜き去り、それぞれ手札十数枚といったところでゲーム開始。
「さて、私達、この場合は大罪悪魔や天使などをすべてひっくるめてですね。
その私達には、『この世界を平常に保つための暗黙のルール』というものがあるのです。
そのルールのひとつが、たった今マスターが尋ねた『能力の継承方式』です」
ルシファーの手札からカードを引く。ハートの4。
自分のクラブの4とそろえて捨て山に送る。
「結論から言っちゃうと、アタシら悪魔や天使の類はもともとただの人間なのよ」
ルシファーはアンノウンからクラブの10をさらい、
ダイヤの10を捨てた。
「……………は?」
手札は減り続ける。
どちらが勝つか、賭けてみるのも一興かもしれない。




