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エピローグ

 悪魔を倒せば全て解決する、一心にそう信じていたつもりだったが、ひょっとしたら、という懸念が全く無かったワケじゃない。

 しかしながら、幸いにも、それは杞憂に終わった。桜木中央病院で入院していた五人の子供たちは、朝になると当たり前のように目を覚ましたのだ。

 そうして、少しばかり桜木市を騒がせた児童連続昏睡事件は、原因不明のままではあるが、晴れて解決となった。

 我が黒乃家でも、亜理紗ちゃんの退院祝いが盛大に行われたりもした。

 勤務先の海外から大慌てで帰国する準備を整えたという真央叔父さんが、電話口で愛娘の元気な声を聞いて涙声になっていたのが、やけに印象に残っている。ついでに、

「お兄ちゃんが助けてくれたの!」

 と、亜理紗ちゃんが声高に宣伝してくれたお陰で、現実では何もしていないことになっている俺にも、黒乃夫妻は厚くお礼をしてくれたりもした。きっと、眠っている途中に、亜理紗ちゃんが怖い夢を見なかったことに二人は安堵しているのだろう。

 だがしかし、である。

「やっぱりこの夢はまだ、続いているんだよな……」

 頭上に広がるのは、すっかり見慣れた赤すぎる夕焼け空。今日も太陽は逆に向かって落ちていく平常運転。

 場所は春風神社、ではなく、春風山の麓にある夜桜公園のアスレチックスペースだ。

「でも、新しい悪魔はまだ現れないですね」

 そして、すっかり定位置となった俺のすぐ傍らに、小夜子ちゃんが寄り添うように立つ。風になびく銀髪のポニーテールは、やはり何度見ても美しい。

「出来れば、もう二度と出てきて欲しくはないんだが」

 悪魔討伐から、時はあっという間に過ぎ去り、気づけば五月のゴールデンウィークが終わろうとしている。その間も、これまでと変わらない頻度でこの夢の世界に俺達は誘われ続けていた。

 小夜子ちゃんが言ったように、新しい悪魔はまだ出現していない。

 代わりに、これまで見なかった新しい種類のモンスターはちらほら現れるようになったが、どれも問題なく倒せるレベル。精々が赤犬のボスと同じくらいの強さだ。

「楽観もできないよな」

「そうですね」

 悪魔を倒す、そこまでは良かった。作戦通り全て上手くいったさ。だがしかし、その後に起こった正しく悪夢と呼べる出来事を忘れられるほど、俺も小夜子ちゃんも幸せな頭をしていない。

