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平凡男と危険すぎて抹消されたアクマ  作者: 折れた筆
第三章 九尾巫女の厄日編
36/83

大罪悪魔裁判、開催

 ………帰りたい。すっごくそう思う。


 今、俺の周囲には現在活動中の大罪悪魔が、全部で九柱ほどそろい踏みしているらしい。

 その顔ぶれは、まず毎度おなじみ、経文ワンピの、


『智欲の大罪アンノウン』

 

 サタン謁見のためにわざわざ黒イブニングドレスに着替えた、


『傲慢の大罪ルシファー』


 一見どこにでもいそうであまり記憶に残らない女子高生。

 制服姿という印象だけ残ってすぐに忘れてしまう、


『嫉妬の大罪レヴィアタン』


 完全喪服で見事に肌を隠した、ルシファーの紹介によると中学生らしい小柄な少女。


『色欲の大罪アスモデウス』


 パソコン画面から失礼、な、めんどくさがり屋の引きこもり、


『怠惰の大罪ベルフェゴール』


 食べ物の山に隠れて姿を見せない、

 顔を拝もうかと思ったらルシファーに「喰われるわよ」と警告された、


『暴食の大罪ベルゼブブ』


 ヤクザの頭領やってるという、できればお近づきになりたくない、

 角刈り頭で『強』『欲』と紋の付いた袴姿の、


『強欲の大罪マンモン』おやじ。


 なにも語らず台座に突き立てられたただの剣。

 一応伝説のエクスカリバーらしい、


『覇奪の大罪』名称不明。


 そして…、

 赤髪を裂くような雄雄しい二本の角に筋骨逞しい腕と足を組んで玉座に佇む、言わずと知れた魔王、


『憤怒の大罪サタン』様。


 これら合計九つの大罪悪魔たちが、俺のような平々凡々な大学生を取り囲むようにひとつのホールの壁際に陣取っているのだ。

 出入り口は左右にひとつずつあり、正面玉座は当然サタン様。

 玉座から左に周って四柱。

 ルシファー、レヴィアタン、アスモデウス、アンノウン。

 逆に右に周って四柱。

 マンモン、ベルフェゴール、ベルゼブブ、エクスカリバー。

 背後にひとつ座席が余って、これらの席の後ろにぐるりとだれも座っていない観客席(としか考えられない座席列)。

 まるでプロレスリング式の裁判所だ。ボクシングでも可。

 だが、そんなことはまったくもってどうでもいい!

 なぜなら俺は、こともあろうにこの部屋の中央、

 いわゆるひとつの被告人席に着かされているからだ。

 ………帰りたい。本当にすっごく心の底からそう思う。


「んじゃレヴィ、始めてくれる?」

「ん」


 ルシファーの求めに応じて諜報活動が得意らしい、レヴィアタンが一歩前に出る。


「探りを入れたところ、智欲の大罪の発現はどこもすでに認識済み。

 ちょっとカンのいいのが居ればすぐわかっちゃうから、これは仕方ない。

 天使側が一戦交えたのもバレてる。ミカエル隠すの下手すぎ。

 各勢力、最上位悪魔が増えたって浮き足立ってる。

 最悪全界制覇(ぜんかいせいは)だって」

「めんどくさいよねー。ぶっちゃけ物語世界のひとつぐらい悪魔に支配されちゃってもどうってことなくない?

