01.馬鹿は死ななきゃ治らない、か
身体が鉛のように重い。
頭が割れそうで、背中には激痛があり、全体的に倦怠感に包まれ、息をするだけでも辛い。
――痛ぇ。
『……シャル!』
なんだよ、耳元で大声を出さないでくれ。頭に響く。
『しっかり、シャル!』
だから……。
半ば強制的に、その声が俺の意識を引き上げた。
★☆
「……!」
僅かに開かれたシャルの瞳を見て、アシュリーは大声をあげないためにか口を手で覆った。みるみるうちに彼女の眦に涙が盛り上がる。
「シャル! 目が覚めたんですね!?」
「……アシュリー……?」
泣きそうになっているアシュリーをぼんやりと見やったシャルは、今いる場所を考えた。柔らかいベッド、白い天井、仄かな照明。窓の外は暗い。雨は上がっているようだから、時間は夜なのだろう。
「……俺、生きて……る?」
「ここは天国じゃなくて王城。医務室がパンク状態だから、賓客室の一室だけどね。残念だけどまだ死なせないよ、シャル」
首を声がした方向へ動かすと、壁際にレオンハルトが佇んでいた。にっこりと微笑んだレオンハルトに、アシュリーが憤慨したように反論する。
「残念、ってなんですかレオン!」
「はは、ちょっとした冗談ですよ。医師を呼んできますね」
軽く両手を挙げて『降参』を示したレオンハルトは、身を翻して部屋から出て行った。閉じられた扉に向かって溜息をついたアシュリーの様子がどこか微笑ましくて、シャルは短く声を出して笑った。そのままゆっくり身体を起こしたのだが、その瞬間にぐらりと世界が揺れた。慌ててすぐ隣の壁に手をついて倒れるのを防ぐ。アシュリーが驚いたようにシャルを支えた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「んー……なんか頭ぐらぐらしやがるな……こりゃ、熱でも出たか……あの雨とこの傷じゃ、当然か……」
冷静に分析するあたり、シャルはやはりシャルであった。アシュリーが首を振る。
「とにかく、横になってください。傷に障り……」
アシュリーの声は途切れた。話の途中でシャルがアシュリーの身体を抱き寄せたのだ。
「しゃ、シャル……っ」
誰かに抱きしめられる、しかも異性になど、アシュリーには初めてのことだ。一気に頬が紅潮してしまいシャルの腕から逃れようとしたのだが、シャルの力は思った以上に強かった。
「……良かった」
シャルはぽつりと呟く。酷く熱っぽい、しかし掠れた囁きだった。
「無事で……本当に……」
その心から安堵した溜息のような言葉に、アシュリーも強張っていた身体から力を抜いた。尋常でなく熱いのは、シャルの熱のせいか、それともアシュリー自身の体温が上昇しているのか。
シャル自身、なぜアシュリーを抱きしめてしまったのか分かっていなかった。熱に浮かされて朦朧とした結果なのかもしれないが、アシュリーの無事な姿を見てほっとしたのは本当だ。
その時、扉がノックされた。飛び上がったアシュリーが慌ててシャルから離れる。シャルも我に返り、入るように声をかけた。そうして医者を連れて戻ってきたレオンハルトは、アシュリーが酷く赤面しているのを見て怪訝そうに首を傾げたのだった。
医者による診察も終わり、夜もさらに闇を濃くしていく。先程までは城下にも明かりが煌々と灯っていたが、この時間になってその数も減ってきた。
室内の照明も少し落とし、先程以上に仄暗くなった室内を照らすのは、レオンハルトが持っているランプの赤い炎だけだった。シャルはベッドに横になって目を閉じている。額には汗が滲んでおり、首筋まで滴が流れていた。相当な高熱のようだ。
