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平凡男と危険すぎて抹消されたアクマ  作者: 折れた筆
第三章 九尾巫女の厄日編
35/83

ルシファー家へご招待

 これはジンクスだ。

 智欲の大罪に関わり、深入りすればロクな目に遭わない。

 少なくとも2010年を越えた今のご時勢において、その犠牲者はすでに千を越えている。

 しかもその大半が消滅し、生き残っているのはごく少数。

 これだけを聞くとただの殺戮兵器だな、ほんと。

 かく言う俺も生き残ったその一人。

 現在、とても雄雄しい二本の角を天にそびえ立たせ、真紅の外套マントを肩掛けに、筋骨逞しい腕と足を組んで玉座に腰掛ける、とっても威圧感のある二十五、六の偉丈夫の前で固まっている。

 そう、ただいま魔王サタン様の眼前にて絶賛硬直中。

 硬直といっても死後硬直でないのだけがゆいいつの救いか。

 とりあえずひとつ尋ねたい。

 いったいぜんたいなにがどうしてこうなった!?


 ――約二時間前。


「魔王になんか会いたくねー!!」


 心の底から叫んだ俺はしかし、首根っこ掴んで連行するルシファーにも、後をついて同行するアンノウンにも華麗にスルーされ、大学キャンパスの入り口まで迎えに来た黒塗り外車の後部座席に容赦なく放り込まれた。


「純度100%で拉致だろこれ!」

「失礼ね。オトモダチをショウタイしただけヨ」

「セリフがカタコトじゃねぇか!」

「ちなみにアタシ、身内のマンモンがヤクザのかしら張ってるから。

 んで、この車、そのマンモン経由の借り物だから壊さないでねー。

 …あ、いいわ。出してちょうだい」


 脅迫と運転手への指示を同時にこなすルシファー。


「できれば知りたくなかったマメ知識をどうもありがとう!

 東京湾に行くハメになったら心底呪ってやるからな!」


 もういやだ! 頼むから状況を理解させないで。

 できれば「普通のお金持ちと運転手さん」で済ませてほしかった。

 明日の朝にはバラバラになってコンクリ詰めで魚の餌とかになっていないだろうな! 本当に頼むよ、もう!


「まー、アンタの気持ちは理解しないでもないんだけどねー」


 言いつつ慣れた調子で爪の手入れを始めるルシファー。

 よく考えるとアレ、アイツなりの武器の手入れなんだよな。

 目の前で銃のメンテをされてるようなもんか。うぁー。


「ぶっちゃけまおー様に会うならこの機は逃せないわよ、アンタ。

 別に死にたくはないんでしょ?」

「…は?」


 なぜに?


「今アイツ、おチビがミカエル達ボッコボコにしたことで上機嫌になってるから。

 逆に神のヤツ、ブチ切れて荒れてるし。

 アンタんとこにもでかい台風直撃コースで来たでしょ?

 アレ、たぶんそうよ。ミカエルボコったのいつだったっけ?」

「10月中旬です」


 2013年、8月までは平年並みの発生数であったが、9月と10月に平年を上回る月間7個の台風が発生したため、台風の発生数は合計31個に達し、1994年(平成6年)以来19年ぶりに年間発生数が30個を越えた。

 特に10月に7個という発生数は1951年(昭和26年)以降でもっとも多く、さらに今年度においては100個に1個の確率とされてきた東経180度線(いわゆる日付変更線の基準点)越えの台風2つ(13号・14号)の発生をも確認された。


「いやいやいやいや、きっとただの偶然だから!」


 仮に本当でも責任こっちにはないはずだからね。

 神様の責任押し付けられるのは本当に迷惑だから。

 冗談じゃないから。お断りだから。


「そう? ま、どっちにしろ誘いは受けといたほうがいーわよ。

 富士山フジヤマ爆発してもアタシ知んないからね」

「わーったよ! 行くよ! 行きゃあいいんだろ!」


 天は神、地は魔王かよ! ホントやめろよそういうの!

 チクショウ、心底泣ける。どうしてこうなった?


「泣かない、泣かない。後でおいしーもんでも食べさせたげるから。

 あ、着いたみたいね」


 確かに車が停まった。が、


「まだ乗ってから十分も走ってないんじゃないか?」

「ふっふっふ、それはねー、アタシ固有の異空間に出入り口を複数用意して中継地点として活用しているわけよ。

 理論的には世界の裏側どころか宇宙の果てまででもほぼ同じ経過時間で移動できるって寸法よ、すごいでしょ?」

「察するに、この車の運転手は十中八九悪魔ですね。

 人間がこの手の技術で欲をかかないはずがありません。

 大罪悪魔ルシファーレベルの極秘ルートとなれば、中級以上の悪魔でしょうか。

 運転手はソロモン七十二柱の一柱と見ました。

 おそらく序列十八位のバティンでしょうね。

 ルシファーの側近で瞬間移動の使い手です」

「そーよー。よーくわかってんじゃない、おチビ」


 もしかしてこの車、タクシーみたいにボタンひとつでドアが開いたわけじゃなく、その運転手が瞬間移動で姿を見せずに開けていったのか?

 もしそうなら相当才能無駄に使ってないか?

 あ、ドアが開いた。…やっぱり開けた人いないし。まあ、いいか。

 外に出ると、森の中にひっそりと佇む古ぼけた洋館が目に映った。

 見たとこ灰色のレンガ造りかね。たぶん上から見ると正方形の建築。

 四つ角に塔が建てられた、もしかしたら中央に庭でもあるかもしれない西洋風の館。

 お化け屋敷とかサスペンスドラマの舞台などと言われればすんなり納得しそうだ。

 それなりに手入れはされているみたいだが…。

 おお、館の側面からジャックの豆の木のように見事な蔦が屋根まで這い登って、なぜか四つもある時計塔の鐘楼のひとつにも巻きついている。

 物語の山場で有効に機能しそうだ。

 各時計塔ともに、てっぺんに避雷針まであるし。


「…てか、一体だれの趣味だ?」

「あー、それ、アタシアタシ」


 お前かよ。そんなに退治されたいのか、ここの女主人は。


「ふっふっふ~。迷いの森の結界も張ってるから♪

 うっかり立ち入るとマジ帰れないんだからね☆

 近くの橋もいつでも落とせるわ!

 お望みならがけ崩れだって対応してみせるんだから!

 通信妨害ジャミングだって合図ひとつで一ヶ月保たせられるわ。

 日本の殺人鬼調べて刑務所脱走のニセニュースも作っておいたのよ~?

 これだけ用意すれば下準備はバッチリよね☆

 あ~、だれでもいいから迷い込んでこないかしら~?」


 嬉しそうに言うな! アンノウンけしかけて、本気で退治すんぞ。


「…アンノウン、火炎放射器って持ってるか?」

「持ってますよ」

「ちょ、ま、アンタらアタシの家になにしてくれる気よ!?」

「その言葉、そっくりそのまま返してやる。俺たちになにする気だ、てめぇ」

「いやいやいやいや、アタシなんにもしないってばー。

 食事に睡眠薬も混ぜないし」

標準設定デフォルトからして間違ってんだろ、お前!

 俺たちじゃなかったらやんのかよ!?」

「うん。やる」

「アンノウン、こいつもう、マジ退治しとけ! 犠牲者が出る前に」


 ダメだこいつ、早くなんとかしないと。


 この時、魔王邂逅まであと一時間だった。


そういえばミカエル暗躍編、ピンポイントで9月と10月。

(時間経過への補足のため、書き足しました)

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