 ボク、戦わないよ?」


 パソコンベルフェゴールが機械音声でひどいことをのたまう。


「1%でも『確定』する可能性があれば無視できないんでしょーよ。

 このおチビ、マジで規格外だし」

「規格外はお互い様でしょう、ルシファー」

「ん。ルシファー、元天使長」

「ルシファーちゃんマジ天使~♪ ぺろぺろ~」

「ぶっ殺すわよ、ベル」


 発言は順にルシファー、アンノウン、レヴィアタン、ベルフェゴール、再びルシファーの順。そしてマンモン。


「他に情報はないのか?」

「特に気になったものはない。各勢力、見極めの段階だと思う。

 さすがにどこも天使側ほど過激には動かない。でも、注視はしてると思う」

「まー、普通はそのへんが妥当よね。

 前回のはミカエルが神バカすぎたから起きたことだし。

 って言っても問題は問題よねー。さすがに大暴れが過ぎたわ」

「このちみっこ、そんなに暴れたん?」

「なによベル? 珍しく乗り気じゃない」

「ぶっちゃけめんどくさいけど、娯楽要素は別腹だよ~」


 ベルフェゴールのカメラアイがアンノウンにピントを合わせて「キュイキュイ」とズームアップした。

 …怠惰の大罪が一番現代に適応しているような気がする。

 カメラの奥でポテチ食ってるのが目に見えるようだ。


「…中級、上級天使合わせて千三十三柱。

 最上級のウリエルとラファエル合わせて、合計千三十五柱撃墜」

「うげ、マジで?」

「ん。マジ」/「マジよ」

「一体どんな手品使ったんよ?」

「対天使用に処理を施した呪殺仕様の核弾頭」

「うっげー」/「途轍もないな」


 ベルフェゴールとマンモンがそろって苦笑の混じった渋い声を出す。


「戦闘能力は折り紙付きね。

 少なくともウリエルレベルじゃ相手になってなかったわよ?」

「一応使い魔に記録映像撮らせておいた。クリスタルに出すね」


 レヴィアタンが自分の座席に付属した水晶体に手を伸ばす。

 応じて各大罪悪魔たちの座席に用意された水晶が回転を始め、それぞれの視界に合った高さに球形の(スフィア)スクリーンを生み出し、記録映像を投影し始めた。


『………』


 ウリエルVS.アンノウンのドッグファイト、

 至近距離からの宝具射撃、

 そして高速機動での切り刻みとギロチン射出。


「えげつねー」

「事実上、ウリエルをノーダメージで撃破してる。

 手口は違うけど、ラファエルも一撃で瀕死」

「よくあのミカエルが見逃したものだな。

 これほどともなれば意固地になってもおかしくなかっただろうに」

「そっちはアタシがっといたのよ。

 正直ほとんど結果オーライな感じだったけどね」


「パン」と拳を手のひらに打ち付けるルシファー。

 ここで情報提供・進行役ことレヴィアタンが被告人席の俺の方を向いた。


「そこで本題となるのがあの人。智欲の大罪を発現させたマスター。

 ミカエルがおとなしく退いた理由のひとつ。

 智欲の大罪を制御コントロールしうる最大の弱点ウィークポイント


 ちょ、弱点扱いはひどくね?


「事実」/「事実ね」/「認めます」/「弱そー」


 …泣くよ?


「今回の主旨はあのマスターの扱いをどうするか、というもの」

「スペックはどんな感じなん?」

「凡人。その一言に尽きる。

 ただし、人における経験として最上級であると推測される、ルシファーとの戦闘とミカエルとの戦争を経験して生き残っておきながら、自分の日常を失わず、幻想にシッポを振らない一周まわってある意味ものすごい凡人。

 下手な英雄よりもよっぽど賞賛に値する」


 んな賞賛いらんわ。


「たとえるなら、無能なことにこそ価値がある、極めて希少レアな外交カード。そんな感じ」

「…となれば、単純に戦力の増強を考えるのなら、あの小僧は地下にでも繋いだ方がいいのだろうな」


 ちょっと、なに言い出すのヤクザの親分さん!


「あー、そーゆーのなしなし。おチビがまた暴れるからね。

 発言には気をつけないと、ここで新しい伝説がひとつできちゃうわよ」

「智欲の大罪VS.魔王」


 レヴィアタンのその一言で場に緊張が走る。

 ただ一人、当の魔王、サタン様だけがニヤリと表情を崩した。


「どう思う、まおー様?」


 その変化を見取り、悪魔勢力一番の古株でもあるルシファーが気軽く尋ねる。


《そそられるな。が、そうもいかんのだろう?》

「悪いわねー。万に一つでも『魔王敗北』なんて流れは作れないわ。

 このおチビは冗談抜きにやりかねないし。

 それでもって言うなら、魔王継承の流れでよろしく頼むわ。

 てか毎度思うけど、そのボイスエコーなんとかなんないの?」

《聞けんな。これは王のたしなみだ。継承のほうも考えておこう》


 一言言い置いて立ち上がる魔王様。


「お帰りかしら?」

《闘ってはまずいのだろう? 後は任せる》


 最後に被告人こと俺を一瞥して玉座の裏へと消えていく魔王様。

 …死ぬかと思った。


「んじゃま、まおー様行っちゃったことだし、さくっと片付けましょーか。

 レヴィは引き続き情報収集」

「ん」

「マンモン、ベル、アスモ、ゼブっちはサポートよろしくねー。

 人間相手の精神操作なら大罪四つも使えばどーとでもなるでしょ」

「めんどー」/「承知した」


 アスモデウスからは頷きひとつ、

 ベルゼブブからはもぐもぐと咀嚼する音が返ってきた。


「アタシはいつもどーり好きにやらせてもらうわ。

 覇奪ももらってくわねー」

「私とマスターも好きにさせていただきます。

 当面敵対する気はありませんのでご心配なく」

「かまーないけど、アンタのマスター、弱点属性消すんじゃないわよ?

 強くなったら殺さざるをえなくなっちゃうわよ」

「わかっています。マスターは一生弱いままです」


 ひでぇ。それはさすがにひどすぎるだろ。


「これにて一件落着。かいさーん」

「閉廷」


 こうして大罪悪魔たちによる裁判は終了した。

 …ほんと、生き残れてよかった。

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