そのベッドの傍に置いた椅子に腰かけていたアシュリーは、いつの間にかベッドに突っ伏して眠ってしまっていた。今日一日で、彼女は大変な目に遭ったのだ。疲れてしまったのだろう。壁に背を預けて立っていたレオンハルトは、隣のベッドから毛布を下ろして、それをそっとアシュリーの肩にかける。ヴェルメは窓辺に留まって眠っている。傷はレオンハルトが治療済みであった。
「……お前、ここにいていいのか」
不意に、シャルがそう尋ねた。レオンハルトは微笑んだ。
「どこに行けって言うの?」
「シルヴィア殿下、放っておいていいのかよ……?」
「彼女はまだ仕事中だ。僕がのこのこ出て行ったところで、邪魔になるだけさ」
深夜だというのに、シルヴィアはまだ仕事をしているのか。それに驚いたシャルであったが、半日と経たずしてここまで城内は落ち着きを取り戻したのだ。彼女の手腕は見事としか言いようがない。しかし、実際のところシルヴィアはまだ十七歳の少女だ。何かと酷なことであろう。
「……責任感が強いからね、シルヴィアは」
レオンハルトの言葉に、シャルは沈黙を以って同意の意を示した。レオンハルトは持っていたランプをサイドボードの上に置き、室内にあるソファに腰かける。
「それはいいとして、具合はどうなの、シャル?」
「薬は打ってもらったし、明日には熱も下がるだろ。傷の方はまあ、動けるようになるまでに何日かかかりそうだが」
シャルは首を動かし、ソファに座っているレオンハルトを見やる。
「……あれから何があったんだ? ヴァンドールは? じいさんとメディオはどうした?」
慌ただしかったのと現状認識に時間がかかったために聞いていなかった疑問が、今になって大量に浮かび上がってくる。てっきり死ぬものだと思っていたのに、自分が生きてここにいる。シュテーゲルとメディオの容体も、自分のことが精いっぱいで気にする余裕がなかった。
「元帥もメディオ殿も、傷は深いが命に別状はないよ。ちょっと元帥が危ないところだったけれどね、安心していい」
その言葉で、シャルはほっと息をついた。メディオの傷も酷かったが、シュテーゲルは死んでいてもおかしくないほどの傷であった。シャルの処置が早かったというのも助かった理由のひとつだろうが、やはり並ではない生命力があるのだろう。「しぶといんだから、あのじいさんは」と呟いたシャルの横顔に嬉しそうな笑みが浮かんでいるのを、レオンハルトは見逃さなかった。
「ヴァンドールは、僕が駆けつけてすぐに立ち去ったよ。『傷が癒えたら、決着をつけよう』と言ってね」
「……もう一度、俺と戦うっていうのか?」
「君の実力はそんなもんじゃない、と高く評価されているみたいだよ。今度は人質も取らず、後顧の憂いなく戦いたいんだろう」
「ふん、嬉しくない評価だぜ」
シャルは吐き捨てる。レオンハルトは長い脚を組んだ。
「どうする、シャル? 多分あの男のことだから、君が戻ってくるまで待ち続けると思う。軍単位で兵を投入して、討伐する手もあるよ」
「卑怯にも程があるな、それ」
「卑怯? そんなことを言っていられる状況じゃないでしょ」
彼の碧眼は真剣そのものだ。レオンハルトは、時々こういう顔をする。一片の余裕さえない、緊迫した現状であるということが強く伝わってくる。
「非常識な強さだけど、ヴァンドールだって人間だ。いつかは必ず討ち取れる。このままじゃ、君や兵たちだけでなく、民衆にまで被害が及ぶだろう」
「……でも、その方法だと兵の中に犠牲が出る。戦いを生業にしている者だからって、粗末にしていい命じゃない」
シャルの表情にも、精気が戻りつつあった。
「だから――俺が行く」
「……本気?」
「ああ。決着をつけなきゃならないのは俺、俺と兄さんだから……他の誰の手も借りたくない」