 あの悪魔と同じヤツは複数存在する、そして、それ以上と思わしき白いのまで現れた。もしもアイツらが本気になって襲い掛かって来たならば、今度こそ俺達は全滅する。

「頑張って、強くならないとな」

「はい」

 相変わらず天使のような微笑で返してくれる小夜子ちゃん。出来れば、彼女の信頼にこれからも応えられるようにありたいものだ。

「お兄ちゃん、亜理紗も頑張るのっ!」

 と、小夜子ちゃんとは反対側の立ち位置でピカピカと白い光を発するのは、亜理紗ちゃんだ。

 俺の予想と違わず、本当に『フェアリープリンセス・リリィ』のエクストラを体現している彼女は、妖精の証とも言える二対の光の羽を瞬かせてヤル気をみなぎらせている。

「そうだな、今日もレベルアップ目指して頑張ろうな」

 よしよしと頭を撫でて猫かわいがり。キャッキャと喜ぶ彼女の反応を見ると、もう止められないな。

「黒乃さん、早く行きましょう」

 俺のデレデレぶりに呆れているのか、少しばかり冷たい声音の小夜子ちゃんから行動開始を促された。

 見れば、その首元にはすでにマフラーが巻かれており、白銀の槍を悪魔よろしく右手で肩に担いでいる。

 エクストラを発動し、待っているのは小夜子ちゃんだけじゃない。

「黒乃さん、向こうの方から初めての臭いを感じます、新種が出たかもしれませんよ」

 スンスンと鼻をならして警戒しているのは、水色の色合いをした四足の獣。坂本麻耶のエクストラ『ヒョウコ』だ。

 狼を思わせる姿をしているだけあってよく鼻が効く。デフォルトの能力なのか、俺の死神の嗅覚スキルと違って常時発動なので、警戒するのに非常に役立つ。

「分かった、じゃあソイツを狙いに行こうか」

「「了解です、黒乃さん」」

 と、同じ台詞を重ねて返してくるのは、レトロな魔法使いスタイルの『ファイアーマージ』佐藤崇君と、鋼鉄のロボットボディを誇る『量産型ザリグ』山田弘樹君だ。

「どうせまた雑魚だろ、俺一人で余裕だぜ」

 相変わらず小生意気な事を口にするのは、赤いマンドを風になびかせる白銀の西洋鎧『セイバーナイト』羽山翔太。

 自信満々な口ぶりをするだけあって、その能力はやはり他のエクストラと比べて頭一つ抜きん出ているのは、俺も認めるところだ。

「あんまり先走ってくれるなよ羽山、フォローするこっちの身にもなれ」

 ふん、と子供らしくそっぽを向くが、鎧姿でやっても可愛くない。

 コイツだけは未だに俺を警戒し続けているのか、一向に態度が和らぐ様子が見られない。一体何がそんなに気に入らないのだろうか、全く、この年頃の男の子は複雑である。

「やれやれ、チームワークを覚えてくれるのは、もう少し先になるかもしれないな」

 チーム、そう、今の俺達は全員一緒に組んで行動をしている。

 この夢がいつあの悪魔が、あるいはまた別な強力なモンスターが出現するか分からない危険な世界であるということは、ここにいる誰もが嫌と言うほどに理解している。

 唯一頼れるエクストラという特殊な能力を駆使して、俺達はこれからも生き抜いていかなければならない。その為には、エクストラ使いが一致団結して協力するのが最善策だ。

 悪魔を倒した実績と、最年長ということで、一応俺がチーム、ここではパーティとでも言うべきか、そのリーダーを務めている。

 亜理紗ちゃんも坂本たち小学生組みも、よく指示を聞いてくれる良い子ばかりだ。羽山も流石に命の危機を経験しているだけあってか、基本的には従ってくれる。

 こうして俺達はいつ悪魔バフォメット級のモンスターが出現してもいいように、チームを組み、そこかしこに出没するモンスターを積極的に退治して回って、エクストラ能力のレベルアップ、戦力の向上を図っているのだ。

 それで今回のターゲットは、さっき坂本が教えてくれたように、新種と思われるモンスター。新しいモンスターを食えば、さらなる能力を死神が得てくれるかもしれない、ちょっと楽しみでもあったりする。

「大丈夫ですよ、私と黒乃さんの二人なら、どんな相手にだって負けないです」

 悪魔討伐の実績からか、普段は控えめな小夜子ちゃんだが、こういう時は自信に満ちた発言をする。チームワーク云々で不安を覚える俺を励ましてくれているのだろう。

 彼女の優しい気遣いに応えるように、俺は気合を入れて頷き返す。

「ああ、そうだな」

 そして、最後に俺がエクストラ能力を発動させ、すっかり体に馴染んだ死神へと変身する。それと同時に、悪魔から奪った大鎌も出現し、骨の手へ自然に握られる。

 鹵獲した武器をちゃっかり装備できるのは、どういう原理なのかは分からないが、使えるモノは何でも使ってやるさ。それにきっと死神も、如何にもソレらしいこの鎌を気に入っていることだろう。

 全員、エクストラを発動させ戦闘準備が整ったところで、号令を下す。

「よし、それじゃあ皆、行くぞっ!」

 そうして俺達は、今日も悪夢の世界ナイトメアワールドを行く。

 電撃大賞一次落選の拙い作品ですが、ここまで読んでいただき、どうもありがとうございました。

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