表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡男と危険すぎて抹消されたアクマ  作者: 折れた筆
第一章 ルシファー強襲編
17/83

番外編 あるアクマのextramission

 語る必然のない物語があった。

 それは忘れられた少女の、涙、涙の物語。

 そう、アポロ11号に豪快に拉致された、かの少女のお話。

 少女はあの決着の後、どうなったのだろう?

 少女の名誉を思うなら、そのまま忘れてみせるのが、きっと優しさだろう。

 だがしかし、あえて語ろう。

 呪わば呪え。


 そう、皆が知る通り、彼女は進化したアンノウンの手により紐型宝具グレイプニールでの亀甲縛りの憂き目に遭い、アポロ11号に引っ掛けられて月への片道切符にご案内される羽目になった。

 その後、どうなったのか。

 そもそも彼女達が戦っていたフィールドは、ある種の異空間であり、人為的に作り上げられた場所であった。

 すなわち、元々の「月のある世界」とは出入り口こそあれど基本的には繋がってはいない。

 しかしアポロ11号はそれをまるで無視して異空間の天井をぶち破った。

 大気圏突入の勢いで異空間を突き抜け、亜空間に侵入。

 概念特性『約束の地への踏破』を強制発動。

 自力でワープホールを生み出して通常空間、しかも宇宙空間に復帰した。

 これは仕掛け主のアンノウンのマスターにとっても僥倖だっただろう。

 もしも正規ルートで戻っていたならば、まず間違いなく家の屋根は木っ端微塵にバラバラで、今頃は路頭に迷っていたはずだ。

 ちなみにこの際、当然のごとく彼女は生身でロケット船外。

 それはもう…おもいっきり号泣した。

 迫力のあるアポロ11号の絵面の一部に、彼女の存在を指し示す矢印マークがピコピコ光るのだ。

 異空間をぶち破る時も生身。

 亜空間を航行する時も生身。

 虹色に輝くワープホールに突入する時も生身。

 宇宙空間の真空にさらされた時も、当然ナマミ。

 最上位悪魔じゃなければ確実すぎるほど確実に死んでいる。

 もう泣くしかないだろう。

 しかし、彼女の不幸はこの程度じゃ終わらない。

 やがてアポロ11号はついに月面へと着陸を果たした。

 着陸を果たして…キレイさっぱりショウメツシタ。

 少女を一人残して。

 しかも、こともあろうに亀甲縛りの紐だけ残して。



 少女はすべてを呪った。

 わめいた。叫んだ。呪った。

 そして啼いた。

「なんで紐だけ残ってんのよ」と全身全霊を込めて神とあの小娘を呪い憎んだ。

 紐を解こうとジタバタ暴れる。

 背中で縛られた指先から爪を伸ばしても掠りもしない。

 あの小娘、指先の稼動領域まで角度固定していきやがった。

 あの一瞬でなんとういう芸当か。

 アクマの所業も大概にしろ。月に飛ばすだけでも十分過ぎるっての。

 仕方なく縛られたままの姿で翼を羽ばたかせる。

 今の自分の姿は絶対に見たくない。

 と、思っていたら羽が絡まってコケた。月面に顔面着陸。

 砂が舞ってむせ返る。

 ふと足元を見ると、月面の砂に自分の魚拓ならぬ悪魔拓が出来上がっていた。

 縛られた紐の形までくっきり…と認識した瞬間に足元に魔力を叩き込んでクレーターをひとつ増やした。

 証拠隠滅。


 そしてしばらくしてついに倒れた。

 死因は過労と出血多量。

 ダイイングメッセージに、後ろ手に「ようじょ」と爪で岩を削って書き残して小休止。

 ところがどっこいまだ生きていた。

 一休み、一休み。「タコ型エイリアンでも居たら焼いて食べるのになー」などとつぶやきながら、ダイイングメッセージを削った岩をなんとなしに眺める。

 瞬間閃いた。電球が頭上で輝く。

 閃きのままに爪を伸ばして直感を頼りに一閃、二閃。

 岩は見事「鋭く尖った尖塔」へと形を変えた。

 これならイケルと思ったが、直後抱えられるもんなら頭を抱えたくなった。

 ただの岩で宝具が切れるものか。アホか自分。

 しかし、彼女のアクマの頭脳は再び閃く。

 ただし、そのプランを実行するにあたり、自分がやるべきことを思って脂汗をだらだらと流した。

