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平凡男と危険すぎて抹消されたアクマ  作者: 折れた筆
第二章 ミカエル暗躍編
24/83

アンノウンVS.千の天使

 戦端は開かれた。

 アンノウンの仕掛けたフィールド汚染はミカエルが指揮する索敵班の手に負える代物ではなく、彼はやむなく焼き払う選択を選んだ。

 無論、最大限の注意を払い、人員をばらけさせて一網打尽を避け、防御陣を敷いた上での焼き払いだ。

 だが、そこまで警戒してもまだ足りなかった。

 周囲に撒き散らされた紙片たちは敵対者を認識し、目覚める。

 主の命に従い、罠として召還されるモノたち。

 サーベルタイガー。アナコンダ。大鷲。

 ハイエナ。アリゲーター。百獣の王。

 フェニックス。白虎。ユニコーン。

 西洋竜。フェンリル。そして、



「な、なんだよ、アレ!」


 指差すそれは巨大な肉食爬虫類。


照野テラノ左右留守サウルスさんです」

「あの飛んでる爬虫類は!?」

符寺プテラ乃呑ノドンさんです」

「あのやたらでかい牙生えた象は!?」

マン藻巣モスさんです」

「ふざけんな、ドチクショウ!」


 モノが畜生だけにと頭に浮かんだ自分がイヤだ。

 んじゃなにか?

 あの湖に向かってうなぎのようにのたくっているのはリバ・イアさんか?

 とりあえず恐竜なあいつらはたしか氷河期に絶滅したはずだろう。

 しかも訊くに訊けないヤツもいるぞ。

 マンハッタンのビルにも登りかねない王様キングなゴリラとか、穴から火を噴きながら空飛ぶ円盤亀とか、この流れでは魔物ではありえそうにない、メカな三つ首ヒュドラとか。

 あの時感じた脅威はコレか! とりあえず全力でスルーだ。

 その他にも野生の動物大集合。

常識を破壊するものコモン・センス・ブレイカー』とはよく言ったものだ。

 過去、現実、幻想、特撮。ありとあらゆるけだものたちが入り乱れ、認識の境界を曖昧にして踏み潰していく。

 普通の白馬の隣にユニコーンが立っているところや、アリゲーターの隣に小型の恐竜が立っているところを想像してみてほしい。

 きっと「あれ?」と常識にエラーが出るはずだ。

 恐竜はまず常識だ。だが、そのすべては氷河期に絶滅したはずだ。

 はずだよな? あれ? 生き残りもいたんだっけ??

 えーと。うーん。シーラカンス?

 が、そうだったような気がしないでもない。

 ぬむむ。これはヤバイ。とりあえず思考の方向性を変えておこう。

 アンノウンはおそらく、いや十中八九動物系の紙片を一冊の本にまとめこんだのだ。(一部生き物かどうかさえ疑わしいのも居るが)

