ルシファーと黄金の魔剣
戦場は最終局面へと移行していた。
ウリエルを処理した大理石の棺が光を放って消滅していく。
残るはミカエルただ一人。
結局ウリエルは大した活躍の場もなくアンノウンに退場させられた。
ミカエルとしては、当初千対一のはずだった戦況が、二対二になり、ついには二対一にまで追い込まれたことになる。
認識を改めざるを得ない。選りすぐった天使相手でこれなのだ。
智欲の大罪は一騎当千どころ一騎当億を越えるだろう。
下手をすれば一騎当神などとも呼ばれかねない。
核弾頭もいったい何発撃てるのかわかったものではなかった。
仮に暴走したアレが現実世界で核を重複しようものなら、その日を最後に世界が終わることも十分にあり得る。
一度はウリエルのやられ方に感情を捕らわれたが、追い詰められた状況で改めて考えを巡らすとそら恐ろしく感じる。
一見ふざけた戦い方のように感じるが、それが実際は「道化の仮面」ではないなどと誰に断言できるのか。
能力的には世界を滅ぼしかねない力を有しながら、それを覆い隠すために自らを道化と示すための仮面を被る。
果たしてそれを否定できるのだろうか?
いや、どちらであっても、もはやかまう必要はない。
智欲の大罪が特一級危険存在であることは、ことここまでとなれば既に動かしようのない事実と認識は決している。
やはりアレは刺し違えてでも。
心持ちを新たに智欲の大罪の命に狙いを絞る。
しかし体にアクセルを噴かせて飛びかかろうとしたところを、真上から一閃黄金の三日月が襲い掛かってきた。
こちらからも斬り上げて受け、その重圧を押さえ込む。
鍔迫り合う聖剣と魔剣が、今日何度目かもわからない火花を散らす。
「気持ちはわからなくもないけど…、
デートの最中に他の女のことを考えるのはどーかと思うわよ、ミカエル」
ルシフェルだった。
とっさに受けた聖剣が、本領を発揮し始めた黄金の魔剣に融かされていく。
「腐食能力か!」
聖剣が融けつくされる前に斬り払って距離をとる。
黄金とそれをを融かせるほどの強酸、となれば、これはおそらく王水か。
頭から浴びる羽目になった酸の雫で鎧と肌から煙が上がる。
即座に「魔」と相反する「聖」のオーラで対消滅させて対応した。
この辺り、さすがはエクスカリバーというところか。
聖剣であっても魔剣であっても敵に回せば厄介極まりないことに変わりはなし。
「さあ、融かしてやりなさい」
「――ッ!」
ルシフェルが右手の魔剣を垂直に構えて振り払い、突きの姿勢に移る。
「エクス、カリバーッ!」
直後物質属性を伴った黄金の奔流が一直線に迸る。
融かされた黄金による一時的な剣の巨大化。
ルシファー自身は手に入れたばかりでまだよく理解はしていないが、この魔剣化したエクスカリバーには「斬り、融かし、喰らい、黄金を作り、また斬る」とサイクルを繰り返す錬金術的な特性が存在する。
そして開放されたエクスカリバーは、その特性を十全に発揮する。
その直撃を受けようものなら骨も残さず融かされて剣に喰われる。
しかも効果範囲は斬れば斬るほど、喰らえば喰らうほどどこまでも拡張・増殖していく凶悪仕様。
最初は岩一つ貫く程度でも、数を重ねれば山を貫き、町を滅ぼし、国を切り払い崩壊させるだけの伸長能力と持続時間を手に入れていく。
また、扱い方次第では持ち主のメンタルに合わせた進化すらしてみせる可能性もある。
伊達に悪魔、それも抹消されたとはいえ最上位に位置する大罪悪魔は宿っていない。
肥大化していく人間の勝利欲求の醜さを具現化した末恐ろしき魔剣。
それが覇奪の大罪仕様のエクスカリバー。
智欲の大罪による識別名、『エクスカリバー1st(ver.victory demons)』という、歴史の闇の奥底にのみ存在を許された特殊派生宝具がその真髄。
「…ふぅ」
肥大化しきったエクスカリバーを引くルシファー。
巨大な棍棒のような状態だったそれは、手元の方から「ガチッガチンッ」と小さな黄金のパーツへと圧縮変化していき、カラクリ仕掛けの連接剣のように遥か先端までを巻き取られて元のそれへと戻った。
「外しましたね」
「そりゃそうよ。試しで死んでもらっちゃ困るわ」
後方からすっかり暇になったアンノウンの声が届く。
空を見上げれば話題のミカエルが滞空している。
剣を時間稼ぎの盾に使って離脱したものと思われた。
もっとも、何本使い捨てにしたのかは知らないが。
「そういやアンタ、ウリエル倒すのずいぶん早かったじゃない。
なんか急用でもあったわけ? …ん、あ、あー、なるほどねー」
「なんですか、その品のない笑い方は」
なにかに思い至ったらしいルシファーがニヤニヤといやらしく笑う。
「さっきからなーんか違和感があるかと思ったら、そっかそっかー。
アンタの大事な大事な――
そこまでしか言うことはできなかった。
そのアンノウンがルシファーのこめかみに小型の拳銃を突きつけてきたからだ。
…大統領暗殺に用いられたというフィラデルフィア・デリンジャー拳銃を。
フリーズorホールドアップともに宣言なし。
間髪入れず「パゥンッ」と躊躇なく撃ってきた。
――うぉわ!?」
思い切り仰け反って必死に緊急回避。
「(チッ)…なにか言いましたか?」
「アンタ殺す気!?」
しかしアンノウンは珍しく舌打ちまでしてどこ吹く風。
「…では、私はやることが残ってますので、後はよろしくお願いします」
「ちょっと待ちなさいよ! 話はまだ終わってないわよ!」
ぷんすか怒るルシファーを置いてアンノウン離脱。
しばらくしてアンノウンの去った方向から、「ズドガガガ」と重工作機械が工事を始めたような地響きが聞こえてきたような気がするが、きっと気のせいだろう。
あの平凡男、果たして生きているのだろうか?
きっと智欲の大罪に出遭ったのが運の尽き…だったのかもしれない。