 ええい、女は度胸。

 彼女は岩に魔力を通して、その場で翼を羽ばたかせて宙返り。

 重力が地球より軽い分を想定して、それを補うため高速回転。

 岩に向かって自分の体を叩き付ける。

 その狙いは――左腕。

「ザグンッ」。

 腕が切り落ちて紐の固定が歪む。

 が、当然切断面から円環状に血が吹き出る。

 もちろん痛みで涙もにじむ。悪魔だって痛いものは痛い。

 とはいえ、それを代償として切り落ちた腕の分、紐は緩んだ。

 あらん限りの憎しみを込めて残った右手で毟り取る。

 というかそろそろ出血量が本気でヤバイような気がしてきた。

 いくら魔力で身体の造血機能を増幅しているとはいえ、さすがに無制限ではない。

 落ちた腕もさっさと繋げるに限る。

 …はて? アタシの腕はどこいった?

 自分の魔力を改めてサーチ。

 肝心の左腕を示す矢印マークは…月面の裂け目。

 巨大クレバスの底の方を指し示してピコピコ光っていた。

「あらん限りの憎しみを込めて」振り回した結果、飛んだらしい。

「NOOOOOOOOOOOOOOOOO!」と、画家・ムンクの叫びが月面に木霊する。

 少女は泣きながらクレバスに飛び込んだ。

 クレバスの底には穴がいくつか見受けられ、腕がどの穴に入り込んだのかわからなくなって、少女は「冗談じゃないわよ」とまた泣いた。

 よっぽど魔力で風穴開けてショートカットしてやろうかと思ったものの、これ以上の余計な出費はよろしくない。

 出血を止めるだけでガマン。ココハガマン。

 そして愛しい片腕を取り戻さんとする、隻腕の悪魔の迷宮大捜索が始まる。

 登って、降って、泳いで、飛んで。

 走って、滑って、殴って、蹴り飛ばして。

 天然の天井落下トラップ(落盤)や落とし穴の槍衾(地盤崩落に鍾乳洞)を超えて、ようやくたどり着いた巨大な月の石の安置された最深部のホールで、とうとう見つけた愛しのマイレフトアーム。

 接着…嗚呼、腕が在るって素晴らしい。


 腕のありがたみをかみ締めながら、改めてどうやって地球に帰るか思案する。

 目に映るのは、ホールの巨大オブジェクト、小さな山のような月の石。

 …。

 ………。

 ………………。

「なんだろう? なぜかあの月の石が『ドリル』に見えてきた」らしい。

 少女は突き動かされるかのように月の石を削り出す。

 螺旋を描き、先端を尖らせ、魔力を込めて、硬く、雄雄しく、鋼鉄すらも貫けるように。

 ヒトはドリル一本あれば神にだって挑めるイキモノだ。

 そう、コイツもきっとソラを衝くドリルだ。

 きっとドリルは応えてくれる。

 大きさは少女の伸長の約十倍。

 生身の人間にはとても扱えない、約十五メートル級、月の石製超弩級回転螺旋式円角錐。

 一仕事終えた芸術家のような心持でそれを見上げる。

 仕事上がりの一杯が切に欲しい気分だった。

 が、当然そんなものはない。

 満足のいく出来に仕上がったそれを、土台から爪剣を一閃させて斬り離す。

 中心部から十指の爪を突き立て、翼を横方向に高速回転させながら上昇。

 天盤すべて貫きながらソラを目指す。

 超弩級ギガな回転螺旋式円角錐ですべてを破壊。

 彼女の魂の咆哮が一直線に道を掘り進む。

 一気に月の重力圏を追い越して地球を目指す。

 月から発射された弾丸が、数時間をかけて一直線に地球を目指していく。

 天文観察していた人がこの光景を見たら、さぞ度肝を抜かれること請け合いだ。

 やがて彼女は地球の引力圏に引かれ、大気圏に突入。

 真っ赤にドリルと大気を燃え上がらせながら、彼女はついに、単身自力で月から地球へと生還してのけた奇跡の体現者となった。

 そう、彼女はついに地球へと帰って来た!


 …とはいえ、弾道ミサイルに迎撃されて太平洋へ墜ち、ドリル回転の副作用でぐるぐる目を回した状態で大海を漂流する羽目になったのはご愛嬌。

 長旅本当にお疲れ様でした。

第二章、のんびりと執筆中。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