 それにトラップとしての能力を付与して撒き散らした。

 これにまず間違いはないだろう。

 いや、考えるべきことはもっと他にあるのか。そもそも、


「なんで発動したんだ?」


 俺のその質問にアンノウンは当然のように答える。


「ミカエルの軍勢です。見てください」


 件の照野・左右留守さんを指差すアンノウン。

 よく見るとその口には天使が噛み砕かれて(おぇっぷ)おり、周囲にもまた武装した天使の姿。

 多少気分が悪くなったが、状況がようやく理解できた。


「味方、ってわけじゃないんだよな?」

「追跡者の気配を確認していました。

 私が神殺しと呼ばれていること、共闘を示唆されなかったこと。

 私の興味を引くにしてもありえないほど重要すぎる話、迅速すぎる対応。

 そして私の紙片を、おそらく焼き払ったこと。

 以上の条件から導き出されるものは…私の討伐でしょう」


 今気付いた。恐竜の名前を茶化していた時には気付けなかったが、アンノウンに余裕がまったく感じられない。


「どうするつもりだ?」

「迎え撃ちます。敵兵数はおそらく千を数えるでしょう。

 勝機は今、この瞬間しかありません」


 アンノウンの翼がX字に変化し、先端が本型ブースター化する。

 樹木の角が不可視の魔術を解かれて姿を現す。

 ルシファー戦に続いて、再びのアンノウン戦闘モード。

 前と同じく60度に開かれた四基の本が炎と風、そして紙片を撒き散らし、本と知識を司る妖精が再び戦場へと舞う。


「連続call『メタルアーム』『イチイバル』『ゲイ・ボルグ』」


 獣を大量に召還され、混迷を極めた戦場にアンノウンが打って出る。

 上二基のブースターの背表紙から鋼鉄の腕が生え、その右腕に弓神ウルのイチイバルが、左腕にケルト神話クー・フーリンの魔槍ゲイ・ボルグが召還される。


「スキル『弓術アーチェリー』fullroad」


 弓に槍がつがえられ、弓を持つ鋼鉄の腕の指と、アンノウン本人の指がシンクロし、等しく並んで一点を指し示す。

 その狙う先には全軍の指揮を取る大天使の姿。

 槍が紅く、血の色に染まっていく。


穿うがて、ゲイ・ボルグッ!!」


 アンノウンの気迫とともに真紅の槍が射出され、澄んだ青空に一直線、血色のラインを描き出す。

 それをだれかが気付いた。

 ミカエルが回避行動を取る。

 しかし射ち出された得物は魔槍ゲイ・ボルグ。

 空間を歪ませ、先端に微弱な転移円環を形成する。

 それを通過した槍は折れ曲がったように進行角度を変える。

 何度も、何度も…何度も何度も何度も。

 そう、槍はどこまでもミカエルを追い続ける。

 槍がミカエルの背中を捉える。得物が矢ではなく槍。

 それも伝説のゲイ・ボルグであることに気付いたようだが、もう遅い。


 獲った!


 だがその瞬間、疾風が一陣、射線に割り込みをかけた。

 結果として心臓を貫かれた天使が一柱。

 しかしそれはミカエルではない。

 ミカエルが何事かを叫び、墜ち行くその天使を追う。

 遠目にだが女性のように感じた。

 ミカエルが落下途中でその女性天使を抱き留めた。

 だからといって手心を加える心理的余裕はない。

 迷うな。憧れるな。感情を動かすな。

 なにより最も優先すべき事柄だけを考えろ。

 戦争を仕掛けられたのだ。

 甘えは決して許されない。

 ましてや大切なものを敵対者に委ねるなど愚の骨頂だ。

 そしてこちらに殺されることを許容する気はさらさらない。

 止めてほしければ攻め込んだ向こうに白旗を振ってもらう以外に終わらせるすべはない。

 甘えを捨てろ。情けをかけるな。

 剣を抜け。槍を取れ。弓を引け。斧を振りかぶれ!

 数の暴力にる者達へ、寄せる情など必要はない!


「収束術式『ミストルティン』set」


 前の時は腕に巻かれた紙片帯からの収束だったが、今回は召還された宝具・兵装辞典からの収束。


「シュート!」


 神殺しのヤドリギ。その災厄が再び世界に紙片と鉄の雨を降らせる。

 アンノウン独自の収束術式『ミストルティン』。

 その真の恐ろしさは宝具の大量召還という事象とはまったく別のところにある。

 ただ宝具を具現化して落としただけでは、ありきたりの散弾銃とそう大差はない。

 だが、アンノウンの放つミストルティンはそれとは違う。

『その宝具がもっとも真価を発揮した瞬間』を最優先命令として具現化してのけるのだ。

 その恐ろしさは筆舌に尽くしがたい。

 彼女がターゲットした敵に、結果的にほぼ100%の命中精度を誇る現象を引き起こす。

 理由は単純。真価を発揮した瞬間のほぼすべてが、敵対相手に激突したまさにその瞬間だからだ。

 故に回避しようと思うのなら、その射程圏外に退避する以外に正しい選択肢はない。

 そして直撃となれば、ギャンブル要素こそあるが、やはりほぼ100%の確立で致命的。

 スサノオの天羽々斬剣アメノハバキリノツルギ天叢雲剣アメノムラクモノツルギが、オーディンのグングニルが、ポセイドンのトリアイナが、オルランドのデュランダルが容赦なく敵対者の命を狩る。

 他にもゲイ・ボゥ、ハルペー、フラガラッハ。

 フルンディングにグラムにバルムンク。

 その宝具の雨は天使たちの頭上に降り注ぎ、雨に立ち向かった多くの天使を消滅に至らしめる。


「第二射、set」


 容赦はない。再びの収束。


「シュート!」


 第二射に気付いた天使たちが対応に走る。

 生き残るために第一射で地に突き立った宝具を手に取る者が多数。

 だが、それは悪手だ。


「第一射、reset」


 雨が降り注ぐ。

 その瞬間に傘を没収されればどうなるか?

 当然その答えは死だ。

 起こる現象は致命の空振り。

 隙を晒して惚けきったその思考と身体に、襲い来る武具が遠慮なく突き立ち身を刎ねる。

 それは即ち阿鼻叫喚の地獄絵図。

 パニックを起こした天使たちを残った獣たちがむさぼる。

 その惨劇の光景を己がマスターに見せなければならないことに苦痛を感じ、しかし偽善と断じながら歯をギリと噛み締める。

 さらなる追い込みを一手。

 ミストルティンに紛れさせ、上空からより広範囲に森に撒き散らした紙片を一斉に起動する。

 天に宝具の雨、地に獣の群れ。

 そしてこれで、彼らは隠れ蓑だった森からの裏切りを体験することになるだろう。

 それでも足りないと言うのなら、機動兵器モノの知識を総動員しても構わない。


「第三射、set」


 血を吐くように、今はただ、射つ。


「シュートッ!」


 そして戦場に血と鉄の雨が降り続ける。

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