一騎打ちになれば、死ぬのはシャルか、ヴァンドールか、はたまた相討ちか。多くともふたりしか死人は出ない。効率的な勝敗の決し方だ。
他の誰も傷つかないように。そんなことになるくらいなら、自分が傷つくほうがまし。それがシャルの考えだった。今も昔も、それは変わらない。
「止める、なんてぬるいよ。殺せるのか、奴を」
「……ああ」
少し躊躇いはしたが、シャルはしっかりと頷いた。レオンハルトは表情を幾分かやわらげ、組んでいた足を組み替える。
「……分かった。僕はこれ以上何も言わない、が……猛反対する人がいるよ?」
シャルの目は、ベッドに突っ伏して眠るアシュリーに向けられる。
「怒る……よな」
「泣くんじゃないかな」
レオンハルトは肩をすくめる。
「クライスさんの名誉を守りたいと思う君の気持ちはすごくよく分かるよ。でもね、シャル。ひとつだけ理解しておいてくれ」
「ん……?」
「君が死んだら、間違いなく殿下は不幸になる」
シャルは軽く目を見張った。
「殿下が君に抱いている好意は……主従関係や恩を越えたものであるからね」
「……」
「殿下だけじゃないよ。シュテーゲル元帥や君の部下たち、フロイデン中将、クライスさん、君の両親、勿論僕も……君が生きることを望んでいる。それを覚えておいて」
その言葉にシャルは苦く笑って頷く。レオンハルトはソファから立ち上がり、ランプを取り上げる。
「とにかく今日はゆっくり休んで、シャル」
「ああ……」
ランプの炎を消し、レオンハルトは静かに部屋を出て行った。完全に暗くなった部屋を照らすのは窓から差し込む月の光だけになる。シャルはその月の光を見やり、視線をアシュリーへと転じる。彼女の肩から滑り落ちかけている毛布を、手を伸ばして引き上げてやる。
これだけでもかなり身体が痛む。シャルは息を吐き出し、目を閉じた。
「……おやすみ」
呟きつつ、シャルは眠りに落ちて行った。
★☆
深夜に寝たというのに、目が覚めたのはきっかり朝の六時だった。どうやらこんな状況でも俺の体内時計は狂わないらしい、とシャルは自分に呆れる。
眠りから完全に醒めたのを感じてから、目を開けた。すっかり朝日が差し込んでおり、昨日の豪雨の気配など微塵も感じられない。そういえば昔から、アシュリーが関わることは大体雨の日に多かった。クライスが死んだときも、彼女がフォロッドにシャルを訪ねてきたときも、昨日も。
「……そんで大体、翌日は憎たらしいくらいからっと晴れるんだよなあ」
ぽつりと呟くと、ベッドに突っ伏したままのアシュリーががばっと顔を上げた。目覚める兆候も何もなかったのでさすがのシャルも驚き、目を見張る。
「わ、私……!?」
「よ、よう、おはよう。寝起き良いなあ、お前」
彼女は状況理解能力が高い。一瞬で自分がシャルのベッドに突っ伏して眠ってしまったことを悟り、真っ青になった。
「わ、わっ! ごめんなさい、私ずっとここで……っ」
「良く寝てたな。身体ほぐしとけよ、固まってるだろ」
言いながらシャルもベッドの上に身体を起こした。熱は下がったようだ、昨日ほどのだるさはない。傷の痛みは相変わらずだったが、起きていられないほどでもなかった。
「大丈夫なんですか、シャル……?」
「まあ、これくらいはな」
服の袖口から覗く包帯に、アシュリーは少し辛そうな顔をする。シャルはさりげなく半分まくっていた袖を下ろして包帯を隠した。
アシュリーもあえてなんでもないように笑い、締め切っていた窓を開けて朝の風を室内に取り込む。
「良かった。怪我、ゆっくり治してくださいね」
それを聞いて、彼女は『シャルがもう一度ヴァンドールと戦うなんてあり得ない』と考えているのだということをシャルは悟った。考えているというより、信じているのかもしれない。
でも。
「……悪い、ゆっくり治してる時間ねえわ」
