五月晴れ
蝉が鳴いている様な気がした。しかしこの季節に鳴いている筈が無いので、本当に気のせいなのだろう。
まだ微睡の中で揺蕩っていたいので、静かにしてほしい。
だがそんな私の願いは聞いてくれないらしい。
――ジジジと耳の中で、未だ音は鳴り続けている。
ぐらりと世界が揺れた。同時に頭もぐわんと揺れて、喉に何かが込み上げてきた。
そうして世界と嬉しくないダンスを踊っていると、バシャンと音がした。
顔の左側に感じた冷たさにのろのろと目を開けると、あまりの眩しさに目を閉じた。すごく眩しい。
今度は手を日よけにしてからしぱしぱと何度か瞬きをし、目を開く。
眼前には日の光を浴び、キラキラと輝く水溜まりがあった。冷たさの原因はこれらしい。
しばらくぼぉっと水に浸かっていると、ぶおっと風が吹いて、目の前を傘が飛んで行った。……あれは私の傘じゃなかったろうか。
寝起きの気怠い体を無理やり起こして(バキボキという音が聞こえた)傘の行方を見に高台へと行く。
立ち上がった瞬間に襲ってきたぐらぐらを屈みこみ頭をぐりぐりしてやり過ごし歩きだす。残念ながらもう一度世界と踊るのは流石にごめんだ。
高台に行くと意外にあっさりと見つかった。
傘は青い空の海を飛んでいた。淡い黄色でも青色の中では目立つのか、と動いていない脳みそで考えた。
少し強い、ひんやりとした風を受けつつ目を閉じる。実に心地の良いお昼だ。
ふとなんだか傘がうらやましく思えた。
目を開く。手すりを乗り出し、傘の方へと手を伸ばしてみる。届かない。足を離して伸ばせる限り腕を伸ばしてみる、が、やはり届かない。
そうして手を伸ばしていると、雨で濡れていたのか手を滑らせた。
空を飛べたような気がした。
すぐに降りているエレベーターに乗っている様な不快感が襲ってきた。世界と踊るのはごめんだというのに。
傘の方を向くと未だ傘は空を飛んでいた。
――嗚呼、やっぱり私では空は飛べないのか。
未だ耳の音は鳴り止んでいなかった。