「え……?」
アシュリーが窓の枠に手をかけたまま動作を止め、振り返る。
「できるだけさっさと治したい」
「――そ、そうですよね! 早く治ったほうがいいですよね、でないと満足に動けませんし……」
「動けるようになったら、もう一度ヴァンドールの奴と戦いに行くつもりだ」
きっぱりと告げる。沈黙が室内に舞い降り、聞こえるのは吹き込んでくる風にあおられたカーテンのはためく音だけだった。
シャルは何も言わない。アシュリーはゆっくりと腕をおろし、何か言いたげに口を開きかけてやめる。彼女はシャルに背を向け、窓の外を見つめた。
「……私」
「うん」
「あんまり、誰かが『やる』って言ったことに口出さないんです。私がとやかく言って、その人の意志を捻じ曲げちゃうのはいけないと思っているから……」
「うん」
「いつもだったら、止めなかったと思うんです。でも……でもッ」
「……うん」
「シャルのことになるとっ……私、黙って見送るなんてできないっ……」
アシュリーは振り返り、ベッドの脇に戻ってくる。その頬に涙はなかったけれど、レオンハルトのものよりやや薄い蒼を讃えた瞳は、十分に潤んでいた。
「どうして? どうしてもう一度行くんですか? せっかく助かったのに……今度こそっ、殺されてしまいます……!」
「あんな様を晒しちまってすぐにこんなこと言っても、説得力ないけどさ。今度は負けない……勝つことは出来なくても、負けはしない」
それはつまり――相討ち。
「ヴァンドールは俺との再戦を望んでる。だから行くんだ」
「それでのこのこ殺されに行く人がどこにいますかっ!」
「……いつになくキツいこと言うね、お嬢さん」
「茶化さないで!」
ぴしゃりと叱られ、シャルともあろう男が首をすくめる。そっとアシュリーの肩に手をかけ、そのまま背中をさすってやる。
「中途半端は嫌なんだよ。きっかけは俺の兄さんでも、奴は俺を狙ってこんなことを仕掛けてきた。だから俺は責任を取らなきゃいけないと思ってる。そのための決着だ」
「私が納得するとでも――」
「分かった、本当のこと言おう」
アシュリーの反論を遮り、シャルは口を開く。……そう、そんなのは建前。本音は別にあった。
「ひとつ。ヴァンドールの野郎は兄さんに執着している。それが気に食わねえから奴を黙らせたい」
「……」
「ふたつ。奴は大勢の味方を殺し、じいさんやメディオに大怪我を負わせた。これには相応の代償を払わせたい」
「……」
「みっつ。俺にとってはこれが一番重要だ」
ひとつ、ふたつ、と指をぴんと立てていたシャルは、指を一本増やして至極真面目に告げる。
「奴は、お前に触れた」
「え?」
「お前に触れたんだ、あの血みどろの手で。誘拐までした。俺がどれだけ不愉快だったか分かるか?」
「え、えっと……」
先程までの勢いを一気に失ったアシュリーは、ちらりとシャルを見上げる。シャルは真面目な顔を崩していない。どうやら冗談の類ではなさそうだ。
――どうやら、すごく大事に想ってくれているというのは、さすがにアシュリーにも伝わった。
「……だからな。さっさとケリをつけて、何の憂いもなくまた日常が戻ってくればいいなって思うわけだよ」
「ケリを、つける……」
「殺しに行く。あれくらいの覚悟じゃ甘かったっていうのは俺も分かった。だから、今度は本気で」
「……嫌です、シャル。あんなに、あんなに殺すことを嫌がっていたのに……やめてください、お願い……! シャルが、シャルでなくなっちゃう……!」
耐え切れず、アシュリーは毛布に顔をうずめた。シャルは綺麗なその金髪を指で梳いてやりながら、むしろ穏やかに諭した。
「俺は俺だよ、変わらない。人殺しは嫌いだし、間違ってる。……でもな。それでも守りたいんだよ、お前たちを」
「……!」
「殺しさえしなければ刃物を人に向けていいのか。それは違うだろう。剣を手にした以上は、剣を以って守るしかない。……その業を俺が背負うことでお前らを守れるなら、軽いもんだよ」
「シャル……」
「俺は奴を殺しに行く。殺すと決めた、だから殺される覚悟も決めている」
軍人とは、そういうものだ。得物を抜いて相手を殺すからには、殺される覚悟も決めなければならない。でないと、戦場でやっていくことはできない。そのことはアシュリーも重々承知していた。
「……前にさ。レオンがエルファーデン公爵に捕まったとき、あいつ水も食事も断っただろ。あれはあいつの軍人としての誇りが、敵の施しを受けることを拒否した結果だったんだけどさ」
「はい……」
「俺は薬師だ。生きてりゃ何とかなる、誇りや名誉なんて命を賭けるほどのものじゃない、っていうのが持論だったりする。だから自ら死を選ぶような考えは否定しなきゃいけないんだが……あいつの考え、俺にも同意できるところがあったから、何も言えなかったんだ」
シャルは照れたように微笑んだ。その笑みは、いつもの不敵な笑みとは少し違って見えた。
「俺も男で、一応騎士の端くれだ。人並みには、その誇りを持っている。……いや、お前を守るっていう今の仕事、誰にも譲りたくないくらいだよ」
「誇り……」
「レオンはそれをわかっていて、何も言わないでくれた。例え俺の身に何が起きたとしても、それは誇りに殉じただけ。……だから待っていてくれないか、アシュリー」
風がそよぐ。
先程までは吹き荒んでいた風も、今は穏やかにそよぐだけ。静かに、優しく、ふたりの髪を揺らしていく。
アシュリーは俯いたまま、そっとシャルの方に身体を寄せた。少し目を見張りながらも、シャルはその肩をそっと引き寄せてやる。アシュリーはシャルの胸に顔をうずめつつ、くぐもった声で呟く。
「……馬鹿です。元帥もレオンも、シャルも、みんな馬鹿……」
「ごめんな。治りそうにねえわ、こればっかりは」
そのとき、部屋の扉が開いた。ふたりして飛び上がると、全部お見通しといった様子のシルヴィアとレオンハルト、そしてテューラが入室してきた。シルヴィアは愉快そうに笑う。
「お姉さま、気付くのが今更ですわよ! 男なんて、待たされる女の気持ちなんてこれっぽっちも考えない生き物です。ねえ、レオンさま?」
「いやあ、僕に振られても……」
「あら、きっとテューラは分かってくれますわよ?」
テューラはこくこくと首を縦に振った。彼女も、今はフォルケの帰りを待つ身である。シャルは脱力し、せめてもの反論を試みる。
「すべての男がそうであると認識されると、例外の方々が困ると思うのですがね。そもそも、そんな身の上になるなんて軍人くらいで――」
「黙らっしゃいな」
「……はい」
ばっさりと斬り捨てられたシャルを見て、レオンハルトが遠慮なしに吹き出す。シルヴィアはシャルの傍に歩み寄り、指を突きつけてきた。
「いいですか。わたくしたちはいつまででも待ちます。だからさっさと決着をつけて、さっさと帰ってくること!」
「……了解しましたよ」
参ったねこりゃ、とシャルが肩をすくめる横で、アシュリーも涙を拭って微笑む。そしてはたと妹たちがここにいることに疑問を覚えた。
「それより、シルヴィアとレオンはどうしてここに?」
「ああ、そうでしたわ。ハールディン准将、シュテーゲル元帥の意識が戻りました」
シャルの顔つきが変わった。床に足を下ろそうとするのを、レオンハルトが支える。
「立てるのかい」
「ああ、肩貸してくれれば」
もう一度戦う。そのことを、シュテーゲルにも伝えなければならなかった。それに、まず第一に容体の確認をしたかったのである。




